海に行きました。
電車に乗り、最終の駅に辿り着いて降りる。
駅を出ると、黒塗りの車が……ベンツだな。
「お待ちしておりました。陽介様がお待ちです。どうぞ」
黒いスーツ姿の男性が話しかけてきて、車に乗るように促される。ちなみに陽介というのは水無月副会長の下の名前らしい。すいません、知りませんでした。ついでにいうと、攻略対象者である弟くんの名前もド忘れしています。
人の流れが少なく、ちょっと田舎っぽい所を走る。ただ、道は綺麗に舗装されているので揺れる事はない。もしかして水無月の所が舗装しちゃったりしてるんでしょうかね?
……やりそうですね。
走っている内に、木々の生い茂る所から、見晴らしの良い景色に変わる。
「う、わぁ……」
きらめく海に感嘆の声が漏れる。この景色が見たかったんだ。これは絶景だな。遠くに白い砂浜と、建物が見える。恐らくは今からあそこに向かうのだろう。まるで現実離れした光景に、やっぱりゲームの世界なんだなぁ、と思わされる。
クスリという声が運転席から漏れてくる。
「あ、失礼いたしました。あまり可愛らしかったものですから」
「……っ!」
男前にそんな風に言われて照れない訳がない。しかも彼は水無月で働くエリートさんだ。彼は私が男装していたのを知らないんだろう。あの時にまるで気付かれなかった虚しさと相まって、凄く嬉しい。やばい、この人凄く好みかもしれない。年齢も30前半くらいでかなり好印象。
くい、と腕を引っ張られたので横を見ると、不機嫌な顔をした会長が。え?どうされたんですか?何故ちょっと機嫌悪そうなんです?
その会長の様子を見て、また運転手さんがクスクス笑っていた。会長が睨みをきかせていたが、まるで通用していなかった。おお~凄い。生徒会役員達が委縮する会長の美貌でも全く怯んでいない。凄いよこの人。やっぱり攻略対象者の所で務めてるから耐性が付いてたりして。
見えていた建物に着いた。上を見上げて息を吐く。
「す……ごい、ですね」
金持ちってのはまるで世界が違うようだ。遠くに見た時には気にならなかったが……この建物、かなり大きいです。ビーチも貸切、海はきれい、住む所は広い。なんという快適空間。憧れるな。
「ああ、待ってましたよ。いらっしゃい、月島くん、木下さん」
ニッコリと穏やかな笑みを湛えて副会長が現れた。なんだか金持ち特有の余裕ある笑みに見えて来て仕方ない。きっと僻みなんだろうと思う。
「宜しくお願いします」
「宜しく頼む」
副会長に頭を下げる。会長も同様に頭を下げる。
「木下さん、びっくりされたでしょう?人数が少なくて」
「あ、ええ」
「ですが安心なさってください。遊びだけではなく、ちゃんと仕事も持ってきていますからね」
「はい」
おお、流石副会長ですよ。仕事は大事ですからね。あんまりハメを外し過ぎないように気を付けないといけませんね。
副会長の言葉に頷いていると、奥の方から綺麗な女性と、綺麗な少年が出て来た。恐らく女性が婚約者、少年が攻略対象者だろう。
それにしても、2人共凄く綺麗だな。婚約者の方はストレートの黄色の髪で、柔らかく微笑む姿がまるで聖母のよう。
不機嫌そうに唇を尖らせながら本を持っている少年も透明感のある綺麗さだ。ただ、表情がちょっと残念だけどね。無理に連れてこられたのかな……。
「こっちが婚約者の有馬香織。で、こっちが弟の海斗」
お、攻略対象者くんは海斗くんっていうんですね。そう言えばそう言う名前だった気がしなくもない。
「宜しくお願いしますわ」
「……よろしく」
有馬さんはふんわり微笑み、海斗くんは不機嫌そうにボソリと呟いている。私たちも名前を名乗り、こちらこそ、と挨拶を済ませる。
「ふふ、仲良くして下さいな。香織って呼んでね。有馬って苗字あまり好きじゃありませんの」
「そうですか、では私の事も透とお呼び下さい」
近寄って来た香織さんは嬉しそうに笑っている。可愛らしい方だな。これが副会長の婚約者かぁ。副会長、幸せ者だな。しかもなんだか良い香りもしてくるし。
「こっちに来てくださいな。私が生けた花がありますの。私の家は華道家ですのよ」
「おお、そうなのですか。有難く拝見させて頂きます」
「もー、透さんったらお堅いですわよ。もっと砕けてくださいな!私、普通の家庭の喋り方に憧れてますの!」
