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聞き出せませんでした。

 1年生がオリエンテーションに行き、校内が僅かに静かになる。

 そして私の方も若干安心する。

 藤間さんと間宮さん、この2人がいない校舎というのは本当に安心です。

 まぁ、翼は少し元気が減りましたが……これくらいがちょうどいい気がします。見た所、まだ間宮さんはいじめられていないようですが……いつごろからいじめられるのでしたっけ……?そもそも間宮さんは転生者なのだろうか?なんの目的で3人も攻略しようとしているのだろうか。いじめられたとしたら私が参加するのは何時頃なのか。肝心な所が微妙だ。まぁ、ライバルキャラがいつどこで動くなんて細やかな所まで描かれていないのだから、仕方ないのだけれど。

 まぁ、そこも帰って来てから考えますか。

 なんというか、色々ありますね、色々……。

 間宮さんを想っている人達は競争率が高そうですね。ただでさえ魅力的なのに……なんとうらやまけしからん。

 間宮さんを見ていても、特に積極的に攻略対象者に関わろうとはしていない所が謎である。単純にその美しさで攻略対象者を落としたというのか……。それに比べて私ったらいや、ないものねだりはいけませんね。

 綺麗に整えられてきている中庭を眺める。土御門くんは大変そうですよね……すごく、すごく応援したいです。失礼ですけれど、藤間さんは結構強烈というか、なんというか。結局彼女は誰を主軸に攻略する気なのでしょう。たとえ選択肢を正解させても、実際に上手く行くかは保証されてないんですけれども。そこの所を理解してくれればいいのですけれど……。


「……透!」

「ハッ!」


 肩を叩かれて、ようやくそこに晴翔がいる事に気が付いた。


「ああ、えっと。すみません。なんでしょうか?」

「なんでしょうかって……はぁ……最近様子がおかしいけど、どうしたんだ?」


「ああ……ええと……」


 確かに、最近は挙動不審だったかもしれない。しかし何が起こっているか言える訳がない。

 私が口をつぐんでいると、大きなため息を吐かれた。


「はぁぁ……なんでも溜め込むな。頼りにならないかもしれないが、出来る事なら力を貸すし」

「ありがとうございます」


 気持ちは有難いんですけどね……。内容が内容ですし。人様の恋愛に顔を出す様なものですしね……何様だよと。でも放っておいて巻き込まれるくらいなら、知っておきたいんですよ。何が出来るってわけでもないんですけどね。そこがまたもどかしいのですが……。


「やっぱり、考え込んでる」

「ああ、すみません」


 言ったそばから色々考えてしまった。いやでも仕方ないんですよね……。


「そういえば」

「なんだ?」


「あー……いえ、やはりなんでもないです」

「気になるだろ?言えよ、なんでも力になるし」


 いやでも、これを聞くのはどうかと……まぁいいか。


「勘違いしないで聞いて欲しいのですが」

「ん?」


「晴翔って好きな人とか、気になる人はいますか?」

「……っ!?」


 ぎょっとされた。そりゃするだろう。まだこいつ俺の事好きなの?とか思われていそうだ。だがそんな気持ちで聞いている訳ではない。主に人生がかかっているから聞いているのだ。もっとも危ないのが晴翔ですからね。晴翔さえ誰も好きになっていなければ、退学は逃れられる。まぁ、転校ルートは残っていますが。

 翼も水無月も転校ルートまっしぐらなんですけれど。両方進行している場合はどうなのだろうか……。

 緩く首を振って、苦笑いを浮かべる。


「いえ、ちょっとした好奇心で。近頃春めいて来ましたから。翼とか知り合いもそうですけれど」

「……気になっている相手でもいるのか?」


「私ですか?いえ、特には」

「そうか……」


 どこかホッとしたような、残念なような微妙な表情を浮かべている。


「俺は……」

「はい」


 おお、緊張しますね。これが大きく人生を左右するんです、緊張もします。

 けれど、何故か晴翔の方が尋常じゃなく緊張している。顔を赤くして、震えている。え、大丈夫なんですかね?


「お、俺は!」


 バサー。


「おや、あれは……」


 書類をばら撒いて、慌てて拾う見慣れた姿。安定の高天原先生である。

 晴翔の事を聞きたかったですが、今は置いておきましょうか。


「すみません、話の途中ですが……」

「ああ……というか、俺もついていく」


「助かります」


 高天原先生が顔を真っ赤にさせてオロオロしている。


「先生、大丈夫ですか?」

「ふぇっ!?うっわ、あわわわ!ご、ごめんなさいごめんなさい」


 呼びかけられた先生は、晴翔の顔をみて真っ青になって謝る。不良にでも見えたのだろうか。確かに不良に見えなくもない時がありますけれど。

 ワタワタしていて、拾ったそばから書類を落として、埒が明かない。高天原先生の書類を拾い隊の隊員にでもなりましょうかね。

 殆どの書類を晴翔と私だけで拾った。


「う、うう……本当にごめんなさい。特に……お邪魔しちゃって」


 晴翔の方をチラリと見てから言っている。発言の途中だったのを気に病んでいるのだろう。どちらかというと、私の方に謝ってほしいですけれどね!晴翔の重要な情報聞き逃しましたし。まぁ、また後で聞く予定ですが。

