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オリエンテーションにいきました。

クラスメイトの女子が暴走します。ご注意下さい。

 女装デビュー(?)しても相も変わらず昼休みの授業は続いている。みんな向上心が合っていいね。服装の事も、あまり何も言わないし、本当みんな優しいな~。


「木下さん……これ」

「わ、いつもいつも有難うございます」


 相川さんがお菓子をくれる。授業後の恒例行事のようになってしまっている。


「大変じゃない?毎回作って来るの……金銭的にも」

「ううん!家がケーキ屋だから。今から練習してるの」

「そうなんですか、どうりで美味しいはずです」

「ふふ、ありがとう」


 顔を赤らめて微笑む姿は本当に可愛い。家がケーキ店だったとは。そりゃ毎回美味しいはずだ。


「モテるねっ!」

「これはモテてると言うのか?」


 翼が隣に来ていた。元気な翼はいつ見てもゴールデンレトリバーに見える。


「えーモテてるよね?」


 翼が相川さんに話しかけると、相川さんの顔がさらに真っ赤になった。ああ、翼よ……自分の顔の良さを思い出しなさい。将来芸能人になるくらいには恰好良いんだから。そんなに笑顔で話しかけられたら誰でも赤くなるよ。

 ……そういえば金城翼のプロフィールに、自分の恰好良さが理解出来ないってあったな。無自覚イケメンだ。性質が悪い。そのせいで主人公がファンから嫌がらせを受けるんだよね……。

 無自覚イケメンに辟易しながらも、チャイムが鳴ったので大人しく席につく。



 生徒会室に行くと、副会長が爽やかな笑顔をしており、会長が頭を抱えていた。なんですか、どういう状況ですか?室内に入るのを戸惑ってしまう。扉の前で立ち尽くしていると、副会長が手招きした。え、なんですか?その笑顔が怖いんですけど。


「何故もっと早く言わなかったのですか?」

「あ、すいません……」


 どうやら、男装の件に関しての話だったらしい。それで会長が頭を抱えている意味が分からない。胸揉み事件の話でもしたのかな?それなら納得がいく。


「まぁ、今さら良いんですけどね」


 いいんですか。そうですか。でも追及されなくて良かった。副会長の黒い笑顔は怖いからな。


「これがオリエンテーションの予定表です。それぞれのクラスに持って行ってください」

「はい」


 副会長に冊子を手渡される。オリエンテーションは1年だけで山登りをして、そこで2泊3日で泊まって親睦を深めあう行事だ。男女で別れて泊まるので、こういう行事の前に制服が届いて良かったな~と思う。まぁ、届かなかった場合は口頭で言っただろうけどね。流石に男部屋で寝るような事はしない。

 冊子はそれぞれのクラス委員長に手渡し、コピーしてクラス分作る事になるだろう。私のクラスの委員長はおぎという男子生徒だ。明るくて中々にイケメンな印象を受ける。


「そうだ。木下さん、どうして食事に行く流れになったのか教えて頂けませんか?」

「は?」

「何か失礼をしたという事は聞いたのですがね。吐かないのですよ、月島くんが」


 胸揉みの話ですね、分かります。会長が顔をあげて縋る様な目をしてくる。確かに、あれはかなり会長のイメージを損なう恐れがある。何故会長があれだけ取り乱したか分からないが、あれは酷い。


「ええと、会長の尊厳の為に黙秘します」


 私の尊厳の為にもですけどね。そうそう吹聴するような事柄でもないし、あんな風に泣きそうにみられたら流石に言えない。私がそう答えると、副会長は残念そうに溜息を吐き、会長は安堵の息を漏らしていた。


「まぁ、どうせ脱がようとしたとかそこら辺でしょうけどね」

「なっ!?」

「……おおっ」


 近い、というかほぼ正解です副会長!思わず感嘆の声をあげてしまった。会長は顔を真っ赤にして大ダメージを受けている!この分だと副会長には甘党の件も知られていそうだな。敢えて言わずに泳がせている……そんな印象を受ける。流石副会長、黒いぜ。おっと、あまり失礼な事を考えるとこっちまで飛び火しそうだ。




 1年のオリエンテーションが行われた。

 1日目は歩いて山を登り、アウトドアクッキング、宿泊施設のガイダンス、レクリェーション等を行う。2日目は山の探索。季節を感じられる山菜などを観察したり、鳥を観察したりする。スポーツや川遊びなどもするが、しっかりしないと最終日にこの合宿での出来事をプレゼンしないといけない。


