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演技しました。

 真っ直ぐで強い眼差しを受けて、私は息をのむ。彫刻のように整った彼の顔に目を逸らす事ができない。


「……だから、透。付き合ってくれ」

「……ええ、そう言う事なら、引き受けましょう」


 なんだかここだけ聞くと誤解を招きそうな会話だった。

 説明しましょう。会長のクラスでは「白雪姫」という劇をする事が決定している。そして王子役は勿論会長。そして姫役は、攻略対象者の日向ひゅうが先輩。そう、男の人なのだ。何故、白雪姫が男なのだろう。

 確かに日向先輩は華奢だし、ドレスとか来たら似合ってしまいそうな予感がヒシヒシと伝わってくるが。だからと言って男にする必要性はないと思う。誰かが趣味に走っているのは言うまでもないだろう。

 でも、誰か女の子を入れようにも、会長を前にして演技など出来ないとのたまうのだ。確かに男でも委縮してしまうようなその美貌の冷たさは分かる。じゃあ何故王子役にしたのだ。もっと気安く接する事の出来る男子でも良かったはずだ。

 まぁ会長の美貌ならばさもありなん。集客率は高くなることだろう。いわば観賞用イケメンだ。まさに彫刻。まぁ普通に動きますけどね。

 そして、何を付き合ってくれというかというと、舞台の稽古を付き合ってくれという事らしい。

 そう言う事なら、全然付き合えます。

 台本を覗くと、なぜか魔女がいなかった。

 代わりに、間男という登場人物が多くをしめている。え、マジでなんですか、これ?誰なんですか、これ?え、え……?し、白雪姫なんですよね?

 と、思わず台本の表紙を確認してしまう。


「鏡よ鏡……世界で最も美しい男はだあれ?」


 ちょっと待て。何このセリフ。

 バッと顔を上げて会長の顔を見ると、サッと目を逸らされた。どうやら、会長も可笑しいと思っているようです。この台本を書いた人は誰なんでしょう。続きを読むのが恐ろしいですね。

 会長と日向先輩の会話が多いようです。なんというか……うん。こういうのが好みな方は喜びそうですね。

 軽く先を読んで、溜息が零れる。

 これは誰の趣味なんでしょうね……?日向先輩も、お可哀想です。会長は日向先輩のシーンだけじゃなくて、間男とのセリフもありますね。間男と言い争うシーンとか長いです。大変ですねぇ……。


「えっと、取りあえずセリフが間違えていないか。とかを確認すればいいんですよね」

「あ、ああ……」


 取り合えず会長のセリフ確認。


「何故、何故だ間男……!何故白雪姫に手を出した!」

「ごほっ」


 ……凄く上手だから、余計に笑いがこみあげてきました。咳をしてごまかしましたが、胡乱な目で見つめられてしまいました。だって仕方ないじゃないですか。こんなの笑うしかないでしょう。


「……透?今笑っただろう」

「……わ、笑って、いません」


 若干声が震えてしまいました。すみません、耐えてはいます。


「下手か?」

「……い、いいえ。とても上手です、とっても」

「嘘付け」


 いいえ、嘘じゃないですとも!とってもうまかったです!ただ、上手くて笑えると言うのが難儀な所です。

 顔を逸らしていると、会長に腕を掴まれてしまいました。


「ちょっと透も言ってみろ。なんで俺ばっかり言わなきゃならない」

「いえいえいえ、私は出ませんし!」

「……言え」


 会長に詰め寄られる。会長の美麗な顔が間近に迫って、心臓に悪い。押し返そうと思ったのだが、両腕を掴まれているのでそれも叶わない。流石に力が強いですね。


「……っ近いです、会長……!」

「言うまで離さない」


 迫る会長の顔も赤い。余程私にセリフを言わせたいようですね。羞恥に頬を染めてまで言わせたいんですか。

 ……ええい、分かりましたよ!仕方ないですね。……ええと、台本……は今は取れないですし。今覚えているセリフを言えば良いですかね。


「だって、ずるい……私だって貴方の事が好きなのに……白雪姫ばっかり……」


 う……恥ずかしいですね。顔が熱くなるのが分かる。間男、なんてセリフを吐くんだ。会長がさっき言ったセリフの次のセリフですね。丁度見ていたので、これくらいしかパッと浮かびませんでした。


「……っ!!」


 上を見上げると、会長がぎょっとした顔を浮かべた状態で真っ赤になっていた。

 パッと私から腕を離して、後ずさる。


「あ、かいちょ……あぶなっ」

「え、うおっ!?」


 後ろを見ていなかったせいで、下に置いてあった段ボールに足を突っ込んで転びそうになる。慌てて会長の腕を掴みましたが、男の体重を支え切る事は出来ずに、私までこけてしまった。

