でぇとに行きました。
オリエンテーションも終わり、ゴールデンウィークがやってきていた。
とても憂鬱な気持ちで駅前の待ち合わせ場所に行く。すると予想通り。そこには沢山の女性の注目を浴びて立っている生徒会長様の姿が。
以前食事に行く約束をしていたのだが、律儀にも守ってくれたらしい。いえ、嘘を言うような人ではないと分かってはいたんだけどね……。
会長の装いは白シャツに黒いズボン、その上から灰色の薄手の上着を羽織っている。それはシンプルで、どこにでもある様なファッションであるが……さり気なくつけられた腕時計、ベルト、ネックレス……それが会長の美貌と相まって、もはや芸術の域に達している。
その様子に思わず眩暈がした。……なんだアレは。本当に生物なのか?同じ人類であるなど、誰が知っているだろうか?いや、彼は2次元の人間だったな、そういえば。はっはっは。そりゃ恰好良いわ……落ち着け、私。
様になった動きで腕時計を確認する会長を、女性たちがポーッとした目で見つめている。恰好良い会長だが、声を掛ける様な女性はいない。会長の威厳というか、話しかけてはいけない神聖な雰囲気を感じさせる何かがある。流石攻略対象者、私たちに出来ない事を簡単にやってのける。
まだ約束まで30分近くある。彼はどれだけ時間に厳しいのだろう。30分前に来てまさか先に来られているとは……あれか、1時間前に来ないとダメなパターンだったか。なんだか上司を待たせている気分で、今すぐにでも声を掛けたいのだが、そんな空気じゃない。なにあれ、こわい。
しかし、いつまでも待たせている訳にも行かないので、ちょっと小走りで駆け寄る。ええい、ままよ!
「すみません、会長、お待たせしてしまって」
「いや、すまない。俺が早く来過ぎただけだ」
そしてちょっと嬉しそうに微笑む会長。……おう、心臓に悪いお方ですね。でも私は騙されませんからね!
会長は私の服装をチラッと流し見た。私はというと、ズボンをはいてきている。髪がかなり短いので、スカートはちょっと似合わなかった。これから伸ばす予定ではある。
私の姿を見た会長は、特に何か言う事もなく、笑みを浮かべている。
「では、行こうか」
「はい。今日は宜しくお願いします」
「かしこまらなくて良い。元はと言えば俺が……」
そこまで言って、会長の顔が若干赤くなった。ちょっと、思い出さないで下さいよ。いつまで引きずってるんですか、乙女なんですか。そんなに恥ずかしがられると、こっちも恥ずかしくなりますよ……。
「す、すまない。では、改めて行こうか」
「は、はい」
しばらく会長の半歩後ろをついていく。横に並ぶのは恐れ多い。歩けば、誰もが振り返るその容貌は、本当に凄いと思う。女性の目が会長から私に移る。しかし、嫉妬とかそういう目ではない。恐らく、付き添いの部下とでも思われているのではないだろうか?だって殆ど男装状態だものね。スカートがしっくりこなかったという理由もあるけれど、こういう嫉妬の目から逃れるという理由も勿論含まれている。効果は絶大なようで、厳しい目線を頂く事はない。
「何故半歩後ろなんだ」
「え、いえ……なんとなくですよ」
「何となくで半歩後ろを歩くのか、透は」
「まぁ、そうですね」
「本当に透は変わっているな」
機嫌を損ねている訳でなく、むしろ笑みを湛えている姿は、目が瞑れそうだ。なんだってそんなに見目麗しいんですか。歩くだけでこんなにも精神に来るとは。
会長が連れて来てくれたのは、おしゃれなカフェ。どちらかというと可愛い印象を受けて、入っていく客は全員女性。なんでこんな店を知っていらっしゃるのですか、会長?
