謝られました。
さて、今日は晴翔と会う日です。
まぁ、会うと言ってもパッと渡してパッと帰るだけですけど。
適当な服に身を包んで、コートを羽織って外に出る。確か今日は会長が大会の日なんでしたね。体調は大丈夫でしょうかね。この間見に行ったら急に体調不良になって心配しました。何か、私の知らない持病が……?でも設定にそんな事書かれてませんでしたしね。試合は気になりますが、私と目が合った瞬間にまた体調が悪くなったりしたら困りますものね。
なんかこう、自分が試合見たら自国のチームが負けちゃう、みたいな……。そんなかんじです。世界大会でも私が見た試合は負けるんですよね。だから、見ないようにして、結果だけ見ちゃうんですよ。勿論、たまたま見た試合が負けただけなんでしょうけど、タイミング悪いんでしょうね、私って……。だからやはり見に行かない方が良いだろう。
少し歩いて、家の近くの公園に着く。この公園は丁度晴翔と私の家の間くらいにあるのだ。待ち合わせにはうってつけだろう。
小さなその公園で、子供の頃に良く遊んでいた。あの時は少しだけ疎ましくも思った時期もありましたっけ。あんまりしつこく誘う時もあって、怒ろうかとも思いましたけど、相手は子供ですし遊びたいだけなんだと言い聞かせた事もありましたか。本当は、他の子供達と馴染ませる為に誘ってくれていたんですけどね。子供なのに、なかなかやりますね。さすが攻略対象者。とまぁ、現実逃避は置いといて。
すぐに公園に辿り着いた。それなりに大きな公園で、遊具も豊富に揃っている。遊びたい盛りの子供なんかは大好きな公園だろう。私も実際に良く遊びましたからね。
ここに訪れるのは子供だけではなく、走ったり散歩する大人もいる。大きな池は中々綺麗で、ベンチに座ってぼんやりしているお年寄りも見かける。
結構な広さなので、公園のどこそこ、みたいに待ち合わせ場所を指定しなければいけない。まぁ、私達の場合、行く場所は決まっているので、そこは気にしなくてもいいのだが。
いつも待ち合わせで使っていたのはブランコの近くだ。そこの近くにタイヤを半分埋めた遊具があるので、そこに腰掛ける。しかし、このタイヤを埋めて遊ぶなんて、誰が考えたんでしょう。タイヤで遊ぶという発想が凄いですね。
周りを見るが、まだ晴翔は来ていないようだ。まぁ、約束50分前ですからね。なんだか私も最近狂った約束時間に来る癖がついていそうです。全ては会長と晴翔のせいです。する事もないので、ぼんやりと子供が遊んでいる所を眺めて楽しむ。手を繋いで走っている幼い男の子と女の子に和んでしまう。なんとも平和で楽しそうじゃないですか。
私も昔は晴翔の手をとるのに躊躇はしなかったのに、今ではこのザマです。あの子達もそうなってしまうのか、それともあのまま仲良くしていけるのか。それとも突然の転校で離ればなれになったりするか。そこは分かりませんけれど、どんなものにでもなれる可能性を秘めている。子供の内に遊んで泣いてはしゃげばいい。その時の思い出がきっと得難いものになるだろう。
「……晴翔」
晴翔が黙って私の隣にあるタイヤに腰掛けていた。
いつの間に。いるなら声掛けてくれればいいのに。
「おはよう」
「おはようございます。これどうぞ。では」
「ちょ、ちょちょちょ、もう行くのか?」
さっさと渡して帰ろうと思ったが、肩を掴まれて止められる。
「え?そうですけど、何か問題が?」
「え、問題は、ない、けど……いや、おおありだろ。久しぶりに遊びにいかないか?2人で」
ほほう、2人で?……お断りしたい!心から!
