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混乱しました。

 翼の好きな人を探ろうと思ったら、別の事が分かった。

 高木教師が間宮さんを好きという事だ。開いていた名簿を閉じて、嘆息する。彼の担任するクラス……つまり主人公のいる1年B組に間宮怜那という名前を見つけた。

 禁断の恋ですねぇ……うっ、胃が。

 いやいや、もはやこっちの事は私に関係ない事です。気にせず参りましょう。私のいじめフラグとも関係ないですしね。

 彼は見た目に反して真面目なので、変な気を起こす事もないだろう。乙女ゲーム内でも最後の最後でようやく想いを打ち明けるくらいである。

 それと、大切な事が分かった。主人公が私と同じ転生者という事だ。恐らく何かしら目的はあるのだろうと思うが、それは未だに不明だ。出来る事なら、翼が別の人間を好きになっていてくれれば何の問題もな……いや、翼が好きになる事自体大問題なんですけれども。


「どうした?そんな深すぎる溜息なんて吐いて」

「いえ……」


 晴翔に心配そうに声をかけられた。あれ、溜息吐いてましたっけ?無意識?……わぁ、若き10代としてそれはどうなの。

 それにしても、晴翔は主人公と接触したのだろうか?ルート関係なく、出会いイベントというのは存在しているのだ。ハンカチ拾ったり、ぶつかってみたり。驚きの吸引力で攻略対象者と接触をはかるのが、主人公なのだ。

 とりあえず、何か漠然と聞いてみましょうか。今後の参考に。


「最近、変わった事はありませんか?」

「何か変わった事……?」


 しまった、漠然とし過ぎたか。

 いやでもどう聞きましょうかねぇ……。

 何か考えていた晴翔が、口を開く。


「そういや、最近翼がいつになく浮かれてるな」


 会長が僅かに顔を上げた。会長と翼は知り合いなので、気になったようだ。


「金城が?何かあったのか?」

「ああ……なんでも好きな子ができたみたいで、毎日ノロケられてる」


 うっとうしい、と最後に小さく呟いた。

 やはり好きな子がいますか……。って毎日ノロケられてるのですね、それはまたご愁傷様です。翼のノロケって甘々ですから、晴翔には厳しかろう。

 しかし、クラスも違うのに、毎日顔をあわせているなんて仲が良いですね。いや、メールとか電話の場合もあるのか……それにしても仲が良い。


「ふぅん……俺は聞いてないな。相手はどんな子なんだ?」


 会長、ナイスアシストです!痒い所に手が届く感じが良いですよ。あんまり私からガツガツ聞きだすのも不自然ですからね。御蔭で翼からは滅茶苦茶警戒されている。


「名前は確かれいなだったかな?なんかすげぇ綺麗な声で、黒髪が綺麗だどうのこうの言ってた」

「……はっ!?」


 れいな?れいなって怜那さん?!黒髪で、え!?

 私の大声に2人共驚いてこちらに振り向いた。

 その視線を気にする事なく、1年B組の名簿を穴が開くまで見る。しかし、間宮怜那以外にれいなという名前の子が見つからなかった。翼は間宮さんを訪ねていた?……どういうことだ。高木教師だけが想いを寄せているだけならまだしも、翼からも……?

 ああ、主人公はこちらの方で間宮さんに目を付けたのか。確かに高木教師は分かりにくいので、分かりやすすぎる翼の行動の方が目につくだろう。

 攻略対象者が主人公以外の人間に目を向ける事を知らない。だから翼が想いを寄せる間宮さんを転生者なのだと決めてかかったのだろう。転生者で、乙女ゲームの記憶持ちでなければ攻略対象者を落とすなんて有り得ない、とか思って良そうだ。

 私は、会長や水無月くんの事を知っているので、転生者であるとは言い切れないと思っていたが……2人の攻略対象者に想いを寄せられているとなると、話が変わってくる。もちろん彼女が魅力的である事も否めないのだが、どうしても穿った見方をしてしまう。

 彼女も転生者で、彼らを攻略しにかかっているのではないだろうか、と。

 この前の様子で、高木教師を特別に想っているようには見えなかったが……実際の所は良く分からない。


「どうしたんだ?」

「さ、さぁ……?」


 2人が首を傾げているが、それどころではない。問題がまた増えてしまったのだ。悩まざるを得ない。

 間宮さん……あなた何者ですか?


