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【閑話】シュナイゼルとクジュリハ

ちょっとだけ閑話的な物を挟んで置きます。

 ゴブリン、オーガ、ドラゴン、ハーピー、クラ―ケン、ケルベロス、ミノタウロスと言った、人間の欲望や衝動をあおって力へと変える存在達をひっくるめて悪魔と呼ぶが、その中でも吸血鬼は特異的な立ち位置にある。

 吸血鬼は様々な特殊な力を持ち、他者の血を吸って愉悦を感じる種族であり、彼らの人数は悪魔の中でもかなり数が多く、人間の血を特に吸う事が多いので人間に姿を現す機会が他の悪魔よりも多い。


 シュナイゼル・ポーレルもまた、その吸血鬼の一人であり、特に女性の血を飲む事があった。

 それは女性の血が彼にとって濃厚で甘い味、なおかつ喉越しや温かみなど、シュナイゼルにとって人間の女性の血こそがこの世で最も美味しい血であって、血の他にも女性のその肌の手触りの温かさ、触れて感じる髪の美しい手触り、聞き惚れそうな声……などなど、シュナイゼルにとって人間の女性こそがこの世で最も至高だと感じるものである。

 初めこそシュナイゼルは女性の血が美味しいとだけしか思っていなかったが、そのうちシュナイゼルは女性の血だけでなく、その血を保有する女性も愛おしく思い始めていた。


 そんな血を愛しすぎるあまり、女性そのものに恋して愛し始めていたシュナイゼルはある日、パガニーニと言う屋敷に住む女性に眼を付ける。

 その女性の名前はクジュリハ・パガニーニと言う、後にアリエッタ・パガニーニを生む事になる一児の母親と言う女性である。


「~~~~~~♪」

「ふっ、いつもそうやってその赤く小さな唇から歌われる歌声は、まさに至福の声であり、やはり我がコレクションに加えるに相応しい血ですね。クジュリハ、やっぱり我が愛人とならないか?」

「あなたの言っている愛人って、あなたの血袋でしょう?

 冗談、私は物ではなく人として生きていたいのよ。だからどんなに口説いたって肯かないからね、間に合ってるわ」

「ふふっ、いつ聞いても良いね~。やはりコレクションに加えたくなっていくな」


 シュナイゼルは半分冗談、半分本気でクジュリハを誘っていた。

 彼女に対して自分の愛人兼血袋(しょくりょう)として生きる事を強要した回数は既に数十回を越えていて、その度にシュナイゼルは女性に対して魅了する魅惑の瞳を使っていたんだけれども、そんな魅惑の瞳に強すぎる耐性を持つクジュリハは「あぁ、はいはい」と手を振りながらシュナイゼルに対して軽く相手にしていた。


 クジュリハはシュナイゼルにとって、沢山居る女性の愛人達の中でも特別な立ち位置にある。

 シュナイゼルは女性達を魅了の瞳と卓越したテクニックで、どんな女性だろうと落として来たし、どんな女性だろうとも平等に愛せる自信がある。

 しかし、クジュリハはどんな魔法も効かないと言う、そんな特別な体質の持ち主であり、魔法の中でも最上級に位置するシュナイゼルの魅了を「あぁ、そうなの」と軽く受け流していた。

 魅了が効かないのならばと、多くの女達を落として来た会話術や手の技で落とそうともしたけれども、彼女は「主人が居るから」と言う、たったそれだけの理由で人間にとっては甘美にして魅力的すぎる悪魔のプレイを全て受け流した。

 それで終わるならばシュナイゼルも他の女性を探したり、彼女の事を別に特別だとは思わなかったが、彼女はシュナイゼルの事を1人の友人として扱った。

 吸血鬼であろうと、自分の血を狙っていると知っても、ただの友人として一定のラインを越えないように接する彼女に、シュナイゼルはどこか安心感を感じていた。


 シュナイゼルにとって、クジュリハ・パガニーニは愛人兼血袋になって貰う予定の女性の1人であると同時に、気心の知れた友人であった。

 いつしか、シュナイゼルは彼女の血を吸えなくても良いからと、ずーっとこのままの関係が続いて欲しいとさえ思っていた。


「あっ、主人が呼んでるからまたね。シュナイゼル」

「あぁ……。今度こそは必ずやお前を愛人にして、我の家で晩餐会(ばんさんかい)を開いてあげよう。その時を我と同じように、長く待っていると良い」

「愛人……は別としても、一緒に晩餐会を出来たら良いなとは思うね。その時は誘ってくれると嬉しいかな」


 そうやってシュナイゼルはいつものようにクジュリハに別れを告げると、他の愛人達の元へ血を吸いに向かっていた。

 吸血鬼にとって人の血の摂取は単なる趣味思考の類ではあったが、毎日のように美味しい愛人の血を吸っている生活を送っていたシュナイゼルにとって、人間と言う血袋の血を吸う事こそが彼にとっての贅沢であった。


 その夜、愛人兼血袋の5人の女の血を吸って娯楽を楽しんだシュナイゼルは、フラッといつもは立ち寄らないクジュリハのところへとやって来ていた。

 朝に立ち寄る事はあっても、夜は彼女が「ちょっと主人との事もあるし、立ち寄らないでくれるとありがたい」と言われているので、愛人になって貰うために嫌われない事を心がけていたのだが、その日は虫の知らせと言うか、なんとなく予感があった。

