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休みました。

 次の日、昼休憩に晴翔に呼び出された。晴翔が呼び出しなんて珍しい。なんでしょうか。私は今ちょっと何も考えずにぼんやりしていたい気分なんですけれど。

 ぼうっとしたいのはやまやまなんですけれど、会長の事で手一杯というか、なんというか。今日の放課後に顔をあわすのが大変気まずい状態で逃げ出したい。

 しかし今見ると、何やら晴翔の様子がおかしい事に気づいた。先程まで会長の事ばかり考えていてあまり見ていなかったのだが、晴翔の顔色が悪い。もしかして体調が優れないのだろうか。とりあえず会長の事は頭の片隅に置いておいて、晴翔の方に集中させよう。


「あの、晴翔、なんでしょうか」

「……」


 とても体調の悪そうな顔で、私から目を逸らす。何かを伝えたがっているのは分かるのだが、何が言いたいのかは分からない。体調が悪いから生徒会を休む……程度の事であれば、こんな人気のない裏庭にわざわざ呼び出す必要もないだろう。


「とりあえず、座りませんか?顔色が優れませんよ」

「……いや、いい」


 そんな絞り出す様な声で言われても、もっと心配になるだけなんですけれど。

 晴翔は、大きく息を吐きだしてから、顔をあげた。


「透」

「はい」


「……月島会長が、好きになったのか?」

「……なっ、なんで今、その話なんです?」


 あまりにもタイミングが良過ぎる質問に、声が裏返る。それは今、とても悩んでいる事だし、どう断ろうか考えあぐねている最中だ。

 晴翔は苦い顔をして、遠くの方を見つめながら答える。


「昨日……見た」


 昨日……昨日の告白を見ていたという事か!だからタイミングよくその質問なのですね、なるほど。というか、あんな恥ずかしく狼狽している所までみられたんでしょうか。


「キス、してた、よな?」


 その言葉にカアッと顔が熱くなった。そこから!?そこからみていたんですか!!慌てて手と首を大きく横に振った。


「し、してません、してませんよそんなことっ!」

「……え?……して、ない?」


 コクコクと縦に首を振って肯定をあらわす。勢いよく首を振りすぎて若干首が痛くなった。少し痛めたかもしれない。動揺しすぎだ。もうちょっと落ち着こう。


「……でも、抱き合ってた」

「い、いえ、あれは、その……」


 あれは単に逃げられないようにされていただけのような気がいたします。会長の力強い手を思い出して、脈が速くなる。あああああっ!思いださないで私!お願い!ものすごく居た堪れない気持ちになるから!


「付き合うのか?」

「ええと、いやそれは、その」


 しどろもどろになるだけでまともな返答をしない私に苛立ったのか、晴翔が眉を潜める。


「付き合う気がない奴と抱き合うのか?」

「だ、抱き合っていた訳じゃ……」


 ザリ、と晴翔が1歩足を踏み出してきたので、1歩下がる。それでもなお晴翔が距離を縮めて来て、背中が校舎の壁に当たった。さらに距離を詰めて来そうだったので、横に逃れようとするのを、晴翔が壁に手を突く事で遮られてしまう。壁ドン再び!だが今回も前回と同じで怒られそうな予感しかしない。

 おそるおそる晴翔の顔を見ると、明らかに怒っていた。つくづく壁ドン運がないのか、それとも壁ドンが甘いシチュエーションだというのが幻想なのか。


「なら、俺もやっていいんだよな?」

「えっ……!?」


 抵抗する暇もないままぐっと引き寄せられて、抱きしめられて混乱する。は!?え、なんで?なんで晴翔に抱きしめられてるのですか?いやいや意味分からない意味分からない。友達同士でこんな風に抱き合うだろうか、いやない。

 なにか良い事があれば喜びを分かち合う意味であるかもしれないが、今のこの状況で抱き合うなどないだろう、たぶん。

 ええと、つまり私には隙が多いと。そういう忠告なのかもしれない。いや、だからって抱きしめるだろうか、いやない。

 落ち着け、冷静になるんだ。とりあえず、なんだ、あれだ。

 1年前まで、私は晴翔が好きだった。ずっとこうなればいいのになって、そう思ってた事もあったし。抱きしめたいって、触れていたいって。そう、好きだった。でも振られたから。忘れようと思って、晴翔を避けて傷つけたりもした。なのに、なんでこんな事。