うふふ、おほほと過ごす日常の中、テレビで見た学校の熱血ドラマにハマッてしまい、それで普通の学校に憧れているらしい。
香織さんの女学校ではそういう庶民らしいお友達ってのはいない。お嬢様らしい友達ならいるが、はっちゃけたような……三宅さんのような人間は近くにいないらしい。
「香織、木下さんに無理を言うな。ちなみに木下さんのその語り口は通常営業ですよ」
「まぁ!そうなの?ちぇーっ!ですわ」
ちぇー!が凄く可愛らしかったです。お嬢様ってこんな可愛い生き物だったのか。もっと高飛車な感じをイメージしてましたよ。しかも語尾に「ですわ」とつけてるのが育ちがいいのか、ギャグなのか見分けがつかない。多分、育ちが良過ぎて思わずつけているタイプだと予想。
「ふふ、お言葉に甘えていっちゃっても良いですか?」
「まぁ!透さん!」
「へへ、じゃあ行っちゃいましょうぜ、お嬢さん!」
「それ違うだろ。キャラが変わってる」
ちょっと江戸っ子風に言ってみましたよ。会長に突っ込まれちゃいました。会長に突っ込まれるなんて屈辱です。でも、このセリフはですね……。
「ビ、ビリー……!」
香織さんがハマッてる学園ドラマで転校してくる、ビリーくん。何故外国人が来たのか未だに意味不明だが、明るくて楽しい性格のキャラクターだったらしい。情報は母さんからなのです。
香織さんが案の定目をキラキラさせている。
「まぁまぁ!なんて茶目っ気のある方なのでしょう!うふふ。今年の宿泊は楽しめそうですわ~!」
「香織、あんまりはしゃぐなよ」
両手を上気したほっぺに付けてうふふと笑う香織さんを嗜める副会長。でもその顔が恋人に向ける優しい顔だった。副会長ってこういう顔出来るんですねぇ。驚きです、てっきり黒い笑顔しか出来ないのかと。
ちょっと天然っぽい香織さんにゾッコンなのだろうことは分かった。リア充め、爆発してしまえ。
私?振られてますよ?なんですか?当てつけですか?……おっと、ちょっと醜い嫉妬が。
香織さんの生けた花はとても穏やかで心が温まる様な印象を受ける。なんだか人柄が出ているんだなぁ、と思わせる花だった。いや、そっちに詳しい訳じゃないけど、茶道教室で花って生けてありますからね。私は茶道教室に生けてあった花よりもこっちの方が好きだ。素直にそう伝えると、真っ赤になって喜んでくれた。可愛らしい方です。副会長、爆発してくださいな。あ、香織さんは無傷でお願いします。
その日はそれぞれで生徒会の仕事を黙々とこなして、水無月専用のシェフの料理を堪能した。広いこの建物を探索するのも楽しそうだ。夜寝る前にちょっとうろつこうかなぁ。そんな風に呟いていたのを香織さんが聞いて、目をキラキラさせていた。香織さんも探検したいんだそうだ。いや、香織さんって毎年来てるって言ってませんでしたか?いや、まぁ構いませんけどね。
夜には警備の人とか、掃除する方と遭遇した。なんというリッチ。普通の宿泊施設の経営となんら変わらないですね。はいはい、金持ち金持ち。
次の日は、いよいよ楽しみにしていた海だ。きらきらと太陽を反射する海がとても綺麗だ。ここだけゲームの世界として切り取られていそうなほど綺麗。
「うふふ……揉んでも構いません事?」
手をワキワキさせながら香織さんが近寄ってくる。2人で水着に着替えているのだ。香織さんの肌はとても白く、すぐに焼けて赤くなりそうな程だった。
私は胸を隠しつつ、後ずさる。
「照れなくっても構いませんわ。これは女の子同士の定番イベントでしょう?」
「いえいえ、しない方もいらっしゃいますよ?」
その情報はどこ情報なのだろう。お嬢様、はしたないですわよ。しかしまぁ、楽しくて仕方ないのだろう。香織さんの楽しさがこちらにも伝わってきて、笑みが零れる。
「えい!ですわ」
「あっ!やりましたね~?」
つんつんと胸を突かれたので私も仕返しする。顔が真っ赤になっているのが凄く可愛かった。副会長、爆発してください。
しかも胸が物凄く大きいですし。羨ましい限りです。
日焼け止めは、副会長に塗って貰うんだそうだ。
「焼けるとヒリヒリしちゃいますから。透さんも彼に塗って貰ってくださいませ」
「彼……?」
「同行していた、月島さんですわ!いいですわ~真夏のラブロマンスですわね!」
