エイプリルライブに行きました。
終業式がいよいよやってきた。
主人公が入学……ああ、もうすぐだ。もう1か月もしない内に入学してくる!どうしてくれよう、ほんと。腹をくくったのはいいですけれど、今さら腰が引けてきましたよ。主人公が晴翔をガン無視して、別ルート目的にしてくれれば、万事解決なんですけれども。ああ、そうだ。翼と水無月ルートも避けて欲しいです、ぜひ。
ええと、私が安全なルートは月島、高木、土の付く子、日向、といった所か。まぁ、どの場合でも、晴翔との好感度が一定以上高かったらダメなんですけれど。私の難易度が高すぎる気がするよ……。顔あわせて会話したら好感度なんてある程度上がっちゃうよ。
それと、心配なのが、会長と水無月海斗くんですね。好きな子がいるみたいですし、世界の強制力で想いまで変えられたらどうしようもない。今まで心までは操られなかったけれど、本編がスタートしてからは分からないのだ。
彼らの事も注意深く見ていた方が良いかもしれませんね。
まぁ、転校や退学していく予定の人が何か出来るとは思えませんが。
春休みの課題を1日で仕上げた後、入試問題をただもくもくと解いていく。今の所A判定ラインの点数なので、この調子で落とさないようにしないといけません。もういっそ去年受けていたかった。去年の入試の問題、得意な所出てたんですよね……。まぁ、運も味方のうち、その時どうなるか。
……こと勉強に関しては、退学とか考えないようにする。やる気失いますからね……こんなことやって何の意味があるんだって気分になりますから。
溜息を吐いて、目頭を揉む。ついでに、立ち上がって固くなった体を動かす。
スマホに目を向けると、翼からメールが届いていた。
私があげたプリントに関しての泣き言だった。それを読んで、クスリと笑いながらまた机に向かう。
4月1日がやってきた。
翼のエイプリルライブの日である。
ライブは午後からだった。エイプリルフールって午前中まで許されてるんじゃ……い、いや、まぁ良いでしょう。
ライブのメンバーは3人なのだが、その3人の内、1人だけ本当の事を言うらしい。そして、ライブ終了後に誰が本当の事を言っていたか当てるゲームになるという。当てた人にはステッカーが貰えるらしい。なんというレアシール。きっとプレミアム価格がつく事間違いなしです。まぁ、売りませんけれども。
会長と晴翔は噴水前で待ち合わせしている。お昼の待ち合わせなので、早朝に待つ、という事態にはならない。それに、気候も暖かくなってきているので、風邪をひく事もないだろう。
さて、会長と晴翔は何時間前にくるでしょうね。もう知らん、あいつらなんか知らん。普通に10分前に行ってやります!
……といいつつ、気になって30分前には辿り着く。なんか毒されている気分です。
噴水前にはすでに2人のイケメンが立っていた。
あれ、会長が着てる服って前に私が選んだ服じゃないですか。やっぱり……ものすっごく似合ってますね……まぁ、きっと何着ても似合うんでしょうけれど。元がいいと何着ても似合っちゃうんですよね、ああいうのって。
ファッション雑誌なんて、可愛い子が着てるから可愛くみえるだけで、同じモノを私が着たって全く全然可愛くなんてならなかったんですからね。けっ、どうせ人間見た目なんですよ、見た目。今は綺麗系になったと思ったらイケメン系だと認識されるようになってますけどね!どうしてこうなった。
段々と待ち合わせ場所に近づいて行くのだが、何やら仲良く口論している模様。だからなのか、女の子は遠巻きに彼らを眺めているだけだ。明らかに険悪な空気なのに、話しかける様なハートの持ち主などいなかったようだ。
さて、話しかけようか……と思ったら。晴翔が会長の胸倉を掴もうとし、会長がその腕を素早く掴んで晴翔を反転。掴んだ腕を背中に回して噴水のふちに晴翔を俯きに取り押さえる。刑事が犯人を取り抑えてるような鮮やかな動きだった。あのままあの手首に手錠でもかけてしまいそうだ。
