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主人公と話しました。

 放課後、主人公に中庭に呼び出された。

 なぜ呼び出されたか分からないが、向かう事にしましょうか。

 思い当たるのは病院に行った時の事ですが……あの時藤間さんは気付いてなかったはず。だとすると日向先輩がなにか言ったか。日向先輩の冷たい目を思い出して、ゾワリと鳥肌が立つ。

 腕をさすりながら中庭に向かう。どうか日向先輩がいませんように、とそろりと中庭を覗いてみる。

 そこには、黙々と中庭の手入れをしている土御門くんだけしかいない。その事にほっとしつつ、近づく。


「こんにちは」

「あ、こ、こんにちは」


 作業している手を止めて、挨拶をしてくれる。


「すみません、まだ用紙は書いてなくて……」

「ああ、いえ、今日はその事ではないのですよ」


 再三言っているから気にしていたのだろう。

 しかし今回は違うので、苦笑して緩く首を振る。


「……?えっと、じゃあなんでしょう」

「いえ、私もよく分かっていないのですが……藤間さんに呼び出されたので」


「!?……曜子ちゃんめっ!まだ反省してなかったのか!……すみません、なんだか迷惑をかけてしまっているようで」

「いえいえ、良いんですよ。私も藤間さんとは少し話してみたいと思っていましたので」


 私の言葉に土御門くんの目がキラリと光った。若干怒りをふくんでいるように思えて、少し後ずさる。


「よ、曜子ちゃんと……?なんでしょう、何をやらかしたのでしょう」

「え?いえ……まだなにも」


 そう、藤間さんとは具体的に何もないのだ。ただ、日向先輩が気がかりだけれども。関わらないようにしたいのだけれど、藤間さん自身の人間性を見てから判断しようと思ったのだ。藤間さんが良い子なら助言したいですし、悪い子なら極力関わるのを避けるだけですけれども。その為には多少話もするべきだろう。

 邪魔するなと言われているが……今回は私から関わった訳じゃないので、日向先輩に目を付けられない……と信じたい。


「まだ……ですか?」

「ええ、今のところ」


「そうですか……」


 何故か納得いかなそうな顔をしている。そして、コホンと小さく咳払いをしてから軽く頭を下げた。


「すみません、曜子ちゃん、変わっているので。怒らないでやってもらえますか?というか、ただのアホなんです」


 お、おう……。つ、土御門くんって結構辛辣だね。こんな子じゃなかったんだけど……まぁ、藤間さんの影響だろう。転生者が深くかかわる攻略対象者はブレますからね、会長や晴翔然り。日向先輩も身近に転生者がいたりするのだろうか。


「具体的にどれくらいアホかと言いますと、いきなり転生者だの、ゲームの世界なのだと言うくらいはアホなんです」


 土御門くんの言葉にぎょっとしてしまった。ちょっと!?藤間さん!?藤間さん何やってんの?言っちゃったの?アホの子なの?わ、わぁ……ある意味凄いハートの持ち主なのかもしれませんね。そこに痺れる憧れ……ちゃだめですね。私には到底真似出来そうにない。

 私の表情をどう読み取ったか、ひとつ頷く。


「ええ、驚くのも無理ないです。僕も、ああ、この子ダメな子だと思いましたから」

「そ、それはまた……」


 もうどう反応すればいいのか分かりませんよ。土御門くんの態度が若干厳しいのも、藤間さんが色々やらかしているせいだろう。いくら温厚な子でも仲良くしている女の子が転生者だなんだのと言いだしたら驚く。

 転生者なんだろうなと知っている私でも真正面から言われると「お、おう……」となるだろう。相手が自分と同じ転生者だと確信しているならともかく……あるいは、それほど土御門くんを余程信頼しているか、ですか……。


「りっくん!そいつから離れて」


 藤間さんは現れた途端、土御門くんを私から離す。以前も同じ事をされましたね。かなり警戒されているようです。

 藤間さんの行動に私よりも怒っているのは土御門くんだった。


「曜子ちゃん!?またそういう態度を……!反省してないの?」

「うっ……!だ、だって、こいつが……」


「曜子ちゃん?」

「ううっ……!」


 土御門くんの怒りの表情に藤間さんが押されている。

 土御門くんはあまり怒るタイプじゃないのですけれどね……まぁ藤間さんだから仕方ない……いや、それはちょっと失礼な感想でしょうか。

 2人が揉めているところを苦笑しながら止める。


「仲良くしているところ申し訳ないのですが……藤間さん、何か御用があったのではないですか?」

「そう!そうよ!あんた、一体この学校で何やってんのよ!」


「……え?」


 ビシリと指を刺されるが、何のことを言われているのか分からず、首を傾げる。

 指をさした事を土御門くんに怒られている様はまるで、漫才師のツッコミとボケのように見えて実に微笑ましい。


「すっとぼけんじゃないわよ!」


 土御門くんの制止を振り切って差し出されたのは、数枚の写真だった。それを手に取って見て、ビシリと固まった。

 私が男子制服で登校していたもの、執事の恰好をしたもの、弓道をしているものなどなど、だ。

 この時、藤間さんはいないはずだ。まさか裏で写真が流れているとは……なんという黒歴史の増殖。これは酷い。いや、まぁ写真撮っても良いと言った時点でもう、手遅れですけれど……。

 皺の寄ってしまった眉間を手で揉みながら呻く。


「すみません、こちら、破り捨ててもいいでしょうか」

「だめよ、高かったんだから」


「たかっ……!?」


 高いって、まさか購入したのですか?

