選挙しました。
ドキドキしながら生徒会室の扉をノックする。中からは会長の声が聞こえたのを確認してから、入る。
私の姿を捉えた会長は、ほっとしたような顔をした。副会長も腹黒い顔ではなく、普通の笑顔をみせてくれた。
「体調は大丈夫か?」
「ええ、おかげさまで」
どうやら、2人共怒ってはいないようです。昨日無責任にも仕事放り出してきましたからね。
「生徒会の方をやめられたら、と思うとヒヤヒヤしましたよ。勿論やめないですよね?」
あれ、副会長の笑顔が黒くなっている。何故です。さっきまで普通に笑いかけてくれてたじゃないですか。
「ダメだ、それだけは……」
「え、えぇ……」
辛そうな顔で言われる。そんな顔しないで下さいよ。ここで会長を見捨てたら私が悪者になりそうだ。まぁ、やめるつもりで来たわけじゃありませんが。
「木下さんがいないと月島くんが」
「副会長!?」
副会長が何か言いかけたのを会長が大声で遮る。驚いて会長の顔を見ると、顔を赤くさせていた。目が合うとサッと逸らされる。対する副会長は爽やかに笑っていた。とても楽しそうですね。
……何があったっていうんです?何回か副会長に聞こうとしたが、会長に目で「やめろ」と訴えられたので、やめておく。
生徒会選挙には前から生徒会にいるメンバーと、新しく1年生が3名加わる事になった。そこには勿論晴翔も含まれている。
晴翔は設定通り副会長に任命された。
そして、何故か晴翔と会長が無言で睨み合うという事案が発生。
「「……」」
おおっ、晴翔……会長の圧力に屈せずに睨みつけています。会長、ここで片眉をあげる。それに対し、晴翔が眉間に皺を寄せる。おおっと、会長はここで唇を片側だけ上げた!晴翔も負けていません、晴翔もニッと笑いかけます。ただし目が据わっている。
2人の放つ空気が冷たくて、他の生徒会メンバーが誰も近寄れない。私は現実逃避で実況してみた。あの2人、知り合いなんですかね?何故あんなにも険悪なんでしょう。少なくとも傘を差して貰った時は知らないようでしたよね。
「いやぁ、楽しくなりそうですね」
「いや、どこがですか」
前副会長の水無月先輩が朗らかに笑う。どこをどう見たら楽しそうなのだろう。もはや不安しか感じないのですが。水無月先輩のその図太い神経を少し分けて頂きたいくらいです。
生徒会選挙の次は文化祭である。新規生徒会メンバーは習うより慣れろと言った風で、めちゃくちゃ忙しく駆け回る。
前生徒会メンバーも流石に参戦して手伝ってくれる。実質前メンバーが生徒会を卒業するのは文化祭体育祭が終わってからである。
「透、持つよ」
「ええ。有難うございます」
晴翔が私の荷物を持ってくれる。荷物が減ったので別の資料も抱える。助かった助かった。晴翔とは忙しいのもあってか、仕事では普通に話せるようになった。僥倖ですね。
いそいそと別の資料を持つ私をじと目で晴翔が見つめて来た。
「お前な……」
「……え?な、なにか?」
「はぁ……なんでもねぇよ」
溜息を付いた晴翔に呆れが混じっていたので私は困惑した。何かしただろうか?