しかし、晴翔からしてみれば仲直りしたいだけなのだろう。いいんですけどね、いいんですけど……まぁいいや。
「遊ぶってなにして遊ぶんです?」
「……いいのか?」
「ええ、久し振りですね。2人で遊ぶなんて」
私がそう言うと、晴翔の顔に喜色が浮かぶ。
そんなに嬉しそうな顔をされても、もう騙されませんよ。
なんて顔で笑うんだ、可愛いなちくしょう。
妙な敗北感を味わいつつ、ぶらぶらと公園を散歩する。
「あ、懐かしい」
この公園でも割と大きな木をみつける。
ここでだるまさんがころんだをよくやっていた。晴翔はあまりじっとしていたられなくて、いつも鬼役ばかりしていた。私はというと、無理しない範囲でチマチマ接近する派なので、鬼になったことはない。まぁ、面白味もないんですけどね。
「懐かしいな……」
晴翔も同じ事を考えていたのか、柔らかい表情をしている。
目が合ったので、とりあえず笑いかけておく。
僅かに目を見開いたが、笑い返してくれた。なんだか長時間はキツイ気がしたので、目を逸らして次はどこへ行こうかと考える。のんびり散歩するのも良いですねぇ。でももう少し心休まるような方と歩きたいです。例えば、そう……桜さんとか。時間の流れがまったりとするようなんですよね、桜さんは。お茶とかお菓子とか用意してくれてますし、なんか本当に嫁ですよね。
「2人でゆっくりするのも久し振りだよな」
「……そうですね」
ま、ちょっとだけ色々ありましたからね。告白の事なんて、私だけが思い悩んでいたようですけれど。私はちょっと考えすぎなんでしょうね。もうちょっと気楽にいけばいいんでしょうけど……前回それで失敗しているからな……。
「……今でも、後悔してる」
ぽつり、とそう零した。
零したその言葉は無意識だったみたいで、晴翔自身も驚いているようだった。けれど、すぐに覚悟を決めた顔をした。真剣な眼差しで見られて、思わず後ずさる。
「告白されて、どうしようもなく動揺して、咄嗟に振ってしまった事を死ぬほど後悔した。許して貰おうなんて思ってない……けど、ごめん」
ごくりと生唾を飲み込んで喉を潤す。
後悔、振った事を後悔……?晴翔の言っている事に理解が追いつかず、晴翔が言った言葉を脳内で繰り返す。
「あの日に戻れるなら、なんだってしてやりたいと思うくらいだ。……勘違いしていたんだ。きっと元通りになれるって。でも、そんな事は全然なくて、前みたいな関係に戻らない事に絶望したりもした」
……ああ、なるほど。
つまり晴翔は本当に私を大切な友人として見ていたという事だろう。ある意味、それを壊したのは私の方だったのだ。だから、私よりも晴翔の方がショックが大きかっただろう。私はある程度覚悟してからの告白だったけれど、晴翔にしてみれば青天の霹靂。ずっと隣にいてくれると信じてた友達に裏切られたという訳だ。
「あの日、俺が付き合うって言ってればって、何度も……今でもそう思う」
「いや……そう思ってくれるのは有難いんですけど、でも……そんな気持ちで付き合われるより、振られた方が多少スッキリしますよ」
友人との関係を壊さない為に、自分に嘘を付いて付き合うよりも、振った方が余程健全だろう。いくら大切な友人でも、無理して付き合うような事はいけないと思う。そんなもの、いつかは亀裂が生じる。今よりももっと大きな亀裂が。
私も振られたら友人に戻ろうと思ってたくらいだし……というか、友人に戻れなかったのは私の責任ですからね。
いや、晴翔の態度もちょっと紛らわしいのでアレですけども。妙に近かったんですよね、距離が。いや、ほんと攻略対象者は相手を勘違いさせるスキルが高いですよね、ほんと。
「いや……え?」
「そんなに想ってくれているなんて思っても見ませんでした。すみません。私が前のようになれるまで、もう少し時間をくださいませんか?」
今すぐにとはいかないが、前のように喋れるようにもしていくつもりだ。
「……ん?」
「有難うございます晴翔……私もそんな風に思えるほどになってみせますから。胸をはって友人だと言えるような人間になってみせます!」
「あれ!凄く変な方向に行っている気がする!何故だ!?」
そう言って晴翔が慌てているが、良く分からずに首を傾げる。
ガシリと両肩を掴まれて睨まれる。
「だ、だから、その……俺が言いたいのはっ……!」
「うええぇえぇぇっ!!」
私達のすぐそばで子供がこけて泣きだしてしまった。
随分と派手に転んでしまったようで、膝から血が出ている。すぐに子供に駆け寄って、抱き起す。
「大丈夫?……すぐ洗い流さないといけませんね」
