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別視点の話。

過去話別視点。

後半翼視点入りますご注意下さい。

「おまえ、なまえなんていうんだ?」


 俺はそう話しかけた。

 いつも隅っこで本を読んで難しい顔をしている子だった。漆黒の髪に濡れた瞳、桜色に色づけられた綺麗な唇。澄み切った綺麗な白い肌、そのどれもが完璧に配置されている、人形のような女の子。何処か遠くを見つめているような大人っぽい子だった。

 1人でいるが、それが自然で、というか大人っぽい雰囲気が近寄りがたいのである。でも俺はどうしてもその子が気になったのだ。

 声をかけた事によって、彼女と目が合う。

 その瞬間、時間がとまったかのようだった。ほんのわずかな時間だったのかもしれない。でも俺には永遠のように思えた。

 彼女の瞳に見惚れていた。

 が、彼女は何も答えてはくれなかった。

 少し戸惑いがちに口元に手を当てて、俺の様子を窺っている。彼女の視界におさまっている、という事が、妙に緊張した事を今でも覚えている。


「なぁなぁ、だまってないで。なまえ、おしえてくれよ」


 彼女が黙っている事に耐えられなくなって、彼女の本を叩いて気まずさをごまかす。妙に緊張する雰囲気を放つ子なのだ。

 彼女はゆっくりと、口を開く。


「木下。木下透」

「ふーん、よろしくな!とーる!俺は晴翔!」


 今でも、その時の事は覚えている。彼女と会話できたことが嬉しくて、にやけた顔が戻らなかった。

 落ち着いた雰囲気の彼女は、男子生徒から密かにもてていた。実際に喋るといつも難しい言葉をしゃべって、本当に大人みたいな子だった。いくら勉強しても、透の読んでいる本を理解する事は出来なかった。いつも彼女の背中を追いかけていた気がする。


「遊ぼうぜ!とおる!」


 難しい本を読む透の腕をとって強引に遊びに誘う。透は困惑しながらも、やれやれ、と肩を竦めながらついてきてくれる。習い事を沢山している透は、なんだかんだいいながら時間を作って俺と遊んでくれる。とっつきにくいが、彼女がとても優しい事を俺はしっている。その優しさに甘えて、俺は無理矢理彼女を引っ張り回していた。


 そんな時、彼女が熱を出して休んだ。

 熱が高くて今にも死にそうにうなされてて、気が気じゃなかった。今まで彼女のそんな姿を見た事がなくて、落ち着かない。ずっと手を繋いで、彼女をいる事を確かめたかった。「大丈夫」と自分に言い聞かせるように口に出す。そうすると、本当に大丈夫になる気がするのだ。


「晴翔」


 辛そうな声を出されてハッと顔を上げる。ちゃんと起きていてくれて、思わず声に安堵が混じる。


「何?」


 目が潤み、顔も赤くなっていて、つらそうだ。しかし彼女の理知的な瞳の色は変わらない。

 目が合った瞬間、彼女が微笑んだ。

 いつも笑っている表情とは少し違って見えた。なんだか、ずっと見ていられないような、でも見ていてほしいような。


「そばにいて……」


 それは彼女の初めての弱音だった。

 俺は慌てて手を握り返してしっかり頷く。


「うん、いる。いるから!早く元気になれ!」


 速まる心臓に気づかないまま、俺は彼女を看病し続けた。



……翼視点……


「今思えば、あの時から好きだったのかもしれない」


 俺の部屋の中で神妙な顔で頷く友人を前にして、苦笑いしか出てこない。それを俺に告白されて、俺はどんな顔をすればいいんだ。引いた。ドン引いた。

 ずっと気付かないフリをしていたけれど、ずっとずっと好きで、自分では気づかないようにして、隠してきた。

 透に告白されて酷く動揺して言葉が出なかった。零れてしまった言葉は告白をことわる言葉で、家に帰って呆然としてしまう。

 家で落ち着いた所でようやく自分のした事に気が付いて、後悔して家中の床を転げ回ったそうだ。

 どうしてその後すぐに告白しなおさなかったんだろう。

 告白されたから告白しなおすなんて、都合が良過ぎるというのと、単純に緊張しすぎて出来なかっただけというか。

 なんというかもう、筆舌にしにくい馬鹿である。

 それで今でもうじうじと……俺の前でだけ透への愛を語るこの友人の尻に火を付けて走らせたい。


「いや、俺に言われても」


 男の愛の語らいほど苦痛な事はない。

 あんまり熱くかたらんでくれ、鳥肌が立つ。その情熱を少しでも透本人にでも伝えていたら、何かが変わるかもしれないのに。俺が透にいうのはなにかおかしいし、晴翔の口から語ってもらうのがいいのだが、当の本人はいじけている。