「えーと、随分と楽しそうに何をしているのです?」
「いだだだ!楽しそうにみえるのか!これが!?」
「俺は非常に楽しいが?」
「それあんただけだろっ!」
まぁ、運動神経抜群の会長に飛び掛かる方が悪いですよ。会長に勝とうと思うなんて100年は早いです。最も、もし100年経ったとして、差がさらについている可能性も無きにしも非ず、ですけれどね。
「私も見てて割と楽しかったです」
「と、透も!?」
「そうだろう、そうだろう」
会長はとても満足気に頷いている。ですが、可哀相なのでそろそろ離して差し上げて下さいな。そう言うと、渋々ながら手を離す。掴まれていた手首が赤くなっていたので、相当強く取り押さえられていた事が分かる。
晴翔は付いた土を払いつつ、溜息と愚痴をこぼしている。
落ち着いたところで、早速昼食へと向かう。近くのショッピングモールのフードコートに行く事にした。うどんやたこ焼き、クレープ、ファーストフードなどなど、沢山種類があるので良いだろう。ライブする所からも近いですからね。
春休みだからか、普段よりも子供連れの家族が多い気がする。
混雑しているので、パッと見で座れる所が見つからない。
「座れますかね」
「探すか」
こういうのは3人とかが最も面倒なんですよね。2人なら、2人用の席が空くんですけれど。と、言っていると、2人用の席が空いているのを見つけた。
でもこれじゃ3人座れないんですよね。
「どこかから椅子を拝借しましょうか」
どこかで3人連れの人がいれば、そこから椅子を持ってくれば座れるだろう。まぁ、机の方はちょっと手狭になりますけれど。
「んー私は椅子探してきますね」
「いや、俺がいこう」
「いや、会長は待ってて貰えますか?」
なんかこう、綺麗過ぎて相手が緊張すると思うんです。学校の生徒は結構慣れて来たみたいですけれど、まだまだ喋れない人多いですし。晴翔は……なんか不良っぽいですし。
「晴翔は先に何か並んで買ってくると良いですよ」
「分かった」
分担が決まった所で、早速あいている椅子がないか探してみる。
しばらくうろうろしてみたが、荷物を置いていたりして案外見つからないものですね。
「あれっ……」
隅っこの方に、オレンジ色のボサボサ頭の男が一人でうどんをすすっていた。
「高天原先生、お久し振りですね」
「んっ!げ、げほぅっ!げほっ!」
先生の前の椅子に座って声をかけると、むせた。
なんか、私が話しかけるとむせる人が多い気がする。きっと私のタイミングが悪いのだろうな。ポケットからハンカチを取り出して差し出す。
「すみません、突然声をかけてしまって」
「ぅえほっ……えほっ……う、いえ……」
私からハンカチを受け取り、口元や汚れた机を拭いている。そして綺麗になった所で、ハッとして慌てだした。
「あっ……う、うわ。ハンカチ汚しちゃった!ご、ごめ」
「は?……いえ、その為に渡したんですから、良いですよ」
何を言っているんでしょう、この人は。というか拭いてから言うのか。相変わらずというか、なんというか。
「お一人ですか?」
「う、うん……い、いや、おじいちゃんと来てるんだ」
「ああ……余った椅子貰おうかと思ったんですが、残念です」
「椅子……?誰かと来てるの」
「ええ、この通り混んでいますから、椅子を探していたんですよ」
「あ、も、持って行っていいよ?その、おじいちゃんは帰ってこないし」
ん?はぐれたのでしょうか……?それとも家に帰ったとか。
私が首を傾げているのを見て、説明が不足していると思ったのか、少し慌てている。
「あ、いや、そのぅ…………ナンパに」
「…………え?」
あれ、すっごい聞き捨てならない単語を聞いた気がする。おじいちゃん、なんですよね?お父さんではなく。確か27、8才くらいじゃありませんでしたっけ?高天原先生……。だから18才くらいに出来た子としても、60歳は超えてるんじゃ……。
