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誕生日でした。

 次の日、またショッピングモールへとやってきた。先週は藤間さんと間宮さんに驚かされてすっかり忘れていましたからね。

 ああ、そうだ。桜さんにお風呂用品を買おうと思ってたんですよね。バスタオルとか、色々とセットで買いましょうか。最近は種類も豊富ですから、選ぶのが楽しそうです。

 先週藤間さん達と出くわした店に行って可愛い感じのものを選んで買った。気に入ってくれるといいのですが……随分と遅れてしまったので申し訳ないです。

 さて、次は会長のものですが……前回は問題集を買ったんですよね。うーん、2つほど貰ったので、何をあげればよいのやら。やはり銀食器でしょうか。しかし、さすがに値がはりますから、どうしましょう。

 悩みながら銀食器店の方向へと歩を進めていると、ベンチに会長が座っていた。何故都合よくあんな所に会長が座っているのでしょうねぇ。まぁ、丁度いいので本人に聞いてみましょうか。いらないモノをあげても仕方ありませんし。


「蓮先輩」

「うわあああっ!?」


「えっ」


 まるでお化けにでも会った時のような反応にこちらも驚く。会長は胸を押さえて若干目に涙を浮かべていらっしゃる。そんなに驚かせてしまったのでしょうか。申し訳ないです。


「な、なん、なん、なんだ?なんでいる?」

「いえ、あの……買い物に」


「そ、それも、そうか……」


 すう、はあ、と深呼吸をして息を整えている。

 すみません。


「あの、蓮先輩のお時間を少し頂けませんか?」

「え、ど、どうしたんだ、突然」


「いえあの……蓮先輩へのプレゼントを、と思いまして」

「……っ!そ、そう、か。夢か……」


 何故か自分の頬を抓っている。


「え、あの、蓮先輩?」

「痛いな……」


 そりゃそうでしょうとも。もしかして、寝ぼけていらっしゃる?目を開けたまま寝ていたとか、そういう器用な事をされてたのでしょうか。


「現実か?」

「え、ええ、まぁ……」


「そ、そうか……」


 ええと、大丈夫なのだろうか。ちょっと心配になってきました。熱がないかどうか確かめる為に、会長のおでこに手を添える。


「ちょっと熱いですよ、風邪ですか?」

「い、いや、違う」


「そうですか?ご無理をなさらず帰られた方が……」

「こんなチャンス逃すか!帰らない、風邪じゃないからな」


 鬼気迫る勢いである。ええと、大丈夫なのだろうか、不安しか感じないのだが。

 会長はベンチから立ち上がり、咳払いをした。


「げほん、その。あれだ。覚えていたのか、今日が俺の誕生日だという事を」

「えっ」


 あ、え、そうなのですか?今日は6月22日です、ね。6月くらいとしか覚えてなかった。

 私の反応に会長が眉を潜める。


「なんだ、覚えてる訳じゃなかったのか?」

「す、すみません。そろそろかな、と思ってたくらいで」


「ふ、まぁいい。今日透に会えたのだからな」


 と、そう言いながら実に良い顔で笑った。

 とても嬉しそうに笑うので、思わず目を逸らしてしまう。


「……どうした?」

「いえ、なにもありません」


 うん、会長は心臓に悪いです。気を許してくれているという事なのだろうが、これは困る。

 ……困る?私は何に困っているのだろう。会長が紛らわしいのはいつもの事で。会長が私の事を好きだと他の人に言われたくらいで何をこんなに動揺しているのだろう。

 何かこれ以上考えたらいけない感じがしたので、別の事を考える事にした。まずは会長の誕生日プレゼントだ。


「去年は大したモノもご用意出来ずに申し訳ありません。今年は蓮先輩の好きなものを選んでくださいね」

「去年もプレゼントして貰えただけでも嬉しかったよ」


「……そうですか」


 そんなに良い笑顔で言われるともう何も言えませんよ。なんて良い先輩なのでしょう。私はこの先輩の誕生日すら忘れていたとは。なんと情けない。誕生日を覚えるのは苦手なんですよね。おぼえているうちにカレンダーにチェック入れて置きましょうかね。


