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約束しました。

 前期期末試験の結果が返って来た。まだ高校1年の試験なので、余裕だ。高校3年とかになってくると流石にちょっと難しいが、小学校の時から大学受験の本をやっていたので、まぁそれなりに出来る自信はある。内容を忘れないよう何度も復習している。


「透~!」


 パタパタと答案用紙を持って走り寄ってくる犬……じゃない、翼が凄く良い笑顔だ。顔見ただけで分かる。成績上がったんだな、と。翼の笑顔にこちらの口元も緩む。


「ちょっと未だかつてない成績だったんだが!まじで透ありがと~!」


 その場でぴょんぴょん跳ねる翼。テンションが異常に高いな。でもまぁ、今日くらいは許そう。改めて翼の答案用紙を見せて貰う。


「57……」


 ……うん、上がってますよ。中間試験は24でしたからね。赤点なので放課後残されてましたよね。……良くこの高校受かったなと思う。これが攻略対象者の強制力というものなのか?人生、成績だけが全てではない事を私は良く知っている。人柄や会話スキルなんかも重要なのだ。その点において翼は問題がない。

 しかし翼は成績を落とせばバンドを辞めさせられる危険性がある。いくら攻略対象者であっても勉強しなきゃ成績は落ちるんじゃないのか?


「翼……」

「ひっ!?」


 笑顔を向けたら悲鳴を上げられた。ふふ、翼。夏休みは覚悟しておくといい。貴様の成績は私があげてやろう。ククク……と悪い笑みを浮かべていると、ポンポンと肩を叩かれた。振り返ると三宅さんがいた。ばーんと嬉しそうに現国の答案用紙を見せつけている。えっと……62点ですね。


「未だかつてない好成績!木下さんの御蔭だよ!ありがと~!」

「そ、それは、良かったです……」


 三宅さん?三宅さんも翼と似たような状況だったのですか?もしかしてこの高校は安易に入れるのでしょうか?いや、馬鹿な。ここは進学校ですよ?しかも県で3本の指に入る位の。

 ちょっと頭痛くなってきました。皆さん大丈夫なのでしょうか?いえ、まぁ……三宅さんはスポーツ推薦も行けそうですが。確かかなりバレーも上手いと評判でしたから。

 三宅さんが私にお礼を言いに来たのをきっかけに、皆さんがお礼を言ってきた。昼休み授業と、プリントで試験も分かりやすかったらしい。笑顔でお礼を言われ、私も嬉しくなってしまう。

 ああ、前の人生ももっと頑張っておくんだったなぁ。でも、前回があるからこその喜びでもあるんだよね。ちょっと複雑な気持ちだが、素直に喜んどこう。



 もうすぐ夏休みで、8月頭には弓道の大会もあるし、合宿もやるらしい。まぁ基本的に2、3年が中心で出るので、今回はサポートメインだろう。それに生徒会の仕事であまり練習にも出れていないので腕が鈍っているのも否めない。やはり会長のように両立は出来ないという事か……いっその事やめるか?

 ……あ、思い出した。くそったれ。この考えも「設定通り」か。ライバルキャラの木下透は夏休みを終えて弓道部を辞める。理由はなんだったか……ぼんやりしているが、おおよそ今の理由と同じだろう。

 小出しに設定を思い出すのはなんなのだろう。もういっその事意地でもやめたくなくなってきた。絶対弓道はやめない。設定通りがなんだ。抗ってやる。世界に抗おうとメラメラ燃えていると、会長に声を掛けられた。


「どうしたんだ?怖い顔をして」

「申し訳ありません。ちょっと意気込んでいましたので」

「無理はするなよ」


 強張った顔をムニムニ揉んで戻す。そんな私の様子を見て会長が優しく微笑む。……目が、目が瞑れそうです、会長。最近の会長はやたら微笑むような気がする。気を許して貰っているという事なのだろうか?だが心臓に悪いからやめて頂きたい。心が和らぐ犬のような翼と違って会長は彫刻のように美しい。まぁ、翼も十分恰好良いんだけどね。


「ちょっとこの書類持っていきますね」


 副会長が席を立つ。


「私が代わりに行きましょうか?」

「いえ、今回は大丈夫です」


 席を立とうとした私を手で制する副会長。その目が笑っていない。やばい、これは役員達が怒られるフラグだった。飛び火すると怖いので、大人しく席に座る。

 しばらく黙々と書類を片づける。クーラーが付いていない室内は暑い。髪も結構伸びたので暑苦しい。ゴムを買って括ろうか。もう私を男なんて言う奴はいないだろう。いや、自業自得なんだけどね。


