誤解がとけました。
さて、間宮さんの印象だが……普通に礼儀正しい子でしたね。うーん、あれだけ攻略対象者を落としているのだから、何か乙女ゲームの知識を持っていても可笑しくはないと思うのですけれど……あれだけじゃ全くもってわかりませんねぇ。
「ところで、翼はどうされたのです?」
「う、うぅ……」
机に突っ伏した翼には覇気が感じられない。今までのきらきらわくわくした感じはどこへ行ったというのか。もしや間宮さんと何かあったのか。
ゆっくりと顔を上げて、何か言おうとしたようだが、口を閉ざして顔を逸らされる。
「と、透には関係ないじゃないか」
「関係ない事ないじゃないですか。友達でしょう?……違うんですか?」
「うっ……!!」
もしかして友達だと思っているのは私だけでしたか。だから間宮さんの事を聞きまくってうっとうしくなったとか。そう言う事ですかね。私の豆腐のハートが砕け散りそうです。
「と……友達だけど。俺は晴翔とも友達なんだよっ!」
「……??いや、はい、そうですね?だから、なんでしょう?」
「その友達を裏切れないだろう!!」
「え?裏切るのですか?」
翼は義理堅いタイプだから裏切るなんてそんなことしないタイプです。ですが、私と晴翔への裏切りとどう関係するのか全く理解できない。
私が首を傾げているのを見て、翼も首を傾げる。
「……?えっと、透?ちょっと聞きたい」
「……はい、なんでしょう」
腕を組んで何か唸った後、覚悟を決めて口を開く。
「俺の事好きだって言ったよね?」
「ええ、まぁそうですね」
「……それはぁ……えっとぉ……友達として?」
「……?それ以外に何が……?あぁ、なるほど」
もしや、恋愛方面で好きだと思われていたから避けられていたのでしょうか?なんという勘違い。いや、翼らしいと言えばらしいのですかね。
思わずクスリと笑う。
「すみません。紛らわしかったですかね。えっと、違いますよ?普通に、友達として好きです」
「な、なんだ……そうだったのか。よかった」
なるほど、だから翼の挙動がおかしかったのですね。
だとすると……告白したと思われていたって事ですよね。そりゃ確かに動揺するでしょう。流石にあんなにさらっと告白できませんよ。翼は私をなんだと思っているのでしょう。イケメンか?私の事をイケメンと思っているのか?そうなのか?怒りますよ。
まぁでも無事誤解も解けたようでよかったですね。
「ん……誤解はそれでいいとして……裏切るとどう関係するのですか?」
「ぎゃあああっ!?それはいい!それはもう流しておいてお願い晴翔に怒られる!!」
「えっ」
え、なんででしょう。何故晴翔に怒られるのでしょう。全く分からないんですけれど……まぁ、流しておいてあげましょう。翼が怒られるみたいですし。
「で、元気がないようですが大丈夫ですか?」
「あ、ああうん……それなんだよ。聞いてよ……」
あ、なんだかちょっと絡み酒されている気分に。きっと気のせいだ、続きを聞きましょう。
「最近怜那ちゃんが冷たいんだ……」
「え、ええ……」
「俺と2人きりの時だと全然笑ってくれないし、誘っても全部断ってくるし。あ、でもライブは来てくれたんだけどね?あ、その時はすっごくすっっっごく可愛い服を着ててね?まさか本物の天使なんじゃないかと思うくらいだったんだよ。その天使が天使の声で言うんだよ。先輩、凄くかっこよかったですってさ。あの時俺、溶けるかと思ったよ。あんなに幸せな事ってこの世である?って思っちゃったくらいだよね。黒髪からなんか良い香りしてさ。すげぇ綺麗だし、ほんともう好きにならない方がおかしいっていうか……なのにさ。ぜんぜん楽しそうにしてくれないんだよ。俺といる時。友達といる時は無防備に笑って他の男の目を惹くくらい可愛いのに、俺といる時はなんていうか……無表情で固いっていうか、表情筋を全く動かさないんだよね。動くとしたら眉毛だけなんだよ。その表情も綺麗で惚れ惚れするんだけど、俺だけに笑顔を向けて欲しいとか思っちゃう訳よ。あるでしょ?だってほら、好きだったらさ。好きな人には笑顔でいてほしいじゃん。あわよくば俺だけに見せてくれる笑顔っていうかそういうのも」
「あのそれまだ続きますか?」
なんなの。どれだけ惚気るの。いつまで経っても話が終わりそうになかったので、途中でぶった切る。恐らくこれは毎日のように晴翔が聞かされているものなのだろう。な……なんて重苦しい愛情なんでしょう。
確か翼ルートは大切に大切に甘やかされるんですよね。この言葉だけでもそれが窺える。なんというか、はい。晴翔、ずっと頑張って聞いていたんですね。お疲れ様です、なんだか非常に労いたい気分になりましたよ。言葉を遮ったので不満そうだが、気にしないようにして話を進める。
「ええと、怜那さんが冷たいという事でしたが、心当たりはあるのですか?」
「え?うーん……ないよ。メンバーに誘うのも諦めたし」
ん?メンバー?あ、そうでしたね。乙女ゲームの時は主人公でしたが、今は間宮さんになっているのですね。すっかり失念しておりました。ふむ、メンバーを諦めるのは主人公でも普通にあるので、それだけでは間宮さんが翼ルートを諦めているか分からない。この時期の誘いは断って、夏頃に1度だけ出るんですよね。しかし、翼がしっかりと諦めているこの状態は……翼ルートの選択はしていない、という事になるのでしょうか?