 先日はあの生徒会長と話をしたが、ストレートな彼の愛情が伝わってきて生徒会長の方を応援したくなってきた。透の話をする時、生徒会長の表情が緩んでいるのを俺は見逃しはしなかった。透の態度は普通なので、まだ恋人未満ではあるのだろう。

 しかし、このまま会長の猛攻がとまらなければ圧倒的に不利な事は分かる。どうしたものか、まぁ自業自得なんだけど。今でもこうして悩んでいるのを見ていると、やはり応援したくなるのが人情というもの。長い間応援している身としては会長よりもやはり晴翔と上手く行って欲しいところ。

 彼が深く反省し、後悔している事を知っているのだ。

 覆水盆に返らずとはよくいったものだ。出してしまった言葉はもう戻ってこない。やってしまった今までの事柄も勿論戻ることはない。

 でもこれからの事でどうにか挽回しなければならないだろう。真っ直ぐ透を思っている会長の心情など聞くものではなかった。あんな良い人応援したくなるじゃん……!透と晴翔を2人っきりにするために会長と話したけど、イメージと違って偉そうでもないし穏やかな優しい感じの人だったし。いつも壇上に上がっている所しか見た事なかったけど、とても人が良さそうだった。もう、あの人でもいいんじゃないかな、という気分になるのも仕方ないだろう。しかし是が非でも晴翔には頑張ってもらわなければならない。

 でもどうするかなぁ……想いは伝えないくせにネックレスとかプレゼントしちゃうようなやつだしな。先に俺がみておくべきだった。いや、でもまさかあんなものプレゼントするとは思わないだろう。あれをプレゼントできるなら何故告白しない!透完全に引いてたけどね!

 まだ指輪じゃなくて良かった……とこぼしたら、「指輪のサイズが分からなかった」とのたまった。張り倒してやりたい気分になるのも仕方ないと思う。

 その前にやる事があるだろうこの馬鹿が。

 透が告白した時、晴翔は気付かなかったが、その時すでに両想いだった、という訳だ。ああ、もうほんと、馬鹿だ。馬鹿野郎だこのやろう。

 深く溜息をついていると、メールの返信が来た。透だ。

 透の初詣の誘いをしてあったのだ。さてはて、この誘いも毎度俺がしなければならない情けなさにまた溜息がこぼれそうになる。

 メールを開いて内容を読むと、了承だと書いてあった。もう風邪も良くなったらしい。


「透。初詣行けるってさー」

「……そ、そうか」


 考えただけで緊張するのか、顔がこわばっている。そこまで固くならなくても……もうちょっとリラックスしなければまた行動が裏目に出るというのに。

 冷や汗をながしている友人の頭に手刀を入れる。


「もうちょっと肩の力抜けよ、だから失敗すんだよ。ばーか」

「抜けるもんなら抜いてるわばーか!」


 涙目で反撃された。まぁ、そんな器用な男ならこんなことにはなっていないのだから、それも仕方のない事だろう。

 晴翔と話していると、溜息ばかり出てしまう気がする。これだと俺の幸せも逃げそうだ。


「つか、いけそうか?また2人になる作戦だけども」

「……」


 苦虫を噛み潰したような顔をしている晴翔。

 そんなに緊張するか、そうですか。でも2人にしないと会話すらしないんだよ……。透も晴翔も俺にしか話しかけないのだ。2人に挟まれていると、まるで翻訳家のような気分になる。


「まぁ、どうせ今回もダメだと思うけど、出来る限り頑張れ」

「……ありがとう、翼」


「どういたしまして」


 拾ったからには最後まで面倒みてやるよ、頑張れ。

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