「とぉっ……んんっ。と、透」


 裏返った声を上げた会長。咳払いして声をなおす。……なんか抜けてるんですよね、この会長。乙女ゲーム内だともっとしっかりしていると思ってたんですが……いや、まだ主人公は来ていませんから、これからの成長に期待ですね。

 顔を上げて会長の顔を見ると、恥ずかしかったのか、頬が若干赤くなっている。


「最近、暑いよな?」

「そうですね、夏ですからね」


 何を言っているんでしょう、この方は。もう夏だから暑いのは当然だ。自然の摂理と言っても良い。暑いからなんだというのだろう。もしかして生徒会室にクーラー完備してくれます?うわ、それすっごく嬉しいですよ?

 ちょっと期待しつつ、会長の言葉を待つ。机の上で組んだ手が落ち着きなく動かされているのを眺める。しばらくした後、意を決して口を開く。


「海へ行こうと思うのだが、行かないか?」

「え?」


 なんだその主人公っぽいイベントは。考えもしなかったお誘いに若干間抜けな声が出た。何故、海。いや、夏と言えば海ですからね。当然と言えば当然でしょうか?


「副会長とその弟、それと副会長の婚約者も来る」

「へえ」


 知らない設定だな。副会長って婚約者いたんですね。まぁ攻略対象者じゃない人に婚約者がいても不思議じゃないのか。というか、副会長と会長ってそんなに仲良いんですね。休みにも会うくらいですか。知りませんでしたよ。


「副会長の別荘とプライベートビーチだそうだ」

「あー」


 はい、それは分かりますよ。主人公の時もそういう話があったなぁ。なんて懐かしい。水無月は結構お金持ってるんですよね。だから財産目的でも弟くんを狙う人もいたりしそうなくらい。それが余計に女の子を毛嫌いする要因にもなるんだっけ。でもまぁ単純に弟くんが綺麗なんだけどね。弟くんが勝手にお金目当てだと思っているだけだ。


「ど、どうだ……?」

「そうですねぇ……」


 弓道の予定表を取り出して見てみる。8月の大会まではみっちり詰まっていて、その後は生徒会の仕事が多く入っている。


「この日だ」


 トンと紙を指さす会長。その日は空白。だが、確かこの日は生憎予定がある。実は休みの合間合間に翼の勉強を見る事になっているのだ。私が遊ぶ事よりも翼の勉強の方が優先順位は高い。


「すいません、この日は……」

「生徒会の仕事ついでに羽を伸ばそうと思ってな。生徒会の、仕事だ」

「……え?」


 遊びのお誘いかと思ったら結局はお仕事だったのですね。でも言ってる事が違うような気がする。


「生徒会の……空白になってますよ?」


 生徒会からもらった予定表では白紙だ。紙から顔を上げて会長の顔を見上げる。会長は凄く目線を彷徨わせている。若干汗をかいているようにも見える為、心配になってきた。


「み……ミスだ。書き加えておいてくれ」

「は、はぁ……かしこまりました。ではこの日は生徒会の合宿ですね。準備しておきます」

「あ……ああ、宜しく頼む」


 微妙な顔をしつつ頷く会長。なんだか少し釈然としないが……まぁ会長はドジッ子属性があるからそういうこともあるのか……?というか、別に行かないか?って誘わなくても良かったのではないだろうか。普通に生徒会の仕事として予定組んでるなら言ってくれればいいのに。すぐに断りそうになりましたよ。

 生徒会と翼の勉強なら生徒会の仕事を優先します。翼には取って置きの宿題を出しておこう。出来てなかったら罰としてさらに倍の宿題を……考えただけで楽しくなってきました。

 でもまさか副会長経由であのビーチに行けるようになるとはなぁ。実はちょっと楽しみだったりする。主人公と攻略対象者がきゃっきゃうふふしているあのシーンとか楽しそうだし。水着持って行ってもいいんだろうか?あの綺麗な海に入ってみたいなー。ゲーム内だからなのか、あの海はエメラルドグリーンだったし。……日本って言ってたけど、どうみても海外っぽい絵だったな。現実の海もそうなっているか分からないが……ちょっとは期待しておく。待て、仕事ですからね。そこ重要ですから。

普通に遊びに誘ったら断られそうになったから方向転換して焦る会長。

生徒会の仕事でも変更できない用事だったらどうするつもりだったのだろう。


翼の勉強会がなかったら即答で行くと宣言する程度には、そのイベントで見た海が好きな透。

なので多少「ん?」と思っても生徒会の仕事という大義名分があるので行きたくなりました。翼には大量の宿題が出されます。

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