盗み聞きしました。
さて、何故か翼は教えてはくれませんでしたから、自力で調べるしかないのでしょうかね。
主人公か、否か、問題はそこです。とりあえず主人公をマークすればいいのでしょうか?そんな事を考えながら歩いていると、丁度主人公が前を横切って行った。誰かの手首を掴んでいるようで、強引に引っ張っていっている。
大人っぽい雰囲気のある子で、かなり困った顔をしている。見た事ない子……いや、どっかで見た事……あれ?この感じ前にもあったような。
って、そんな事を考えている場合じゃありません。何をしようとしているのか、ついていってみましょう。
主人公は、人気の少ない校舎裏まで女の子を引っ張ってきた。
とりあえず見つからないように草陰にしのぶ。盗み聞きは趣味じゃありませんが、人生がかかっているので致し方あるまい。息をひそめて、どんな会話を繰り広げるのか待ってみる。
大人っぽい子はここまで連れてこられて困っている。物凄く困っている。この時点で凄く助け出したい気分になったが、ぐっとこらえる。あの子は大学生に見えなくもないが、主人公と同級生なのだろうか?
主人公は、周りに誰もいない事を確認してから女の子に口を開いた。
「……」
ちょっと遠いので、何を言っているか聞こえない。もうちょっと近づきましょうか、気付かれないように……。
「…………らったらどうなると思ってんの?別に悪い話じゃないじゃない!ねぇ、教えてよ!」
ちょっと近づいたので、最後の方は聞こえて来た。というか、何故あんなに声を荒げているのだろうか。
主人公が女の子の肩を掴んで揺らしている。これは止めた方がいいのだろうか。
出ようか、と思ったが、その前に声がかかった。
「何をしているんだ?」
声のした方に目を向けると、高木教師が息をあげて汗を拭っていた。どうやら走ってここまできたようだ。
出るタイミングを完全になくして、そこで息をひそめる。
高木教師は女の子と主人公の間に割って入り、女の子を自分の背に隠した。丁度、会長と待ち合わせしていた時に高木教師がナンパから守った時のようだ。
あ、なんっか見た事あると思ったら……あの時にナンパされてた子にそっくりな気がします。髪の艶とか。
「何って……な、何にもないですよ、ね?間宮さん?」
首を傾げて高木教師越しに女の子に呼びかける主人公。どうやら、あの子は間宮さんというらしいですね。かなり大人っぽい子で、濡羽色が実に美しい。肌が白いから、余計に際立ってるんですよね。
「あ……はい、何にもないです」
透き通るようなとても綺麗な声だった。あの容姿であの声……羨ましい。はっ、い、いや別に羨ましくなんて……はぁ。
間宮さんの言葉に眉を顰めたのは高木教師だ。
「本当か?今掴みかかっていたように見えたが?」
「ほ、本当に何も……」
「あたし!もういきますね!」
「は?ちょ、待て!藤間!」
高木教師の言葉を無視して歩き出す。ってこっちに来た!別にやましいことなどないが、隠れておこう。
「なんっで主人公のあたしがいじめの疑いかけられないといけない訳?ほんっと信じらんないあの攻略キャラ!」
私のすぐ隣を通り過ぎる瞬間、そんな声が聞こえて来た。
う、うわー……。なるほど、藤間さんは確実に転生者、ですね……。しかも乙女ゲームに関しての知識もある、と。
見つからなかったのが幸いだ。見つかってたらどんな因縁をつけられていたか。ライバルキャラですもんね、私。まぁ、晴翔の、ですけれど。
なんだかドッと疲れた気分です。
さて、私もそっと立ち去りますかね……主人公が行ったばかりなので、もうちょっと時間差で帰りましょうか。
「……本当の事を言ってくれ、なんでも協力するから」
「……その、本当に何もありませんから、気にしないでください」
じっとしていると、嫌でも2人の会話が聞こえてくる。なんだかとてもイケナイ事をしている気分になるので、早急に帰りたいが……主人公や彼らに見つかる訳にもいかない。