「これを買ってもらおうか」

「これ……ですか」


 そう言って指さしたのは目覚まし時計だった。


「ああ……最近壊れてな。買ってくれると有難い」

「ええ、お安いご用です」


 私は言われたモノを買って、プレゼント用に包装してもらった。まぁ、もう中身は分かっちゃっているのですが、気分で。


「他になにかご要望はありますか?」

「他に?」


「ええ、去年は2つも頂いたので、何か出来たら、と」

「なら……また食事をしないか?」


「食事……そんな事でいいのですか?」


 そう言うと、会長が笑った。


「同じ事を俺も透に言ったな」

「そうだったでしょうか?」


 ふわりと優しい笑みを浮かべてこちらを見つめて来てドキリとする。


「ああ……言ったよ」


 そっと目を逸らせて気分を落ち着ける。ああもう、本当にこの人は。月色の優しい瞳に見つめられて、心臓が騒がしい。


「そういう顔をするな。勘違いするだろう……」

「……え」


 どういう顔って、恥ずかしがってる顔以外に何に見えるというのでしょう。両手で頬を包んでほてりを冷やす。ああ、怖い怖い。攻略対象者って見た目が麗し過ぎるんですよ。目に毒です。


「……じゃ、食事、行くか」

「え、ええ……そうですね」


 ぎくしゃくしながら2人並んで歩く。何故か落ち着かないというか、なんというか。

 ……あれ、何故か物凄く注目を。

 あー……あれですか、ふっふっふ、分かっているんですよ。男同士がいちゃついてるから注目をあびているのでしょう、そうなんでしょう!

 その事に妙に肩の力が抜けて、緊張がほぐれた。そうそう、そんな男に見られるような人間が女性として好かれるはずがないんです。何も緊張する事はない。

 フードコートに来て、2人分の席をとる。4名席でではない分、見つけるのは早かった。


「蓮先輩は座っててください。私が買ってきますよ」

「いや、しかし」


「誕生日なのですからゆっくりなさってください。何が良いですか?」

「あ、ああ……そう、だな。ラーメンにしようか。餃子とセットで」


「かしこまりました」


 さっさと行って、買ってきましょう。ええと、私は何にしましょうかね。バーガーにしましょうか。ポテトとセットで。

 会長に言われたモノも買って、待ち札を受け取って取りあえず一旦会長の所へ戻る。


「おかえり」

「ええ、ただいま戻りました。もう少し時間がかかるようです」


「ありがとう。いくらだった?払おう」

「いえ、お気になさらず」


「いや、流石にそれは悪い」

「いえいえ、これくらいさせてください。去年は2つもプレゼントを頂いたのですから」


「いや、あれは気にしなくていいと言っただろう?」

「そうは言いましても」


 いやいや、と2人で言い合っていると、待ち札が鳴ったので、会長から逃げるように食べ物を取りに行く。

 ラーメンを持って帰ってくると、会長がむすっとしていた。


「まぁまぁ、蓮先輩。そんな顔なさらないでください」

「案外頑固だな、透も」


「ふふ、蓮先輩ほどではありませんよ」

「全く……」


 ひとまずは諦めてくれたようで、ホッとする。しかし、完全に安心出来ないのが怖い所である。何かまた買ってきたりしないだろうか。ない、とは言い切れないのですよね。倍返しされたらどうしましょう。

