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またここから。

こちらで本編完結となっております、ご注意下さい。

「すみません。貴方とは付き合えません」


 深々と頭を下げて、謝罪する。


「そうか……いや、頭を上げてくれ」

「はい……」


 言われて顔を上げると、会長は泣きそうな顔をしていた。その顔に胸が痛くなったが、ここでの同情などは無意味に相手を傷つけるだけだ。

 誠実な会長には、誠実で答えなくてはならない。私では、やはり彼に答える事など出来なかった。

 月色の瞳を僅かに揺らせた後、しっかりとこちらを見据える姿は、流石としか言いようがない。

 この人は強い人だ、とても。その強い瞳に思わず流されそうになる程に。


「じゃあ、晴翔と、付き合うのか?」

「いえ」

「……は?」


 私の否定に、ぽかんとしている会長にクスリと笑う。先程まで凛々しかった会長の子供っぽい表情が可愛い。


「私はどちらともつきあいませんよ」

「……どうして」

「正直めんどうになったので、どちらもお断りしたいと思いまして」


 あはは、と軽く笑う。

 私は色々グダグダと悩むタイプじゃない。胃が痛くなるほど悩むなんてらしくない。色んなモノから逃げて、路上で倒れ込むようなそんな人間なのだ。その本質を今から矯正できる訳がない。

 つまり、開き直ったのだ。


「面倒って……くっ、ははは!確かに面倒な状況だったかもしれないな!」


 思考停止から復活した会長が笑う。

 それが悔しい程に良い笑顔だった。


「……おや、幻滅されないのですか?」

「いいや、してない」

「それは残念」

「はは、早々に嫌いになどならない」


 くっ、なんなんですかこのイケメン。ハート強すぎるでしょう!間宮さんが怯える理由も僅かに分かる気がする。面倒だから断るなどという最低な理由で断っているのにも関わらず、何故そんな好意的な返事ができるのだ!意味が分からない!攻略対象者こわいですよ!

 深く溜息を吐いて、うろんな目で会長を見つめつつ、口を開く。


「どうやったら諦めてくれるのです?」

「俺の気持ちを甘く見て貰っては困る。結婚式場まで行って花嫁を攫うくらいはする覚悟がある」

「いやそれは大変困りますよ!!」


 やだこわい!それって私が他の方と婚約してても好きだって言ってるじゃないですか!


「まぁそれは冗談として」


 真顔でそんな冗談言わないでくださいよ!恐怖を感じましたよ!攻略対象者ならやりかねない。とか思いましたよ。

 はっきり言って会長が好きになえう要素が分からない。面倒だからという理由で断る様な女のどこが良いのか。

 会長はやれやれ、と言いながら溜息を吐く。


「俺はてっきり晴翔と付き合うと思っていた」

「……何故でしょう」

「だって、好きだろう?」


 その言葉に目を見開く。


「な、ど、どうして」

「俺は透が好きなんだ。それくらい見てれば分かる」


 真剣な瞳にそれ以上二の句が継げなくなる。会長はどこまで見ているのか恐ろしくなり、思わず視線をそらす。

 晴翔に抱きすくめられて、「会長と付き合うな」そう言われた時、物凄く嬉しくなったのだ。私の事が好きなんじゃないかと、そう勘違いしてしまうほどに。そんなことある訳がない、すでに振られた分際で、何を考えているのか。そう思っていた。なのに、遊園地での告白。信じられずに、まるで絵空事のような出来事のように思えた。

 けれど、私はその場で答えを出せなかった。

 はぁ、と深く溜息を吐いて、視線を会長の方へと戻す。


「なら、いいでしょう。そんな女やめておいたほうが」

「いや?」

「え」

「透はどちらとも付き合わないと言った。そこに付け入る隙がありそうだ」

「え」


 会長の言葉に呆然としていると、あっという間に会長の腕の中にいた。会長の厚い胸板を感じて、慌てて離れようともがくが、時すでにおそし。


「か、会長っ!」

「分かるだろう?透に好きな奴がいても諦めきれない程、俺は透を愛しているんだ」


 ふふ、と頭上で何故か楽しそうな笑い声を漏らしている。


「……からかうのは、これくらいにしておこうか?」

「かっ、からかっていたのですか!?」


 その言葉に真っ赤になった顔を上げて抗議する。

 が、会長の顔をみた瞬間失敗したと思った。

 会長の綺麗な顔が、すぐそこにあって。


「やっとこっちを向いた」


 そう言って、そっと、私の額に唇を―――。


「なっ、なっ、なっ、なっ!?」


 会長の拘束がとかれ、衝撃でその場にへたり込む。今、会長が、私の額に、額に、キスを!