人気のある店らしく、2、3組外の椅子で待っている様子。しかし会長は待たずに店内へ。
「予約していた、月島だ」
「へ、あ、は、はい!」
店員の女性は声が裏返って、顔が真っ赤になってしまっている。急に国宝級の美青年に声を掛けられたら、誰でもそうなるでしょうね。
店員さんの反応にほのぼのしつつ、店内を眺める。店内の内装も中々凝っている。様々な所に雑貨が置いてあり、小さな値札がついている。鑑賞してて気に入ったらレジで買える、そんな感じですか。落ち着いた雰囲気で、今度また来たいくらいだ。
「行くぞ」
「あ、ええ」
よそ見していたら、会長に手を引かれる形となってしまった。おい馬鹿やめろ……今の私は嫉妬されないよう、男っぽい服装なのだ。それで会長も男……そしてこの可愛いカフェ……嫌な予感がひしひしと伝わる。
店員さんの目が私達の手、私の顔、会長の顔と順番に渡っていく。そして何かの結論に至ったのか、カァッと顔を赤くさせていた。……うん。
顔が赤い店員さんに予約席に案内される。私と目が合った店員さんがサッと逃げ出した。……うん。
別にいいや。うん。ここだけの話だし。気を取り直して、メニューを見る。
メニューにはそれぞれ写真や説明があり、分かりやすい。どれも凝ってて美味しそうだった。チラッと会長を見ると、何かを考えているようで、真剣にメニューを見ている。何故そんな険しい顔で……会長のメニュー表をみると、ページはデザートだった。……デザートで悩んでらっしゃたんですか、そうですか。
「会長。お悩みなら、2つ注文して小皿で分けませんか?」
「……っ!!」
私の提案に、ハッと顔を上げた会長の顔が真っ赤になった。
「い、いや……別に、注文するつもりは……」
「え、何故です?」
「……」
私には甘党だとバレてるんですから、もう隠さなくてもいいのに。その固いプライドはなんなんですか。
「私も2種類味わえるなら2度美味しいですし。むしろ私からお願いしたいんですが、ダメですか?」
「そ、それなら、しょうがないな」
目線を泳がせた会長が詰まりながら答える。なんですかこの茶番。まぁ別にいいんですけどね。なんとなく店内に目を向けると、女性客の目がサッと逸らされた。……今、殆どの客に見られていませんでしたか?見世物じゃあないんですよ。
パスタ2種とデザート2種注文した。
私のパスタはえびと枝豆のなんとかかんとか。名前長いよ、どうしてこう、ごちゃごちゃした名前なの?まぁ、美味しいですから、いいです。
「美味しいか?」
とっても眩しい笑顔で会長が尋ねてくる。私は心臓に宜しくない笑顔の会長に頷いて答える。
「はい。とても美味しいです」
「そうか、良かった」
蕩ける様な笑顔を放つ会長。なんだその笑顔は。周りの客たちが頬を上気させてポーッとしてしまっているぞ。
攻略対象者は相手を勘違いさせる技術が高いらしい。そんな甘ったるい笑顔を向けられて惚れない女などいないだろう。私を除いて。彼らは攻略対象者だ。彼らが主人公以外に目を向けない事なんて私が一番良く分かっている。主人公が誰かのルートを選んだとしても、選ばれなかった攻略対象者はずっと主人公を想い続けたりしそうだ。
叶わないと知りつつもずっと想いを寄せる。なんて切ないんでしょう。頑張ってください。私は主人公に危害を加えないようさり気なく転校しますよ。今の所、転校先は見つかっていないけれど。
私はパスタに夢中のフリをして会長を盗み見る。食事も綺麗にこなすんですねぇ。やれやれ、これだから攻略対象者は。
「なんだ?俺の顔に何かついているか?」
「あぁ……イエ、ナニモアリマセンヨ」
目が合ったので思わず逸らしてしまう。言葉が片言になったのはご愛嬌。食事も済ませ、次に紅茶とデザートでまったりする。
小皿で分けて、2種類の味を楽しめる。いいですね。プリンロールと、ミリフィーユ。ちょっとミルフィーユは分けにくそうだ……と思ってたんですが、店の方で綺麗に半分に切ってくれていた。気がきいてますね。もしかして会話聞いてたんですか?いやまさかね。
甘い物を食べている時の会長は柔らかい表情をするらしい。それがちょっと子供っぽくて可愛らしい。
「……透」
「はい」
「……今は学校外だ。会長じゃなく名前で呼んで欲しいんだが」
「では月島先輩と呼ばせていただきますね」
「…蓮だ」
「は?」
「蓮で良い」
「えー……と」
はい?なんですか?月島蓮会長を下の名前で呼べとおっしゃるのでしょうか。なんとういう事でしょう。あらやだ。普通の若い女の子なら絶対「え……この人私の事好きなんじゃ?(ドキッ)」っとなるところだ。
まぁ、会長も私が絶対勘違いしないと確信しているから言っているのだろう。じゃないとそんな迂闊な事言う人じゃない……たぶん。結婚しようとか言ってたけどあれは忘れよう。金城からも翼って呼んでいいよって言われたし。多分皆さん私など論外なのだろう。ジャンルは男友達に区分されている事でしょう。決して女だとは思っていないはずだ。あれぇ?おっかしいな……顔はそこそこ綺麗だと思うんだけどな?行動か?言動か?何がいけないんだ?男装ですか?
……まぁ、攻略対象者は主人公にしか攻略出来ないからどうでもいいか。
「では、蓮先輩」
「……っ」
私は言われた通りに会長の事は蓮先輩と呼ぶ事にしよう。……あれ?なんで会長は顔を逸らしているんだろう。言われた通りに言ったのに……何が気に入らないのだろう。
あ、あれか。社交辞令の方だったのか。「タメ口でいいよ」「おう、じゃそうするわ」「本当にする奴があるかっ!」的な。
そうだ。これに違いない。私は会長に向かってなんて失礼な事をしてしまったんだろう。いやでもまだ呼び捨てじゃないから辛うじて大丈夫な事を願いたい。
「……会長?」
恐る恐る顔を逸らした会長に呼びかける。
「……なんで戻ってる?さっきので良い」
「……分かりました」
バッとこちらを向いた会長がそう言ってきた。うっそだぁ……構わないって反応じゃなかったよね?さっきの。会長って良く分からないなぁ。




