文化祭(別サイド)
全く関係ない他校の生徒から見た文化祭です。
後半から僅かに腐臭がします、ご注意下さい。
西南高校の文化祭は、とても活気が溢れていて、その人気は高い。その学校にお金持ちが多く通っているのもあるが、まず人柄が良い人が集まる。イケメンや可愛い子がいるというのも人気が出る要因だろう。
その文化祭のチケットは高値で取引もされたりする貴重なものだったりする。
あたしの場合、普通にトモダチが通っていたから、くれた訳なんだけど。そんな貴重なの、売ったら高いでしょうに。そのトモダチってのは所謂フジョシってヤツみたい。漢字は分かんないけど、あんまり良くないとは聞いた。フジョシって婦女子とは違うのかなぁ。
文化祭の凝った作りのパンフを覗き込む。トモダチのクラスは1年C組だったよね。ふーん。「執事喫茶」ね。あーあー、あの子が好きそうなヤツよね。熱弁してたもの。正直スルーしてるけど。
トモダチの所に行く前に色々見て回る。
おおっ……恰好良い人だなぁ、俳優みたーい。あの人は物凄く美人。女優とかアイドルとかになれそう。うわーハードル高いなぁ。私普通の学校行って良かったカモ。あの子もかなーり可愛い部類だからなぁ、この学校顔で選んでる訳じゃない……よ、ね?……うーん。なんかこれだけ美人とイケメン揃いだと否定できないなぁ。
垂れ幕や、凝った飾り、まるで本物のような花などあったりする。この花……紙か。何この技術、どっからわいてくんの。プロなの?プロになる気なの?
適当にフランクフルトの所にくる。美味しそうな香ばしい香りが食欲をそそる。3人ほど並んでいたので、そこに並ぶ。
わいわいとした賑わいは、いかにも祭りってカンジ。
「みんなぁ!きいてるかぁ!?」
「「きゃああっ!」」
ジャイーンというギターと音と共に男が叫んでいる。その後、女性の黄色い悲鳴があがっていた。なんかどっかでライブやるみたい。えっと、この時間のライブってなんだろ。パンフ開こうとしたけど、丁度前の人が商品を受け取っている所だった。
パンフは取りあえず後にして、取りあえず注文する。
「フランクフルト1つ」
「はい毎度ぉ、何味にしますか?」
「何……味?」
その言葉でようやく張り付けた紙を見た。
腸詰めから手作り!松本農業のソーセージ!
・プレーン
・バジル
・カレー
・激辛スパイス
・内臓
あたしの顔が引き攣る。
え、なにこれ。フランクフルトはフランクフルトじゃないの?後ろに人が来た気配がして、慌てて注文する。
「ば、バジルッ」
「はい、500円です」
小銭は沢山持ってきているので、500円玉を手渡す。それと引き換えにバジルソーセージなるものが手渡された。
後ろがつまるといけないので、横にずれる。
あらためてその店内を見る。そこに生徒が手ずから機械に腸をセットして作っている姿の写真があった。
……の、農業高校、じゃない、わよね……?