 オロオロしていると、会長が私と同じ目線になるように腰を落とす。顔を真っ赤にさせた会長が、おかしそうに私を覗き込んでくる。


「残念だったな。俺に失望して貰えなくて。日頃の行いの成果ってやつだ、良かったな」

「ぐっ……!」


 最低な返事で傷つけているはずなのに、どうしてそんなに優しい笑顔が向けられるのですか。思わず泣きそうになって、俯く。


「すみません、私は、本当に……」


 最低だ。

 真っ直ぐにみようともせず、ただ断る事ばかりで。けれど、会長を知れば知るほどに自分が不相応な人間だと思い知る。

 会長がもし他の女の子の事が好きだと言って、大切にしている所を見たならば。私はきっと物語をみているように「いいなぁ」と思うだけで、のんびりとお茶を飲めただろう。

 しかしそれは、嫉妬とは程遠い感情なんじゃないだろうか。自分がその立場になろうなんて、全く考えつきもしない。けれど、いつかはそんな存在が出るといいなぁと夢を見る。

 会長に好きだと言われて嬉しくないと言われればそれは嘘だ。こんなに恰好良くて、優しくて、可愛くて、照れ屋で誠実な人間は他にはいない。なにせ攻略対象者様だ、幸せになると保証されているような存在だ。生涯浮気などしないし、墓場まで共に歩めるだろう。

 その手が取れない事を、とても悔しく思う。

 ぽたりと、我慢が出来なかった滴が1つ落ちる。


「……俺の事を、そこまで完璧な人間だと思わない方が良い」


 そっと会長の手が私の頬に触れて来る。


「俺の前で弱みを見せるな、じゃないと、俺はとことん付け入るぞ。抱きしめて、キスをして、その先も奪いたいと思うような、下衆な男なんだ。透に好きな人がいてもお構いなしにそんな事が出来る男なんだ、俺は」

「会長……」


 思わず、すこし後ろにさがる。流石に額にキス以上の事はしてこないだろうと思うが……キスされたので、警戒しない方がおかしいだろう。

 私が後ろに下がったのを見て、会長が苦笑を漏らす。


「な?俺も完璧じゃない。未完成な人間にすぎないんだ。今でも透の可愛い泣き顔で、どうにかなりそうなくらい」


 かわ……!?

 慌てて自分の顔を隠す。可愛くはないだろう、きっと酷い顔だと思う。確かに会長は完璧じゃないのかもしれない。何せ、私を好きだと言って来ているのだから。


「ま、そんなに警戒するな……もうしない」

「は、はぁ……」


 あれ、なんでしょう。なんでこんな状況に陥っているのでそう。私、会長をフルために呼び出したんですよ?なんで今、私の方が追い詰められている感じなのでしょう?


「……で、だ。結局、晴翔の方はどうするんだ??」

「ですから、断ろうと」

「何も迷う事などないと思うが。俺に遠慮してるなら、盛大に怒ってやるが?」

「いえ、そんな事は……しかし、晴翔はもう諦めると言いましたから。そもそも付き合うも何もありません」

「……ははぁ、なるほど。つまり、拗ねているのか」

「拗ね……!?」


 いや、え?なんでそうなったんですか!違いますよ、そういうのじゃないですよ!

