追及されました。
生徒会に入って来たのは晴翔だった。
素晴らしいタイミングで帰ってきましたね。この時ほど恨んだことはないです。
「火媛、この資料が何か知っているか?」
「ああ?……いや、知らん」
凄くイラッとしたように「ああ?」って言ってる姿は、ヤンキーにしかみえない。髪の毛も赤いから、よりヤンキーにみえる。柄が悪すぎる。
しかし、資料に目を落として答える顔は、とても真面目なものに早変わりだ。
「火媛も知らんか……何故こんなところに……」
「もうちょっと良く見せてくれ」
そう言って、会長から転校先資料を奪う晴翔。その真剣な面持ちから冷や汗を抑えながら目を逸らす。うん……ちょっと文字書いちゃってるんですけど。バレ、バレる……?
いやぁでも走り書きですからね、気付く訳ないですよきっと、ええ……と、思いつつ目線をあげると、晴翔とバッチリ目が合った。
凄く長い時間見つめていたような気もするし、一瞬だったかもしれない。なんだか恐ろしいものの片鱗を味わっている気がする。
「透の……か?」
なんという洞察力、そもそも私の文字とか覚えてたんですね。
ゴクリ、と生唾を飲み込んで、乾いた喉を潤す。ここであせってはいけない。や、やましいことなど、ないのですから。いや、やましいことだらけなんですけどね。
「ああ……そういえば、忘れていました」
「……」
く、苦しい!苦しいほどに白々しいよ、私。
晴翔の目は据わっているしまっているし、文字を見て私のモノだと確信してしまっている。それなのにどうして会長がこの資料知らないか、と晴翔に尋ねているこの状況。何故なら私のものなのに、私が知らないと言ったからだ。だから会長は帰って来た晴翔に尋ねた。
なにかやましいことを隠してますって言っているようなものだ。
こ、こんな事ならシラを切らずに私のものだといってしまえばよかった。
「そうなのか?」
きょとんとした会長が疑問符を浮かべる。
うう、すみません、ついとっさに嘘を……。
「そうなら何故こんなものを調べているんだ?」
うっ。
さてどうしましょう。
シラを切りとおす事は出来るのでしょうか。そもそも、転校したいと思っている事を隠してどうなるんでしょう。私は遅かれ早かれ転校しますし、下手したら退学になっちゃうレベルですし。傷害罪、なぁんて犯罪を犯しちゃうかもしれないわけで。勿論やりたくないのはやまやまなんだけど、この世界がどういう理屈で動いているか分からない以上、可能性として捨てきれない。
そりゃ、多少の誤差が出て来ているので、なんだかんだ罪は軽くなるような事があるのかもしれないが……希望的観測に過ぎない。現に生徒会長は生徒会長をやっているし、晴翔も副会長だ。水無月は金持ちの人嫌いの「図書室の君」だし、高木はちゃんと教員免許をとれて、この学校に入学してくる。土のつく子はまだ見た事ないが、日向先輩も病弱設定になってしまっている。ここまで設定通りだと希望も失せて来るだろう。
せめて主人公の性格、人となりが分かればもっと良いのだが、生憎その子とはまだ出会っていない。
なので、ここで転校したい事を言ってしまって、相談に乗って貰うってのもアリなんだけど……。説得するような理由がないんですよね。
それも言うべきなのか。理由言わないのに転校だけはしたい、とか……そんなの私でも納得できませんよ。でも言えるわけないでしょうよ。貴方たち全員ゲームの攻略対象者で、私はライバルキャラで、これから入学してくる主人公をイジメるんだぜ!って馬鹿通り越して頭可笑しいヤツですよ。精神病院に連れていかれてバットエンドですよ。それはそれですっごくアウト……。
「もしかして……俺のせいか?」
「……え?」
深刻な顔をした晴翔が小さな声で呟いた。思考の海に浸っていたので、思わず聞き逃すところだった。
「俺と、いて、そんなに気まずかったか?」
「ええと……」
あれっ、何故そんな話に。
確かに告白して振られるという気まずさがマックスな展開でしたけれども、最近ではやっと落ち着いてきたんですよね?定かではないが晴翔もそう思ってくれていたと思ってたんですが。
でも、なるほどそうですね。失恋のあまりショックで転校を考える。ほうほう……ってそれすっごく恥ずかしいんですけど!?
