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ふたたび出会いました。

 新学期になった。

 凍るような寒さが身に染みる。まぁ、実際凍っているところもあるのですけどね。小学生が凍った水たまりで遊んでいるのを見て、若干和む。私は前世の小学生の時もああいう遊びはした事がない。なにより寒いのが苦手でしたから、雪が降るといつも家に引きこもってましたね。

 日が当たっている所の雪はもうとけているが、日陰にはまだのこっている。なので、まだまだ滑らないように気を付けないといけない。

 そう、たとえばこの道とか、ほぼ氷漬けのような感じに……。ここ通れますでしょうか……。結構滑る地帯のようで、よたよたしている人もちらほら。自転車の人は必ず降りて歩いている。

 ああー……このスチル絵は、主人公が滑ったところを攻略対象者が助ける場所ですね。なんてはた迷惑なスポットでしょう。

 入学して1年目だけそのイベントが起こる。もっとも好感度の高いキャラが助けるんですけど、病弱キャラの日向先輩と、水無月は出ない。たぶん、助けられずに主人公と共にこけるようなキャラだからだろう。それもまた主人公と密着できるイベントのようで良いとは思うんですけどね。まぁ、そもそも日向先輩は命にかかわりそうなのでダメでしょうけど。その場合、主人公はすっころんで保健室のお世話になる。その時に顔をあわせた日向先輩が心配する、ってな具合だ。水無月はどうだったか……あんまり覚えてないですけど、まぁあまり関係ないでしょう。

 そこまで考えて、いざすべり魔スポットへと足を踏み入れる。


「うわぁっ?!」


 ずるりと足が滑った。慎重に歩を進めていたのに、なんという滑りやすさなのだろう。そりゃ何もしらない主人公も滑りますよね!これ!

 後ろ側にこけそうになったので、尻への衝撃に備える。心の準備をしなければならない。

 しかし、私に訪れたのは尻への衝撃ではなく、背中だった。


「大丈夫か?」


 そっと肩に手を添えて語り掛けられる。

 その甘い声に聞き覚えが物凄くあったので、慌てて距離を取ろうとする。


「ちょ、慌てるとまた滑るぞ?」


 晴翔が呆れたようにそう言ってまた引き寄せる。

 うわあああっ!離して下さい!

 グイグイと力の限り押して離れる。

 私が本気で嫌がっているのが分かったのだろう。酷く傷ついた顔をしている。

 私へと伸ばしていた手は行き場をなくして下へと下げられた。

 っていうか、なんで晴翔は平然と立っているの。

 何その安定感。攻略対象者だからなの。


「……おはようございます」

「……おはよう」


 こっちは滑りそうになって足が プルプルしているというのに。なんだかすごく腹が立ちますね。アイススケートのリンクに乗ってる感じですよ、なんか。そしてとても滑りやすいモノを履いている気分です。


「おはよう」

「うぎゃっ!」


 後ろからトンと叩かれて、また滑る。

 乙女にあるまじき声を上げてしまった。しかしそんなものに気をかける程余裕はない、咄嗟に近くにあるモノを掴んで自分の方に引き寄せてしまう。

 すると、何か暖かいものに包まれて、頭の上から声が聞こえて来た。


「と、大丈夫か?」

「あ、会長……ええ、えっと、大丈夫です、すみません、おはようございます」


 さっき肩に手を置いたのは貴様か。

 会長のせいで滑りそうになりましたけど、助かりました。会長も何故そんなの安定してるんでしょうね。不思議。あ、丁度良いです。会長を杖にして行きましょう。

 会長にしがみ付いたままこの魔のスポットを抜ける。ホッと息を吐いて礼を述べる。その後ちょっと疑問に思った事を聞いてみる。


「なんで会長は滑らないんですか?」

「基礎体力をつけているからな」


 ごめん、後半なにいってるか分かりません、会長。

 体力のレベルじゃない気がしますよ、ここ。

 明日から迂回しよう……ちょっと遠いですけど。




 何度目かのテストも終わり、着実に主人公入学の日が近づいてきている。なのに今だに転校先も見つかっていないし、ロクな理由も見つかっていない。これはどうしたものか……と唸る。


「大丈夫ですか?」


 唸っていると、心配そうな顔をした桜さんに声をかけられた。私は笑ってごまかす。


「ああ、いえ、大丈夫ですよ」

「そうですか?」


 そういいつつ、心配な顔はしたままだ。恐らく私の言葉を信用していないのだろう。本当に良い子ですよね、桜さんは……。

 こんな良い子に心配かけられません。でも、転校なんてしたら心配されるでしょうね。だからといって、ここに残って主人公いじめの主犯になったら幻滅されるし。……どうすりゃいいんですか。


 廊下を歩いていると、はたと緑色の髪のイケメンホストを発見した。丁度、校長室から出て来ている所だ。

 ああ、やっぱり入学式の時に入って来るんですね、先生の攻略対象者。目が合ったので、軽くお辞儀をする。先生もホスト笑顔で礼をしてきた。

 顔を上げると、上から下までじっくり見られた。イケメンじゃなかったらセクハラなレベルでガン見された気がする。


「君って、女の子だったの?」

「へ」


 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

 え、覚えられていたんですか?確かにあの時は男装してましたけれども。よく気が付きましたね。化粧はしてないから、人の顔を覚えるのが得意なら気付くのでしょうか。なかなかに凄い特技です。きっとどこの会社でも役に立ちますよ。