「失礼します」


 誰かがノックしたので、会長が返事をした。

 最近では生徒会室も人の出入りが増えて来ている。人が寄りつけるようになったというのは良い事なのですけれど、忙しいっちゃ忙しい。

 入って来たのは、読書同好会の香川という男子生徒だ。ひらひらと薄い紙きれを持っているので、恐らく入部届だろう。新入生の勧誘に成功したらしい。

 読書同好会は3年が2名だけという大変寂しい状況で、存続が危ぶまれていたのだが、どうやらしばらくは安心できるようである。

 手渡された入部届は2枚もある。ははぁ、安泰ですね。いや、部活には繰上げになりませんけれど、同好会としては存続されるだろう。部活は最低でも6人必要なのだ。まぁでも、彼らもそこまでやりたいと思っている訳でもないだろう。なにせ、読書ができればそれでいいのだから。帰宅部でなく、部活に入っていると言って断れるのも簡単で楽だ、とは読書同好会のもう1人の3年の女生徒の言葉だ。

 入部届の名前を見て、むせた。

 間宮怜那と……水無月海斗だった。

 ちょ、待って待って、どういう事?水無月くんは同好会になんて入る様なキャラじゃないでしょうよ!勧誘されても無視して淡々と図書室で本を読むような子でしょうよ!というかまた!また間宮さんですよ!どうなっているの!


「大丈夫っすか?」

「げほ……ええ、すみません」


 香川先輩に心配されてしまった。最近、色んな人に心配をおかけしている気がする。


「ええと、受理させて頂きます……その、ちょっとお聞きしてもよろしいですか?」

「え?なんっすか」


「その……水無月くんは、何故同好会に入ったのかお聞きになっていますか?」

「え?なんか知り合いなんっすか?」


「え、ええ、まぁ……」

「じゃあ直接聞いたらいいんじゃないっすか?俺も、そこまで知らないし。というか、1回は断られたんだけど……なんか急に入るって言いだしてさ」


「そう、なのですね。いえすみません。有難うございます」

「いーよいーよ。学園王子と会話出来て光栄っすから。じゃあ、申請よろしくっす」


 学園王子……!?誰だソレ。いやまさか私の事か……!?

 私が固まっている間に、香川先輩はさっさと出て行ってしまわれた。


「……透。お前そんなあだ名がついているのか?」

「……らしいですね」


 会長の同情的な視線に乾いた笑いが漏れる。どこでどう間違ったのでしょうね。なんで攻略対象者じゃなくて私が学園王子なのだ、こんなのってないよ、あんまりだよ。

 大きく息を吐いて、胸の上に手を当てる。


「そんなに女性的な魅力が欠如しているんですかね……」

「「そんな事はないっ!!」」


 おお、シンクロ。見事なユニゾンでした。やはり仲が良いですね……。


「はは……気を使って頂いて有難うございます」


 本人の前で「魅力ねぇな」って言うほど冷たい人達じゃないのは分かってましたとも。気を遣わせてしまって申し訳ない。弱音を吐くのも大概にしないといけませんね。

 それにしても……間宮さんが主人公よりも気になってきた。本来水無月くんは同好会になど入らない。同好会に入った主人公と長く接触する事によって入るものなのだ。つまり、えっと、つまり……3年の女生徒か、間宮さん目的で入ったと予測される訳だけれど……。

 ……。

 ……あれ、なんか引っかかる。喉に小骨が引っかかったこの感じ……。

 図書館……そうだ、図書館で、水無月くんは好きな子をチラチラ見ていたではないか。好きな子はどうなった……?


「あああああああっ!?」

「「っ!?」」


 うっわ、思い出した!あの時水無月くんが見てた女の子って間宮さんじゃないか!?そうか、高木教師が間宮さんをナンパから助けた時も、どこかで見たような気がしたのだ。いや、というか良く思いだしたな私!

 そうか、でも、そうか……ならば水無月くんの同好会に入った理由は間宮さんなのか。え、ちょっと待って、3人目!?間宮さん、本当に何者なの?