 晴翔は諦めたんですよ、私の事なんて。油断をしてキスをされるような女に嫌気が差したのでしょうよ。

 だから、その……。

 ……拗ねているのでしょうか。

 晴翔が好きと言ってくれた時、嬉しかった。どうしようもなく。

 会長の言葉を飲み込んだ途端、急に自分が子供っぽいダダをこねている事に気づき、恥ずかしくてたまらない。いくら自分が恋愛経験不足だからといって、こんな、幼稚な事を……。

 晴翔が会長と付き合えと言いだして、物凄く腹が立った。それは、私が晴翔の事を好きだったからにほかならず。諦めるといわれてショックを受けたのは晴翔の事を諦めきれていないと気付いたから。

 気付いたら、笑いが零れた。

 転生しているのにも関わらず、この体たらく。何が年上だ。会長にすらカウンセリングされるような、未熟で馬鹿な子供に過ぎない。私はまるで成長していなかったのだな。


「あはははっ!……うん、そうですね。そうかもしれません。ああ……やっぱり、会長は私に相応しくないですね」

「相応しいとか相応しくないとかじゃない。俺が透を好きなだけだ」

「はい、全くその通りです。ありがとうございます」


 不相応とか、そういうのは恋愛には関係がない。誰を好きになろうが、どんなダメな人間を好きになろうが人の勝手だ。

 私は居住まいを正し、その場で正座する。土がつこうが、もはや今更だろう。


「では改めて……私は会長と付き合えません」

「……そうか」

「そして、今から晴翔を振って来ます」

「……は?」


 最初とほぼ同じ事を言った事に、会長がぽかんとする。私よりも余程大人で、完璧で優しい会長様。私はやはり会長の手を取ることはない。どうせなら、うんと幸せにしてくれるような女性と共にあって欲しい。そんなものは私の身勝手な考えだろうが、そう願わずにはいられないほど、私は会長の事が好きだ。

 だがしかし、私が会長をふったとして、そこでダメになるようなやわな人間でない事を知っている。真っ直ぐに歩み、道を間違えることはない人だ。

 会長はやはり強くて、完璧ですよ。転生したから精神は大人だと思って振る舞っていた自分とは格が違う。


「私も、会長が思っているような可愛い人間ではないという事ですよ」







……晴翔視点……


 会長から、透に呼び出されたと報告があった。そのメールを眺めて、何度も溜息を吐く。

 俺なんかのためにチャンスを与えて、笑顔で見送る様なイケメン。とてもじゃないが、アレには敵わない。ずっと諦めきれなくて、邪魔をしてきたが、もうやらない。

 どこかで傲慢があったのかもしれない。透が告白してきたから、今でも好意は抱いているだろうと。

 馬鹿だった。

 そんな事ある訳がないのに。

 翼に協力をしてもらえないと生徒会にも入れない、会長の邪魔をやるだけやって、最終的に会長の協力でやっと告白できた。告白と言えるようなものではなかったが。断られるのが怖くて、自分から諦めると言ってしまった。

 最悪だった。透の告白を断った時点ですでに最悪だった。透に近づこうと思っても、まるで届かない。それもそうだ、透の隣には常に会長がいたのだから。だから近づこうと思ったら、邪魔をするしかなかった。

 会長と付き合う方が幸せになれるって分かっているのに。性懲りもなく遊園地になどついて行って、あの惨事だ。

 めちゃくちゃ、仲が良さそうだった。俺の入り込む余地なんてないほどに。普通に恋人として成り立っている2人に、自分の場違いさを痛感させられた。それなのに、諦めきれていなかった。馬鹿としか言いようがない。

 あの日告白を断らなかったら……その想像を何度も、何度も、何度もしては、嘆いた。あの日付き合っていたら、透の隣は俺だったのだろうか。俺だったら、どんなに良かったか。けど、もういい加減にしないといけない。

 あんなに良い人は、他にいない。他の誰かのものになるなら、誰でもない、会長がいいと本気で思う。あの人だったら、絶対に透を泣かせたりしない。幸せにする。

 俺ではとてもではないが無理だ。

 本気の告白を断って、散々傷つけて、そこから近づいて迷惑をかけている。

 どう考えても最低だろう。

 はぁ、と何度目か分からない溜息を吐きだしていると、スマホが鳴った。

 なんだ?と思って名前を見ると、透の名前だった。

 なんで!?