きゃー!と興奮している所悪いですが、ラブを堪能してるのは貴方だけですよ、香織様。
「いえ、あの……」
「ああん!皆まで言わないで!うふふ~後でこっそり見させて頂きますわ~」
香織さんに塗って貰おうと思っていたんですけれど、香織さんは聞く耳を持ってくれない。パタパタと部屋から出て行ってしまわれました。さて、どうしましょうか。
仕方ありませんね。鏡で見ながら塗りましょうか。大きな鏡で自分の姿を映し出す。きゅっと引き締まったウエスト、スラッと長い脚、白い肌……いやぁ、さすがライバルキャラですね。スタイルいいです。昔はこんな体に憧れてましたっけ。塗り残さない様に念入りに塗りたくる。
「……わっ!?」
日焼け止めを塗っていたら、鏡に香織さんが映ってた。こわっ!何時戻ってらしたんですか。
「もうっ照れていますの?さぁ、後ろは彼に任せましょう。さぁさぁ!」
背中にもたつきながら塗っていたのを阻止されて、手を引っ張ってくる。
や、待って下さい。会長とはそう言う関係では……。
外に追い出され、真夏の太陽の下に晒される。
じりじり焼き付ける様な熱さ、正しく夏という印象です。湿度もあり、すぐに汗が滲んでくる程の暑さです。
香織さんに押し出された先に、会長の姿があった。
「……っ」
「あ、蓮先輩……どうも」
目を見開いて息を飲んでる会長。何にそんなに驚いているのだろう。
……というか会長、めっちゃ体つきが男らしいですね。青の水着を着ており、鍛え抜かれた美しい肉体が露わになっている。これが高校二年生だと言うのですか。なんて恐ろしい。そこに立っているだけで18禁の張り紙が必要な気さえしてきました。香り立つようなフェロモンに、目を逸らしてしまいました。
や、べ、別に動揺なんてしてませんよ。ほら、前世ではネットで色んな男の水着写真なんて乗ってたじゃないですか。どうってことはないです。
「高2男子の色気じゃねぇええ!」とかって心で叫んでないです、ほんと。
暑いので髪ゴムで髪をまとめている間に、香織さんが会長に日焼け止めクリームを手渡していた。
「ささ、月島さん。塗って差し上げてください~!」
「えっ!?」
ぎょっとする会長。まぁ、そうですよね。会長は私の体を上から下まで見て、それから胸に目を止めてから顔を真っ赤にさせた。いや、会長。胸は塗らなくていいのですよ。
手で顔を隠しながら僅かに震える会長。その姿が何だか、こう……色っぽいですね。暑さで汗が滲み、その姿は凄く……男なんだなぁ、と実感させられますね。
というか、落ち着きましょう。存在が18禁の男、会長……流石攻略対象者ですね。攻略対象者には、ライバルキャラの存在である私は勝てないという事ですか。
「なっ、塗る……!?」
「うふふ~2人でじっくり仲良くなさってくださいませ」
口に手を当てて面白そうに離れていく香織さん。しかし、影からちらっと覗いてきている。お嬢さん、楽しそうですね。これ……本当にしないとダメなんですかね?自分で塗ろうとしたらことごとく邪魔されそうな予感がひしひしと感じる。
「……」
顔を赤くさせた会長と向かい合わせのまま、しばらく沈黙。会長もどうすればいいのか分からないようだ。
私も会長の良い体に動揺してて、どう声をかけていいものやら。や、違います。動揺なんてしてませんよ。
流石に日焼け止めクリームを塗るのは無理難題すぎる。私は薄手のパーカーでも羽織ればいい。むしろ会長にこそその肉体を隠して欲しいモノですが。
「あの蓮せ……」
「塗れば良いんだな?」
「え、は、ええ……」
意を決したのか、ゴクリと唾を飲み込んでいる。その目が戦場に向かう戦士のような壮絶さが滲み出ていた。なんか、凄い覚悟を背負っているように見えるんですが。
あれ?やって頂けるんですか……?嫌なら嫌だとはっきりおっしゃっても良いのですが……。まぁ、後ろは塗りにくいですし、有難いのですが……男性に塗って貰うってどうなんでしょう?恋人な訳じゃないんですから。
「後ろ向け」
「え……えーと……それでは」
やる気に満ちた会長に気圧される。
遠くで香織さんが興奮している。なんか監視されているようだ。日焼け止めを塗るのに、どれだけの情熱を注いでいるのだろう。というか香織さん?副会長が不満げに見てますよ?