 高木教師、水無月、翼……3人も虜にしている間宮怜那。

 これは主人公よりも警戒しないといけない案件だろう。というか、私がここでやきもきしていても状況は変わらない。水無月くんに至っては結構前から間宮さんを好きなようだし……好きな人が変わってないって言う事は良い事なのだけれど……。


「どうぞ」


 コトリと私の机の上にお茶が置かれる。

 そして前の席に座って、ニッコリと笑いかけて来てくれたのは桜さんだ。とりあえず思考を中断して、お茶をもらうことにした。

 久し振りに桜さんのお茶を飲んで、ほっとした。


「おいしいです、有難うございます」

「いえいえ、こんな事でよければいくらでも……」


 現在は桜さんのクラスにお邪魔させて貰っている。知っている顔もチラホラいるので、割と居座りやすい。ちなみに貸して貰っている席は深見くんのものだったりする。同じクラスになっていたんですね……。

 慌てて席をはずしていったので、まるでどかしたみたいで若干申し訳ない。いや、どかせたんですけれどね。後でお礼を言っておきましょう。


「珍しいですね、私のクラスの方にくるなんて」

「いえ、すみません。お邪魔してしまって」


「そんな!邪魔だなんて有り得ませんよ!深見と代わって欲しいくらいです!」


 おや、と眉を上げる。桜さんは、深見くんの事を呼び捨てているのですね。随分と親しいみたいで……本当にお邪魔してしまったみたいですね。けれど久し振りにお茶を頂きたくなっちゃったんですよね……とても美味しいですからね。


「ふふ、そんな事言うと、深見くんが拗ねちゃうかもしれませんよ?」

「なっ、あ、あいつは、そんな、その……!」


 なんというか、甘酸っぱい反応だった。

 いやいや、若いって良いですねぇ。高木教師に、翼に、水無月君に、会長、そして桜さん……リア充実かー爆発注意報出ちゃうな。卒業した水無月先輩の婚約者の香織さんからもたまにメールでノロケられるのですよね。


「私は、その、透さんのほうが、好き、です」

「嬉しいですね。ありがとうございます」


 あんまり可愛いのでクスリと笑ってしまう。良いですね、こんな可愛い女の子って。深見くんよ、しっかり見ておかないと誰かにとられてしまいますよ?まぁ、深見くんがどう思っているかは知りませんが。

 さて、お茶も頂いた事だし、お暇させて頂きますか。


「お茶、美味しかったです。有難うございました」

「あ、はい。またいらしてくださいね。席はいつでも空いておりますので」


 それっていつでも深見くんをどける気って事ですね。その言葉にまたクスリと笑ってから退出した。

 お茶も飲んで落ち着いたところで、どうするか考えますか。正直、物凄く面倒になってきちゃったんですけれど。フラグが立ちすぎて、対処しきれないんですよね。水無月くんと翼のフラグで転校……なんですけれど、間宮さん相手にいじめが発生するかどうか。というか、間宮さんは翼ルートのいじめに耐えきれるのだろうか?物凄く不安です。是非とも助け出したい。

 主人公の方も日向先輩とどうなってるのか不安なんですよね、人命がかかってますし。しかし、こちらから話しかけるのもなぁ……なにやら勢いのある子でしたから、変な勘違いされても困るのですよね。こっそり遠くから動向を窺うしかないか……?

 ふと足を止めて中庭を見てみると、誰かがせっせと花の手入れをしていた。普段は用務員のオジサンなのだが……あれは明らかに生徒だろう。


「あー……なるほど」


 思い出した。すっかり存在を忘れていたが、あれは土のつく攻略対象者だ。確か主人公の幼馴染だったと記憶している。

 植物が好きで、高校に入ってから用務員さんの代わりに手伝う事になるのですよね。

 主人公が好きではあるのだが、まだ自覚していないんでしたか。彼の攻略の少し難しい所は、中盤に別キャラの好感度をある程度上げないといけないという事でしょうか。他の男と一緒にいる所を見せて、嫉妬させて自覚させるのが必要不可欠なのだが……加減をしないと、別キャラルートに入ったりする。しかし、別キャラの好感度が低すぎても嫉妬せずにグットエンドは迎えられない。