……いや、まてまて。まだそっちの方が良くないでしょうか?いじめやら犯罪やらで転校するより、そちらの方がまだ幾分かマシな気がします。ちょっと恥ずかしいくらいわけないですよね?晴翔がとられる嫉妬で苛めて転校という展開より、晴翔に振られてショックだから転校の方が晴翔への精神的負担も少ないような気がします。
……む、でもどうなんでしょう。いじめ役の私がいなくなることで、物語が変動するのでしょうか。もしくは誰か違う人がその役目を背負う事になったりしない?だとしたら、私はその人を犠牲にして身勝手に逃げ出したという事になる。本来の「私」の役目を放り出して。何も知らないその子が私の尻拭いをして肩身の狭い思いをするのでしょうか。
すうっと冷たい汗が背中を流れる。
え、え、自分のことばっかり考えてましたけど、それってやばくないですか?もし私が転校できた可能性として、有り得なくはないですよね。そりゃもちろん私は平和安全で万々歳なんですけど、その子完全にトバッチリじゃないですか。
物語として、いじめ役ってのは主人公と攻略対象者の愛を深めるイベントとしてかなり重要な比率を秘めていると思う。それ故に、私が抜けたせいで犠牲になる人がいるのだとすれば……。
「……なんだ?転校する気なのか?」
私が考えに浸っている間、会長の中でも何か考えがあったのだろう。その静かな声に怒りが滲んでいる事に気付いて、胆が冷える。
生徒会長はかなり責任感のある人物だ。だから、生徒会として仕事をしている私が無責任にも放り出して他の学校に行きたがっている等、許せないのかもしれない。
無言でこちらに近づいてくる姿が妙に迫力があって、思わず後ずさる。狭い室内なので、あっという間に壁に追い詰められる。もう、下がれない、あとがない。
「転校なんて、させないからな。そんな事したら絶対に、許さない」
「え、は、はい……」
こ、コワイ!ガッチリした体型の男に上から威圧的に睨まれるって相当こわいですよ!これって所謂壁ドンというヤツなのではないか?乙女の憧れですよね!全国の乙女さん……たぶんめっちゃ間違えてますよ!すごく怖いですよ!かつあげされてる気分になりますよ!
恐らく顔も青くなってしまっているのだろう、途端に会長の眉が情けなく下がった。
「あ、いや……そんなに怖がらせるつもりじゃ……すまない」
「う……はい」
会長の空気が和らいで、ほっとする。
ああ……温厚な人が怒ったら怖いってマジですね。しかも顔が整っているから余計に怖い。ガタイもいいですから、恐怖心しかない。
も、もう転校のことは諦めましょう。なんか、転校した後も追って来てすっごく怒られそうな予感がヒシヒシしますし。
それに……いじめ主犯の汚名なら、私がすべて被ってみせましょう。他の子の手を汚させるわけにはいきません。というか、私の本来の役割なんでしょうしね。はぁ……憂鬱ですけれど、私は2度目の人生です。他の子に比べると幸福ですよね、そう思うと、俄然やる気が出てきました。なるべく犯罪っぽいものにならないよう、善処します、主人公のためにもね。
「本当に勝手だと思うが……俺も、転校はさせない」
と、晴翔が真剣な眼差しで私を見つめる。
「機会をくれ、仲直りできる、機会を。もう二度と会えなくなるなんて……絶対に嫌だ。ましてや、俺のせいで、なら、なおさらだ」
さらりと髪をとられて、口付けされた。
なにをやってるんだこいつは。仲直りの合図的な?イタリア人か何かなのか。
スパッとその手を払い落として、晴翔に向き直る。たぶん、私は今、呆れた顔をしていると思う。
「そういう過度な接触、もう二度としないでくださいよ。……そう約束してくれるなら、友達に戻りましょう。転校も、今の所、しません。いいですか?」
「……分かった」
泣きそうな顔で頷かれる。手を払ったのがショックですか、そうですか。いや、普通に払いますよ。友達に戻りたいなら、普通の距離感で来てくださいよ。「今の所」を強調しつつ、とりあえずは現状維持で。
正直、最近は理由が見つからなさ過ぎて面倒になってきていた。人生を左右するようなものだし、面倒になるのもどうかと思うが、他の子を巻き込みたくない。両親には本当に申し訳ないが……あの両親ならきっと大丈夫だと思いますし。
さて、この選択が凶とでるか、吉とでるか。私には分かりかねる。しかし、未来が分かっている、というのは希望なのかもしれない。心積りができますし、何より、最悪の事態は免れる事が可能かもしれないのだ。
さぁ、主人公が入学してからが本当の勝負ですよ!