「私上~!」

「ずるーい!私も!」


 班は4人1組。それは宿泊する部屋が4人用というのもある。私の班は相川さん、三宅みやけさん、玉森たまもりさんだ。

 三宅さんは短髪で、背もスラッと高く、バレー部に所属している。

 玉森さんは刑事の娘らしい。班を決める時にそう主張していた。一つだけ括った三つ編みが印象的だ。

 宿泊施設のベッドが二段になっているので、上に行きたいと主張したのは元気な三宅さんと玉森さんだ。相川さんはもじもじしながら三宅さんの下のベッドに行っている。

 しかしあれだな。良くぞ無事に辿り着いたな。班決めの時、殆どの女子が物凄い勢いで私に申込してきた。その時の勢いは凄まじく、班決めに不満を持った女子達と山登りの途中に諍いが起っていた。

 しかし、三宅さんと玉森さんも強い。その戦いを掻い潜りながら山を登り切った。相川さんは控えめなので、安全な私の所から離れなかったから助かっている。でも何故だろう、たまに相川さんをみる他の女子たちの顔が青ざめていた気がする。……気のせいだな。

 男装してたのにあそこまで好いてくれたのは正直嬉しかった。誰も組を組んでくれなかったらどうしようとか思っていた自分を殴ってやりたい。


 荷物を部屋に置いて、貴重品だけを持って大広間に集まる。まずはここの施設のガイダンス等を行う。


「ここには多種多様な施設があり~……」


 云々かんぬん。長いので説明は省く。

 お次は夕食作り。ここは定番のカレーだ。学校側が用意してくれた材料や器具で作る。男子の班と女子の班が1組づつで作っていく。力仕事は男子、調理は女子が担当する所が多い。


「私は薪を運ぶわ!料理とか出来ないし!」


 と堂々と宣言するのは三宅さん。いっそ清々しいほど良い笑顔だ。


「えっと、じゃあ僕は料理するね。力ないし……」


 気弱気に言うのは深見くんだ。ちなみに男子の班は何故か晴翔、翼もいる。何故晴翔と同じ班……まぁいいけどね。相川さんと深見くん、それと私と玉森さんが調理班になった。

 私の料理の腕前は普通だ。普通に美味しい普通の料理だ。「すごい!うまい!」とか感動される事もない。敢えて言おう、普通だと。

 チラッと深見くんと相川さんの作業を見やる。


 タタタタ……シュルシュルシュル……


 はやっ!人参ってピューラーなしでもあんなに上手く剥けるんですね。玉ねぎ切るの早いな……まるで芸術のよう。2人共料理がうますぎる。この速さだと私と玉森さんの出る幕がない。2人で唖然としながら作業を見守る。

 っといけない。自分の作業もしないと……玉森さんもハッと我に返ったらしい。

 玉森さんと顔を見合わせてニコッと笑った。うん、次元が違うよね。私たちは私たちで頑張りましょう。


 三宅さん達が火をつけて湯を沸かしてくれていた。その隣には飯盒はんごうが置かれている。ご飯もちゃんと炊かないとね。

 ルーの配合や隠し味は深見くんと相川さんに任せる。というか、任せないと怖い。

 2人が激論を繰り広げている。あんなにアツい深見くんと相川さんは見た事がない。


 最終的にガシッと2人で握手していた。何やら和解したらしい。そうして出来たカレーは凄く美味しかった。今までカレーなんて誰が作っても同じでしょ、とか思っていた。これは美味しい。なんだこれ。蕩ける様な肉、ほっくほくのじゃがいも、甘い人参……え、凄い。

 素直に美味しいと絶賛すると、相川さんの顔が真っ赤になっていた。でも嬉しそうに笑っていたから凄く可愛かった。やばいな……本当に嫁に来てほしいくらいだ。


 そして夜……。


「トランプ!トランプ!ジョーカー!」

「マキシマムドライブ!」

「ちょ!なんだソレ!」


 普通のババ抜きなのにやたらテンションが高い三宅さんと玉森さん。ちなみにマキシマムドライブ!と叫んでいるのが玉森さん。どうやら玉森さんはジョーカーを引いたらしい。クスクス笑う相川さんマジ可愛い。