 その勢いで会長の鎖骨に口をぶつけてしまった。


「~~~っ!」


 痛くて唸った。口を覆って涙目になる。歯、かけていませんよね……?あ、鉄の味がします。これは切りましたね。まぁ切るくらいならいいですけど……。


「……つつ。透、大丈夫か?」

「ええと、はい。すみません、余計な手間をかけさせてしまったようで」

「いや、御蔭で頭は打たなかった、ありがとう」

「そういって頂けると助かりま……あ」


 なんて事でしょう。会長の鎖骨に傷が出来てしまったようです。これは全国の乙女ゲーム好きの女の子に殺される。ポケットからハンカチを取り出して傷を抑える。


「わぁ!す、すすすみません!傷が……!」

「え、あ……そう、なのか。って透!唇から血が」


 会長の無骨な手が唇をなぞる。


「……すみません。口が当たってしまったようで」

「……え」


 ピシリと固まった後、先程よりも赤くなった。変な汗をかいており、口をパクパクさせている。え、なんか打ちどころが悪かったのでしょうか。会長の顔色を覗こうとするが、サッと顔を逸らされて、肩を押された。


「とり、とりとり」

「……鳥?」


 肩を押す手が震えている。服越しでも分かる位会長の手が熱い。心配になって会長の手を触ると、とても熱くなっていた。え、大丈夫でしょうか、これ。

 手を触られた会長が、ビクリと震える。


「透!」

「は、はい!」


 大きな声で呼ばれて驚く。とても深刻で切実そうな叫びに、なんだか不安になってきました。やはり、どこか打ちどころが悪かったのでしょうか。


「とり、とりあえず、俺の上からどいてくれないか」

「……あ」


 自分の今の体勢を見て、私も顔が熱くなった。転んだ拍子に会長の上に座っていたのだった。馬乗りの状態のまま、会長と会話していた。

 なんという失態。慌てすぎてました。自分の間抜けさ加減に、眩暈がしそうです。慌てて会長の上からどきます。

 ……会長の腹筋、とても良いモノでしたね。鍛え上げられてて、良い感触でしたってうわぁああ!今私は何を考えているんです!?

 思わず頭を抱えて、謝罪する。


「……度々、すみません」

「……いや、俺の方こそ……」


 ん?会長はなにも悪い事をしていないはずです。私が会長の腕を掴んだせいで鎖骨に怪我させちゃいましたし、いつまでも上に乗っかっちゃってましたし。それに、若干変な事も考えた罪悪感が……本当にすみません。

 会長は赤い顔のまま、鏡の所に行って、鎖骨を確認しているようです。怪我している周りをなぞって……。


「すみません」

「うわっ!?」


 後ろから声をかけてビクリと震えて驚かれる。


「ななんだ?」

「鎖骨、すみません。消毒させて下さい」

「……い、いや。……いい」


 怯えたような顔をされて断られた。いや、なんでですか。なんで怯えているのですか。攻撃なんてしませんよ。この怪我だって不可抗力です。


「せめて消毒くらいさせて下さい。罪滅ぼしです。自分ではやり辛いでしょうし」

「じゃあ……透の唇の消毒は、俺が」


 会長のセリフに首を傾げる。


「え?いいですよ。口なんて、舐めとけば治ります」

「……じゃあ、俺の消毒もしなくていい」


 え、なんですか?その子供みたいな理屈は。むっとして会長を睨むと、さっと顔を逸らされた。


「……分かりました。口の消毒していいですから、頼みますから鎖骨を手当てさせて下さい」


 傷でも残ったら大変ですからね。せっかく綺麗な肌をしているのに、私のせいで……なんて恐ろしいです。口の消毒で納得してくれるなら、いくらだってさせてあげます。


「え?い、いや……」


 何故か狼狽えている会長を水道の横に立たせる。ハンカチを水で濡らせて傷を優しく拭う。水が冷たかったのか、それとも傷が染みたのか、会長の体が僅かに後ろに下がる。

 会長の顔を睨むと、「うっ」という声を漏らして顔を背けた。

 幸いにして傷は深くありませんね。どちらかというと、私の血が付いてたみたいです……本当に重ね重ね申し訳ないですね。でもこれなら水で洗う程度で大丈夫ですかね。洗いにくいので濡れたハンカチでぬぐいましたが、こういう処置で大丈夫でしたかね?


「念の為保健室で……」

「いや、大げさだろう」


 慌てて会長が私を止める。大げさじゃないですよ……会長に傷なんて絶対ダメです。もうちょっと大事にした方がいいですよ。そうしてくれないと、私の命が危ないですからね。乙女ゲーム大好きな乙女に命を狙われそうだ。


「それより、今度は透だ」

「ああ……」


 そういえば、そんな事も言ってましたっけ。どうしても手当てしたくて、言いましたが……まぁ二言はありません。

 会長が私の手からハンカチを奪い取り、水で濡らせる。そして私の顎をすくい、上に向かせる。

 会長の美麗な顔が近過ぎる。顔を背ける事も出来ないので、目を瞑る事にした。


「……っ」


 会長から、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

 顎に添えられている手が僅かに震えている気がする。


 ガチャッ、ガタガタガタッ!


「か、会長!?」


 誰かが扉から入って来た音がして、目を開いたら、会長が盛大に段ボールの箱に埋まっていた。何が起こったのか分からないが、私も良く分かっていない。


「……何してるんだ?」


 晴翔が怪訝そうな声をあげる。

 いや、本当……私の方が聞きたい位ですよ。とりあえず、会長を救出しましょう。

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