 昼食も食べ終わり、とりあえずショッピングモールをうろうろする事にした。適当に見て行って、暇をつぶす。


「この服、透に似合いそうじゃないか」


 そう言いつつ指をさしたのはなんとも可愛らしい洋服だった。


「いえ、少々可愛過ぎるのでは?私には似合わないと」

「いや、透は可愛いからきっと似合う」


 そんな事をサラリと言われて言葉に詰まる。いや、これもお世辞なのだろう。僅かに目を伏せて、口元だけ笑わせる。


「ええと……ありがとうございます」

「……」


 会長は何も言わず、その場から歩き出したので、ついていく。


「透」

「あっ、はい」


 しばらく歩いて、人気が少ない所で急に呼ばれて、慌てて返事をした。

 ええと、なんでしょうか。

 真剣な目に射抜かれ、ドキリとする。会長のこの顔、苦手なのかもしれない。威圧感が凄いから、緊張するのですよね。


「……やっぱり、変だ。何があった?」

「え……と。何が、でしょう」


「最近挙動不審になっていたが、前にも増して反応が変だ。何があった?」

「ええと……特には」


 ただ、ちょっと会長が私の事が好きなんじゃないかという事を吹き込まれたくらいですかね。

 ぐっと肩を掴まれて、逃げ場を失う。


「俺にはやはり言えないのか」


 苦し気な、悲しそうな表情をされて、戸惑う。

 ええと、あ、前に心配されていた事の方でしょうか。そちらはなんとも微妙な方向に向かっているのですよね。転校フラグを立てまくっている間宮さんがフラグブレイクする気満々ですから。


「えと、その問題でしたら、解決の方向に向かっているような気がします」

「なら、なんでそんな態度なんだ?」


「そ、それは……」


 言葉に詰まって、返答をする事が出来ない。会長が私の事を好きかもしれないというなんとも不可解で自意識過剰極まりないモノで動揺しているだなんて笑い話にもならない。というか、恥ずかしくて言えませんよそんな事。自然と頬が熱くなって、顔を逸らす。


「な、なんでそこで赤くなる……」

「き、気にしないでください……」


 明らかに狼狽した声色で言っているので、会長も顔が赤くなっているだろうと予想する。今はちょっと顔をあわせられないので、確認できないですけれど。


「だから、気になるだろう……」


 会長の固い指が私の顎を捕えて、向きを変えさせられる。会長の端正な顔が赤く染まっているのが間近で分かってしまった。妙に喉が渇いてきて、息苦しい。

 抵抗しようともがくが、片手を取られてしまった。もう片方の手だけでは男の手を払いのける事は出来ず、否応なしに自分の非力さを思い知らされる。

 精一杯目を逸らそうとするものの限度があり、どうしても会長の顔が見えてしまって緊張してしまう。

 ここは最終手段で、目を閉じる。ぎゅ、と力の限り閉じる。その瞬間、握られた会長の手に僅かに力が篭り、会長の気配が近くなったような気がしておそるおそる目を開ける。


「れん、せ……っ!」


 唇と唇が触れる……その寸前まで会長の顔が近くまで来ており、驚いて会長の胸を片手で1度叩く。

 すると、はっとしたように会長は目を見開いて、私を解放した。

 じりじり、と後ろに下がり、茹で上がった顔を逸らす。片手で顔を隠すが、耳まで赤いので隠しきれていない。かくいう私の方も顔が燃える様に熱い。

 今、会長、キス、しようとしていませんでしたか。

 いえいえ、きっと、何かの間違いです。そう考えようと言い聞かせ、バクバクと早鐘を打つ胸を落ち着かせようとする。が、先程の熱っぽい会長の瞳が思い出されて、全然落ち着いてくれない。

 唇に触れると、自分が震えている事に気づく。もう片方の手で自分の手を握りしめてなんとか抑える。


「せ、んぱい……今の……」


 僅かに上擦る声を発しつつ、会長に今の行動について問うてみる事にした。

 声をかけられた会長は、大きくビクリと震えて、僅かに怯えたような視線をこちらに向けて来た。何故そんな顔をするのか分からない……いや、私に嫌われるのが、怖い、と思っているのだろうか。私の事が好き、だから?いや、だって、でも……。


「いっ……いま、の、は……ち、違う、その……」


 会長の声も大いに裏返っており、動揺しているのがすぐに分かった。

 ええと、違う、のでしょうか。ですよね、そうですよね。そんなのありえませんよね。だって会長は好きな方がいらっしゃりますから。

 会長は、ぐっと歯を食いしばって、顔を上げて真っ直ぐな瞳で私を射抜いてきた。その姿に、今度は私が後ずさる。


「いや……違わない」

「違わ、ない?」


 違わない?何が?キスしようとしたことが?いやまさか、そんなはず。私が動揺している間に、会長は私を引き寄せて、逃げられないようにされる。その距離の近さに耐えられなくて、会長の胸を押して引き剥がそうとするが、鍛えられた会長に敵うはずもなく。