 もう会えなくなると言うか、なにか大変な目に遭っているんじゃないかとか、そう言った予感がシュナイゼルにはあり、いつもは寄らないはずなのになぜか寄ってしまったと言う事である。


「まぁ、夜にクジュリハのところに行くのは初めてだが、恐らくは主人と仲良くやっているだろうなぁ。

 ……あぁ、本当にあの主人さえ居なければ、クジュリハももっと口説きやすいんだけれどもなぁ。いっそ、クジュリハの主人を我のしわざだと気付かせないように殺したら楽だろうなぁ。今度はその線から責めるのもありかもしれないなぁ」


 そんな事を考えつつ、シュナイゼルは初めて夜のクジュリハの家にやって来ていた。

 その家では「ハァハァ……」とクジュリハの荒い息が、外からでも聞こえるくらい大きく聞こえており、そんな声を聞かせている方のシュナイゼルの表情は徐々に黒くなっていく。


「おいおい……あいつが夜は来ないで欲しいと言っていたのは、あの男とイチャイチャするために、我の事が邪魔だったとかそう言う理由ですか。もうこうなったら、クジュリハの事なんて知るものか」


 そう言ってシュナイゼルはパガニーニの家に無理矢理潜入する。

 これまでは来ないで欲しいと言うから、シュナイゼルは紳士として家に入らなかっただけであり、今となっては遠慮する必要などシュナイゼルにはなかった。


「これ以上、パガニーニの家に入らせる訳にいきません! 魔法使いであるこのイムヤが燃やしてみせる」

「千手百勝! 千刀流のソルティハ様が倒して差し上げましょう!」

「モエッ、モエモエモエェー! メイド魔法の素晴らしさを体験させていただきましょう」

「武術は楽しまないといけないサー! 槍の凄さを楽しみながら見せてやるのサー!」

「……守り抜きましょう。それが十字流二型の剣士の意思、です」


「ええい、うるさい!」


 パガニーニの家には契約した悪魔の力を用いて集められた多くの武人や魔法使いが居たが、触れたものを腐らせて死に至らしめる血を持つシュナイゼルにとっては簡単に倒せる相手であった。

 そもそも何人かはまともな相手にならなかったくらいである。

 けれどもそうやって、奥に行こうとするシュナイゼルを止めようとする意思は感じるため、シュナイゼルは敵を倒しながら奥へと向かっていた。


「何か行かせたくないと言う意図を感じるな、しかし今必要なのはクジュリハの安全だ」


 そう言って、シュナイゼルはそのまま奥へと向かっていく。

 途中、またしてもシュナイゼルは魔法使い数人、武人数人と相手していたが、今度出て来た相手は全員が全員、奇妙な術や技を使っていたが、どれもこれもがシュナイゼルにとって取るに足らない存在であったが、邪魔されて本当に苛立っていた。

 そしてようやく辿り着けた、妖しげな雰囲気をまとった扉。


「ここ、か。さて、どうなっている事やら……ん? なっ、なんだ、これは?」


 シュナイゼルが扉を開けると、そこには吸血鬼であるシュナイゼルでも感心出来ない光景があった。


 血で描かれたと思われる、どこかの文明を思わせるような不規則的な幾何学紋様。

 死んだ魚のような瞳をした、本当に人形のように動かない血を流して倒れている少女達。

 高らかに笑う不気味な顔をした男達と、その真ん中でこちらを見ている血塗れの女性。


 その女性は、シュナイゼルが探していたクジュリハ・パガニーニであった。


「な、なんで……こんな事に……今、紳士である我が助けて差し上げます!」


 シュナイゼルがそう言って、血で槍を作ってそのままクジュリハを助けるためにその槍を振るうが、その前にシュナイゼルの背中を激痛が襲っていた。


「くっ……」

「パガニーニ様。十字流のナンシーが仕事を果たしました。まぁ、報酬は上乗せで頼みますよ」


 そう言って笑う、刀を振るう十字流を名乗る女性にシュナイゼルは怒りしか湧いてなかった。


 数日後、シュナイゼルは廃墟となったその場所から、一人の赤子を見つける。

 赤子の側には、『アンリエッタ』と名前が書かれており、シュナイゼルはアリエッタと呼びながら大切に育て始めるのであった。

どうでも良い(ので飛ばしても良い)情報集。

○イムヤ……魔法使い。物に発火性の液体をかけ、一気に燃やす溶炎魔法を使い、パガニーニ家に用心棒として雇われていた。

○ソルティハ……武人。千本の刀を纏って突っ込む千刀流の使い手であり、パガニーニ家に用心棒として雇われていた。

○ニャンナ……魔法使い。物を綺麗にしたり、食材を美味しくするメイド魔法の使い手であり、パガニーニ家にメイドとして雇われていた。

○ンドゥー……武人。南の大陸、サウストピアから漂流してきた槍の使い手であり、パガニーニ家に居候として厄介になっている。

○ヒュリ……武人。東の大陸、ヤマト大陸で生まれた十字流の派生流派の二型の使い手であり、剣から十字の光線を放つ異色の武人。パガニーニ家に用心棒として雇われている。

○ナンシー……武人。十字流の流派を使い、シュナイゼルを倒した。パガニーニ家には執事として雇われている。

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