「藤間はさっき、何を教えてくれと言っていたんだ?」
「先生には……いえ、男の人には内緒ですよ。女同士の内緒話です」
先生には関係ない、とでも言おうとした所を、女同士の内緒話、という言葉に変えたように聞こえた。どうやら、気の回る子のようです。見た目が大人っぽいですが、中身も大人っぽいようですね。人差し指を口元に当てて、シーってしているのが実に色っぽい。私には出せない色気だ。無理。
高木教師にもその威力が届いたらしく、目に見えて動揺した。間宮さんから顔を逸らして、くしゃりと前髪を軽く掴む。丁度間宮さんからは顔が見えないようにしているが、私からは丸見えだ。
……目元が赤くなっていらっしゃる。これは照れた時の立ち絵のようですね……え、ちょ、待って。どういう事なの。これじゃまるで高木教師が間宮さんに恋しているような図にしか見えない……。いやまさかそんなね、あははは……は、早く立ち去ろうかな。
軽く腰を上げた丁度その時、間宮さんが帰ると言いだしたので、慌ててまた草陰に隠れる。チラリと覗くと、幸い逆方向に行ってくれたようだ。
そこには呆然と立ち尽くす高木教師の姿だけがあった。
間宮さんが立ち去った方向をじっと眺めて……。
「……怜那」
焦がれる様な声だった。
思わずドキリとするような大人の色気がある。
まさかまさかと思いますが、間宮さんの下の名前を呼んだ訳じゃあないですよね?そうですよね?
はぁ、と溜息を吐いてこちらに歩いてきたのでまた隠れる。
見つかりませんように見つかりませんように見つかりませんよ……見つかった。バッチリと高木教師と目が合ってしまった。
う、う、わぁ……。
「……き、のし、た、か?」
「……そ、う、です、ね」
お互いカタコトで喋る光景は、はたから見たらとてもユニークだっただろう。だが私達はそれどころじゃない。
先生の想い人が生徒かもしれない、という所を見てしまったのだ。これが緊張せずにいられるか。調べれば、間宮さんの名前だってすぐ分かるだろう。しかし、だがしかし、彼の固い表情を見れば、わざわざ調べなくてもおのずと結果は分かるだろう。
「いま、の、きいてた、か?」
「イイエ、ナニモ、キイテマ、セン」
ぎこちない動きで首を振る。
しばらく固まっていると、高木教師は再起動を果たしたようで、咳払いをした。
「聞いたところで、何もないから、何も問題はない。なにせ、何もないからな!」
「わぁ!そうですね!あ、私何も聞いてないから何も問題ありませんでしたね!そう、聞いてませんからね!」
あはははは、とお互い乾いた笑いを零した。
「だから何も言わないよな?」という目線に「ええ、もちろんです」と頷いておく。
ああ、会長も水無月海斗くんもそうですけれど、やはり恋愛対象は主人公で限定されてないって事ですよね。ああ、ビックリした……。
……なんか、ドッと疲れました。本当に疲れました。
主人公は転生者で、間宮さんは高木教師の想い人で……あれ?だから主人公は呼び出した、とか?高木教師を攻略する気だと思われたとか。
実際問題、転生者じゃなくたって魅力的な女性は沢山いるので、攻略対象者に好かれているから転生者って訳でもない。間宮さんは主人公に呼び出されて大変困っていらっしゃったが、それだけでは判別する事はできない。
それに、間宮さん、凄く素敵な方でしたから……これは推測にすぎませんが、ナンパから助けた高木教師が大学生か何かだと勘違いして好きになった……という事もありますね。かなり大人っぽい雰囲気のある方でしたから。
しかし、これから高木教師と接触するのはなるべく控えよう……なんででしょうね、ゲーム内だと楽しめる先生の恋ですが、現実で起こると冷や汗が出るほど胃がキリキリしそうですね。
……今年は波乱ですね……ところで、私のいじめ転校フラグはどうなった?




