遊園地に行きました。
「透、今度でかけないか」
「えっ」
生徒会の終わりに、会長がそう切り出してくる。照れ顔を逸らしつつ、土曜にデートに行こうと誘われたのだ。しかも遊園地っていう、また定番な所を……。
「その、なんだ……俺の事をもっと見て欲しい、から、な」
「うっ、ううっ……!」
なんですかそのストレートで可愛い要求は。自然と顔が熱くなってしまう。もうやだ、攻略対象者やだ。なんなの、なんでそんなかっこいいの。攻略対象者だからしかたありませんよね、はい。もう何が何だか分からない。会長と2人きりってまたハードルが高いんですけれど。
「俺も行こうか」
「なんでだ」
「いや、透と2人きりだと会長が変なことやらかしそうだし?」
「ぐっ!」
晴翔がそう言いだしてくれるのは有難いが、正直両方気まずいので、居心地の悪さはマシマシである。なんなんでしょうね、この気持ちは。味わった事のないえも言われぬこの気持ち。そもそも、告白なんてされた事ない人生ですからね、未体験すぎてもう。みんな、どうされてるんでしょうね。あ、いや、女性からの告白はノーカウントにしましょう、あれは悲しい誤解だったのです。
「……はぁ、まぁいいだろう。俺だけが行くというのも不平等だしな」
「……やっぱ会長イケメンですね」
「お前に言われても嬉しくない」
「好感度上がりっぱなし」
「だから嬉しくないと言っているだろうが」
おお?なんか前にも増して仲良くなっています。ずるいですね。私も混ぜて欲しいモノです。いや、不可能でしょうがね。というか、私が行く事に決定しているのですね。ま、いいんですが。暇ですし。
晴翔と普通に話せているのが、なんだか違和感ありすぎてモヤモヤします。いや、普通に話せるのは良い事なので、それは良いん、です、よね?謝ったら逆に蒸し返して嫌な気分にさせるだけなんじゃ……。いや、ああ、でもそれって自己満足になっちゃうんでしょうかね。謝ったら私が気分がよくなるだけという可能性。くっ……!しかし、あの時言った事は、謝りたい。けれど、そんな雰囲気じゃないですし、うわああ、もう!こっちはこっちでなんか微妙ですよ、もう!
晴翔にもやもやと、会長にドキドキさせられながらあっという間に土曜。間宮さんに漏らしたのがいけなかった。また女装をさせられてしまい、今に至る。
間宮さんがキラキラとした、満足げな表情で笑っている。
「すっごく似合います!」
「美人系だね!やっぱ!これなら惚れない!」
遊園地という事なので、隣の県に行くため朝が早いからと断ろうと思ったが、そんな理由では断り切れなかった。嬉々として家に来て服とか持って来てるんです。女の子って凄いですね、こんな朝早くでもオシャレを欠かさないんですから。あれ?間宮さんは女の子じゃないはずですが……いや、まぁ見た目はどう見ても、というか性別的にも女の子だから問題ありませんでしたね。ややこしい話です。
鏡を見てみると、まるで自分ではないかのような。やはり、この2人はすごいですね。この道のプロにでもなれる気がいたします。それとも、今どきの女子高生ってこれくらいできるのが普通なのでしょうか。だとしたら私は女子高生失格になっちゃうんですけれども。そりゃあ2人共おモテになりますね。素でも可愛いのですから、こんなテクニック持ち合わせていたらモテモテですよ。間宮さんはやらない方がいいとおもいますけれどね。どんどん深みにはまっているような気がします。
そもそもなんで私が告白されたのか未だに良く分かっておりませんね、ええ。会長の趣味って相当変わっているんでしょうね。
「それじゃあ行ってきますね、わざわざありがとうございます」
「いえいえ!いいんですよ!」
「しっかり気張ってこいよ!キノっちゃん!」
ははは……と乾いた笑いを返しながら待ち合わせの方に行く。2人と仲良くできている事は良いと思いますが、キノちゃんはどうにかならないでしょうかね。
チラっと膝丈のスカートを摘まんでみる。うーん、なんというか、気合入れ過ぎのようで、非常に恥ずかしい。しかし今から帰ってたら間に合いませんしね。それに服用意してくれた間宮さんにも悪いですし。なんで間宮さんが私の身長に合った服を持っていたかというと、私と同じ身長の姉がいるらしい。そこまでしてくれているのですから、もう覚悟を決めないといけないのですがね。
のろのろ歩いていると、後ろから声をかけられる。
「おはよ、透」
「ああ、おはようございます。晴翔」
行く方向が同じなので、ばったりと出くわした。異常に気合の入った服で来ているので、恥ずかしさで顔が熱くなって来る。晴翔の方に向かないようにしつつ、黙って待ち合わせに向かう。
「透」
「は、はい?」
話しかけられてビクビクする。うわ何こいつ気合入れてんだ似合ってないって思われてたら落ち込むんですが。自分で言ってて深く傷つきました。なにやってんですか私は。
「綺麗だ」
「え?」
「服が」
「ああ……服が」
「あ、じゃなくて」
「ではない?」
「透も、綺麗だと、思ってる」
「ほう……ほう?」
ん?あっれ……すごく不可解な事を言われた気がする。最近会長に言われているような事を。
え、何でしょう、え、空耳?