そう、ここは農業高校じゃない。進学校だ。もう1度言おう、進学校だ。普通は冷凍のモノを焼くくらいのものだろう。私が中をまじまじ眺めているのに気付いた店員さんが、ニコッと笑いかけてくれる。もはやこの人が職人のように見えて来た。それほど熟練した雰囲気を醸し出している。
「バジルはなんのソースもいらないと思うよ?取りあえず、味わってみなって」
「は、はひ……」
何か勘違いされている気がする。あ、ここにケチャップとマスタードがあるからかな。私が何かつけようとしていると思ったらしい。そうか……ケチャップもトマトから作っているのか……なにこの店。
取りあえず、騙されたと思って1口。
ぷちっぷりっじゅわっ。
噛んだ時は皮がプチッとはじけ、中の肉質はふんわりと柔らかく、それでいてぷりっとした食感もある。肉汁が滴るほど溢れてくる。その肉汁でもさっぱりとしていると感じるのは、やはりバジルの御蔭か。爽やかなバジルが絶妙だった。
ハッとして店主を見ると、満足げに頷いた。
……い、イカン。なんか幻覚みえたきがする。
完全に肉屋の店主に見えたワ……ここ、怖い。
美味しい、とても美味しい。でも、これは学生の作るレベルではない。他の場所も見てみると、焼きそばは麺から、綿あめは砂糖の現地まで行くという。……ここ、マジでなんなの?普通じゃない。普通の学校じゃない。
人混みを早足で歩き、少し空いている所にきて、心を落ち着ける。
「いぇえええええっ!」
ジャーンとバンドが歌っている声がする。
その歌声はプロ並みだった。どこに出しても恥ずかしくない程の声。思わず聞き惚れる歌声だった。
これって、プロが来ているの……?恐る恐るライブの音がする所に近づいて行く。遠くの方に、金髪のボーカルが歌っているのが見えた。正直、それ以上向こうに行けない。熱狂的過ぎる女子達の壁で。
パンフを見て確かめる。
別に、プロを呼んだとかは書かれていない。という事は、こちらも学生なのだろうか。
「な、なんなの、ここ……」
呆然としたまま、トモダチのクラスに早めに行く事にした。取りあえず顔を見せて帰ってしまおう。ナニヤラ自分の価値観がすべて塗り替えられてしまう恐怖が襲う。
したした歩いていると、男2人が前に出てくる。
なんだ?と思って横にずれたが、同じ方向にずれてくる。避ける方向が被ったのかな?とおもって男の顔をみると、ニヤついていた。
明らかにワザと塞いでいると、すぐに分かった。そんでもって、こいつらは他校の人間だともすぐに分かった。なんか、オーラが違うのだ。チンピラオーラだ。さっきの職人や、イキイキしている他の生徒とは明らかに違う。どちらかというと私が通っている学校のフツーの価値観の持ち主と言っても過言ではないだろう。この雰囲気にアテられてちょっとハイにでもなったのか。
「お嬢ちゃん、1人?俺らと回らねぇ?」
「いえ、あの」
「あはは、大丈夫。ちょっと案内するだけだし」
「と、トモダチんとこ行くところなんで!」
「あーその子もかわいー?なんだったらその子も回ろうよ、ね?」
ヘラヘラ笑いながら私の腕を掴んでくる。ちょ、やめろ!と叫ぼうと思ったその時。
「待ってください」
高すぎず、低すぎない、それでいてとても澄んだ声が響く。そして、黒い衣装をまとった人が私の腕を掴んだ男の腕を掴む。いや、ヤヤコシイな。取りあえずなんか知らない人が仲裁に入って来たらしい。
パッと顔を上げて驚愕した。
強い意思を持った綺麗な瞳、整って潤った唇、艶やかな黒髪を後ろで縛り、執事服をその身に纏ったとても麗しい男性だった。
「「「ひっ!?」」」
超絶綺麗な男性を前にして、ナンパ男達が悲鳴をあげた。いや、私の声もちょっと混じった。私の悲鳴を聞いて、綺麗な人は困ったように目線を彷徨わせている。
「えっと、助けて良いんだよ……ね?」と目で訴えて来ていて、無性に可愛かった。
私は無言でコクリと頷く。
綺麗な人は、それでホッとしたようでナンパ男に向き直る。ナンパ男の手はもう離されている。綺麗な人の登場に驚きすぎて離したようだった。いやぁ、うん、私もビビッたんだよ。気持ち、ワカル。
「無理な勧誘はいけませんよ」
「な、なな、お、お前には、関係ない、だろ」
もうナンパ男には全く気迫がない。完全におされているんだけど……なんかプライドでも働いているのか、逃げ出したりせずに言い返している。そんなプライド捨てちまえ。絶対勝てないよ?
