遊園地に行きました。2
だいぶ3人で遊び、空が少しだけ赤く染まってきた。
最後に観覧車に乗ろうという話になり、観覧車には2人で乗るものだ。という会長の謎の主張をうけた。
「いえいえ、普通に3人で乗ればいいじゃないですか」
「ダメだ、観覧車に3人で、なんてロマンも何もない」
「俺はこの際どっちでもいいがな」
晴翔がやる気なさそうに言う。
それを見た会長が晴翔の腕を掴んだ。
「すまない、透。火媛とはちょっと話し合いが必要みたいだ」
「は、はあ……」
ずるずると半ば引きずるような形で少し離れたところに移動。そこで何やら話し込んでいる。よく分からないが待っておきましょうか。遊園地の乗り物は2人セットで乗るものが多い。そのたびにジャンケンをして勝った2人が隣になるという感じになっていたので、3人で乗れるものがあるのなら、みんなで乗った方が良いと思われる。
しかし、会長の主張は流石に察しないといけないだろう。観覧車ってのはカップルとか、友達以上恋人未満の男女が入って良いムードを演出できる乗り物だと思っている。会長は私の事が好きだと言ってくれている。好きな人と、つまり私と観覧車に乗りたい、そう思ってくれているのだろう。自惚れでなければ、の話だが。
でもそうだとするにしても、密室で2人きりという空間に耐えられるだろうか。会長が私の事を好き……と考えるだけでうわああーっ!と、意味もなく叫び出したくなるのに。
夕日に向かって叫びましょうかね、今丁度、夕日になりそうですし。
そっと溜息をこぼしながら待っていると、ふと人の気配が近づいてきたので顔をあげる。すると、チャラいイケメンがそこにいた。
「君、凄く綺麗だね。夕日の明りと相まって、凄く幻想的だなって思ってさ。思わず詩的な事をいってしまうくらいで、思わず声かけちゃったよ」
「は、はぁ……」
これは、なんだろう。知らない人……ではない気がする……どこかで見たような。
……あ。
「翼のバンドの……?」
「え?……あれ?どこかで会った?」
ああ、そうか。この人、翼のバンドのメンバーさんだ。ベースの人だったかな、確か。名前までは覚えてないけれど。
「こんなに綺麗な子、覚えてないはずないんだけど……」
そのむず痒いセリフに淡く笑って首を振る。
「無理もありません。いつもとは違う恰好ですし、会ったのも2度ほどですから」
「そうなんだ、翼の友達?」
「ええ、サインも頂きましたよ」
「え……あああああ!?有言実行翼の予言者!?」
え、なに?ゆうげん……なに?
大きな声を出したために周りから注目を浴びる。騒ぎを聞きつけた晴翔と会長も戻ってきた。
自分の声の大きさに恥ずかしくなったのか、咳払いして笑っている。
「あーごめんね?ちょっとびっくりしちゃってね。驚いた、あの時の子か。凄く綺麗になってて気づかなかった」
「いえ、無理もありませんから。私も驚くほどですからね」
「大丈夫か?何があった、というか、なぜ如月が?」
会長は名前を覚えていたらしい。1度しかライブに行ってないはずなのに。つくづく凡人とはかけ離れた人ですね。
「あーごめんね。デート中だった?」
「いえ……」
「……なーんか複雑みたいだね?」
晴翔の姿を目に入れてから、くくく、と笑う如月さん。
「まあいいや。幸運の女神様に感謝しつつ、俺はもう行くね」
「え?あ、はい……」
そう言って、さっさと逃げるように退散された。
「なんだったんだ……?」
「さぁ……?」
というか、さっきの私の名称らしきものはなんなんだ。予言者だの、女神だの。あのバンドの中での私ってどうなっているのでしょうね。
会長が咳払いして、気を取り直したように話を切り出す。
「あー、その。観覧車は晴翔と乗ってこい」
「え?」
「もうちょっと晴翔の話を聞いてやってくれ」
「おい、会長……なにを勝手に」
晴翔が不満げに会長を止めている。会長の独断でそう決めたのだろうか。さっきまでの主張の意味とは。……うーん、やはり私の自意識過剰でしたか、恥ずかしい。単に晴翔と仲直りさせたかっただけ、とか?別に険悪とか、そういう感じではないのですが……。でも確かにもやもやと過ごしていました。
この機会に謝っておきましょうか。蒸し返すようで悪いですが、どう嫌いかしっかり言っておいた方がいいかと。
「じゃあ、乗りましょうか」
「……ああ」
「しっかりやってこい。もうこれ以上は協力しないからな」
ひらひらと手を振って晴翔を送り出す会長。その笑顔がどことなく寂しそうに見える。夕暮れの明りがそうさせるのかは分からないが……店員に促されて観覧車に乗り込んだので、そちらにはもうしばらく戻れない。会長の様子も気になったが、今は晴翔の方を優先だ。