じっと晴翔を見上げると、目を盛大に逸らされ、その上顔は真っ赤である。え、空耳じゃない?幻聴かと思ったけれど、え?
自分の顔が熱くなってきたので、慌てて前を向く。は?いや、なんで?なんで?い、意味が分かりません。ドキドキする胸を押さえて、少し足を速める。
無言で歩いている間も、ずっと落ち着かない。今、なんでああいう事言ったんでしょう。そういえば、あの日、どうして晴翔は私に会長と付き合うなと、言ったのでしょうか。どうしてあの時、私を抱きしめたりなどしたのでしょうか。なんだか考えたらダメな気がします。うん、忘れよう。早く目的地につけ!もうこの沈黙に耐えられる気がしない!
さっさと目的地に着いたら、すでに会長がスタンバイしていた。とろけるような全開の笑顔で出迎えられて、早速逃げ出したくなった。だが、背後には晴翔がいるから逃げられない。何、この狼に追い詰められた羊の気分。追い込み漁ですか、そうですか。断れば良かった、遊園地なんて断れば良かった。
「すみ、ません。お待たせしてしまいましたか?」
「いいや、ま」
「全然待ってないよな?そうだろ」
晴翔が会長のセリフをぶった切って爽やかな笑みを浮かべている。ひくり、と笑顔をひきつらせ、晴翔を睨みつける会長様。最近仲良くなっていると思っていたが、急に険悪な雰囲気に。会長様が以前の威圧系俺様のオーラを放っている。しばらく睨み合ったあと、互いに目を逸らす。
「今日、そういうのは、互いにナシだ。分かるか?」
「……オーケイ」
ゴゴゴ……という音がしそうな程の重い空気だが、お互いの顔だけは笑顔である。お、恐ろしい。
「あ、あの。電車に乗りましょう。遅れます、よ?」
「ああ、そうだな」
ほっ、ひとまず休戦してくれるらしい。喧嘩するほど仲が良いとはこういう事か。そして自ら退路を断ったな、私。もう引き返せないぞ。
電車に乗り込み、遊園地の方へと向かう。
「わっ」
「と、大丈夫か?」
「あ……すみません」
「いい、むしろ嬉しいくらいだ」
電車が揺れて会長にぶつかってしまった。かかとが高い靴なんて履いているからこんな事に。嬉しいってなんですか、嬉しいって!人の多い所でよくそんなさらっと恥ずかしい事言えますね。電車内で注目されているので、黙って外を眺める事にした。
「……で、なぜそんな事に」
「知るか」
「おい、しゃべるな、息がかかるだろうが」
私がドアの所にいて、その背中に会長の背中がべったりと。よくみえないが、そこから晴翔の手が伸びてドアの所に手をついているので、会長と晴翔が向き合って壁ドン状態になっているのだろう。会長の背中がでかすぎるし、身動きも取れないのでよくみえませんけどね。
「最悪だ」
「俺の方がな」
「いや俺だろうが」
「会長、透とくっつけてるだろうが、まだそっちのがいい」
「そりゃあな、お前と近づけさせるのは断固阻止する」
「この前あんな事いっといてか」
「それとこれとは話が別だ」
遊園地に近づくにつれて乗り込んでくる人が多くなったせいでこんな事に。
会長が肘で自分の体重分を支えてくれているので、苦しくないので私はいいんですがね。ああーもうすぐ遊園地着きます。ようやくこの混雑から解放されますよ。
目的地の駅に着き、たくさんの乗客が降りる。人混みに押されてはぐれそうになるが、晴翔が私の手首を掴んで流されるのを阻止してくれた。
「わ、ありがとう、ございます」
「ん」
「っと、大丈夫か2人共。流石に休日の遊園地駅前は混むな」
2人に囲まれるようにして、混雑した駅構内を抜ける。その先にジェットコースターや観覧車などが見えた。この駅から降りた人の大半が遊園地に向かっているようですね。
遊園地なんていつぶりでしょう。小さい頃、晴翔と家族ぐるみで来ましたよね。懐かしいことです。
そっと晴翔の顔を見上げると、晴翔もまた懐かしい事を思い出す表情をしていて、胸が温かくなる。
「さ、行くか」
ぽんと会長に軽く背中を叩かれて歩き出す。
ふと、視線を動かすと、周りに見られている事に気づいた。チラチラとこちらを気にしているような。女の子の視線が多いって事は、やはり攻略対象者がイケメンだからか。そこから2人に囲まれている私に嫉妬の目線が向く。