 私がフリーズしているのを見て、慌てて手と首を振る。


「わ、あ、いや、ごめん。失礼な事言ったな。っていうか話すの初めてなのに第一声がそれってまずナイよな。本当、ごめん」

「ああ、いえ……チラッとお会いしただけなのによく覚えていらっしゃるなぁと思っていただけですよ。お気になさらないでください」


「あー……すげぇ目立ってたし、君達。まぁ、元々人の顔を覚えるのは得意だしね」


 ははは、と爽やかにホスト笑顔を振りまいている。

 この人ほんとにチャライ見た目ですね。


「い、いつきくん!ま、ちょ待……あー!」


 そんな声と共に何かがバサバサと落ちる音が聞こえる。校長室で誰かが何かを落としたようだ。

 ちなみにその情けない声は校長先生のものではない。男性の声である事に変わりがないが、校長はもっとダンディで落ち着きのある声をしている。間違っても泣きそうでいて、それでいてみずみずしく若いの声ではない。だとすると別の教員か、生徒か……。

 「大丈夫かね」って声をかけているのが校長のダンディな声だ。なんかドジっ子な誰かが何かしらしたのだろう。


「あー……ごめん、俺ちょっと行ってくるわ」

「あ、はい、どうぞ。引きとめてしまって申し訳ありません」


「いやいや、俺が失礼なこといったせいだし……って、ほんと君しっかりしてるね。シュウとは大違いだな……」

「は、はぁ……シュウさん?」


「ああ、あの校長室で叫んでる奴なんだけど」

「樹くんたすけて!」


「ああ、ほんとごめん。どうせまた会えると思うし、じゃあね」


 今に泣きそうになっている声のする所にホストが駆けていく。いやぁ、実に清々しい程ホストでしたね。

 正直、この乙女ゲーム知識がなかったら、教師だとは気付かないところです。見た目だけでは判断しちゃいけませんよねぇ。走る姿もとても絵になります。そういえば、彼はなんの担当でしたっけ。まぁ、すぐに分かる事でしょう。


 生徒会室に行くと、その話題があがった。次年度に入ってくる教師の話だ。生徒会役員なので、その事についても知っておいた方が良いだろうとのことだ。今の化学教師と養護教諭がやめて、新しく2人の教師が入るそうだ。

 ……2人?

 資料を捲って教師2人の情報を読む。といっても、簡単なものしかかいていないのだが。

 化学教師の高木樹、養護教諭の高天原たかまがはらしゅう。……おっと、シュウってさっきの人ですかね。だから2人が校長室に……なるほど。親しそうに下の名前で呼び合っていましたけれど、知り合いなのでしょうか。そんな設定、あったかな……。

 トントンとこめかみを叩いてみるが、それらしき情報に覚えがない。まぁ、同時期に同年代の教師が入って来るのですから、仲良くなって意気投合してもおかしくはないですよね。

 乙女ゲームでのモブキャラの事なんて書いてないのは当然なので、気にする必要もないのか?



 その事を頭の隅にやって、しばらくは書類をまとめる。今日は晴翔が遅れて来るらしいので、2人で黙々と作業をこなす。

 トントンというドアのノックの音が聞こえてきた。晴翔かな、と思い返事をしたが、どうも違う男の人の声だった。


「失礼します。あ」

「あ、先程はどうも」


 入って来たのは高木教師だ。その後ろに見慣れない青年がいる。髪はボサボサで、分厚い眼鏡をかけている。今どき丸眼鏡ってレアですね!綺麗なオレンジの髪は目をひきますね、きちんと整えれば、の話ですけど。


「君、生徒会の子だったんだね。あれだけしっかりしているんだ、なんだか納得してしまったよ」

「ああ、いえいえ。あ、事務補佐の木下透と言います。これからよろしくお願いしますね」


「高木樹だ、入学式からよろしくな!それで、こっちが高天原週で、俺の小学校の時の同級生。まさか同じ学校になるとはおもわなかくて驚いてるんだ」

「あ、う、その、ど、どうも?」


 おどおどしながら礼をされたので、私も礼を返す。近くで見ると、とてもきめ細やかな肌をしている人だと分かった。眼鏡で隠れているが、その顔もなかなか整っている。

 なんか人見知り激しそうだけど、大丈夫なのだろうか。この人が次の養護教諭……って小学校の時の同級生?なにそれどこ情報なんですか?聞いた事ないんですけど……。


「あー……あんまり見てやるな。怯えるから」


 私がじっくり眺めていたせいで、すっかりおびえてしまったようだ。高天原先生が高木教師の後ろで小さくなってしまっている。この人ほんとに大丈夫か、という本音は飲み込みつつ、謝罪する。


