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追及してみました。

 翼の天使ちゃん……それはつまり好きな人をさす。

 翼がバンド内で「まるで天使のような声だった!」と興奮気味に話した事から、主人公はバンド仲間から翼の天使と呼ばれるようになる。主人公はボーカルに誘われるのだが、すぐに断る。そこをなんとか言いくるめて1度だけ主人公が歌うイベントが発生する。それは主人公に嫉妬していた観客も息をのむほどの歌で、あのバンドの幻のライブとして将来語られる。

 とまぁ、そんな物語だ。

 そうすると、翼に好きな人が出来たという事だろう。言われてみると、確かに恋をしている目のように見えなくもない。

 問題はその相手が誰なのか、という話になってくる。

 主人公は日向ルートが目的ではなかったのだろうか?もしや、ハーレムルートなんて選ぼうなんて思っていませんよね……。いやまだ主人公と決まってませんから早とちりはいけませんね。


「翼、ちなみにですが、なんていう名前の方ですか」

「え?まだ名前聞いてないなぁ、そこがいじわるでかわいいんだけど」


 名も知らぬ少女に恋をしたのか。君の名は?って気軽に聞いといて欲しいもの

ですけれど。


「何年何組の方です?」

「1年B組だけど……」


 なんだって!主人公のいるクラスじゃないですか!


「もう行っていい?何度も誘わないと、来てくれそうにないんだ」

「待て」


 すぐにでも教室に向かおうとする翼の腕を掴む。はっ、つい犬に言うような言い方をしてしまった。咳払いをしてごまかそう……。


「こほん。ところで、その方は、どんな子ですか」

「えーどんな子って……」


 その子の事を想像したのだろう、ふにゃりとした笑みを浮かべる。しかしすぐにハッとして絶望した顔で私の顔を見つめた。


「ええっ!?いや、そんなばかな……!」


 わたわたと慌てていて、何が何だか分からない。


「お、俺にはもう好きな子が……!そ、それに友達を裏切る事なんて!」

「……??」


 なんだか凄い誤解を受けていそうなんですけれど。


「と!とにかく俺もう行くから!」

「あっ、ちょ……!」


 真っ青な顔で教室から出て行かれてしまう。突然どうしたのだろうか……。それにしても気になるので、ちょっと後をつけてみますか。

 B組の場所は知っているので、さっさと目的地へと向かう。


 1年の教室がある所にくると、やたらと目立つ。ひそひそと囁かれている気もする。まぁ、先輩だし仕方ないか。

 ……それにしても、翼はこの状態の廊下を毎度通っているわけなんですよね。

 そういえば、翼の度重なる目立つアプローチでいじめの標的になるんでしたか。そりゃあプロのバンドマンになる様な存在なんですから、翼に好意をよせられている女性に嫉妬するもの無理ないでしょうね。

 そこんところ、翼も気を付けて欲しいのですけれど。

 はっ……無理だった。翼のプロフィールに「かなりモテている事を全く理解しない」と書いてあった。知らない女性にたくさん言い寄られても、全くもって気がつかないという。さんざんナンパされていたような気がするが、それでも気がつかない。顔も知らないのに好きといわれても、なんだかしっくりこなくてカウントしないそうだ。まぁ、本当の所はどうか知りませんが……。