物凄く気まずそうにしている高天原先生に深く突っ込む気にもなれず、半笑いで話題を戻す。
「あ、じゃ、じゃあ椅子貰っていきます、ね……?」
「うん、あ、ハンカチは洗って返すよ!もうすぐ、入学式だし、その時に……」
「ああ、そうして頂けるなら、お願いいたします」
さっさと椅子を回収して、先程の席へと向かう。
椅子を持って席に戻ると、晴翔がパスタを買い終えて座っていた。会長の姿はない、もう買いに行っているのだろうか。
「おかえり」
「ただいまです。先に食べちゃってていいですよ。私も買ってきますね」
「ああ、いってらっしゃい」
さて、何を買いましょうかね。
さっと会長の姿を探すと、ステーキ店の所に会長が並んでいた。会長、肉好きなんでしょうか……前もハンバーグ注文してたような。まぁ、育ち盛りですからね。うーん、私は何にしましょう。うん、カレーにしよう。おいしそう。
カレーを買ってから席に戻ると、2人共食事に手を付けないまま無言で睨み合っていた。
「あれ、食べてなかったんですか?……というか、何故そんなに熱く見つめあっているのです?」
「熱くなど見つめてはいない!」
「誰がこいつなんかと!」
お、おう……すみません。周りの人が気になってチラチラと様子を窺うくらい睨み合っていたので、つい……。それにしても、本当に仲が良いですね。そんな事口に出したら、ムキになって反論されそうですけれど。2人共素直じゃないんだから……。
カレーを机に置いて、私も席につく。
「お待たせしまってすみません、では頂きましょうか」
「ああ」
「頂きます」
ご飯も頂いて、いざライブに!
ライブ会場は薄暗く、女性客ばかりだった。その中でイケメンが混じればどうなるだろう。そう、こんな風に囲まれます。
「ねぇねぇ、私達と見ない?」
「このバンド良いよね?気が合うよね?ねぇ、この後抜けない?」
「カッコいいよね!貴方たちもバンドに出れるんじゃない」
目いっぱいおしゃれした女の子達に囲まれる。どの子も可愛らしくて美しいですね。きっと男に間違われるなんて人生ではなかったに違いない。
女の子の勢いに会長はたじたじだ。今までこんな風に積極的に来られることはなかったのだろう。待ち合わせていても、遠目から見られるだけだったみたいですし。雰囲気が柔らかくなった弊害がここに。明らかに助けてくれ、と言う目線を頂いた。
晴翔の方は不機嫌な顔で適当にあしらっている。こっちは割と手馴れているかもしれない。けれど女子はタフだ、全く引かない。やはり、ライブに来るような子は体力も有り余っているのだろうか。結構きつい言葉もいったりしてるが、「カッコイイ!」で済ましている鋼の精神もお持ちだ。すげぇなあの子達、尊敬に値する。
かくゆう私も囲まれていたのだが。「すみません、連れと見るので」とニッコリ笑うと普通に引いてくれた。なんで私に話しかける子は普通に諦めるのに、あの2人にはタフな女の子ばかり集まっているのだろう……謎だ。
2人を救助し、控室の方に行かせて貰った。翼から来てもいいよというメールを頂いたからだ。
控室に行くと、以前会ったメンバーが歓迎してくれた。しばらく見ない間に少し大人っぽくなっていますね。いやぁ、カッコいいですね。勿論翼がメンバーの中で最もカッコいいわけなのだが、どうにも現実味にかけるというか、かっこよすぎるというか。まぁ、二次元から出て来た存在なので仕方なかろう。それに比べると、やはり2人は落ち着くカッコよさだ。
この2人なら頑張れば付き合えるかも……!という淡い期待すら出てくる。まぁ、十分この2人もカッコいいのですけれどね。
特等席を用意してくれたという。というか、そんなものが出来る程度に人気が出て来たのですね……もうすぐプロ入りの声も掛かる事だろう。
