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血塗れの決闘(2)

 パーシーの氷の槍を使った突き攻撃によって貫かれたシュナイゼル、しかしパーシーはすぐさま本能的な危機感を感じると氷の槍から手を放すと、アトレスに脳内で指示を送っていた。


「(アトレス! 最大出力の風で吹き飛ばせ、僕の事を!)」

『(……りょ、了解! ちゃんとそっちで対処して頂戴よ!)』


 と、アトレスは自分の契約者の指示の元、後先を考えずに強い風でパーシーの背中を思いっきり押す。

 押されたパーシーはその強風の勢いに乗るようにして吹き飛ばされて、吹き飛ばされる直前にパーシーが槍で貫いていたシュナイゼルは突然爆発し、爆発すると共にその身体から大量の血を巻き散らかしていた。

 そしてシュナイゼルの身体から溢れだした大量の血は、地面に飛び散ると共にそのまま血で濡れた場所は草木は枯れ果て、地面は腐り、なおかつそこからは白い煙がモクモクと不気味にあがっていた。


「居るんだろう?」


 と、パーシーが木を見ながらそう言うと、「まいったね……」と言いながらその木の後ろから現れたのは白いスーツと黒いマントが特徴的な、先程倒したはずの男、シュナイゼルであった。


「……まさか我が分身を倒されるとは思っても見なかった。あれでも我と血を分けて生み出した、強力な家臣であったのに」


 そう言いながら姿を現したシュナイゼルはと言うと、両手に轟々と燃え立つ火炎をその両方の手の平の上に作り出していた。

 そしてその後ろには何体もの同じ姿をした、血の槍を持ったシュナイゼル達の姿があった。


「我は武人ではなく、どちらかと言うと魔法使いと言う分類に入る。故にこう言った戦法もまた、我の得意分野である力である」


 彼が炎を放ちながら手で指示を出すと、血の槍を持ったシュナイゼル達が一斉に飛び出していて、パーシーに向かってと一気に飛びあがっていた。

 そしてパーシーへと飛びあがったシュナイゼル達は、いきなり自分の肉体を持っていた槍で斬って、その身体から血を流してパーシーにかけようとしていた。

 血をかけようとするシュナイゼル達に対して、パーシーはアトレスに指示を出していくつもの氷の槍を作り出して放って倒していた。


「それそーれ! 早くしないともっと大変な事になるぞ!」


 シュナイゼルはそう言いながら火炎の球をもっと作り出して、そのまま火炎を放っていた。

 放たれていた火炎は槍を持っていたシュナイゼル達を巻き込みながら、血を混ぜ込みながら火炎の龍は放たれ、パーシーはそれに対して腰の刀を抜いて竜巻を放って防いでいた。


「十字流、一字衝撃!」


 と、パーシーは刀を縦に振るうと衝撃波が放たれ、放たれた衝撃波は左右の空気を巻き込みながら進み、そのままシュナイゼルへと向かい、本体のシュナイゼルは槍を持ったシュナイゼルで防いでいて、炎の波を作り出してパーシーへと地面を這わせながら走らせていた。

 本体のシュナイゼルは白いスーツの中から艶めかしく艶めいている赤黒い液体が詰まった瓶を白いスーツのポケットから数個取り出すと、そのまま火炎で瓶の蓋を燃やして中から液体を流し出していて、複数の血の塊は一つの血の塊となって、その血の液体は凶暴で猛々しい一匹の竜が生まれていた。


 赤黒くて、獣が持つものとは違う血生臭い臭いが香っており、暴力的でどう猛そうな硬い蛇の鱗の身体、狂暴で鋭く尖った4本の強い脚、荒ぶる化け物染みた黒ずんだ翼。

 あらゆるものを噛み砕く強靭な顎、鋭く突き刺さる牙、こちらをジロリと睨み付けている蛇を思わせる(まなこ)

 どこまでも強そうに存在している竜はと言うと、大きく口を開けてなんでも燃やす火炎ではなく、なんでも腐らせる生臭く、なんでも溶かす血の息を吐いていた。


『いくら同性同士の、男同士の戦いだからってお姉さんを忘れて貰っちゃあ困るわよ! ……そんな何でも溶かすような血を、御主人様(パーシー)にかけさせる訳にはいきませんから、お姉さんも頑張っちゃうわよ!