あれ、ちゃんと女の子として見られている……?はっ!今女装してた!やべぇ、イケメン2人侍らすとかどんだけ頭の高い女なんだ。いつも嫉妬されないように男装してして外に出かけていたんでした!それがなんで女装して……いや、女だから女装はおかしいんでしたね。でも他になんて言って良いか微妙に分からない不思議。
「さて、何から乗る?」
会長がパンフレットを広げて見せる。そこには楽しそうな乗り物がたくさん載っていた。知らないアトラクションも増えていますね。結構繁盛しているみたいです。ド定番のデートスポットであるにも関わらず、間宮さんと藤間さんは行ってる気配がないですね。
まぁ、土御門くんのデートは主に植物園ですし、間宮さんに至っては攻略する気もないから仕方がありませんけれど。
なんか遊園地ってリア充しかいないイメージだから来づらいですし。
「じゃあ、ジェットコースター?」
「いきなりぶっ飛ばすな」
「私は空中ブランコがいいです」
「「決定」」
あれ?いいんですか?じゃあ、遠慮なく。ひとしきり乗り物に乗ったあと、昼食の時間になる。待ち時間に物凄く見られていたが、それ以外は楽しい。童心にかえったようです。
「で、昼はここのバイキングでいいか?」
「良いと思いますよ」
「ああ」
……あ。こういう時って女の私がお弁当を作るフラグだったんじゃ、ま、まぁ、いいですよね!!別に付き合っている訳でもありませんし!それに、弁当も作らないような女なのかって、幻滅を……しない、ですよねー……。会長の嬉しそうな笑みを見てその可能性は皆無だと知る。
ええ、ええ、分かってます。何故だか知らないですが、会長は私の事を高く評価してくれているのですよね。本当に不思議なものです。
バイキングで色々な食べ物を皿に乗せていく。こういうのって、色んな味が楽しめていいんですよね。
テーブルに3人分の食事が乗るのはなかなかのものだ。それに、会長の取ってきた量に驚く。
「会長、そんなに食べれるんですか?」
「え?ああ……まぁ」
別に大食いというイメージでもなかったんですけれど……確か1人前の普通の食事していた記憶しかない。もしかして抑え気味にしていた、とか?
「あー……たくさん食べた方がもと取れるかと、そういう」
「ああ、確かに、だからついつい食べ過ぎちゃいますよね」
なるほど、まぁ少ない量だと勿体ない気持ちになりますよね、バイキングって。会長、顔はいかにもどこかの社長のご子息みたいな顔してるのに、普通の事考えるのですね。そういえばファーストフードも涼しい顔で利用してましたっけ。忘れがちですが、会長は普通の家庭で育っているんでしたか。お母様がお姉さんと言ってもいいレベルの若さを保つ化け物だからなのか、会長も綺麗な顔ですよね。きっと30になってもキラキラしてるんでしょう。会長の血族は年とらないのですかね。それを普通の家庭と言っていいか甚だ疑問ではありますが。
「あ、会長、それどこから取ってきたんですか?」
「ん?あー、パスタの右隣に置いてあったぞ」
「美味しそうですね、私も取って来ましょうかね」
「ん、じゃあ俺のやつ取ると良い。わざわざ行くのも面倒だろう?」
「あ、良いんですか?ありがとうございます」
会長の皿からラザニアを頂いて頬張る。うん、美味しいです。色んな味をちょっとずつ食べるのが、バイキングの醍醐味ですよね。
「美味しそうに食べるな」
すごく、すごく嬉しそうに、会長が私の顔を見ている事に気づいた。私が好きでたまらないって表情を、隠しもしないで。気付いたら、もう直視する事など出来なかった。
慌てて顔を明後日の方向に向ける。
「あ、あー!わ、私、ドリンクいれてきますね?」
「ああ、気を付けろよ?」
すぐそこですよ!!そんな心配しないでください!
「顔、熱……」
グラスで少し頬を冷やしてから帰ろう、そうしよう。グラスに氷を入れて、落ち着いてから席に帰ろう。
こわい。あの人、魔性だと思う。
次回も遊園地回。