言われた美麗超人は、クスリと周りを魅了するほど素敵な笑みを浮かべて、緩く首を振った。
「関係あります。私はこの学校の生徒会に務めておりますので、不埒な行いの多くはこちらの裁量に委ねられ、判断されます。宜しければ、チケットの確認をさせて頂きたい。それと、それを渡した生徒についても詳しくお聞きしたいのですが」
「な、な……」
淡々と事務的に話す美麗超人と違い、ナンパ男は顔を青くさせていっている。なんかその反応だと、チケット持ってないように見えるなぁ。チケット貰えなかった人間がたまぁに潜り込むって聞くし。
「う、うるせぇっ!顔が良いからって調子に乗るなっ」
腕を大きく上にあげて美麗超人を殴ろうとして……スッと空気が冷えた気がした。
そして、賑やかだった音が……消えた。
いや、完全に消えた訳ではない。遠くでは賑わった声が聞こえてくる。そう、この周りだけ静かになっているのだ。
周りをみると、ここの生徒と思わしき人々が、静かに怒った目線を向けている。ナンパ男達は、四面楚歌のような状態に気付いて青ざめた。
ここにいる生徒の視線に敵意がこもっている。「分かっているよな?それを振り下ろしたらお前は海の底に沈むけど、覚悟はあるんだろうな?」という心の声まで伝わってきそうだった。
それほどの憎しみをナンパ男に向けている。
私が向けられた訳ではないのに、背筋が凍る。
こ……怖い!
「す、すいませんっしたぁ!」
2人が慌てて逃げ出す。
美麗超人は、冷たい目線を向けながら、スマホを取り出して何やら呟いている。「拒否者脱走、2名、南館へ向かう。特徴……」怖いのでこれ以上は聞かない。
そっとこの騒ぎから抜け出そうとゆっくりと動く。
「あ、待ってください」
捕まった。もう逃げられない。だめだ解放してくれ。恐る恐る顔を上げると、目が瞑れそうな笑顔を向けられた。グゥッ!これは生物なのか!?モデルでもやってろ!
「怖かったでしょう。どうですか?私のクラスは喫茶をしているのです。少しお茶をしてみては?美味しいですよ」
「いや……い……いきます!よろこんで!」
断ろうと思ったが、周りの「え?まじで?こいつ断っちゃうの?」という目線に耐えきれなくて行く事になった。
弱いあたしを許して……。
怖々ついていくと、案内されたのはトモダチのクラスだった。
「あれぇ、ここ……あ、トモダチがこのクラスにいるんですよ」
あたしの反応に小首を傾げているので、答える。
「ああ、そうでしたか。良かったです。図らずも、ご案内する事が出来たようで」
ほんわりと和むような笑みを浮かべられて、心臓が跳ねる。いやいやいや、イケメンだからってそんな、ねぇ?周りをみると、ポウッとしていた。
ウン、まともだったわ、あたし。
普通にドキッとするよね、こんなイケメン。いや、綺麗系?女装したら普通に女の人でもイケソウ……。
「そのお友達のお名前をお聞きしても?」
「あっと……佐伯桃子っていうんですけど」
「ああ、佐伯さんの……ここに座って待ってて頂けますか?お呼びしてきます」
執事服で恭しくお辞儀をされて、なんか……。何これ……なんか無性に嬉しいんだけど。しかもその執事は超絶美麗で穏やかそうで、ちょっぴり可愛らしいとか。やっばいなぁ、マジで価値観かわりそう。
ちょっと俯いてもじもじしていると、目の前にアイスティーとシフォンケーキが出される。
「え、なんで……」
「今宵はサービスですよ、お嬢様」
バッと顔をあげると、明るい黄緑色の髪の青年がウインクしてきた。この人もイケメン!荻っていうのか……。ネームプレートをチラッとみて確認。
「なんか襲われたんだって?これはさっきの、木下っていうんだけど……木下の奢り」
「え、え、そんな!悪いです」
「まぁまぁ、受け取ってぇ。受け取って貰わないと俺も困るしぃ」
ひらひらと手を振って他のお客の所にいくイケメン。良く周りを見ると、殆どイケメンだった。眼鏡インテリ、寡黙系、チャラ男系、爽やか系……。なんなのここ……。イケメンしかいないのか……。
はぁ、と溜息をついて下を向くと、アイスが溶けていっている。うえっ!?アイス?ちょっと待って、冷凍庫完備してるの?