よっこいしょ、と子供を抱えて、水洗い場に向かう。
傷口に入った砂を水で洗い流す。その頃には子供は泣き止んでいた。うむ、強い男の子は好きですよ。水で洗った後、水を拭きとってから清潔なハンカチで括っておく。まぁ、軽い傷なので、すぐ治るでしょう。若い内は傷の治りもはやいですからねぇ。……30代になったらもう、小さな傷口でも痕が残っちゃったりしてましたからね……。蚊とかに刺されたらもう夏場の間中痕が残ってたり!だから掻かないよう必死でしたね。
ふっふっふ、今はピチピチの10代ですからね!傷の治りもはやいですよ!文化祭の時についた傷も薄まってます、若いって良いですね。もしあのような広範囲の傷が30代の時についてたらきっとこんなに治らなかったろうな。
「ありがとうお兄ちゃん!」
「はい……ん?あぁ……はい、どういたしまして」
若干おかしな事を聞いて声が低くなったが、なんとか立て直して笑顔で返す。落ち着け、私は今はイケメンなのだ。この子は悪くない。悪くない。というか、きちんとお礼の言える良い子である。悪いのは紛らわしい恰好をした私のほうである。
「……笑わないで下さいよ」
「……悪い」
隣で笑っている幼馴染の横腹を突く。割と強めに刺してやった。少し痛そうにしていたので、溜飲を下げる。
「ほんと、お人好し……そう言う所が好きなんだけど」
ん?ん?なんか凄い事い言われたぞ。
じっと晴翔の顔を見つめたら、顔がドンドン赤くなっていった。おお、照れ顔なんて珍しい……!
まぁ晴翔の場合、「友人として」が頭につくんでしょうけど。こういうことを素直に言っちゃう晴翔って珍しいですね。よほど私に無視されたのが堪えたようです。
クスリと笑っていると、顔を赤くした晴翔が咳払いをした。
「ほ、ほら、そろそろ腹減らないか?昼食にしよう」
「ええ……そうですね」
恥ずかしがっている晴翔を見て笑いながらついていく。
いやほんと、良い友人を持ったものです。
「近所の定食屋にするか」
「そうですね……あ」
少し早めに歩いて顔を隠そうとするのが、とても可愛らしい。しかし前をあまり見ていなかったのか、電柱に肩をぶつけていた。
「……えーと、大丈夫ですか?」
「大丈夫!大丈夫だから!」
わたわたと慌てて歩き出す。
「前見て歩いて下さいね」
「分かってる!」
少々危なっかしくも定食屋に着いた。
ここにくるのも随分と久し振りな気がする。高校に入るまではしょっちゅう通ってたのになぁ。
晴翔は親子丼で、私は豚のしょうが焼きを注文した。店内はとてもいいの匂いが充満していてお腹がすく。そして久しぶりなので、とても食べるのが楽しみだったりする。おいしそうな食事が運ばれてきて、それぞれが黙々と食事をする。しばらく食べていたのだが、ふと思い出した。
「そういえば、さっき私の肩を掴んで何か言いたそうにしてませんでした?」
「……っ!……!?げほっげほっ!」
「わ、大丈夫ですか」
ご飯をのどに詰まらせてせき込む。涙目で水を流し込んで、なんとか落ち着いたようだ。
「いや……それは、もう、いい」
「そうですか?」
全く目をあわせずに言っているが、良いのだろうか。
「その、なんだ、透と普通に話せるようになれば、俺は、それでいい……今はな」
「そういうものでしょうか……うーん、私も晴翔と話せるようになるのは嬉しいですよ」
「そ、そか……」
顔を赤くしているのがなんとも可愛らしい。
はぁ、私は永遠の友人ポジションですよ、どうせ。
しかし、いよいよもってもうすぐなんですよね……。主人公が入学してきたらどうなってしまうのか、今から胃が痛いです。
今は晴翔の事はそんなに執着するほど好きではない……はずである。
「……?どうした、もう食べないのか?」
「あー……すみません、少々考え事を……」
「前から思ってたけど、何を悩んでいるんだ?俺の事……じゃないんだよ、な?」
「ええ、微妙に違いますね」
「微妙ってなんだ……?」
微妙に関わってくるので無関係ではないのがつらい所である。嘘は言いたくないので、微妙、くらいしか言えない。ただ、まぁそれはこちらの問題なので無関係といえば無関係なのかもしれない。どちらにせよ、その時が来ないと何も分からない。
「ともかく、時間が解決してくれるものだと思っています……ご馳走様です」
「そうか、俺に出来そうな事があったらいつでもいってくれ」
その言葉に少々面食らう。それから苦笑を漏らす。
いや、あのですね。本当は仲直りしない方が良策だったんですよ。仲良くなったら、嫌でも昔を思い出してしまいますから。
