試着しました。
「おおー!」
私のクラスで歓声が上がる。現在私の教室では「執事喫茶」で使われる執事服の試着が行われているのだ。
少し甘い感じで緩くて可愛い執事。その名は金城翼。彼の恰好良さと可愛さを兼ね備えた執事姿にクラス全員が見惚れる。翼が執事をやったなら、小さな失敗も笑って許しそうだ。
少し気だるげな執事。その名は火媛晴翔。赤い髪と瞳には燃える様な熱さ感じさせる。少しだけ着崩すその姿は妙に色気を感じさせ、主と執事の禁断の愛を想像するに容易いだろう。
穏やかな微笑を湛える男装執事。その名は木下透。どこまでも研ぎ澄まされたその所作には誰もが見惚れる。完璧な執事であるその姿からは想像しにくいが女性である。惜しい、何かが非常に惜しい。でもある意味美味しい!
「どんなナレーションだ」
「いたっ」
クラス委員長の荻くんのナレーションに晴翔が突っ込みを入れる。荻くんも中々恰好良いので、執事の恰好をしている。かなりノリが良い男子のようだ。
翼、晴翔、私が並ぶと、写真撮影大会が行われる。女子の鼻息は荒い。執事の服を制作した女の子たちは寝不足みたいで目を血走らせてはぁはぁ言っているので怖い。その中に相川さんも入っている。大丈夫ですか、相川さん。
チラッと晴翔を伺う。少し窮屈なのか、首元を少し緩める姿が色っぽい。いやいや、ダメだ。諦めるんじゃなかったのか。いい加減諦めたいのに、やっぱり晴翔と話していると嬉しいのだ。まだぎこちなさは残っているけれど、話せるまでにはなった。でも、それだとまた諦めが付きにくくなってしまう。つーか恰好良過ぎだろ、それ……。ドキドキしてしまう自分がなんだか負けた気分だ。ハアと溜息をついてしまった。いけませんね、幸せが逃げてしまいます。
カシャ
翼が私と晴翔を撮影してきた。その写真を眺めてニヤニヤしている翼。なんだ、どうした。翼も欲しかったのか?じゃあ3人で撮りましょう。
「翼、3人で撮りましょうか?」
「いやぁ?べっつにー?」
私の提案に首を振っている。……良く分からないなぁ。ニヤニヤした翼は意味ありげに晴翔を見つめている。
「翼、ちょっと」
「ぐえっ!?ちょちょちょ!首は掴んじゃダメだろぉっ!?」
翼の顔にイラッとしたのだろう。晴翔が翼を引きずって出て行く。それを見送った後、私は着替える事にした。サイズもこれで大丈夫だし、生徒会の仕事もあるからな。他の執事服の男子も晴翔達の後を追って着替えるようだ。
教室の隅で仕切りを作ってあるので、そこで着替える。
執事の服を脱ぎ終えた所で、スマホがチカチカ光っている事に気が付く。
「翼……?」
翼からメールが届いたらしい。なんで?
バタバタバタ……「キャー!?」
「透っ!?」
慌てた様子で走ってくる音と共に女の子の悲鳴が聞こえてくる。その後すぐに仕切りが開けられた。そこには半裸の晴翔が立っていた。余程慌てていたのか、ズボンも脱げそうだ。多分悲鳴はこれだろう。イケメンがこんな姿で走ってたらキャー!ってなるわ。
「あ」
晴翔は目を丸めて私の姿を上から下まで見た。それはもうはっきりと。丁度執事服を脱いだ所で、スマホに手をかけていたので、下着姿である。これは、なんというイベントですか?
私は無言でスマホを投げた。
晴翔の額にダイレクトに当たって、カツッと良い音がした。いつまでも開け放ってられると恥ずかしいので、仕切りを閉じる。仕切りが開けられた時に、教室には晴翔以外では女の子しかいなかったのが救いだ。
「と、と、と、透、ごめん、ほんと」
仕切りの向こうから動揺しながら謝る声が聞こえてくる。しまった、スマホ投げてしまった。壊れてないかな……他に投げられそうなモノがあったら良かったのに……じゃなくて。
見られた。
し、下着姿、見られた。
じわじわとその事実が頭に浸透してきて、全身が熱くなるのが分かった。うぎゃー!?ちょっと待って!それ何?なんで晴翔が!しかも晴翔の半裸見ちゃったし!運動部に入ってないのに凄く良い筋肉……おあああ!自分の変態じみた思考に身もだえる。耳年増だったから想像力も豊かである。
「はいー晴翔?その恰好じゃー変態だからー!取りあえず着替えてこい!」
という翼ののんびりした声でハッとする。そうだ、私も早く服を着ないと!私は慌てて制服に手をかけて着替える。
「……」
「……」
着替え終わり、2人で無言で廊下を歩く。廊下は賑やかな文化祭ムードなのに、2人の間に流れるのは無言である。これから生徒会の仕事なので、生徒会室まで2人になるのは避けられない。最近ようやくまともに話せるようになったと思った矢先にこうだ。
「ご、めん。透……わざとじゃ……いや、わざとなのか?」
「……」
いや、聞かれましても……私じゃ分からんよ。晴翔の微妙な謝罪に反応に困る。
「あ、これ、スマホ……」
「あ、ども……」
ぎこちなくスマホを受け取る。スイッチを押すと、普通に動く。良かった、壊れてないようです。安心してホッと息を吐く。
しかし少し違う事に気付いて、首を傾げる。
「あれ?」
「壊れてたか?」
「翼からメール来てたはずですけど、消え、てる……?」
チカチカ光ってるのが見えていたのでそれは確かだ。あれかな?内容がぶっ飛んだとかかな?でも、他のメールは残ってるし、アドレス帳も名前があるし……いくつか飛んでるのだろうか?
えーうわ、投げるんじゃなかったなー。翼はなんのメール送って来たんだろう。後で聞こう、うん。
「そのメール、見たか?」
「え?」
パッと顔を上げると、晴翔が苦虫を噛み潰した顔をしていた。何故そんな顔をしているのか分からないが、首を振る。
「いえ、見ようと思ってた所に晴翔が……」
入ってきた。と言う前に顔がカァッと熱くなるのが分かった。翼のメールで気を紛らわせていたのに、また思い出してしまった。
「ごめん」
「いや、うん、事故。事故ですよ……」
晴翔の謝罪に居たたまれなくなって目を逸らす。それからは黙々と生徒会室に足を動かした。