「は、晴翔。離して下さい」

「やだ」


 そう言って、抱きしめる力が少し強まり、さらに混乱する。やだって、なんで嫌なんですか!こちらもやだって言いたいですよ。

 晴翔の腕に包まれて、心臓が痛い程速くなって。そして泣きたくなった。こんな事やめてほしい。ただでさえ会長に告白されて混乱真っ最中だというのに。

 そうだ、こんな所会長にでも見られたら誤解を受ける。……誤解を受けたら、なんだというんだろう。会長と付き合う気はないからいいんじゃないのか。私は何がしたいんだ。

 会長が、真っ直ぐ好きだという女の子が羨ましいと思ったのは確かだ。けれど、自分に向けられているものだとは思いもしなかったし、こちらに振り向かせようなんておこがまし過ぎて。


「会長と、付き合うな」


 すぐ近くで低くうなるように喋られて、ドキリとする。


「つ、付き合うなって、なんでですか。晴翔に、なんの関係があるというのですかっ」

「……そんなに俺の事が嫌いか」

「……少なくとも、こういった事をする晴翔は嫌いです」


 過度な接触はもうするなと、そういったはずだ。

 晴翔が息をのんでいるのが分かった。はぁ、と軽く息を吐いてから、震える声で晴翔は言う。


「……俺もだ」


 と。

 ハッとして顔をあげて晴翔の顔をみる。


「俺も、自分の事が嫌いだよ」

「……っ」


 悲しそうな、苦しそうな声で。その言葉を最後に、晴翔は私の前から立ち去る。

 今のは晴翔を傷つけたと分かった。何か声をかけないと、そう思ったが、何を言っていいか分からずに言葉が出てこなかった。ええと、謝る?いや今のは晴翔が悪いでしょう。でも、どこがどう嫌いか言った方が……え、なに?私の方が悪いのでしょうか。晴翔の暖かさが離れて、少しだけ寒くなって自分の腕をさする。今でも心臓がどきどきして落ち着かない。

 ……ビックリした。それにしても、なんであんな事をしたのだろう。普通の友達に、あんな事するのだろうか。晴翔は、そんな人じゃないはずだけれど。なんだろう、この、もやもやした後味の悪さは。

 最悪な考えが浮かんで、ぎゅうっと胃のあたりを押さえる。

 私は、たぶん、今、かなり嫌な女だ。






 胃をさすりつつ、桜さんにプレゼントをあげると喜んでもらえてほっとする。


「何かあったのですか?透さん」


 そう聞かれて、苦笑いを浮かべる。そんなに顔に出ていたのでしょうか。自分もまだまだですね。精神年齢はかなり上なはずなのに。成長してないってことなんですかね。


「ええ、色々ありました。……ですから、少々疲れているのでしょうね」

「無理なさらないで、休まれた方が良いですよ。顔色が悪いです。保健室、ついていきましょうか?」


「いえ、お気遣いありがとうございます。自分だけで行こうと思います」


 ずっと心配そうにしている桜さんに断りを入れ、本当に保健室に行く事にした。顔色、悪いのですか。確かに胃がすこぶる悪い気がします。きっとストレス性のものだ。間違いない。

 とある人物を見つけて、歩く足を止めて固まる。日向先輩が冷や汗を流しながらこちらを睨んできていたからだ。ひいいいいい、なにそれこわい!何故か分からないが、日向先輩の気に障る事をしてしまったらしい。顔色が悪いので、鬼気迫った雰囲気が出て、怖さが増している。しかし、体調が悪そうなのも事実なので、放って置く事も出来ず。


「あの」

「なにした」


 話しかけようとしたが、怒気を含んだ日向先輩の声で遮られる。思わずビクリと震えてしまう。え、え、なんでしょう。めっちゃ怒ってます。私が何をしたと?


「藤間の事だ。何をした?」

「は?いや……とくに、なにも」


「嘘をつくな。急にこっちに来なくなった。せっかく、せっかく僕の所にきてくれていたのにっ……!」

「え……」


 あれ、藤間さん。最近日向先輩の方に行ってなかったんですね。それはよかった。で、なんで私のせいという事になっているのでしょう。私は無実ですよ!


「その、本当に心あたりが……」

「じゃあ言い方を変えよう。藤間の幼馴染に何を吹き込んだ?」


「……」


 あ。

 ……そ、そういえば忠告のような事をいいましたね。あれから、土御門くんは忠告通り警戒してたって事ですか。なるほど、そういえば勉強会の時もべったりと藤間さんをガードしていたような。


「……やっぱりあんたかよ」

「え、ええと」


 へたりと、その場に座り込んでしまう日向先輩。やはり顔色が悪い。大丈夫なのだろうか、とハラハラしてしまう。


「はぁ、ほんと、余計な事を……もういいけど。人のものに、興味ないし」

「は、はぁ……」


 人のもの?藤間さんが人のもの……?