ともあれ、そんな事彼に頼めるはずもない。私と話が出来なくなってこれだけ思いつめてしまったのだから……もう彼にそんな事頼めない。
若干諦めてきていますし……まぁ、前世の悪癖といいますか、もうどうにでもなれ。という気持ちが強いといいますか。どうなるか分かりませんから、対策も練りようもありませんし。
「……お気持ちだけ受け取っておきますね」
「……ご馳走様」
カチャリと箸をおいて、僅かに不機嫌そうな顔を浮かべる。私がやんわりと申し出を断ったのが不味かったか。いやでもどうしようもないですし、というか、私でもどうしようもない所まできてますしね。
「さて、まだ時間あるし、どこ行く?」
「え?」
まだどこか行くんですか?という言葉は飲み込んだ。危ない、また不機嫌にさせる所だった。あんまり2人で出歩きたくないんですよね……。さっさと渡してさっさと帰るつもりでいましたから、覚悟が出来ていなかったというかなんというか。
「嫌……か?」
「いえ、嫌ではないのですが……」
「じゃあ、行こう」
私の手をとって強引に引っ張る姿はまるで以前の晴翔のようで……クスリと笑みが零れた。
「仕方ない人ですね」
こうして誘われるのも久し振りな気がする。
一旦、バレンタインのチョコを自宅に置くために晴翔宅に行く事になった。彼の家を見るのも久し振りだな。
「じゃ、ちょっと置いて来るから、待ってて」
「ああ……はい」
玄関でじっと待つ。中でなにやらバタバタという足音が聞こえる。相当焦っているようだ。そんなに慌てなくてもいいのですけどね……。
ガチャリと玄関扉が開けられたが、出て来たのは晴翔ではなかった。
「わぁ!ほんとにいるじゃない!やったわね!」
「だっから!違うって言ってんだろ!?戻れ!?」
「あ、お久し振りです、弘美さん」
完全に部屋着の状態で玄関を開けていて、髪もボサボサなままだ。お昼なのに、今さっき起きてきました……という感じである。彼女は夜の仕事をしているので、恐らく昨日も遅かったのだろう。そして彼女も例の如く若々しい。あれか、乙女ゲーム関連の人は皆若々しいのか。彼女の場合、年齢の方も普通に若いんですけどね。
たしか18才の時に晴翔を産んだみたいですしね。今は確か……34歳程でしょうか。いやぁ、普通に若いですね。
しかし、なんか負けた気分になりますよね……私はどうせ結婚も彼氏すらも……。い、いや、まぁ、人には向き不向きがありますからね!仕方ないです。でもその若さで子供を産む決意をするのも凄いと思います。
結婚してはいないそうなので、彼女だけで立派に晴翔を育て上げている事は素直に凄いと思う。私にはとてもではないが無理だ。そんな事言ってるから彼氏すらできないんでしょうけれど。まぁ、仕方ないでしょう。
弘美さんが手招きして、家に入るように促す。
「おいで!久し振りなんだから、上がっていきなさいよ」
「ちょ、母さん!?」
「いいんですか?……晴翔は嫌がっているようですが」
必死で母親を引き戻そうとしているが、微動だにしていない。母強い。年頃の息子の腕力でも動かないとか。
「いいのよ!バカ息子は無視して!ささ、どうぞ、あがってって!ま、散らかってるんだけどね」
「母さん!」
「では、少しだけお邪魔させて頂きますね」
久し振りに会えた弘美さんとは話をしたいですしね。
リビングに通されて、お茶を出される。3人で机を囲んでお茶を飲むのも久し振りだ。というか、何もかも久し振りである。
……振られた男の家に上がり込むのは如何なモノだろう。と、若干思ったが、まぁ晴翔が友達に戻りたいようなので問題なかろう。晴翔は晴翔でネックレスプレゼントしてくる愚行を犯しているから何も気にしまい。
弘美さんは頬杖をついて、ニッコリと良い笑顔を浮かべている。
「ねぇ、ところでいつから付き合ってるの?」
「げほぉっ!?か、母さんんんっ!?何言ってるんだ!!!」
弘美さんの言葉にむせて涙目になる晴翔。
私は茶をすすった後、ゆっくりとそれを飲み干して笑った。
「弘美さん、残念ながら付き合ってませんよ」
「あら?そうなの?残念だわぁ……」
そういいつつ、チラッと晴翔を睨みつけている。弘美さんから僅かに殺意が放たれていた気がする。息子に殺意って……。ま、まぁ、そこは気のせいとして。
「久し振りに弘美さんと話せて嬉しいです。お元気そうでなによりです」
「ええ!私も嬉しいわよ。バカ息子が変な事しなけりゃずっと会えてたのにね」
「いっ!……ててててっ!?つねるな!?力の限りつねるな!」
物凄い力で腕を抓られている。
あれは、大丈夫なのだろうか……?