「ああ、失礼しました。綺麗な方だと驚きまして」

「……ん?」

「……へ?」

「……え?」


 全員がぽかんとしたようにこちらを見つめてくる。

 その事に焦る。え、何か変な事言いましたか。

 私が心の中で僅かに慌てていると、それ以上に高天原先生が狼狽した。


「は?き、綺麗って、な、え、うわ、ちょ、うわー!?」


 慌てすぎて、最後は棚にぶつかって資料をぶちまけていた。

 ああー……さっき校長室でもこれと同じ事をやらかしたんですねー。


「ええと、すみません、何か失礼なことでもしましたでしょうか」


 首を傾げて高木教師を見上げると、顔を手で覆ってプルプル震えていた。


「ぶふっ……くっ、ははっ!」


 どうやら笑いを抑えているようである。というか、抑え切れてませんよ。なんか爆笑するような事ありましたっけ。でもまぁ、あのこけ方は凄かったと思います。

 会長の方は未だに不機嫌な顔してますけどね。資料をぶちまけられた事がいやだったのだろうか。


「う、いたた……」

「大丈夫ですか?すみません」


 すみません、の前になんか良く分かりませんけど、という本音があったが、口には出さない。

 しゃがみ込んで、こけた高天原先生を覗き込むと、ずれた丸眼鏡から青と赤紫のオッドアイがみえた。まぁ、なんて珍しい配色……。なんか綺麗な宝石のようですね。高天原先生は慌てて眼鏡をかけ直して、頭を下げる。


「すみません、資料が、ぐちゃぐちゃに……僕はいつもこうだ……」


 今にも泣きそうである。


「いえ、それはいいんですけど。お怪我はありませんか?」

「え?あ、はい……」


 全身赤くなってしまっている。全身打撲……ではないと思う。打ったのは頭とか背中ですし。でもまぁ、養護教諭ですから、自分の怪我もどの程度か分かる……でしょうか?たんこぶなんか出来てないだろうか、と高天原先生の頭に触れてみると、そのオレンジの髪はふあふあしてて実に触り心地が良かった。おお……!これはなんというか、翼に次ぐほどの威力。


「もう大丈夫だろう」


 そう言って、高天原先生の首根っこを掴んで、立ち上がらせたのは会長だ。あの会長、仮にもその人先生になる人なんですけど……その猫のような扱いはどうなんでしょう。


「ま、いつものことだし大丈夫だろ」


 からから笑いながら会長から高天原先生を回収している高木教師。それはある意味、本当に大丈夫なのだろうか……。


「資料散らかして悪かったな。手伝おうか?」

「いえ、この程度でしたらなんら問題はないですよ。私こそ失礼しました」


「ああ、じゃあこれ以上ちらかさないよう退散させてもらおう。また4月に」

「ええ、それでは……」


 慌ただしく出て行く2人の先生。

 あ、会長自己紹介してないんじゃ……?なんで事務補佐だけ名乗って会長を紹介しなかったんだろう……ま、まぁ、また会えますよね、ええ。


「随分と騒がしい先生だったな」

「ええ、そうですね……」


「心配だな」

「え!?……ええ、そ、そうですね」


 言っちゃった!と思いつつ頷く。私もあの人が養護教諭になるのは心配なのである。


「さて、片づけますね」

「手伝う」


「え?いいですよ、これくらい……」

「まぁまぁ、ちょっと体を動かしたいんだ。手伝わせてくれ」


「ああ、そうですね。それではやりましょうか」


 ずっと座る続けていては肩こりますもんねぇ。まぁ、片付けも肩こりそうですけど。拾い集める程度ならちょっとした良い運動になるかな?

 散らかってしまった紙を拾っていると、会長がその1つを手に取って首を傾げた。


「どうされました?」

「いや、こんな資料あったかなぁ……と」


「どれで……す」


 うわっ!

 という声は出さずに済んだ。

 会長が手にしていたのは、私が転校するために調べた情報たちだった。そういえば、昨日ここに持ってきてて、誰もいないからって広げていた。そこに晴翔が慌てて入って来たから他の資料と共に挟んだんでした。そしてそのままそこの棚に片づけて……うっかり忘れてたってレベルじゃねぇぞ!なんでそんなもんわすれるんだ!


「他校の詳細な……転校条件の情報だな」

「なんなんでしょうね……」


「ふむ……透も知らないか。では火媛にも聞くか」

「……!?」


 え!晴翔に!?いやいや、晴翔も分からないとおもいますよ!?っていうか、これは大丈夫な流れなのだろうか?このままシラを切りとおせるのか?

 内心冷や汗がダラダラ流れているが、表面にはなるべく出さないようにする。


「えーと……別にきかなくてもいいんじゃないかなぁ、って」

「何故だ?もし何かの報告モレだとしたら大変だぞ?きちんと管理はしないといけないだろう。会長として、当然だと思うが」


 わぁ!それもそうですね!えらいです!今日ほど会長にドジっ子になって欲しいと願った日はありませんよ!

 感心して良いやら、恨んで良いやらなんだか泣きたい気分になった。

 そこで丁度生徒会の扉が開かれた。

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