 まっ、この程度の竜に模しただけの紛い物に、私の御主人様が負けるとも思いませんけど』


 アトレスが唱えた氷の魔法はジェルマンが血で作った竜の後脚を凍らせていて、すぐさま氷のつぶてでぶつけて凍った後脚は壊され、そのまま顎ごと凍てつかせて口を塞いでいた。

 しかし、血で作られた竜は本物とは違い、口を凍らせて封じようとも、ゆっくりと背の上に新たな竜の口を作り出して腐らせる血を吐きだそうとして、アトレスはそれを氷魔法で止めていた。


「あの精霊、本当にお前と契約していたのか。精霊がこっちの世界にこうやって存在している事からして珍しいが、それ以上に精霊が人間と契約を交わしているだなんて珍しい事もある物だ。

 とは言っても、あんなに可愛らしすぎる女精霊を、たかが男の武人ごときに契約してその人生を無意味に過ごさせるわけにはいかないから、もっとお前を倒したいと言う気持ちが強くなるばかりだ」


 ジェルマンは口調を強くし先程よりも勢いを強くし、手の上に作り出していた燃えたぎる炎を作り出して、茨の森の木々を中心まで火が通るように、炭になるくらいの勢いの火炎を放っていた。

 それをパーシーはスーッと息を吸って深呼吸すると、そのまま苦しくならないように身体の全身に空気を溜め、そのままジェルマンが放った強すぎる火炎に対して真剣な眼つきで見ていた。


「――――――」


 パーシーが刀をスーッと、ごくごく自然に振るえば、そこから生み出された線は周囲の酸素や魔力を多大に含んだ空気を巻き込みながら上空へと衝撃波を飛ばしていた。

 パーシーが刀で作った空気の線は、ジェルマンが放った火炎を遮り防いでいて、そして火炎は作られた空気の線に乗せられるようにして火炎が上空へと向かって行った。


「……ほほう。なるほど、ならば我は血を練り上げて、こね上げて、こね合わして、錬成して、血で槍を作り上げて見せよう。

 ――――――と、思ったがどうやら時間切れ、と言うよりも我慢の限界だったか」

「……えっ?」


 ジェルマンのやれやれとした表情に対して、一瞬キョトンとした表情になるパーシー。


『あっ、パーシーちゃん! アレよ、アレ』

「アレ……?」


 アトレスの言葉に対して、パーシーはと言うと視線をそこへと移動すると、そこに居たのは


「ペロペロペロ……。甘い、そんな中にもきちんとした酸味と共に塩味が味わって来る。

 あぁ、本当に美味しくて、それに舌に味わわせるようにして……あぁ、本当に味が美味しい。

 あぁ、病み付きになるくらい本当に美味しいです……。何度でも食べ、何度も飲み、何度も味あわせるくらいにまで血を味あわせて欲しいです。あぁ、本当に素晴らしい血ですね、ジェルマン」


 地面へと流れて腐らせている血をペロペロと、液体を一滴たりとも逃さないように犬のようにジェルマンの、あらゆる物を腐らせる血をアリエッタは舐め続けていた。

 アリエッタは、眼をまるで別人のように赤く(きら)めかせるように輝かせていて、その血をどこまでも味わうために必死に舐め続けていた。

 その血だまりの中に触れられたアリエッタの手は少しずつ、腐り始めていた。


「あぁ、やはりいつ舐めても、いつ飲んでも、いつ味わっても、これ以上ないと言うべき甘美にして、芳しくて愛らしい血の味……。本当に美味しすぎるくらいの味ですね……」

「あぁ、はいはい。我の血の味は本当に美味しい味なのですな。――――――ならば、またあの家で美味しい血をいただこうか、アリエッタ」


 そう言って、ジェルマンは地面に這いつくばるようにしていつまでも血を舐めているアリエッタを立たせると、先程の戦いの時に自分から切った指先から少量の血を出してそれをアイスのように固めると、アリエッタに渡していた。

 ペロペロとそのアイスを舐めているアリエッタは、ジェルマンの手を取ってそのまま連れられるようにして歩かされていた。

 そしてジェルマンは少し腐り始めているアリエッタの手を強く握りながら、パーシーの方を見ていた。


「――――――分かったかな? これがアリエッタと言う、悪魔の血に翻弄されてしまった女の子である。パガニーニの家系の血は血を摂取して見聞きする事で強くなると言う性質であり、なおかつそれ故に血に対して異様に執着して(・・・・)しまう。

 血を見れば、例えそれが卑しい者の血であろうと、毒に侵されてしまった血であろうと――――――あらゆる物を腐らせてしまう吸血鬼の血であろうとも、それが血であるならばなんであろうと飲んでしまう、それがアリエッタと言う彼女だ。


 吸血鬼で、そして紳士である我は彼女を守らねばならない。故にこれ以上は迷惑だからさっさと帰ってくれると助かるんだがね」


 彼女の手を握るジェルマンの口調からは、もう関わらないで欲しいと言う強い想いがにじみ出ていた。

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