 売買を学校でって……それは風紀的に良いのでしょうか。裏の取引について少々考えさせられたところで、再びビシリと人を指さしてくる。これは藤間さんのクセか何かなのでしょうか。直した方が良いかもしれないですね。

 まぁ、すぐに土御門くんが手刀で払い落としてますけれど。これはこれで面白いです。


「なんでそんな物腰穏やかそうなのよ!超タイプなんだけど!」

「……えぇと、そう言われましても」


「こんな大勢の女をたらしこんで何をたくらもうってのよ!」

「たら……いえ、特になにも」


「うそだ!このいけめん!」

「曜子ちゃん!僕もう追いつけないよ!」


 これは貶されているのか褒められているのか。いや、貶されているのか?女としてイケメンといわれるのは不名誉な事だと思う、うん。それに誰もたらしこんでなんていません。無実ですよ。男装はしていますけれども。

 ……そういえば告白はされた事があったような……いや、忘れよう。彼女も許してくれましたし。

 藤間さんは土御門くんに写真を見せて、確認させている。何をやっているのです。はずかしい。


「えー……うわ、そこらの男の人より恰好良いじゃないですか。これ木下先輩ですよね」

「え、えぇ……ソウデスネ」


 純粋に褒めてくれているのが分かる分、こっちの方がダメージが大きい。思わず胸を押さえてしまう。


「さてはあんた転生者ね!?学校を牛耳ってあたしを追い出そうというつもりなのね!」

「曜子ちゃん、ほんと落ち着いて」


 まるで興奮している馬をなだめている時のようだ。

 しかし、彼女が転生者というのを当てて来たのには驚いた。これはどう反応すれば良いのか。

 確かにゲームの木下とはまるで違う方向に行っている気がしなくもない。若干のズレがある気がするので、藤間さんが違和感を覚えるのも無理はないだろう。少しだけ違いますからね、少しだけね。


「ええと、藤間さん。私は貴方を追い出そうなどとはおもっておりませんよ」

「だからその優しそうな言葉遣いやめなさいよ!惚れてまう!」

「曜子ちゃん落ち着いて」


 やばいこの子、凄く面白いんですけれど。思わず笑ってしまった。どんな子かと思ってましたけれど……良い子かもしれないですね。

 そんな彼女は日向先輩を気に入っている……。これは少しだけ注意喚起でもしましょうか。


「……私より、日向先輩に気を付けておいた方が良いですよ」

「は?日向先輩?なんで急に?」

「何故って……」


 そこで思い出す。あの日病院で仲良さげにしていた2人の姿を。なんの疑問も持たずに好意丸出しで日向先輩にくっついていた藤間さん。

 だが待ってほしい。日向先輩ルートで病院を共にする話は中盤くらいからだ。あんな風に仲睦まじく行くなんて有り得ない。有り得ないのに……藤間さんは不思議にすら思っていない。好きだから故の盲目なのか、それとも、日向ルートを知らない……?

 後者なら、少し納得が行くかもしれない。少しでも間違えたら命を落とす様な危険な話がある日向ルートだ。好きなら選択するのを躊躇うだろう。だってここではやり直しはきかないのだ。ゲームと違う事が進行しているのにも関わらず、不安な色が何もない。だからゲーム内容を知らないのではないだろうか。

 いや、でもそうすると、何故知らないルートを行くのか、という話になってきますね。

 真偽を確かめる為に聞く?いや、それだと私が乙女ゲームを知っている事がバレますよね。


「注意って、どういうことですか」


 そう聞いてきたのは土御門くんだった。

 とても真剣な表情で、思わず気圧される。


「いえ……少し気がかりな事があったもので」

「やっぱり……なんかうさんくさいと思ってたんだ……」


 と、小さく土御門くんが呟いている。日向先輩と何かあったのだろうか。なんだか腹黒そうな日向先輩なので、幼馴染の彼にも何か接触でもはかったか。

 怒っているのかと思うほどの表情で、藤間さんを見据える。そんな顔で見つめられた藤間さんが僅かに後ずさっている。ええ、恐ろしいですよね、これは。穏やかな子が怒った時ほど恐ろしいモノはありません。


「曜子ちゃん。日向先輩に近づくのはやめておきなさいって何度もいってるでしょ」

「な、なんでりっくんに指示されなきゃなんないの……わ、私の勝手じゃん」


「その勝手で何度僕に迷惑かけてると思ってんの」

「うっ……!!でも、だって、好きなんだもん」


 藤間さんのそのセリフに、一瞬だけ悲しそうで、それでいて泣きそうな顔を見せる土御門くん。しかしすぐに怒っている表情に覆われて消えてしまった。あれは……脈ありなんですかね?


「だから……っ、もう、いいよ。僕は僕の勝手にさせて貰うから」


 苛立たし気に足もとにあったスコップと軍手を持って奥へ歩き出す。木があるので、すぐにその姿を見失う。

 土御門くんの怒りからとりあえずだけれど逃れられて、その場に座り込む藤間さん。


「あの……大丈夫ですか」

「やめて、惚れてまうから」


「あ、す、すみません」


 背中をさすろうかと思ったのだが、拒否されたのでやめておく。理由が「惚れてまうから」というのはすごく納得できないが、しぶしぶ手を引っ込める。

 少しだけ距離を置いたところに片膝をついて見守る。


「もーなんで怒ってんのか訳分かんない……」

「そ、そうですねぇ……」


 あれはどう見ても他の人に取られそうになってるのに嫉妬している幼馴染にしか見えませんけれどねぇ……。それを私の口から言う事などは出来ないが……藤間さんもモテているんですね。日向先輩はかなり怖いですが、藤間さんに好意を寄せているような感じが見受けられましたし。私だけですか、モテていないのは。

 これはひどい。なんだか藤間さんをほったらかしにして行きたくなってしまいましたよ。日向先輩の問題も土御門くんがいるならなんとかなりそうですし。

 ああ、なんか旅がしたい。どっか遠くにね。

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