 慌ててメールを開いて、内容を見ると、今からこちらに来るという。

 は?なんで?今から?会長との話はもう終わったのか?

 ……ああ、たぶん会長と付き合ったから、こちらに断りに来ようと思ったのだろう。そう考えるのが妥当だ。あんな最悪な告白でも、律儀に断りにくるのか。それはむしろ追い打ちの気がするが、透らしいとも言える。

 またスマホが鳴ると、ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。玄関の方には母さんが行くとして、俺は再び届いた透のメールを読む。

 「今、玄関にいます」。

 えっ、なんだそのどこぞのホラー的なメールは。っていう事は今下にきているのは透か!


「お邪魔しますよ」


 透の声にベッドから飛び上がる。


「な、ななな、な、な」

「急ですみません。ですが早急に伝えたい事がありましたもので」


 だらしがないジャージ姿のまま、その場で狼狽えるが、透は涼しい顔で座布団の上に座っている。

 俺はその場で立ち上がったまま、透がその場で座っているのを狼狽えながら見つめる。


「まぁまぁ、座って下さい。その状態だと話もできません」


 誰のせいだと!?

 と、思ったが、言われるままに座る。

 透は話がしたいといっていたし、自分の部屋で立ちっぱなしで話をするのも変だろう。告白の件をいうなら、母さんのいるリビングで話す訳にもいかないしな。

 俺が正座すると、透が口を開く。


「告白の件を断りに来ました」

「……うん」


 ズキリと胸が痛む。やはり追い打ちに来たらしい。そう言われるのが嫌で、逃げて来たというのに。嫌だから、先に諦めると言ったのに。わざわざそれを言いに来たのか。情けなくも手が震えてしまう。

 だから嫌だったんだ。断られるから、言うのが嫌だったんだ。自分だって透の告白を断った癖に、自分が断られるのが嫌だった。これは、その報いなのかもしれない。


「私の告白を断った癖に、なにを今更って感じでした」

「……うん」


 分かってる。だから言えなかったんだよ。


「挙句諦めるとか、身勝手すぎて笑いそうでした」

「……ごめんなさい」


 何も言い返す事が出来ない。

 俺はそれだけの事をしたのだから。透は怒っているのだろう。だから敢えて言いに来た。情けない俺を怒りに。


「だから私は晴翔のありえない告白なんて断りますよ」

「……うん」


 そこまで言った透は言葉を止める。俯いていたが、こちらに視線を向けている事は分かった。

 心臓が妙な音を立てている。血の気が引いているのだろう。俺に引導を渡した透を前にして、震えない訳がない。

 やっぱり、ダメだった。分かっていたけど、いざ口にされるのはきつかった。俺はそれを透にやったんだ。それを考えると、恐ろしかった。俺はとんでもない事をやったんだ。


「で、どんな気持ちですか?」

「……え?」

「私に断られて、辛いですか?」

「あ、ああ……うん」

「でしょうね!」

「……」


 え、なに?

 透が清々しく笑っている。

 なんだか知らないが、とても楽しそうだった。腹いせなのだろうか、断った俺への。最悪の告白をした俺への。だとしたら、甘んじて受けるしかない。落ち込んでいく俺とは裏腹に、透の顔は晴れやかだ。


「私も断られて辛かったんですよ。晴翔を見る度に辛くて、まともに目を合わせられなくなったくらい」

「ごめん……何度言っても足りないかもしれない、けど、ごめん」

「はい、だから……次の告白は断らないでくださいね?」

「…………え?」


 思わず顔を上げて今の言葉を反芻する。次の告白?……って、なんのことだ?これ以上何を言うつもりなのだろう。

 目が合った透の顔は、驚くほど優しかった。

 その顔にドキドキとしてしまう。僅かな期待が、胸に宿った。

 その一瞬が永遠に感じる程。透の唇の動きをすべて見逃さないように注視する。


「私は貴方が……ずっと晴翔が好きです。良かったら、付き合ってください」

以上です!長らくのお付き合い、真にありがとうございます。

ここでこの話は完結させていただいて、後日譚などを書いていきたいと思います。

当て馬会長のその後や、主人公や脇役たちのその後など。

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