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誘われました。

 体育祭も終わってちょっとだけのんびりできるだろう。他の生徒はテストでひぃひぃ言っていますが、私には割と関係のない事だ。テストが数回、そして確か毎年ハロウィンイベントがあったんでしたか。

 仮装して、持ち寄ったお菓子を交換する楽しいイベントです。これはさほど生徒会が苦労する事もありません。なので、いよいよ本格的に前生徒会メンバーはお役御免という事ですね。本当にお疲れ様です。受験勉強もあるのに、手伝ってくださって本当に感謝したいです。御蔭で無事に乗り切る事が出来ました。文化祭は何人か偽造チケットを持っていた人だとか、チケットすら持っていない人もいたりしましたが、迅速な対応で事なきを得ました。

 それにしても、もう随分と秋も深まってきましたね。こういう時はなんでしょうね。食欲の秋、芸術の秋、行楽の秋……あとはなんでしょうね。まぁいいですけど。

 別室生徒会部屋から出て、空を眺める。これから冬が来て、春になって主人公が来ますか……そろそろ本格的に転校先でも検索かけてみますかね。ううん、出来るんでしょうかね。設定は忠実っぽいですからね……。

 のろのろ歩いていると、前から前副会長の水無月先輩が来た。


「お久しぶりです。あれ、なんだか晴れない顔ですね」

「お久しぶりです、そうでしょうか?」


 確かにちょっと憂鬱な気分ではありましたけど。顔に出てましたか……修行が足りませんね。


「ちょっと疲れているんですよ」

「まぁ、イベント続いてましたからね……当然と言えば当然か……」


 水無月先輩のしみじみとした呟きに苦笑する。去年も色々大変だったようですからね……。

 水無月先輩とわかれ、生徒会室に戻る。


「おかえり、透」

「おかえり」


 2人がほぼ同時に喋り、睨み合う。この2人はいつもこんな感じですねぇ……。

 作業に戻る2人にコーヒーを入れる事にする。会長にはこっそり砂糖を入れましょう。バレても大丈夫な気もしますけど、本人が嫌なら仕方ないですものね……。

 作業している2人の所に飲み物を置いて、私も作業に戻る。

 静かな生徒会室に、紙とペンの音がよく響く。文化祭と体育祭の後処理の書類が大半だ。うう、面倒ですよねこれ。生徒がしないといけないのでしょうか……。




 テストが返却されたが、私のクラスだけは平均点が高かった。それは私の授業の御蔭なのか、なんなのか……皆の頑張りの御蔭ですよね。いくら私が勉強を教えても、本人のやる気次第ですからね。皆さん本当に勉強熱心で嬉しいです。


 恒例の昼授業を終えて、首を回す。

 今の所、分かりにくいという苦情はよせられていないが、どうなんでしょうね。成績が上がっているんですから、それが証明なのでしょうけど……。


「はい、透さん。甘いもので休憩しましょう」

「あ……有難うございます、桜さん」


 今日の昼授業ははやめに切り上げたので、お菓子を頂く事にしよう。毎度手の込んだケーキを頂いて申し訳ないですね。しかし、だんだんと上達している気がします……。前よりさらに上手くなるってどうなっているのでしょう。

 桜さんは私が食べる所を嬉しそうに眺めている。


「はい、お茶です」

「ありがとうございます」


 有難くお茶を貰い受ける。桜さんが入れたお茶は美味しいですからね。ゆっくりと熱いお茶を飲み、喉を潤す。ケーキの甘さと、このお茶の渋みが丁度良い感じですね。なんか、私の好みを熟知しているかのようなお茶の味です。

 桜さんに目を向けると、必ず目があう。そのたびに嬉しそうに微笑まれて、ちょっと照れくさい。


「ふふ」

「ふふふ」


 2人で笑いあっていると、予鈴のチャイムが鳴った。

 なんだか桜さんとお茶していると、穏やかな気分になれますね。


「透さん」

「はい?」


 自分の席に帰ろうとした所で、桜さんに呼び止められる。

 桜さんの方に向き直り、桜さんの言葉を待つ。桜さんは少し俯いて、顔をあからめてもじもじしている。なんだか乙女、という印象を受けて和んでしまう。


「あ、あの、デートしませんか……?」

「デート、ですか?」


「は、はい……!」


 両手を組んで祈るようにして目を瞑っている。断られたらどうしよう、と思っているのか、僅かに震えている。それが微笑ましくて、頬が緩んだ。


「ふふ、いいですよ。いつにしましょうか?」

「い、いいんですか!や、やった!」


 凄く喜んでいる様子に、こちらまで嬉しくなってきた。

 ハロウィンイベント用のお菓子の包装とか、材料を買いに行くのだとか。……ううん、私もお返し用の何かを買わないといけませんね。桜さんに誘われたのは丁度良かったです。そういえば友達とあまり遊んでいませんでしたし、なんだか今から楽しみになって来ましたね。