 会長の胸に添えた手に、会長の速い心音が伝わって、はっとする。会長も私と同じように、いや、私よりも緊張している事に気づいた。


「好きなんだ、透」


 腰に手を回され、ぐっと引き寄せられながら伝えられた。その言葉はまるで宇宙語でも話されているのかと思うくらい信じられなくて、理解し難かった。けれども彼の表情が、腰に回された手が、本気なのだと、必死なのだと伝えてくる。

 ええと、好きとは心がひかれること。気に入ること。ですね、ええ。だからえっとその。私も彼のことが好きである。けれどこれはさすがに察しないといけないだろう。

 ライクではない、ラブなのだと。

 えっと、違う、彼はえっと、好きな人が他に、そう、他にいたはずだ。


「会長、好きな人がいるって、言ってませんでしたかっ」


 緊張で裏返って酷い声になっていると我ながら思うが、直せるような余裕が今は全くない。


「透には一言もそんな事いった覚えがないんだが……でも、好きな人はいたよ。……透だよ。あの時も今も、ずっと透だけを見ていたよ」


 あれ?言ってませんでしたっけ?……無理だ、今は思い出せない。頭がごちゃごちゃしてわけが分からない。え、でも、あの時からって、え。だって、でもじゃあ、ずっと。いや待て待て、私なんてあり得ないだろう。だって私は。


「私は男なんですよっ!?」

「……!?」


 混乱したまま発した言葉がとんでもないものになった。

 慌てて手と頭を振って否定する。


「あ、ああ、いえいえ!違いま、お、女ですけれど、ですが、その」

「落ち着け透。告白している俺より慌ててどうする」


 心配そうにそう言われ、一度深呼吸をする。すうはあと深く息を吸って頭に酸素を巡らせる。そう、私が言いたかったのは、男だと間違われるような女なのだと、そう言いたかった。

 それに、女であるという事はさすがに会長も知っているはずである。なにせ胸も揉み……ってあああああああ!?なんで今それ思い出す!?よりによってなんで今それ思い出す!?

 妙な事を思い出してわたわたしていると、クスリと頭上から笑う音が聞こえて来た。上を見上げると、会長が穏やかに微笑んでいた。私の慌てっぷりで逆に落ち着いたのだろうか。それがなんだかいらだたしく、むっとする。


「な、なんで笑っているのです」

「ああ……すまない。こうも透を慌てさせるなんて、俺も大物だな、と思ってな」


「わ、私をなんだと思っていたのですか……」

「すまない……嬉しくもあるんだ。俺の事でこんなに顔を赤くして動揺している事が」


 そう言いながら、固い親指でそっと頬を撫でられる。


「……好きだ」

「~~っ!!」


 その瞬間、私は逃げ出した。全力で。丁度会長の拘束が緩くなっていたらしく、すんなりと逃げる事が出来た。後方で会長の呼ぶ声が聞こえたが、構わずに走る。

 無理だ、これ以上会長の前にいると発狂しそうだ。会長の「好きだ」という言葉がリフレインしてもう訳が分からない。

 って、逃げてどうするんです!?急に我に返って立ち止まる。上がった息を整えながら後ろを振り返るが、会長が追って来ている気配はなかった。おそらく、見逃してくれたか。考える時間を与えてくれたか。


「何を……やって、いるのでしょう」


 未だ早鐘を打つ胸を押さえて、大きく大きく溜息を吐いた。

 今の、告白されたんですよね。全く考えもしていなくて、混乱して思わず逃げ出してしまったが、返答しなければならなかったのではないだろうか。期待など持たせずにはやく断った方がいいのでは。

 私なんかのどこに惚れたのか意味不明すぎて理解に苦しむが、会長は本気だった。

 いつ、どこで、どういったきっかけで好きになられたのか、全く分からずに頭を抱える。

 よく晴翔は冷静に告白に返答をしましたよね、今なら断るのが如何に大変か分かる。心構えもなくいきなり告白されるのが、どれほど驚く事か。手紙を渡された時に心構えをしていても動揺してしまいますからね。

 で、時間をくれたのは有難いのですが、これっていつ返答すればいいのでしょうか。

 新たな悩みの種に頭痛がしてきました。

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