香織さんも塗って貰ったのに……自分の時より人の時の方が興奮しているなんて。……あ、そっか。副会長とのラブラブは日常的すぎて当たり前になってしまっているんですね。憐れ、副会長。ちょっと可哀想になってきました。
「では、さ、触るぞ?」
「あ、ど、どうぞ」
あ、ドキドキしてきました。会長の男らしい声が後ろから聞こえてきます。う……まずいですね、脳内に会長の裸体が。ばかめ。
つつ、と指で背中をなぞられてビクッと体が跳ねた。
「ひゃっ!?」
「えっ!」
「蓮先輩!?く、くすぐったいです!」
何故指でなぞるんですか!?わ、わざとなんですか!ドキドキする胸を押さえて、会長に注意する。
「手の平でやってくださいよ、何故指でやってんですか!」
馬鹿なんですか。という言葉は飲み込んだ。頑張ったよ私。
「す、すまない。勝手が分からなくて……」
かなり動揺している会長の声が後ろから聞こえる。ええ、ええ。そうだと思いましたよ。真夏に日陰に入らずに2時間前待機するような方ですからね。うう、顔が熱い。
今度は手のひらに日焼け止めクリームを出して、背中に触れてきた。
「んっ……!」
あ、ちょっと冷たかったです。私の声に驚いたのか、また手を背中から離す。
「え、な、何だ?」
「いえ、少しだけ冷たかっただけですので、お気になさらず」
「……そうか」
手が背中に再度置かれる。男らしい大きな手が直接肌に触れている感覚。これは、これは恥ずかしいですよ?こんなハードな事を香織さんは平然とやっていたんですか。なんという上級者なのでしょう。
会長の手が私の背中を傷付けないよう優しく撫でつけて来るので、妙にくすぐったい。少し笑いそうになるのを堪えて、ぷるぷるしてきました。耐えろ、耐えるんだ。これが終わったら海に行くんです。
「お、終わったぞ」
「有難うございます……」
振り返って礼を述べる頃には涙目になっていた。ぐぬぬ、これはキツイです。もう二度とやりませんよ。海に行くときは女の子ばっかりで行く事にします。というか、鏡があったら自分でもできますしね。まぁ、多少は荒くなりそうですけど。
バタ
会長が倒れた。
「え!?れ、蓮先輩!」
「あー……キャパオーバーらしいですね」
私が倒れた会長に狼狽えていると、副会長が苦笑いを浮かべて近くまでやって来た。
真夏の太陽に1時間照らされてもケロッとしている人が倒れるなんて尋常じゃない。いや、もしかしたら昨日の内から気分が悪かったのかもしれない。これは大変だ。
「副会長、た、倒れました。病院へ!」
「いや、大丈夫ですよ。日陰にほっておきましょう」
なんて冷酷な……もし大変な事態だったらどうするんですか。
「大丈夫だから……取りあえず放って置いてくれ」
倒れた会長から力ない声が聞こえて来た。あ、良かった。意識はあるんですね。
「ですが……」
「いいから、いいから。香織の相手してあげて」
渋っている私の背中を押し出す副会長。その後会長の隣に腰掛けていたので、副会長が見といてくれるのだろう。うーん、副会長に任せておけば大丈夫でしょう。なんだか心配ですけど、海にも入りたいですし。
「むふふ~ん。見せつけて頂きましたわ~ご馳走様です~」
「ご満足いただけたようで、何よりです」
ええ、もうほっくほくの顔してます。凄く楽しそうですね。私は結構精神ダメージが大きかったですけどね。まぁ、香織さんが楽しんで頂けたなら、良しとしましょうか?