 返却された自分の満点のテストを机に入れながら、息を吐く。取りあえず、近場の高校は調べてみた。しかし、両親と話すにしても、担任と相談するにしても、色々理由が必要ですよね。

 乙女ゲームの世界で主人公が転校してくるからって理由はありえないとして。どうしましょうかね、本当に……。学力もこちらの方が高いですし、就職も大学へ行くとしても有利だし。それに今は生徒会もしていますし、それを放り出していいものやら。理由をつけるのにしても相当の理由が必要ですよね。

 ううん……ううん……。できれば転校して、私のいないところで好き勝手して欲しいものですけど。難しいんでしょうか。良い案があればいいんですけど。


「何悩んでるんだ?」


 唸っていると、晴翔が話しかけてくる。しかしそれの答えを持っていないので、苦笑いするしかない。

 なにかいい案があればいいんですけど。なかなか思い浮かびませんね。


「ううん……なにもないですよ?」

「……俺のせいか?」


 ヒット!的確なところを突いてきますね。取りあえず苦笑しておこう。お前のせいで悩んでんだよっ!とは流石に言えないです。

 ですが、晴翔だけの問題でもない所がまた問題というか。誰かに相談したら精神科の病院に連れて行かれる可能性がなきにしもあらず。主人公が入学した後、本当にどうなる事か。


「いえ、それだけではありませんよ?」

「という事は、俺も含まれているのか……」


 あ……すみません。言い方が悪かったですかね。でも嘘は言えないですからね……。がっくりと項垂れる晴翔。体全体で「ショックを受けてます」と表現してくるのが凄いと思います。

 暗い表情の晴翔と並んで生徒会室の方へと足を運ぶ。廊下に心地よい秋の風が吹き込む。


「気持ちいい風ですね……」


 立ち止まって開いている窓に近づく。窓枠に手をかけて、少しだけ窓から顔を出すと、爽やかな風が私の頬を撫でていく。

 秋の色に色づいてきた景色をぼんやり眺めていると、晴翔が私の頬に触れて来た。


「ん……え……?」


 僅かに苦し気に私を見つめてくる。その表情が妙に色っぽくて、思わず心臓が跳ねた。

 え?え?何でしょう、今なんで触られているのでしょう。 僅かに震えた晴翔の手がスルリと肌を撫で、首の方に移動する。その感触にビクリと反応してしまった。

 私の反応を見た晴翔が目を細める。


「あ、の……晴翔?」


 晴翔の指の熱さがこちらに移って来たような感じがしてくる。晴翔と視線が絡まり、動けなくなる。


「もう透が俺の事をどうでもいいと思ってても、俺は……透の事を」


 ん、ん……?


「透!」


 会長の叫びでぱっと晴翔が離れる。後ろから会長の手が伸びて私の肩を抱きしめてきた。ぐっと抱き寄せられて、会長の男らしい筋肉の感触がよく分かる。


「何していた……?」


 怒りを孕んだ会長の声がすぐ近くで響く。背の高い会長の声が耳の近くでするので、少し屈んでいると予想。というか、息が僅かにかかってくすぐったい。でも強く抱き寄せられているので振りほどく事も出来なさそうだ。

 回された腕に手を添えて僅かに首を動かし……いや、近い!むりむりむり、振り向けません。会長の美麗な顔がもの凄く近いです。目が瞑れそうでしたよ!

 慌てて前を向いて視線を晴翔に戻す。目の前にいる晴翔は会長を睨みつけている。


「その手を離せよ」

「断る」


 晴翔が寄って来るので、じりじりと後ろに下がっている。

 え、どういう状況なんですか?

 あはは、まるで男2人に取り合われている女性のようではありませんか。自分で言っててなんですけど……絶対ナイと思ってしまった。……すごく虚しい。晴翔は私を完全に友人として大切に思っているだけですし、会長は好きな人がいるはずですしね。そして会長が現在怒っているのは私が困っている様に見えたからでしょうし。それにまぁ、実際困っていたので助かりましたが。

 会長の拘束が緩んだと思ったら、今度は手を掴まれて歩き出す。歩き出して少ししたところで、もう片方の手が掴まれて立ち止まる。勿論掴んだのは晴翔だ。

 驚いて振り返ると、晴翔は一瞬私から顔を背けたものの、再びこちらに視線を戻してきた。燃えるような赤い瞳が僅かに潤み、私を見つめて来ている。その瞳の強さが印象的だ。

 ん?なんかデジャヴ?前にもこうやって腕を掴まれたような気がします。結構前だったような……。


「……痛いのですけど」

「……!」


 私がそういうと、慌てて手を離してくれた。その隙に会長が私を引っ張っていく。

 でもね会長。私達今から同じ場所行くんですけどね?苦笑を浮かべながら、会長に腕を引かれていく。勿論晴翔も後ろからついてくるのを感じながら。

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