 しかし他人と会話が出来ない程の威圧感を放っていた会長もある意味同類なのかもしれない。

 時間と共に、会長のそれはやわらいでいったので、翼の鈍感なものも多少治って……治ってないからこうして堂々と訪れているんですよね、分かります。

 これだけ注目を浴びているというのに、下級生の教室に行くなんて……心臓が強いと言いますか、ただの馬鹿と言いますか。

 B組の前では人だかりができていた。その状態に軽く頭痛を覚える。

 教室に近づくが、誰も私の道の邪魔をしない。むしろどいてくれて楽々と通る事ができた。モーゼのようです。

 きゃーきゃーと言われながら避けられるって割と傷つきますけれど、こんなところに来ている私の方が悪いのでなんとも申し訳ない。

 教室を覗こうと思ったのだが、丁度翼が出て来た所に出くわす事になった。


「えっ……つ、ついてきたの?」

「えぇ、まぁ……どんな子なのかと思いまして」


 さっと教室内を見ようと思ったのだが、何故か翼に遮られた。クルリと体の向きを逆向きにさせられて肩を掴まれて動かないようにされる。


「いや!うん、うん!その、別にいーじゃん?」


 後ろから肩を掴まれている状態なので、後ろから翼の声が聞こえるというのは妙な感じだ。


「この体勢はなんなのでしょう」

「とりあえず、行こうか。生徒会の方に行こうか」


 グイグイと押されつつ、チラッとだけ教室内が見えた。その中に桃色の髪を発見。顔までははっきりと見えなかったので断言出来ないが……主人公だろうと思う。


「何故隠そうとするのです?」

「いやむしろなんで知ろうとしてるの!?なんなの?俺胃が痛くなってきちゃう!!」


 グイグイ押されながら歩くという状態は非常にシュールなのか、目撃した女の子が顔を覆ってプルプルする事もあった。正直、ちょっと恥ずかしいかもしれません。これ、翼の肩に別の人が捕まって、そして私がまた別の人に捕まっていくと伸びていきますね。列車の連結的な……。

 前世の小学生の時に、長い紐の中に皆で入って列車ごっこした事がありましたね。なんででしょう、無意味に楽しかった覚えがあるんですけれど。

 結局、生徒会の扉の前まで押された。


「もう構いませんか?離してくれると助かります」

「うん……うん、ごめんね?」


「いや、それは構わないのですけれど……」

「ところで、どうしてそんなに俺の好きな子が気になる訳?」


「それは……」


 口を開こうとして、何を言おうかと逡巡してしまう。

 内容を話そうとしたら、乙女ゲームの話が出て来てしまう為だ。主人公が何を目的にし、日向先輩に声をかけていたか。翼の好きな人は主人公か、否か。主人公じゃないなら何も問題な……いや、こっちはこっちで好かれた女の子が大変ないじめに会うので要チェックしなければならないわけなのだが。

 主人公だった場合なら何故日向先輩にも声をかけているのか悩まなければなりませんし、場合によれば全力で日向先輩を守らないといけなくなります。

 翼はモテるから、女の子達からの嫉妬でいじめられないか心配で……とでもいえばいいのか。なんというお節介!いやでも翼には「自分はモテない」という呪いという名の思い込みがありますから納得してくれるかどうか。

 私が返答を迷っている間に、どんどんと翼の顔色が悪くなっていく。


「……た、単刀直入に聞くけど、俺の事、好き?」

「え?……まぁ、好きですけれど?」


 何を今さら。好きじゃなかったら勉強なんてみてあげませんよ。それに犬みたいで可愛いですし。

 ……って!すっごい震えてますけれど、本当にどうしちゃったのでしょう?


「えーと、あの、翼?保健室へ行きますか?」

「連れ込んで何をする気だ!」


「は?寝かせますけれど」

「う、うわああああああ!」


「あ、ちょ、待っ……」


 翼は、逃げ出した!

 なんで急に走り出した!?