勿体ないし、美味しそうだから、食べてみる事にした。
ほわんほわっふあっ。
口に入れると解けていくほどに柔らかい。なのにパサパサとはしていない。しっとりと、どこかもっちりしているのに、ふわっとしている。あまり甘さを主張しておらず、隣のアイスと共に頂くと、また格別。
こんなに美味しいシフォンケーキ、食べた事ない!
きっとどんな店に行っても食べられない程の仕上がりに、興奮を隠せない。これが、これが学生の作ったお菓子だっていうの?ああ、美味しい……全部食べるのが勿体ない……でも残したら勿体ない……。このシフォンケーキを作った子は誰なの!?友達になりたい!
ほふほふと口を緩めながらケーキを食べていると、良く見知ったトモダチがこちらに来ていた。
私の向かいの席に座り、ゲン○ウポーズを決める。ゲ○ドウって誰なんだろうね。前に彼女が言っているのを覚えているだけで、ゲンド○が誰なのかは知らない。
少しだけ眼鏡がずれているのはいつものこと。ちょっぴり根暗で、でも内に秘めた魂と情熱は計り知れない。それがモモコだった。
「どやぁ」
「いや、うん……」
いきなりどやぁ言われても普通分からんし。文化祭どうだったか?って聞きたい訳ね?伊達に長年トモダチやってないよ。
「楽しいよ。えっと……さっきの木下くんって子に助けられたし」
あたしの言葉に、モモコがニヤリと笑う。
「知っているか?木下さんは……女の子なのよ」
「ごふっ」
咽た。丁度飲み物を飲んでいた時だったので、口内のアイスティーを彼女の顔にぶちまけた。
しかし彼女は、ふっ、と溜息を漏らすだけで怒ってはいない。昔から、フジョシ向けのモノを侮辱しない限りは穏やかなモモコだ。顔に何をぶちまけても怒らないだろう。いや、まぁ普通に謝るけども。
「げほっ……ごめん」
「いいのよ、誰もが通る道よね」
そう言って、遠い目をするモモコ何やら深い事を考えていそうな顔をしている。こういう時は大抵ロクでもない事を考えている。深くは突っ込むまい。
……でも、女の人だったのか。確かに、綺麗だったよ。うん、イケルイケル……。
「きゃあっ」と黄色い悲鳴があがったので、そちらに顔を向ける。すると、これまた驚く。まるで彫刻のような完璧な顔をした男が、王様のような恰好で教室の入り口に立っていた。その髪は漆黒……そして瞳は夜空に浮かぶ月のような色をしていた。
イケメン……だが、話しかけられるような雰囲気の持ち主ではない。完璧すぎて、どこか冷たささえ感じられるのだ。他の人も同様に、話しかける勇気はでないようだ。
「キタワコレ」
何やら密かに興奮しているモモコ。これは非常に興奮している時の顔だった。なんだろう、あの男の人が好きなのかな。
すると、さっき私を助けてくれた美麗な……えっと女の人、なんだよね?木下さん……がイケメンに話しかけている。
すると、鋭い雰囲気が急に柔らかくなった。彼が木下さんを前にすると、僅かに笑うのだ!
でも、なんか、その……言ってはなんだが、なんだか男の人同士がいちゃついているような……そんな空気で。あれ、でも女の人だから普通なのかも。だとしたら健全……?いや、でも彼らなら男同士でもアリな気がしてきた。美し過ぎるのだ、2人共。性別の域を超えている。
こんなのってアリなの……?
「到達したか、我が同士……」
「えっ……?」
モモコが嬉しそうに微笑んでいる。○ンドウポーズだ。
「男同士、アリならフジョシ……それすなわち、腐った女子である」
唐突に、理解した。
そうか、これが……腐……。
この気持ちがそうなの?
くっ……でも、それはイケナイことでしょう?
あたしが耐えていると、モモコがすっと写真を出してくる。それは、あの王様と執事が制服で相合い傘をしている写真。
天啓がおりた。
私はモモコと握手を交わす。
「腐腐腐……ようこそ、こちら側へ」
あたしはイケナイ扉を開いてしまったようです。
お母さん、親不孝なあたしをお許しください。
他校の生徒も犠牲となったのだ……。




