生徒会入りしました。
「お前が透か。良く来た。まぁ座れ」
私は言われるままに座る。私が現在来ているのは生徒会室だ。何故、と問われると、成績トップ入学者だからだ。生徒会ではトップの成績の者は必ずと言って良いほど生徒会に入る権利が出来る。勿論断る権利もある。だが、今だかつて断ったものなど存在しない。
無言の強制圧力を感じます。
緊張で手に汗が滲んできた。目の前にいる生徒会長は2年の月島先輩だ。彼は去年1年の身ながら生徒会選挙を勝ち抜き、見事生徒会長の座に立った豪傑である。どっしりと構えて手を机の上で組んでいる様子はとても16歳の青年だとは思えない。落ち着き、貫禄漂う姿に空気が飲まれる感覚すら感じてしまう。否、実際彼は場を支配出来るだけの原動力と権力と言動と迫力を持っている。
40歳の精神年齢なのにも関わらず、素直に負けを認めてしまえるだけの圧倒的実力差だ。
その態度や言動もさることながら、その容姿も飛び抜けている。彫刻されたような整った顔立ちは、さながら芸術品のよう。その体格もまた武道を嗜むためにしっかりしている。
対面するだけでこの緊張……。弓道の先輩に怒られるのなんて大したことなかった。ああ、喉がカラカラになる。そう思っていたら、机にコツンとお茶が出された。
顔を向けると、眼鏡を掛けた人の好さそうな男性がニッコリとほほ笑んできた。彼は3年の生徒会副会長だ。彼は嘆息して月島先輩に向きを変えた。
「月島くんが脅すから怯えているじゃないか。可哀想に」
「誰が脅している。誰が。座れと促しただけだろう」
「ああ、ほら。そんな低い声を出すなよ。さらに怯えさせるだろう?」
柔和で大人しそうな印象と違い、意外と言うタイプのようだった。凄いな……流石は同じ生徒会に入るだけはある。まぁ、余程変な事さえ言わなければ怒らないらしいが……。流石に先輩に気軽な態度なんて取れるはずもない。でも、副会長の御蔭で少し気が楽になった。
「お気遣いありがとうございます先輩。ですがもう大丈夫です」
口元を緩めて副会長にお礼を述べる。そんな私の様子に2人とも一瞬だけ目を丸めた。それは本当に一瞬だけで、その後は何故か会長の目に猛獣の如き鋭い光が宿り、副会長はニヤリと腹黒そうな笑顔をした。
あ、地雷踏んだかな。
「お前は生徒会入り決定だ」
「そうですね。これ以上ない後輩です」
ちょ、決定するんですかっ!いや、ほとんど断る権利がない事は暗黙の了解であるのだけれども、こんな面と向かって言われると流石に動揺する。
「上位者3名に声を掛けたんだがな。2位、3位は怯えるだけでとても使えん。流石はトップ入学者だな」
嬉しそうな笑顔で腕を組む生徒会長。目はまだこちらに見据えられていて、居心地が悪い。この会長やたら見目が良いのだ、そっちの意味でも心臓に悪い。
でも……なんだろう。デジャヴュがした。なんだかこの完全無欠の生徒会長様に見覚えがある気がするのだ。それは金城を見た時に感じた違和感と似ていた。もやっとして、何かがこう……沸いてきそうで……ぐぬぬ、思い出せない。
「弓道部への入部申請があるな」
「はい」
「生徒会が忙しい時は来てもらう事になるが大丈夫か?」
「はい。大会の時は流石に出来ないと思いますが」
「ああ、それは計らおう。俺も去年やってたから、意外と平気だったぞ」
平気……たぶんビックリするくらいこの人の効率は良いんだろう。両立し、さらには成績を落とした事もないという。成績に関しては私はあまり心配はない。これでもかというくらい勉強しまくってきたので、きちんと知識がしみ込んでいる。ちょっとやそっとじゃ忘れない。問題は体力だろう。弓道は肉体と精神が両方いる。精神が疲れていると軸もブレそうだ。まぁ、そこは精進するしかない。私は今度の人生に手を抜くつもりは一切ないのだ。
「では、宜しくお願いします」
私は礼を言って生徒会室を後にした。
教室の戻るとイケメン2人が迎えてくれた。これは眼福ものである。
「どうだった?超有能会長っ!」
嬉しそうに金城が尋ねてくるので苦笑した。駆け寄って来る様子も完全に犬である。
「ああ、噂通りの圧倒的な迫力だったよ」
「お・お・お・おっ!!」
何がそんなに嬉しいのだろうかこのワンコは。苦笑したままチラッと晴翔の方に目を向けると何故かちょっと不機嫌だった。
「生徒会入るのか」
「入るよ。内申書の評価にも繋がるからな」
晴翔は口を開けて、また閉じた。
「しかし透って成績上位だったんだな!俺勉強教えて貰おうかな」
「ああ……いいよ。自分の復習にもなってとても良いな。忙しくなりそうだから、たまにしか出来ないだろうが」
「おおっ!それでも助かるよっ!ありがとう!」
バシバシと力強く背中を叩かれた痛い。その力加減は男相手のものだろ。こんなに近くにいるのに女だって分からないのか?とてもショックです。乙女(笑)の心が傷つきました。
「その時は晴翔もやるだろ?」
「あ、ああ……」
何か言いたげな表情をする晴翔は目を逸らすだけだった。