 あー……でもあんまりしつこく聞くと、変な誤解を招きそうだから微妙ですね。どうしましょうか、行動をチェックしたりしましょうか。無難ではありますけれど、クラスが違うので難しいでしょうね。翼に聞くとしても……なんか最近避けられてますし……。


「本当にな……」

「うっ……!」


 晴翔の溜息に、すくんでいる。

 そうしていると、不良が気弱な先生を脅している図にしか見えない。


「晴翔」

「……」


 咎める意味で名前を呼ぶと、口を噤んだ。そして黙ったままさっさと歩き去ってしまった。うーんと、私も土御門くんの気持ちがわかるぞ。ちょっと扱いにくい幼馴染を持つと大変ですよね。

 軽く息を吐いてから、しゃがみ込んでいる高天原先生の肩を叩く。ビクッと大げさに震えられて、驚かれた。まだちょっと顔が青い。相当怯えていたのだろう。


「資料運びますので、行きましょう」

「あ、え、その。ご、ごめん、えっと、なんていったらいいか」


 うん……まず立ってくれますかね?腰ぬけたんでしょうか。


「も、モテるんだね……!」

「……はは、笑えない冗談です」


 すげぇ低い声が出た。これは確かに男子生徒と間違われても仕方ないかもしれないと思うレベル。

 はは、と乾いた笑いを漏らしているが、顔は笑っていないと思われ、高天原先生がビクッとしている。


「え、えっとぉ……?」

「さぁさぁ、そんな地雷踏んでる場合じゃありませんよ。この資料どこにもっていくんです?」


「あ、え、ええと、図書室に」

「なら、行きましょうか」


「あ、は、はい」


 ドジッ子は人の地雷も簡単に踏み抜いてくるらしい。これは、接する私の方も覚悟が必要ですね。地雷を踏まれる覚悟をしながらじゃないと、さっきのように普通に怒ってしまいそうです。

 資料を持って、最近訪れていなかった図書室へと足を踏み入れる。オリエンテーションに行っているので、水無月くんは勿論いない。

 資料を図書委員に返却して、少しだけ図書室の中を見る。

 間宮さんは読書同好会に入ったという事は、本が好きという事だろう。確かに見た感じでもインドアな印象を受けた。水無月くんと並べるととても似合いのカップルに見えそうである。

 逆に、翼とは正反対で、なんで行動を共にしているんだろうと思える組み合わせだ。翼には悪いが、似合わない。


「つ、付き合わせちゃってごめんね」

「ああ、全然かまいませんよ」


 ビクビクしている高天原先生に笑顔で話してあげる。もう怒ってませんよ、という意味で。


「あ、あの、さっきの、子だけど」

「はぁ、あ、すみません。失礼な態度で、普段はあんな風ではないのですけれど」


「え?ああ、うん、僕が邪魔したから怒ってたって分かってるし、それはいいんだけど……」


 何かを迷った後、顔を赤くして眼鏡を外す。

 いつ見ても綺麗な方だった。女顔なので、きっと私よりも女性に間違われるに違いない。眼鏡をいそいそとポケットに入れて、窓の外に目線を向けている。

 何度か深呼吸を繰り返してから、口を開く。


「あの、木下さんはあの子の事、どう思ってる?」

「どのように、とは?」


「えーと、その。好きなのかなーと」

「……何故そのように思ったのでしょう」


 振られたわあああああ!!って叫びそうになったのをグッと堪える。凄い地雷原走り抜けて来るなこの人!!怒らなかった、私えらい。でも無意識に顔が怖くなっていたのか高天原先生が怯えている。

 自分の頬をつまんで、ちょっとやわらげる。


「……うう、いや、えーと、その、カッコいい子だったし」

「まぁ……そうですね」


 カッコいい事は認めよう。だが、もう振られたんですよ、1年以上前にね。そうか……でももう1年経つんですね。時の流れというモノははやいものです。


「やっぱ僕みたいなのはダメだろうな……」

「……先生、またそう言う事を言って。口癖なんですね?」


 会う度に聞いている気がします。

 クスクス笑っていると、先生の顔が赤くなってきた。見られたくないのか、慌てて懐から眼鏡を取り出してかけている。なんの為に外したのだろう……つけたりはずしたりしてリハビリでもしているのだろうか。まぁ、綺麗なオッドアイが見られるので私はお得ですけれど。

 いつまでも図書室でぼうっとしててもあれなので、そろそろ生徒会室でも行きますか。


「それじゃあ、私はこれで」

「あ、うん。ありがとう……」

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