 まぁ、話の内容自体は結構ほのぼのしてるんですよね。嫉妬した時だけ、ちょっとだけ罵っちゃったりなんだったり……すぐに謝りますけれど。基本的に優しい子ですから、怒鳴ってしまって申し訳ない気持ちになるのでしょうね。

 私はこのルートが結構好きでした。

 まぁ、攻略サイト見ないと攻略出来ませんでしたが。

 じっと庭に手入れを見ていると、彼と目が合ってしまった。ぺこりと頭を下げられたので、こちらも下げておく。


「こんにちは」

「ええ、こんにちは。精が出ますね。こちらは普段用務員さんが手入れをしているはずなのですが、貴方は?」


「え!あ!すみません、僕、勝手に……」

「ああ、いえいえ、悪いことではないので、謝らなくても大丈夫ですよ。因みに私は生徒会事務補佐の木下透といいます。以後お見知り置きを」


「あ!せ、生徒会の人だったんですね……あ、僕は、土御門つちみかどりくです」


 あーそっか土御門かーそういえばそんな名前でしたね。


「これはご丁寧に……お手伝いをされているのですか?」

「あ、うん、あ、はい。庭をいじるのが好きで……」


「それは良いですね。用務員さんも少しだけ息抜きが出来るでしょう。中々に広いですから、重労働だと聞いています。昔は園芸部もあったそうなんですが、なくなってしまいましてね。庭はそのままになってしまって手入れする人間だけが減って困っていたのですよ。有難うございます」

「え!いえ、そんな、好きでやっている事なんで……」


 照れて顔を赤くしている。うん、ほんわかしかこの空気大好きです。最近気を張っていたせいか、和む人に会いたい衝動にかられるのですよね。

 クスリと笑って、提案をしてみる。


「同好会ならば、人数に制限がありませんから、いつでも申請なさってくださいね」


 ついでに部員でも増やして庭をもっと綺麗にして下さい、という願望。前までも綺麗だったが、彼が手を入れると見違えるほど綺麗になるのだ。まぁ、私が言わなくても同好会を立ち上げると思いますが。


「りっくん!」


 その声にギクリと体を強張らせる。

 声のした方に顔を向けると、想像どうり……主人公が立っていた。主人公は私を睨みつけながら近づいてきて、土御門くんと私の間に仁王立ちする。


「あんた、りっくんになんの用よ!!」

「ちょ、曜子ちゃん、先輩にそんな言い方……」


「りっくんはちょっと黙ってて!」

「い、いやいやいや。なんでそんなに怒ってるの?あの、ただ助言くれてただけだよ?」


 やはり幼馴染ですね、とても親しそうです。

 それにしても、土御門君をこのように必死で守っているというのは、どういう事でしょうか。やはり大切な幼馴染だからでしょうか……それとも、土御門君ルート目的?いや、だとすると入学式早々から日向先輩の所に行っているのが分からない。嫉妬させるにしても、もうちょっと土御門君の好感度を上げないといけないはずですし。いや、まぁ……現実なんてゲームのように行かないのは知っていますが。


「助言?……こいつが?」

「だから先輩だって!木下先輩だよ!こいつなんて言ったらダメだろう!?」


 おお、土御門くんが怒るなんて珍しい。

 ふむ、主人公が転生者だとするに、主人公の性格も多少変わるので、幼なじみの関係も少し変わっているのかもしれない。藤間さんは思い込んだら突っ走るようですし、その都度止める役割でもしていそうです。

 私を指さしていた藤間さんの手をわしっと掴んでやめさせている。なんとも大変そうだ。

 土御門くんが、慌ててこちらに謝ってくる。


「すみません、曜子ちゃん、ちょっと考えなしだから」

「ああいえ、私もお邪魔してしまったようで……もう行かせて頂きますね」


 軽く頭を下げて、さっさとこの場から立ち去らせて貰う。あまり不必要に藤間さんと接触したくはない。なんかややこしい事に巻き込まれそうですし。


「曜子ちゃん!?君って人は本当に目が離せないよね!すっごく悪い意味で!なんで毎度毎度ああいう……言い訳しない!」


 遠くで説教している声が聞こえてくる。

 ああ、彼、苦労性のようです。

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