しかし、誤解されては困る。
「弘美さん、私が変な事したんですよ。晴翔を責めないでください」
「ふふ、知ってるわよ。何もかもね。だからうちのバカ息子の方が悪いわよ」
え?知ってるって何を?告白を?いや、それだと晴翔が悪いという意味が分からない。抓られて撃沈している晴翔を眺めつつ、首を傾げる。晴翔が何か言ったのだろうか……?
「えぇと……?」
「あー!いいのよ!気にしないで!あ、そうだ。ケーキ買ってくるわね!」
「え?いえ、そんなわざわざ?本当、お構いなく……」
「いいのよ!行ってくるから、ちょっと待っててね」
「え、ちょ、まっ……」
止める間もなく行ってしまわれた……。起きたばかりで疲れているだろうに、申し訳ない事をしました。……家に上がらせて貰わない方が良かったですね。
「……」
「……」
非常に気まずい沈黙が落ちる。
振られた女と、振った男の家で2人きり。
……やっぱり入るべきじゃなかったですね。まさか弘美さんに謀られるとはな。
晴翔を眺めていると、ビクッと震えられた。
「うおあっ……!」
ガタッと湯呑を倒して机に茶が広がっていく。
「ちょ、晴翔、何やってんですか」
「ご、ごめんっ」
布巾を探して、机を拭く。
「あ、俺が拭く」
晴翔は私の手を掴んだ。そこは布巾ではなく手です。もうちょっと落ち着いて。
私の手を掴んだ事が予想外だったのか、慌てて離して手を振る。
「ち、違う!ごめん!」
「良く分かりませんが、とりあえず落ち着いて」
何をそんなに挙動不審になっているのです。
目が合いそうになると、顔ごと逸らされてショックを受ける。君、仲直りしたいって言ってませんでしたか……?
「なんで今、あからさまに目を逸らしたのですか?」
「い、いや、そんなことは……」
「そんなことないことはないでしょう。今でも目、合わせてくれてないのですから」
「い、今は、ちょっと……」
何故、今はちょっとダメなんですか。そりゃ確かに2人きりで気まずいですけど、そんなに嫌がる事ないじゃないですか。
にじり、にじり……と晴翔との距離を詰める。もう少しで手が届く、と言う所で晴翔が立ち上がった。
「ちょっと、自分の部屋行ってくる!」
「えっ!?」
それ今やります!?客人ほったらかしでひきこもります!?
あ、本当に自分の部屋行った……。
というか、今思いましたけど、私が誕生日にお返しであげたシャツ中に着てましたね……なんとなく、ちょっと嬉しいです。
「たっだいま!お待たせ!」
「あ、お帰りなさいませ」
とても良い笑顔の弘美さんが帰ってきました。
ってそのケーキの袋、ちょっと遠い方のものじゃないですか……。どおりでちょっと遅いな、と思いましたよ。
「あれ?我が息子は?」
「ええ、彼なら自室に篭っています」
「我ながら呆れるバカ息子加減!」
大仰に驚いている弘美さんを見てクスクスと笑う。まぁでも、篭ってくれて助かりましたけどね。彼と2人きりは気まずいので。でも……どういう訳か、晴翔がかなり動揺を見せていたので、こちらは冷静になれましたけれど。
弘美さんと談笑しつつ、ケーキを食べる。のんびりとお茶を頂き、しばらくしてから晴翔が戻ってきた。
「じゃあ、そろそろお暇させて頂きますね」
「え!?あ、ああ……」
これ以上いたら邪魔になってしまいますし。晴翔とも少し良好な関係になれそうな気がするので、そこはまぁ、良かったです。良かった……のか?
……まぁいいや、なるようにしかならん。