「ここにいたか」
資料室の扉の前で会長が手を組んで立っている。そして会長は真っ直ぐ私の方へ歩いてくる。足が長いので数歩でこちらに辿り着ける。会長は迷いなく私の資料を全部持って行った。
「あ、有難うございます」
なんだろう、遅くて痺れを切らしてしまったのだろうか?だとしたら申し訳ない。そう考えながらまた別の資料も頼まれていたんだったと資料を探す事にした。
「透……俺達が来なかったらそれだけの資料どうやって持っていく気だった?」
「え?そうですね……台車は駆り出されてますので、往復するしかないな、と……だから助かりました。有難うございます」
会長の言葉に素直に礼を述べて頭を下げる。資料を持っているので深く下げられないのがちょっと申し訳ない。晴翔と会長から呆れた顔を向けられた。
「透、お前はもうちょっと人を頼れ」
「そうだよ、何のために俺も入ったと思ってる」
「ええと、2人共忙しくされていたので、声を掛けにくいじゃないですか」
2人共「分かってない」という顔をして溜息を付く。仲良いですね……。3人で重い資料を抱えながら生徒会室に向かう。私と晴翔の分の資料は別メンバーが使うモノなので会長だけが生徒会室に入る。
2人で廊下を歩いて別室に向かう。
「不便だよな。なんでみんな別室なんだ?」
「そういうものなんですよ」
皆会長に怯えて仕事どころではなくなってしまうのだ。平気で会話をしている晴翔の方が可笑しいくらい。……まぁ、攻略対象者だからなんだろうなぁ……。私はライバルキャラだから。副会長は……水無月だから……ああ、もしかして攻略対象者の兄だからだろうか?だと考えると攻略対象者の関係者は会長と会話できるって解釈で良いのかな?
なんとも奇妙な話である。でもまぁ、乙女ゲームと同じ状況ってだけで十分怪奇現象だから。もう何も突っ込むまい。
「ありがとう」
2年の先輩がお礼を言って資料を受け取る。この人も会長に凄く怯えてたな……会長とは同い年のはずなんだけど。別室から出て、仕事をする為に生徒会室に向かう。
この辺の廊下はそれほど賑わっていない。教室の近くなんかは生徒たちが準備しているので色々なモノが転がっている。たまに足を引っかけて転びそうになるので、片づけるよう注意を呼びかける事も重要だ。
「あ、あのっ……」
後ろから声を掛けられて振り返ると、大人しそうな男子がもじもじしていた。新規生徒会メンバーの1年生である。こういう呼びかけの時は十中八九生徒会長への用事を頼まれるときである。
「お、お願いします……」
「はい、承知しました」
厚い資料を手渡されたので、快く受け取る。
「早く帰れ」
「ひっ!す、すいません!!」
赤くなっている男子を晴翔が冷たくあしらう。男子は赤い顔を青くさせてさっさと帰って行ってしまった。
「晴翔」
私は少し咎めるように名前を呼ぶ。晴翔は軽く肩をすくめてからさっさと生徒会室へと向かって行ってしまった。
はぁ、と小さく溜息をついて私も付いていく。晴翔は人任せにしている彼が気に入らなかったのだろう。すべて私に仕事を押し付けているので、私を心配したというのもあるのかもしれない。なので私も晴翔を強く怒る事も出来ない。その怒りもごもっともだからである。会長が怖くても、きちんとしたやる気があれば生徒会室でやるものなのだ。なんの為に立候補したんだか、分かったモノではない。
生徒会室に向かうと、扉の前で話し合っている女の子たちが2人いた。
「どうかされましたか?」
「あっすいません。これ申請なんですけど」
「あぁ……確かに受け取りました。バンドですか。演奏の順番は抽選になりますが宜しいですか?」
「は、はい。ありがと。じゃあね!」
女の子たちは慌てた様子でさっさと走って行ってしまう。……廊下は走ってはいけないんですよ。恐らく女の子たちは申請用紙を持ってきたは良いが、会長が怖くて入れなかったのだろう。
何回もこういう事があってはいけないので、別室に他メンバーがいる旨の張り紙でもしておくか。うん、良いアイデアだ。
そんな事を考えていると、横から溜息が聞こえて来たのでそちらに顔を向ける。案の定晴翔が呆れた顔をしている。
「え……と。なにかな?」
「……お人好し」
「え?」
小さくて聞こえなかった。聞き返したかったが、さっさと生徒会室に入って行ってしまったのでそれも叶わない。まぁ、大事な事ならまた彼の方から言ってくるだろう。
生徒会室に入ると、会長が黙々と資料に目を通していた。私はお茶を3人分淹れてから席につく。
私の席には申請書類やら何やらが山積みになっている。私は思考を切り替えて集中してその用紙に向かう事にした。