 え?藤間さんと土御門くんは付き合っているっていう事なのでしょうか。聞いてませんよ、そんな事。いや、言われてもどうだという話なのですが。


「ところであんた。相当顔色悪いけど、それ大丈夫なわけ?」

「お心遣いありがとうございます。ですが、日向先輩の方がどう考えても体調が悪そうですよ」


「僕はこれでいいんだよ。ほっとけ」

「ええ……?」


 物凄く迷惑そうな顔でほっとけと言われても。病人を放って置いて立ち去ったら、自分の大切な何かを失う気がします。


「あれっ?日向くんと木下さん?そんな所でどうし物凄く顔色が悪いよ2人共!?」


 通りかかった高天原先生が慌てふためく。

 眼鏡が若干ずれつつ慌てている姿に和む。びっくりした小動物があわあわしているような、そんな感じで。うう……癒しだ、癒しがここにいる。

 日向先輩と、高天原先生と3人でフラフラしつつ保健室へと入る。

 ベッドに横になって、やっと力を抜く。ああ、疲れました。色々あって、なんというか吐きそうです。

 会長に告白されて、慌てて逃げてきて。学校で晴翔に呼び出されたと思ったら晴翔には……うわあああああ!

 なにこれ!?これなになの!?

 ……そうだこれはきっと悪い夢なんです。起きたらきっといつも通りの王子扱いなんです。会長に告白された時の衝撃でちょっと頭のネジが緩んじゃったかな。ははは……ってそれだと会長の告白が現実と言う事になりますね。

 胃のあたりを押さえて呻く。


「あ、あの。大丈夫?」


 高天原先生がカーテンから顔を出して心配そうにしていたが、ちょっと今は苦笑いすら出来なさそうだ。

 ベッドの横に椅子を置いて座って、そっと眼鏡を外している。その後すぐに今風の眼鏡をかけ直していた。


「あれ……その眼鏡」

「あ、う、うん。買ったんだ。こっちの方が良く見えるから……」


「へぇ……いつもそれにされないんですか?」

「う……そ、それは、ちょっと、ただならぬ事情が」


 事情ですか。良く分からないですが、やりたくないと思っているなら仕方ないのですかね。


「綺麗なのに、もったいないですね」

「ううっ……!!」


 顔を赤くして照れているのが凄く美しい。ああ、なんか癒されます。

 最近買った眼鏡が彼に似合いすぎている。丸眼鏡がおばあちゃんの形見の品だとしても、流石に古いですし、似合っていないのですよね。


「ぼっ、僕の事はいいよっ……!その、凄く顔色悪いから、とりあえず熱はかってみて」

「ああ……はい」


 上まできっちり閉めたシャツのままでは測れないので、リボンを外してから、のろのろとボタンを1つ、2つと外す。


「……ぁっ!こ、ここに体温計置いとくから測れたら呼んで!?」


 私よりも熱がありそうな程真っ赤になった高天原先生が、置いたリボンのすぐ隣に体温計を置いてカーテンの向こうに行ってしまわれた。その事にちょっと首を傾げつつ、熱を測る。

 脇に挟んでしばらく待つと、ピピピと鳴ったので見てみる。体温は36.8度と、微妙なものだった。やはりストレス性のものだ、きっと。


「高天原先生、測り終わりました」

「はいはーい……って、うわっ!?」


 ビクリと震えてその場に硬直する高天原先生。体温計を差し出すが、一向に受け取って貰えず、首を傾げる。


「先生?」

「も、もうちょっと。ふ、ふふふふ服を、どうにかっ……!」


 そう言われて自分の状態を見下ろすと、相当だらしない恰好になっていた。あー、窮屈でしたし、ボタン止めるのも面倒だったんですよね。

 しかし、ちゃんと女性扱いしてくれるんですね。学校では相当男扱いを……と、そこまで考えて、また告白の時の事を思い出してしまった。

 かああっと顔が熱くなって、慌てて布団をあげて胸元を隠す。ちゃんと女性として見てくれる人はいるんだと実感したばかりで、気が緩みすぎじゃないだろうか。あれ?でも、高天原先生は養護教諭だし、女性の裸を見ても平気なはずじゃ。偏見ですかね。身体検査とかあったはずですけれど……ドジでもやってお休みとらされたりしたのでしょうか。そういえば高天原先生を見かけなかったような。


