腐っていました。2
腐った発言がございます。ご注意下さい。
「さて、ここまで誰か分からない方はいらっしゃいますか?」
教室の昼休み…私は黒板の前で同じクラスの人達に尋ねてみる。皆プリントを見たり、問題を解いたりしていたり、頷いている者達ばかり。
「では、次の……あ、予鈴ですね。ここまでです」
「有難う木下ー」
「分かりやすかったわ」
私はまるで教師のように教卓の上の教科書を閉じる。何をやっているかというと、同級生に授業をしていたのだ。数的には10名ほどだ。勿論翼もいる。むしろ翼の為に教えていたのだが、なんやかんややっている内に増えてしまった。
人数が増えた為に見て回るのも大変になってしまっていたが、「黒板でやればいいじゃない」と誰かが言いだしたせいでこんな大仰な事になってしまった。前世の私から言って考えられない事である。
「あの、木下君……これ作ったの。食べてくれる?」
「え、良いんですか?」
相川さんが可愛らしい包みを私にくれた。包みからは香ばしくて甘い香りがする。私はその香りを楽しみながら、頬を緩める。
「有難う、大切に食べますね」
「ううん、いいの!だって勉強教えて貰ってるし、その……」
顔を赤くした相川さんは何故かもじもじしている。
相川さんはクラスでもかなり可愛い部類の女の子だ。少し赤みがかった茶色の髪で、睫毛が長い。けれど、化粧は全くしていない。天然美少女だ。性格も大人し目で、彼女を好きな男子は結構な数がいるのではないだろうか?それにお菓子も作れて家庭的・・・理想の嫁ですね。
「モテてるな!透!」
「ぐっ……痛いぞ翼」
バシッと勢いよく背中を叩かれてせき込みそうになった。だからその力加減は男向けだ。抗議の眼差しを向けると、何故か親指をグッと立てられた。いや、なんですかそれ。
「そんな事より、理解出来たか?」
「くっ……う、うん……前より分かりやすくなった気がする」
「そう、良かった」
勉強の話を持ち出すと途端に苦い顔を浮かべる翼。けれど毎日予習復習を重ねている為か、私の作った小テストもそれなりの点になってきた。これならば堂々とライブが出来るな。
カッコよかったもんな~あのライブ。将来の芸能人か~凄いよな。
チャイムが鳴って教師が入って来たので、慌てて黒板を消す。
教師が微妙な顔をしていたような気がするが……気にしたら負けだ。
今日も生徒会室向かう。ノブに手を掛けようとした所で丁度生徒会室の扉が開かれる。副会長だ。恐らく別室に行くつもりなのだろう。
目が合った副会長はちょっと顔を強張らせていた。何かあったのでしょうか?
「ちょ、丁度いいです。木下さん、来てください」
「え?……はい」
そう言われたので着いていく。なんだろうか?緊急な事柄なのだろうか。
「夏休み明けの生徒会選挙で俺が生徒会を辞めるのは知っていますね?」
「そうですね」
「ですので木下さんには生徒会室と生徒会別室の橋渡しの引継ぎを覚えて貰います」
「ああ、成程」
確かに今の副会長が居なくなると生徒会の仕事が滞ってしまう。実に不便だが仕方ない。副会長も良くやる。私がソレを引き継ぐのか……面倒ですね。頻繁に出入りをする副会長の姿を思い出してげんなりしてしまう。
しばらく副会長の言葉を聞きながら歩く。そうしていると、突然ピタリと副会長の足が止まった。必然的に私も止まる。
「……ところで」
「……はい」
先程より真剣な声色だったので私も緊張してきた。先程副会長が顔を強張らせていた理由の事だろうか。
「本当に、月島くんとは何もないの?」
「ぶふっ」
吹いてしまった。ついでにむせた。辛い。
「けほ……誤解だとあれ程言ったじゃないですか」
「……本当ですか?」
疑いの眼差しが晴れる事はない。何故そんなに疑われているのか……確かにそんな噂をチラホラききますけど……。というか、私女なんですよ?副会長の精神的安定の為に言っておいた方が……いや、もっと酷い誤解が生まれそうだ。今はやめとこう。
近くで見ると副会長も顔が整ってますね。流石攻略対象者の兄と言ったところでしょう。
「ほんとーですよ」
「……」
ちょっと投げやりな言い方になってしまった。すみません、何度も聞きかれて面倒になってきてしまったのです。何か言いたそうに口を開いた副会長の顔色が急に悪くなった。
「どうしました?」
「……いえ、早く行きましょう……木下さんと話しているとこっちまで被害に会う」
どういう事でしょう……?
良く分からないが、取りあえず着いていきましょう。少し早い歩調の副会長に慌てて着いていく事にした。
……???視点……
「見た?」
「ふ、ふふ……見たわ。嫉妬に狂った水無月副会長……」
少女2人は先程の木下と水無月副会長の会話を見ていた。副会長というダークホースに2人の興奮は止まらない。
「ああ!会長と2人きりにしたくないのね」
「やばい、両方穏やか系だけど、副会長攻めね。あの熱い眼差しがやばいわ。YABAI。でも木下さんの敬語攻めも有り得る」
「ふふ、分かってないわね」
「「何奴!?」」
新たに出現した刺客に2人は振り向く。そこに亜麻色の髪の乙女がいた。彼女は仁王立ちして偉そうに胸を逸らせている。
「今あの2人が出かけている事によって会長は嫉妬しているわ……」
「なん……だと」
「なにその美味しいシチュー」
「私、木下さんに告白したのよ。私が迫ると顔を赤くして狼狽えるの。だから彼が攻めになる事などないのよっ!!」
「「二宮会長……!!」」
なんたら協会会長……二宮まどか。彼女のその堂々とした佇まいは2人に感動を走らせた。しかしそこに新たな敵が現れる。
「ふん、かと言って攻めにならないとは限らないんじゃなくって?」
「貴方は!」
2人の取り巻きを率いた縦髪ロールのお嬢様がセンス片手に現れる。彼女は越前恵梨香……二宮とは全く異なる派閥に属する敵である。越前は「木下×会長」を主張しているのだ。
「会長×木下」派の二宮とは憎い敵同士である。
「赤い顔で会長に許しを請う木下。「触れても良いですか」と。会長は断る言葉を飲む……木下が勇気を振り絞って言っている事が分かっているからだ。黙っている事を是とした木下は会長の頬にそっと手を伸ばす。会長はその甘く痺れるような感覚に僅かに身を震わせる。その僅かな震えを目にした木下は微笑んだ「ああ、この方も私と同じ気持ちなのかもしれない」と……」
「「「「きゃーー!!」」」」
取り巻きであった2人の少女と、さっきまで二宮のそばにいた2人の少女。全員がその言葉に打ち震えた。
簡単に彼女達は敵に翻った。なんという事だ、と二宮は唇を噛みしめる。
ちょっとソレも良いかもと思ってしまった事が悔しくて目を逸らした。
彼女達は、幸せです。
……乙女ゲーム仕事しろ。