 なんか楽しいな。晴翔に振られてからあまり笑えてなかったから、凄く楽しい。ご飯のときに同じ班になったのは誤算だが、まぁ他の皆もいたので乗り切れた。明日も夜はバーベキューで同じ班になるので気を引き締めておこう。


 2日目はメモ帳を片手に山を散策する。道はちゃんと舗装されているので、森に侵入しなければどうという事はない。まだ春の心地よい気温が頬を撫でていく。チチチ……と小鳥の囀りが聞こえて心が落ち着く。


「ふぁーはっは!私が貴様に倒されると?笑わせる!」


 膝を付く女生徒に三宅さんが高笑いをしている。


「ふん、木下さんに出会いたければ私も倒していく事ね」


 腕を組んで宣言しているのが玉森さん。2人共テンション高いな!ずっとそのテンションが持つだなんて凄い。普通に尊敬する。膝を付いた女生徒(別のクラスの子だろう)は、悔しそうに私を見つめてから走り去って行った。……なんだろうか?何故そうまでして私に会いたいのだろうか?

 今度あの子に話しかけてみようかな……。

 テンションの高い2人とは正反対で、相川さんと歩いていると落ち着く。なんだか縁側にいるお爺ちゃんとお婆ちゃんの気持ちが分かるような気さえする。


「お茶いります?」

「え、あるのですか?」


「ええ……」

「ではお言葉に甘えて……」


 相川さんはポットにお茶を入れて来たらしい。用意周到ですね。完璧な嫁だ。保温ポットらしく、暖かいお茶が差し出される。春と言っても未だ風は冷たいので、その気遣いが嬉しい。


「桜はまた抜け駆けを……!」

「私にもお茶入れてー!」


 玉森さんが悔し気にしており、三宅さんは気軽にお茶の催促をしている。ちなみに桜とは相川さんの下の名前だ。名前も可愛らしい。完璧女子。もうこの子が主人公で良いんじゃないかな?

 ここの施設は所々にベンチがあるので、気軽に腰を落ち着かせる事が出来る。結構広いよなここ……どれくらいの面積あるんだろう?

 相川さんは三宅さんにもお茶を差し出してあげている。手渡す瞬間、何故かピリッとした空気が走った気がした。不思議に思ったが、気にするほどでもないだろう。


「おー透!奇遇だね!」


 翼が手をあげてこちらに駆け寄って来る。その姿は完全に犬だ。私がそんな失礼な事を考えているなんて知らない翼は笑顔で近づいてくる。翼もいるという事は晴翔もいるということだ。

 しかし晴翔は遠い所にいるので、ちょっと安心。


「今日の晩御飯楽しみだねー!」

「そうですね」

「ねー!」


 何がそんなに嬉しいのだろう。凄い良い笑顔だ。


「どうせ会ったんだから、俺達と回らない?」

「「ダメよ!!」」


 翼の提案に三宅さんと玉森さんが即否定した。


「ドキドキランデブーの予定があるの」

「女子会よ女子会」


 なんの話ですか、なんの。2人共テンション高くてついていけないよ。翼も2人の勢いに負けて困惑している。おお……攻略対象者すら退けるその胆力!見事なモノです。感動しちゃいましたよ。


「デートしましょう木下さん!それぞれ2人きりで!親睦を深めましょう」

「え?ええ……か、構いませんが」

「「よっしゃぁ!!」」


 ガッツポーズを決める2人。え、どうしよう。勢いに負けて言っちゃったけど大丈夫なのだろうか?