でも翼はまだ好きな事は諦めてないんですよね……。ルート分岐したら他の人のその後なんて描かれませんから、どうなんでしょう……。
「うう……なんでなんだろう。あんなに良い声なのに……。あれなんだよ、まさに女神の歌声っていうか。天国にいる心地になるんだよ。綺麗過ぎて、絶対」
「そうですねぇ」
確かにあの声は耳に心地よいですよね。歌声の方もきっと美しいんでしょう。
「あれ?透って怜那ちゃんの事知ってるの?」
「あ……ええ、まぁ。この間、図書室で本を拾って頂きまして」
というか今更その疑問ですか。散々喋っておきながら。
「へーそうなんだ……なんなの?なんで俺の好きな子と接触してるの?やっぱり俺の事が好きなの?」
「いいえ全然」
「その爽やか過ぎる笑顔にほんのり怒りが含まれているような気がするんだけど気のせい?」
「あっはっは。気のせいです」
しつこいですね。なんてちょっとだけしか思ってませんよ。
そんなに間宮さんを知っていたら不自然でしょうか?うーん、そんなつもりはないのですけれどね。でも確かに好きな子を聞きだされるって異性からだと誤解を招く事もありますよね。前世でもうちょっと恋愛について学んでおきたかった。
しかし、間宮さんが翼に冷たいのは何か理由があるのでしょうか?いや、単純にタイプじゃない可能性もあるんですけれどね。それはちょっとかわいそうなので言いませんが。
「おっと、そろそろ用事があるので行かせて頂きますね」
「あーうん。いってらっしゃい……はぁ……」
翼はまた机に突っ伏している。間宮さんに冷たくあしらわれているのが余程堪えているのか。それにしても翼のノロケ……と言って良いのか……あんなに喋るとは。
用事を終わらせて教室に戻る途中、化学室から顔を真っ赤にした間宮さんが出て来た。化学室って……高木教師の出現スポットですね……なんでそこから顔を赤らめて出てくるのですか。
間宮さんは私に気づく事なく足早に立ち去っていく。かなり余裕がなさそうな感じでしたけれど……。
足音を立てないようにそっと開け放たれた化学室を覗くと、そこには案の定高木教師の姿が。
「あー……くそ」
などと小さく呟いて髪をわしわしとかきむしっている。
……えーと。何を……したんですかね……。
とりあえず、見つからない内にさっさと教室へ向かう。
いや、いやいやいや。高木教師は変な事しないはず……しないですよね?ああもう!なんなの?もう分かりませんよ!ハッキリ言って高木教師関連について関わり合いたくないですよ!日向先輩と同様に。
あれですか、人の色恋に顔を出すべきじゃないんですかね?今の所転校ルート乱立中ですけれど、止める事なんて出来そうにないですし。
晴翔の方はどうだか良く分かっていませんが、フラグ乱立中の今、ある程度好感度が上がっていてもおかしくはない。
うん……もう私にはどうしようもないんじゃないかな。よし、放っておこう。もうなる様にしかならない。無理です。
人間時には諦めが肝心ですよね。