ふむ、あのイベントは何時頃でしたっけ。夏も終わりに近づくぐらいだったかな?プロ入りの話を両親に打ち明ける前に、主人公に悩みを打ち明ける……とかいうくだりがありましたよね。主人公は過酷ないじめから耐えている最中、笑顔でおめでとう!って言ってあげるんです。心では寂しいとか、いかないで欲しいとか、自分は相応しくないだとか、結構暗い事考えているけれど。彼の前では笑顔で両親の元に送り出すんです。泣ける話じゃないですか。
翼がいじめに気付くのは主人公が大けがしてからですね。
……今思うと翼ルートは主人公がめちゃくちゃ大変だから、リアルではオススメしたくないね。
ついでに言うと、彼のルートでは、木下透は翼親衛隊の協力を頼まれる形でいじめに参加する。そしてばれた後に転校、と。……うう、嫌だなぁ。そんな要請が来ても絶対協力したくない。全力で止めたい所存であります。出来る限りね。
久し振りにライブを聞いたが、鳥肌が立った。
音に深みが増したし、歌も上達している。ドラムのスティックさばきも素晴らしい。ほぼ完璧なプロに近づいている。
ちなみにエイプリルフールのイベントは。
ドラムの子が「彼女が出来た」。
ベースの子が「明日から遊園地に行く」。
翼が「好きな子できたよ!」とそれぞれ言い放った。
ここで会場がざわついた。言うまでもなく、この中で本当は1つだけなのだ。
ここで皆の心は「本当の事をいっているのはベースだけだ、きっとそうだ」と思いこむ事になる。なにせ、好きでこのライブにきているものだから、そこに女の影が出来るのを厭う人は多い。私はどうでもいいと思うのだが、アマチュアゆえだろうか?彼らと付き合いたいと思っているファンは多いらしい。
大半の人がベースを本当と選んでいた。
私達は、翼からの情報でドラムが本当の事を言っていると知っていたが。ライブ後の答え合わせは修羅場だったな。
まぁでもドラムが彼女出来てはしゃいでいるのは分かった。ファンにはたまったもんではなかったようだが。そういや、翼ルートの時にドラムは彼女自慢してた気がする。今さらそんな地味な所に気づかされるのですね。
正解者に配られるステッカーは貰えた。答えを知っているのに貰えるのはどうなのだろうか。まぁ嬉しいので良いんですけれど。
しかし、翼にはまだ気になる相手すら見つかっていない訳か……主人公好きになったら厄介だな。主に、彼のファンとかが。
ライブが終わる頃には、もう日が傾いている所だった。
「暗くなるし、送ろうか?」
「いえ、大丈夫です。会長とは家が大分離れていますからね。晴翔に送って貰いますから」
正直な所、見た目男な私は気にしなくて良いだろう。だが、会長は気にしそうなので、そう答えておく。実際、帰り道はほぼ同じですしね。駅から晴翔家に行く途中に私の家があるのだ。送ると同じようなものだろう。
「火媛……」
「なんだ……」
ガシッと会長が晴翔の肩を掴んだ。
「いたっ!いだだだだだだ!」
相当力強く掴まれているようで、痛みで顔が歪んでいる。晴翔はそんな会長の鳩尾に拳を入れた。だが、会長の方は、ピクリと眉を動かしただけで平然としている。……鳩尾ってあんまり鍛えられない急所だと思ったんですけど、会長の場合は違うようだ。
晴翔が弱いんじゃない、会長が強すぎるのだ。きっと金的でも平然とするに違いない。
「あ、あの会長、離してあげたら如何でしょう……」
「何、送り狼にならないように負傷させようと思ってな」
なんで!会長の脳内では大変な物語が展開されているようです。私は晴翔の恋愛対象外なのはいうまでもなく、送り狼なんて甘い出来事なんて起こりえない。ついでにいうと、送り狼になりそうな人間を負傷させようと思うのもどうかと思う。
私が呆れた顔をすると、会長が渋々晴翔を解放した。
「くっそこの馬鹿力め……」
捕まれた肩をさすりながら悪態をついていた。
うん、冤罪お疲れ様ですよ。
いよいよ次回、入学式に入ります。