「ささ、準備体操ですわよ~」
胸をぷるるんと揺らしながらラジオ体操する香織さん。なんだかイケナイモノを見ている気分になったのは私の心が穢れているからでしょうね。
あまり胸は見ない様に私も体操する事にします。はしゃいで運動もせずに突っ込むような事はしないんですね。てっきりそのまま突っ込んでいくタイプの人かと思いましたよ。
「準備体操せずに海に入ると足がつって大変な事になりましたの~」
あ、やったんですね。学習したんですね。良い事です。副会長に叱られたんだそうだ。大変ですね、副会長。
レインボー色のパラソルの下では、攻略対象者の海斗くんが本を読んでいる。水着に上からパーカーを羽織って、海風に当たりながら本を読む。流石図書館に出没する攻略対象者。ブレませんね。
海斗くんを眺めていたら、目があってしまった。軽く会釈をして、海に入っていった香織さんを追う事にした。
しばらくしたら、会長も復活してきた。もう気分も悪くないようです。良かった。無理は禁物です、と言ったら、凄く狼狽えられて、土下座した。いや、そこまで謝らなくてもいいんですよ。次から気を付けてくれれば良いのです。
エメラルドグリーンの海は最高でした。というか、珊瑚があったような気がするんですけど……本当にここは日本なのだろうか。澄み切った海には小魚もいましたし、本当に凄い所です。
「お飲物をお持ちしました」
運転手さんが冷たい飲み物を持っていてくれた。白いYシャツが目に染みる。ちなみに運転手さんの名前は鈴谷さんと言って、既婚者だった。残念ですね。
まぁ、これだけ物腰柔らかで仕事もきっちりこなす方を女の人が放って置かないですね。
メロンソーダを受け取り、口を付ける。乾いた喉が潤います。メロンソーダの上にはチェリーが乗ってます。会長達も横に来て飲み物を飲んでいた。皆さん喉が渇いていたんでしょうね。
その様子をクスリと笑いながらチェリーを手に取る。それを唇に近づけていると、妙に視線を感じた。目を向けると、会長に凝視されてた。
「え、なんですか?」
「い、いや、な、なんでもない」
慌てて首を振っているが、凝視していたのに何もない事はないだろう。というか、あまり凝視して欲しくありませんよ。会長の今の恰好は18禁ですからね。ああ、私の心が穢れてるだけですね、すみません。ただの水着姿で動揺するほど私は若くないはずですよ。
テレビとかでも、若い男性の上半身なんて放送される事もありましたし。……まぁ、テレビより生で見たら想像よりはるかに生々しくて凄い迫力でしたがね。ビビってませんよ、ほんと。
良く見ると、会長の視線はチェリーの方に向いています。会長の飲み物には果物が入ってません。もしかして、これが欲しいでしょうか?
「……欲しいなら、あげますよ?」
「……っ!!」
会長がしゃがみ込む。
「え?れ、蓮先輩?」
「今のは木下さんが悪いですね」
「あらら~、うふふ~」
え?私何かしましたか!?副会長は苦笑、香織さんは凄く楽しそうです。良く分かりません。では、何故凝視していたのでしょう。
会長の肩に触れると、ビクリと震えられました。え、そんな怯えられるような事しましたっけ?
「えーと、先輩?」
「しばらくそっとしておいてくれ……」
「は、はぁ……」
そんな感じで、会長からは怯えられ、良く目を逸らされるようになった気がします。私は何もやっていませんよ?
なにはともあれ、水無月家のプライベートビーチは物凄く楽しかったです。
人生っていうのは何が起こるか分かりませんね。ちなみに香織さんとは友達になれました。
「……欲しいなら、あげますよ?」がクリティカルヒット!
会長が何を欲しがっていたかはご想像にお任せします。