 取り残されて、呆然とする。今のはなんだったのか……。

 それにしても、結局翼の好きな子は分かりませんでしたねぇ。翼は翼で顔色が悪かったですけれど、大丈夫なのでしょうか?……あれだけ元気に走れたら大丈夫でしょうねぇ。






「随分悩んでいるが、大丈夫か?」

「ええと……ああ、すみません。大丈夫です」


 生徒会室で唸っていると、会長に心配されてしまった。しっかりしないといけませんね。

 なるべく早い内に翼の好きな人を見つけなければいけないですよね。主人公への対応も大きく変わる事になりますから。

 あれ、そういえば翼に好きな子が出来たら、いじめに参戦させられて転校ルートじゃないですか?これは困った。うーん、翼の好きな子は全力で知っておかないといけませんね。

 戦う前にはまず敵の姿をハッキリさせておかないと。


「少し気がかりな事がありまして……」

「……大変そうだな」


 すっごくしみじみとした声で労わられた。有難うございます、なんか疲れましたよ、私。まだ4月も終わってないのに。そう、まだ4月なんですよね……。

 そろそろ1年生のオリエンテーションですけれど……。しおりのデザイン案も決まってないんですよね。内容は去年のモノと同じで良いと思いますけれど。


「……肩でも揉んでやろうか?」

「いえ、それはなんだか申し訳ないのでお構いなく」


「遠慮するな」

「いえいえいえ」


 会長を扱き使う事務補佐なんてありえませんよ。もし誰か入ってきたらどうするんですか。まぁ、今は誰もいませんけれど。

 会長の方が部活とかあったりするので、むしろ会長の方が疲れそうなものですけれど……。


「普段から頑張りすぎなんだ、透は。もうちょっと肩の力を抜け」

「わ、ちょ……い、いたたた」


 素早く回り込まれて、肩を揉まれる。グリグリという音が聞こえて痛い。


「……めちゃくちゃ凝ってるな」


 ううわ、この年齢から慢性肩こりなんて嫌ですよ。本当、もうちょっと力抜いた方がいいのかもしれません。

 い、痛い。痛いけれど気持ちいいです。


「あー……すみません。それにしても上手いですね。会長」

「やりなれているからな」


 へぇ、そうなんですね。そんな情報知りませんでした。攻略サイトにも載ってない情報ですよね……。ああ、そう言えば甘党というのも割と驚いた記憶がある。


「な、なんだ?」


 上を見上げてじっと会長の顔を見つめていたら、段々と顔が赤くなってきた。相変わらず照れ屋さんめ。そういや、どうでもいい男女の前でも照れるんだから、好きな人の前だったらどうなるんだ?……きっとめちゃくちゃ頑張っているんだろう、うん。

 会長があまりに初心なので、少々老婆心が沸いてきた。


「ところで会長の好きな人は変わったりしていませんか?」

「いっいきなりなんの話だっ……!!」


 顔が真っ赤になって動揺した。いやぁ、会長のキャラって本当ブレまってますよね。会長は俺様で、結構冷たいキャラだったと記憶している。間違ってもこんな風に動揺するキャラではない。晴翔は主人公に少し冷たくする時もあるが、基本的に俺様のようなものでない。まぁ、多少強引な所もあるけれど、程よいといいますか。


「かっ、変わってない……ずっとだ」

「ほう」


 それはまた。想われている方が随分と羨ましいですねぇ。ふむ……そうだとすると付き合っていたりするのだろうか?よもや片思いなどではあるまい。これだけ真っ赤になるのだ、相手さんも気づくだろう。

 いや、この反応とドジッ子属性ならずっと片思いなんて事も有り得そうだが。ああ、そういえば水無月先輩が恋の行方が知りたいとおっしゃっていたので、付き合っていない可能性の方が高いのか。


「ずっと……好きだ」


 真っ直ぐに目を見つめられてそんな事を言われたものだから、思わず心臓が早くなってしまった。

 顔が赤くなりそうだったので、さっさと顔を戻す。

 びっくりした……まるで自分に言われているようで。

 ドキドキする胸をなんとか静めつつ、背後にいる会長に声をかける。


「そんなに好きなら、告白はなさらないのですか?」

「……気付かれなかった」


「そりゃまた……遠回しな言い方でもなされたんですか」

「いや……」


 凄く声が沈んでいっている。ああ、ちょっと根掘り葉掘り聞きすぎましたね。肩に乗っていた会長の手が離れ、席に戻っていく。そして机に突っ伏して落ち込んでいる。あー、嫌な事聞いちゃったんですかね。申し訳ない事をしました。


「えーと、マッサージ有難うございました。コーヒー入れますね」

「……ああ」


 水無月先輩、彼の恋はまだ実らなさそうですよ。

 けれど、真っ直ぐ想われる彼女は、いずれ恋人になるんじゃないでしょうか?会長は文武両道で信じられないぐらいイケメンですからね。性格も良いですし。まず心配いらないでしょう。

翼、思わぬ方向に勘違い。

会長、ちょっと心折れる。

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