真剣に考えました。
シリアス回。
職員室に呼び出されて、事情聴取を取られました。化学のテストが赤点だった事が問題になったようです。いつもダントツトップの私が赤点なんて何事だ、と職員室は騒然としたらしいです。いえ、私も完璧な人間ではないので、そう言う事もありますよ?
知らないと思いますけど、私の前世では赤点なんて日常茶飯事でしたから、真っ赤に染まったテストを見て「懐かしい」なんて感傷に浸るくらいです。
流石に親の呼び出しまではされませんでした。化学のテストの後に保健室に行った事は分かっているので、体調不良という事で片付きました。
ですが、問題は次の話です。
体調不良になるほど無理しているなら、部活は止めなさい、と言われました。
むしろこっちの方が酷い衝撃を受けた事は言うまでもないです。
生徒会の方と、部活のどちらかをやめた方が良いと言われ。部活の方は私がいなくても成立するが、生徒会の方はそうもいかない。新しい生徒会では私の存在は必要不可欠、と教師側も思っていたようだ。
生徒の意思を尊重するべきなのだろうが、成績優秀な生徒が倒れるまで無理をするのはいけない、という事だ。
多くの教師に部活は止めた方がいいと言われて、強く反発出来ない自分が悔しい。別に無理をしている訳ではない。晴翔の生徒会入りにショックを受けただけだ。
真島先輩にも、会長にも、他のクラスメイトにも、やめた方がいいと言われる。まるで世界が敵にでもなったようだ。
木下透は夏休み明けに、弓道部をやめる。
それが運命なのだと言わんばかりだ。絶対にやめないと思っていたのに、止めた方が良い状況になっている。
確かに部活の方へは全然力が入っていない事は分かっている。皆が倒れた私の心配をした事も分かっている。けれど、どこかうすら寒い。この世界はなんなのだろう。
何もしたくなくて、考えたくなくて、生徒会の仕事を放りだして、適当にぶらつく事にした。
「はぁ……」
世界の強制力が確実に働いている。逃げようと思っても、別の角度から修正してくる。
乙女ゲーム内の木下透が部活を辞める理由はこうだ。
晴翔と長い間いられる生徒会にずっといたいから。
実に単純明快じゃないですか。いっそ清々しいくらいです。私もそれほど純粋になれれば良かったのでしょうが……私は彼女とは違う。なのに、部活をやめる状況になっている。
そもそも、晴翔が生徒会入りするとか言い出したのは何故なんだ。あれでかなり動揺してしまった。こんな事になるくらいなら、考えるよりも先にテストに集中しておくんだった。
まぁ、今さらですけどね。
というか、放り出した生徒会の仕事が気になって気になって……。大丈夫でしょうか、生徒会選挙の準備はどうなっているのでしょうか。
今日ぐらい、休んでも、良いでしょうかね……。ああ、もう、こんなに気になるくらいならサボらなきゃ良いのに。でも、今はちょっと学校にいたくない……どうしろっていうんです。
「あらぁ?透ちゃん?」
「あれ?母さん」
ぶらついている時に、母さんと出会った。こっちの方に来ているなんて珍しいです。電車使ってわざわざこっちに?洋服店の紙袋を持っているので、近くにあるショッピングモールに行っていたんだと、すぐに理解した。
「透ちゃんったらサボりー?」
「え……うん」
私は放課後、いつも弓道やら生徒会の仕事をしているので、この時間にうろうろしている事はまずない。なので、なにかしらサボっているのだろうと推測したのだろう。合ってますけどね。なんだか後ろめたい気分です。
「うっふふ!さっすが私の子!」
「えっあ!ちょ、母さん!?」
サボりだと見抜いたのに、逆に嬉しそうな顔をして私の腕をとって走り出した。その年で走り出すなんて!筋肉痛になっても知りませんよ。でもまぁ、凄く若い見た目なので、もしかしたらならないかもしれませんが。
私の暗い気持ちなどお構いなしに、母さんがショッピングモール内を引っ張りまわる。この服が似合うだとか、あの音楽が好きだとか、正直、私よりも母さんの方が女子高生みたいな生活を謳歌していると思う。
「うふふ!久し振りにはしゃいじゃったわ!」
「……」
何も言うまい。いつもはしゃいでるじゃないですか、という突っ込みはしない。喫茶店に入って、少し休憩をしている。かなり遊んだので、もう外は暗い。
ああ、結局サボってしまいましたね……まぁ、サボるつもりで出たんですけどね。うん……胃が痛くなってきました。これで生徒会からも追放されると絶望的です。
「こらっ!若いのに眉間に皺はダメよっ!」
ツンと私の眉間を人差し指で突く母さん。その突き方、なんか嫌ですね。……あ、そうだ。父さんにやってるのと同じだからですね、納得。
というか、眉間に皺よってました?確かにこの年で眉間に皺なんていやですね。しかも女性ですし。
私が眉間を揉んでいると、ふふ、と母さんが優しく微笑む。
「何を悩んでるか知らないけど、そんなに気にしなくても世の中なんとかなるもんよ?」