 まずは三宅さんとテニスコートでテニスをする事になった。


「ふふふ、まさか木下さんとテニヌ(誤字ではない)が出来るなんて……!」


 揺らめく瞳に情熱が篭り過ぎて怖い。本当はバレーをしたかったらしいのだが、バレーのコートはないのだ。


「マジカルばなな!バナナと言ったら黄色!」


 そんな事を言い放ってから三宅さんはバシッとボールを打ってくる。


「ええっ!?き、黄色と言ったらレモン!?」


 咄嗟に言ってから打ち返す。


「レモンと言ったら酸っぱい!」

「酸っぱいと言ったら……言ったら……あっ」


 狼狽えている間にボールが2回地面に落ちた。無理!なんという無茶ブリ。三宅さんテンション高ぇええ。なんでラリー中にマジカルばなな言い出すんですか。


「ウフフ……私の勝ちね」


 頬を赤らめながら微笑んでいる……うん、楽しそうで良かったよ。


 次は玉森さんと川沿いを歩く。もう嫌な予感しかしない。


「水を掛けさせあってきゃっきゃうふふしましょう」


 ああ、うん……構いませんよ。着替えならありますからね。ジャージのズボンをまくり上げて川に足を入れる。流石にちょっと冷たいかもしれない。


 カシャ


「ん?」


 音のする方を見ると、いつの間に用意したのか、玉森さんがカメラを用意していた。


「あの……玉森さん?」

「ああ!そのまま!そのままでお願い!」

「え、ええ……」


 なんだ?水を掛け合うんじゃなかったのか?確かにまだ水が冷たいし、風邪を引きたくないから助かるけど。しばらく写真を撮って満足したのか、握手を交わした。うん……うん、テンション高いな。


 次は相川さん。

 相川さんは特に何も要求する事はない。ただのんびりと風景を眺めるだけ、落ち着くなぁ。何故あの2人はあんなにテンション高いのだろう。クラスでいる時はそんな印象受けなかったんだけどな。でも私といてそれだけ楽しんでくれているのは嬉しい。ちょっとついていけないけど。

 落ち着いたところでメモをとる。最終日にまとめて発表するためだ。発表はそれぞれのクラスで分かれてクラス内だけで発表する。どうせ似たり寄ったりな内容になる上に人数も多いからだ。それでも手は抜けない。

 でもそうか、写真はいいアイデアだったな。分かりやすくて説明もしやすくなるだろうし。そういうの忘れてたな。でもあれは後で現像するタイプだしな……。


「ふふ」


 隣で相川さんが笑ったので顔を上げる。見ると、穏やかに微笑んでいる。


「木下さんって本当に良い方ですよね」

「え?そ、そうですか?」

「そうですよ。普通あんな無茶なフリを受けたりしませんから」


 お、おう……あれは勢いに負けただけなのです。


「木下さんがスカートをはいて来た時、本当に驚きました」

「それは、申し訳ありません」

「いいえ、木下さんが女性でも男性でも、木下さんである事は変わりはないのですから」


 その言葉がじんと胸に染み渡る。なんていい子なんでしょう。どうやったらこんなに良い子に育つのでしょう。


「……有難うございます」


 私たちは穏やかな空気のまま時間を過ごした。


 夕食のバーベキューも相川さんと深見くんの独壇場。良い焼き具合の物を均等に分けて入れていく。はんぱねぇ、本当にはんぱねぇ。


「どうぞ」

「あ、有難うございます。お疲れ様です」

「え……あ、イエ」


 深見くんに手渡され、お礼を言うと、何故か顔が真っ赤になった。……別に何もしてないはずなのに。……それにしても美味しいなぁ。良い焼き加減だ。2人にばかり任せるのは、ちょっと申し訳ないな。……でも2人に勝てる気がしないのでやめておく。2人も嫌がりそうだし。

 相川さんの元に帰った深見くんが「ひっ!」という声を出していた。……虫でもいたのかな?



 夜になって、4人でプレゼンに使う紙を大きく広げていた。明日も作る時間は多少はあるが、ある程度は終わらせていた方が良いだろう。


「ねーねー木下さんって好きな人いるー?」


 三宅さんが鉛筆で用紙に下書きをしながら聞いてくる。おっと、これは定番の女子トークですね。そのノリはまた随分と懐かしいですね。


「女の子?男の子?」

「げほっ!」


 玉森さんの質問に咽る。何故その質問……まぁ男装してたからなんだろうけど。


「……男の方でお願いします」

「「おおっ」」


 三宅さんと玉森さんは何故か盛り上がっている。そして相川さんが少し落ち込んでいるようだ。なんか不味い事言ったか?


「相川さん?」

「……木下さん」


 顔を覗き込むと、丁度顔を上げた相川さんと目が合った。そのせいで距離が凄く近い。綺麗な瞳に見つめられながら、そっと手を取られた。その真剣な眼差しに何故か緊張してしまう。


「私の事は、桜と」

「は、はい……では、私の事も透と呼んで下さい」


 しばらく2人で見つめあう。


「ゆりんゆりんね」

「2人の世界に入らないで貰える?」


 ハッとして三宅さんと玉森さんに向き直る。おお……これが美少女の実力。その圧倒的美少女力の前では私の防御力すら破壊してくる。なんて恐ろしい。

 気を取り直してプレゼンの用紙に4人で取りかかる事にした。

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