ガチャリと、まるで牢獄の扉が閉ざされたものだと錯覚するほど冷たい音が響いた。
観覧車にわずかに揺らされながら、私は早々に頭を下げた。
「すみません、晴翔」
「え……?」
「……嫌いと、貴方に言った事を、謝りたかったのです」
「いや……いいよ。あれは別に、俺が悪かったし」
ぶすっとした表情で、横を向いたままの晴翔。
言葉では許して貰えたが、傷付けている事に変わりはない。けれども、良いと言ってくれているのに、これ以上言葉を続けられなくて、必然的に沈黙が落ちる。
ゴンドラが4分の1まで来た所で、晴翔がぽつりと話しだす。
「会長ってさ……良い人だよな」
「え?ええ……そうですね、そう思います」
何を突然言いだすかと思えば。しかし、良い人だと思うので頷いておく。本当に良い方だと思う。
「あんな人と付き合えたら、たぶん……いや、絶対幸せになれるよ」
「何を……」
ふ、と自嘲まじりの笑いを漏らす。
「俺なんてさ……いつまでもうじうじしてて、最悪なんだよな」
「そんなことは……」
「別に気を遣わなくていいよ。俺もそんな自分が嫌いだし」
「晴翔……」
晴翔は、どうしたんでしょうか。嫌いと言ったのを謝ったんですけど、たぶん、誤解はまだとけてない。あれは晴翔が必要以上に触ってくるから、それを嫌ったのであって、晴翔自身を嫌っているわけではない。嫌いになれるはずがない。だって私は……。
「……会長、良いと思う。付き合えば絶対良いと、思う」
ゴツッという音が響いた後、晴翔が頭を押さえて蹲る。それもそのはず、私が晴翔の頭にげんこつを落としたのだから。
ひりひりする拳をぐっと握りしめて、震えるのを抑える。
「この間は……付き合うなと言ったり、今日は付き合えと言ったり、なんなんですか……」
何故そんな風に意見を変えて、口を出して来るのか、意味が分からない。意味が分からなくて、腹が立つ。たぶんそれだけ。それだけに決まっている。
「私が付き合う相手は私が決める。私が好きだと想う相手も、私が決める。あなたに口出しされる謂れはない!……です」
腹立ち紛れに放ったせいで、口調が荒くなってしまった。
はぁ、と息を吐いて外を見ると、丁度頂上まで回る所だった。ああ……こんな気持ちで見なければ、この夕日はもっと綺麗に感じたはずなのに。今はこの光景も、どこか寂しさしか感じない。沈みゆく赤い日が、私の心まで沈んでいくような気がして。
「……口は、出したくもなるよ」
「……晴翔」
まだいうか、と思い、とげとげしい言い方になってしまう。何か言おうと思ったが、その前に想像だにしない言葉を聞いてしまった。
「―――好きだから」
その言葉に、思考が停止する。
「好きだから、口を出したくなる。好きだから、好かれたいと思う。好きだから、幸せになって欲しいと思う。好きだから……触れたくて仕方がなくなる」
そう言って、自分の手をグッと握りしめている。
……何を。
好きって、何が。
晴翔は。
顔を上げ、目が合った晴翔の目に映るのは私への熱情と、諦め。
「俺は、透を好きになる資格さえない事も分かってる。でも、気付いてしまったんだ。透が、好きだって。身勝手で、ごめん。勝手に好きになって、迷惑をかけているのは、分かっていたんだ。本当、ごめん……」
何もいう事ができず、頭の中を晴翔の言葉が滑っていく。現実味が薄い気がして、背もたれにもたれかかり、晴翔からそっと視線をそらす。
「だからもう本当に、これで諦めようかと思ってる」
「え?」
思わず、声が漏れた。
「告白も伝わったみたいだし、もうこれでいいかなって。会長にも、そう言えるし」
「……随分、勝手ですね」
「……ごめん」
掠れて震えた声しか出なかった。
それは晴翔も同様だった。
それから、互いに沈黙する。
私は1年前、確かに晴翔の事が好きだった。1年前なら、私は喜んで頷いただろうと、分かる。分かってしまう。手に取る様に。喜んでその胸に飛び込んだ。
黙ったまま地上に辿り着き、そのまま黙々と2人で会長の所に行く。私は会長の顔を見る事ができなかった。
会長は恐らく、晴翔の気持ちを分かっていた。分かってて、晴翔と共に乗せたんだろう。その真意は良く分からない。
「話は出来たか?」
「ええ……」
「ああ……」
返事が晴翔と被って、気まずさに震える。
「じゃ、そろそろ帰るか」
会長の言葉に、のろのろと歩き出す。
私はどうしたらいいのか……全然分からない。
私が選ぶのは―――。