実に母さんらしい呑気な言い分だ。いつもだったら「そう言う訳にもいかないでしょ」と言い返すのだが……おちゃらけた言い方ではなく、諭す様な言い方だったために口を挟む事が出来なかった。
「透ちゃんが頑張ってるの、私は知ってるわ。頑張って頑張って、がむしゃらになってるのを、私は小さい時から見て来たの。自分の事はなんでも自分でやりきっちゃって、本当、手が掛からない子だったわ。私の方が寂しかったくらいよ」
優しい顔、これが「母」の顔というモノだろう。紅茶に入っている氷が溶けて、カランという音が鳴る。
「透ちゃんの頑張りは、皆も見てくれているわ。だからね、そんなに悩まなくてもいいの。失敗してもいいの。無茶しなくていいの。皆分かってくれているわ、透ちゃんがとても頑張ってる、良い子だって。だからちょっとくらいサボっても、皆笑って許してくれるの。息抜きも必要でしょう?だって人間だもの、そんなロボットみたいに休息なしで動ける訳じゃない」
私はただ黙って母さんの言葉を受け取る。
そんな私の手をそっと握って、真っ直ぐ私を見つめてくる。その真っ直ぐな目に、吸い込まれてしまいそうだ。
「ね?だから……楽しく生きましょ?」
「……母さん」
『人生、楽しんだ者が勝ちでしょうっ!』
それが私の生き方なの。人生詰む?その時はその時考えればいいじゃない!って、マジで詰んだ!?……どうせならもっとチートな人生が良かったのに。
……私の生前の生き方だった。全力で楽しみ、全力で生きてた。最後の最後で詰んで絶望してたけど、それまでは楽しくやっていた。嫌な事からは目を逸らしたし、面倒な事はやらなかった。その結果路上で死んだのだけど。
母さんの考え方は、私と凄く似ている。気楽に考えて、楽しい事をやる。まぁ、私と違う事と言えば、嫌な事もきちんとこなす事だった。それが私と母さんの違い。
だから、またあんな風に死にたくなくて、私は今度の人生は全力で頑張ろうと思っていた。好きな事はほったらかしにして、自分が嫌いなものばかりを手にしてきた。ずっとやっていたら、得意なものに変わり、やがて楽しいものに変わった。
バリバリ仕事をするのと、気軽な生き方をする事。どちらの生き方も間違っているとは言い難い。でも、どちらが楽しいかと言われると、遊ぶ方が好きだった。責任ある仕事を達成するのも楽しいけれど、友達と話す事も面白い。
……私は、どんな生き方を望んでた?
晴翔に告白して、ショックを受けた。
乙女ゲームなんて思い出して、感情が揺れた。
私の行動が全てゲーム通りなのだと、嘆いた。
そんな事を望んだ?
……違うかも。
うん、違う。
確かに結果的にゲーム通りなのかもしれないけれど、ゲーム内の透とは確実に違う考えを持って、違う行動をしていたと思う。今回の赤点騒動も、ゲーム内の木下透は起こしていない。だから、私は木下透であるけれど、「木下透」ではない。
私は私のやりたい事をやって来ただけだ。
だから強制力では私の考え方を完全には矯正出来ないという事。
うん?ちょっと混乱して来たかも。晴翔の事は好きになったしなぁ。
でも、いいか。もっと気軽に考えなければ、損だよね。ああ、うん。私はもっといい加減な奴だったよ。開き直る奴だった。こんなに悩むのは「私らしくない」。
それに、私は母さんの血を引いてるんだ、多少ちゃらんぽらんでも誰もが納得する。うん、母さんは私の母さんだ。流石。
私は母さんが握った手をぎゅっと握り返す。
「母さん、私が退学になっても生あったかく見守ってね!」
「もっちろ……えええええ!?透ちゃん何やったの!?」
私の発言に、ぎょっとしている。母さんを驚かせる事が出来るなんて、なんだか嬉しいですね。いっつも私が驚かされてばかりでしたから。
「いや、正確には今からやる予定かもしれない」
「……退学確定な事をやらかす気満々なのかしらぁ?」
母さんの口がひくついている。その様子が楽しくて、思わず笑ってしまう。
「ふ、ふふ。いや、分かんないんだけどね?まーその時は宜しく、母さん」
「もー透ちゃんってば……どんな風になっても、貴方は私の娘よ。透」
「うん。ありがと、母さん」
そうだ、もう開き直ってこの状況を楽しめばいい。弓道止めれば楽になるし、主人公が気に入らなければぶん殴ればいい。……今から殴る練習でもしよう。
どうしようもない強制力が働くのなら、より良い方向にもっていけばいい。どうせ退学確定なら、陰湿ないじめじゃなく、堂々と病院送りにしてやろう。……その考えもどうかと思うが、陰湿にやるよりは他の人の心証もまだマシだ。……多分。いや、どうだろう?まぁ、その時の状況によって変わるからな。その時になって考えよう。
それが私らしい。
たとえまた路上で死ぬ事になっても、それが私の人生だと笑い飛ばしてみせようじゃないですか。乙女ゲームがなんだ、強制力がなんだ。私は私の生きたいように生きる。
開き直ってみました。