「すみません、見苦しいものをおみせして」

「いや、そんな……すごく綺、あっ!いや、うん」


 まだ落ち着かない様子だったが、私から体温計を受け取ってくれた。


「うーん、熱はあんまりないみたいだね。夜更かしとかした?」

「いえ……ただ、色々あって悩んでいるせいではないかと。胃が、こう、キリキリと痛くて」


「悩み?」

「ええ」


「うーん、悩むお年頃だからね……誰かに吐きだすと少しスッキリする事があるけど、僕に言える事?言えるなら聞くけど。それが僕の仕事だしね」


 へへへ、と緩く笑っている姿が実に神々しい。眼鏡を変えただけでここまで印象が変わりますか。この姿だと、確かに色々な事が起こりそうですね。彼目当てにずる休みしたり、保健室に入りびたりになったり。嘘の相談事を持ちかけたり、などなど……彼も分かってるから眼鏡を変えないのでしょうかね。

 ちょっと厄介ですね。綺麗すぎるというのも。

 しかし、悩みを聞いてくれるのは有難いのですが……言って良いモノなのだろうか。ああ、でも。確かに本やゲームなんかだと恋愛の相談ってよくしてますよね。私も前世で相談されました。まぁ、私が当時好きだった人と付き合っててうんぬんの時点で半分聞いていなかったりしたんですがね。最終的にノロケだった時は殴りたくなりましたよね。

 女の子というものは恋愛ごとの相談はつきもの、ですもんね。何も不自然な事はないはずです。相手の名前さえ言わなければ問題ないはず。

 自分だけでもやもやしててもなにも進展しそうにありませんしね。養護教諭から見て、どういう状況だとか、どうすればいいかとか、曖昧でも客観的な意見がいただければと。


「ええと、じゃあ。少し聞いていただけますか」

「あ、うん!日向くんは寝てるから安心していいよ。他に誰もいないし!」


 ああ、そういえば日向先輩もいましたね。どれだけ余裕ないんでしょう。しかし、言ったとして高天原先生は役に立つのだろうかという大変失礼な疑問が沸き上がる。いや、まぁ、養護教諭だしいいのかな。

 チラリと顔をあげて高天原先生を見ると、気合に満ち溢れたキラキラした目をしている。こ、これでやっぱやめますとは言い辛いですね……また落ち込んでしまいそうで。


「え……えぇと」

「うん!」


「その……恋愛的な悩みなのですが」

「うん!?」


 ピシリと石化する高天原先生。

 まるで犬に出会ったうさぎのような硬直の仕方で少々和む。高天原先生が再起動するのを待つ。しばらくすると、ずれていない眼鏡を直す動きをしてスカッていた。たぶんいつもの眼鏡の癖だろう。新品の眼鏡はずれませんからねぇ。


「あう、えっと……あ、あはは……うん、まぁ、若いっていいなぁ」


 くしゃくしゃの髪の毛をわしわししながら半泣きで呟いているが大丈夫なのだろうか。それよりも。柔らかくてふあふあしてる髪を触りたくてうずうずします。流石に自重しますがね。


「え、えっと。好きな子が出来た。とか?」

「いえ……思ってもみない相手からの告白があったので、悩んでいるのです」


「あ、あ。そうなんだ……へぇ……もう勝ち目ない」

「ん?かちめ?」


「いや、何もいってないよ!?」

「そ、そうですか?」


 何か言ったような気がするのですがね。かちめ……勝ち目?なんの勝ち負けでしょう。まぁ、それはいいとして。


「どう断れば傷が浅いかと」

「断るのっ!?」


 驚いてガタッと立ち上がった瞬間ガツンと思いっきりベッドに足をぶつけてこちらに倒れて来る。


「え、わっ!?」

「うわっ!?」


 高天原先生の顔が丁度胸のところに来る形で倒れてくる。布団挟んでなかったらとんでもない大事故なんですが。いや、今も結構な大事故ですかね。というか、普通に苦しい。体調悪い時に高天原先生の所にくるのは生死にかかわるんじゃないだろうか。日向先輩はよくぞいままでご無事で。

 なかなかどかないので、先生の頭を容赦なく鷲掴みにしてどかそうとするが、人の頭って結構重い。体調も悪いので思ったより力が出なくて動かせなかったが、それよりも。めっちゃ髪がふあふあで。どかす方より撫でる方を優先したいかもしれない。

 2度撫でた所で、高天原先生が顔をあげた。ゆっくりゆっくりと顔を上げて、ぎこちない動きでこちらを見た後、自分顔を埋めた胸元の方に目をやり……。


「ごめんなさいっ!」


 それだけ言い残して出て行った。物凄く慌てた様子でドアを開けて行ったので、結構大きな音を立てていた。ええと、日向先輩も寝ていますし、あまり大きな音を立ててはいけませんよーって、もう遅いですけれども。

 ……で、結局なにもアドバイスを貰えなかったわけですが。これはあれですね。やはりこういう事は自分の頭で考えろって事ですね。

 でもまぁ、とりあえず。今は寝よう。

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