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振られました。

「好きです。付き合ってください」

「ごっ……ごめん。透の事そんな風に見た事、なかった」


 はい、冒頭からいきなり振られました木下透といいます。お相手は幼馴染の火媛晴翔ひえんはるとくん。赤色の髪が特徴的なイケメンです。見た目はチャラい感じに見えるが、根は至って真面目。まぁ、クラスの盛り上げ役とかしたりするリーダー的な役割も担う男だ。取り組む時は至って真剣で、徹底的にやり込む所が好きだった。小学校6年生夏頃からずっと好きだった。今は中学3年生の卒業シーズン。高校は意外なことに同じになってしまっていたが、これを機に告白しようと思ったのだ。良い返事がもらえればバラ色高校生活。悪い返事なら友達に戻って別の男性にも目を向ける。良い機会だ。


 案の定、振られてしまったんですがね。


 ちなみに、透という名前だが、私はちゃんと女の子である。しかも前世の記憶持ちという。なんとも痛い感じの人間だった。前世では怠惰な人生を送り、途中で「あ、これ詰んだわ」ってなった30過ぎの女だ。生まれ変わって心機一転徹底的に何もかもやり込む事を決意。漫画やゲームも徹底排除。小学生から関数や化学反応について学び続けた。女としても捨てるのは勿体ないと、茶道で所作の綺麗さを学んだ。

 弓道で上下関係について徹底的に体に叩き込んだ。精神年齢が40近くもなって、まさか小学6年生の子供に恋をするとは考えていなかったが、気持ちというのは体に多少引きずられるものなのだろうか。

 たまに自分でも良く分からない癇癪を起すこともあった。

 中学生になった……いや、もうすぐ高校生だが、だから大分感情のコントロールも上手くなってきた。


「そ、う……ですか」


 私は残念そうな声を出して俯いた。ショックだよ。結構仲がいいと思っていたのに。まさかマジで女に見られていなかったとは。そりゃちょっとノリを良くしてた事もあったけれど。ううん。ここで泣くようなマネは流石にしない。ああ、青春だね。こういう重い気持ちも30歳位になったら笑って思い出せるものさ。

 経験談ですが何か?


 しっかし……私も今世の容姿にそれなりに自信があったんだけどな。いや、あの、ナルシストではなく、純粋に前世と比較してね。


 晴翔は何か言いたげに口を開いてそこから声が出てこない。私はそれを首を振って遮る。これ以上晴翔が何か言うものではない。私としてもこれからは気分を新しくしなくては。


「高校でも友達でいてくれると、助かります」

「あ、ああ……それは、も、もち、勿論」


 顔を見上げて目が合うと大いに視線を彷徨わせた。まぁ、気まずいんでしょう。私も随分気まずい。しかし、同じ高校なんだから、ギスギスするのは勘弁したい。同じクラスにでもなったら最悪だ。

 大人の精神を持ち合わせても気まずいものは気まずいのである。



 さて、失恋した私は春休みの間に背中の中腹まであった長い髪をバッサリ切った。比較的整った顔をしているので少年に見えなくもないが、まぁ良いだろう。ここから新しい髪を伸ばそう。失恋で髪を切るなんて昭和的考えだろうか。そういや生まれ変わってからそんな子見た事ないぞ。わぁ……凄くい痛……ま、まぁ、いっか。

 細かいこと考えても仕方ない。


 新学期になってさぁ、新しい制服に着替えるぞ!思ったら、男子制服だった。いや、良く分からない。私は女なのです。透という名前でも女なのです。これは確実に母の悪質で下劣で卑劣な悪戯である。


「ごっめーん☆間違っちゃった」


 母に言い詰めると、年に似合わない声色を出してペロッと舌を出した。この舌引っこ抜いてやろうか。と本気で思った。なんで女物と男物を間違える!?


 だがしかし悔しいことに私は母の事が好きである。のほほんとした性格なんとかなるでしょうという心構え。なんとも前世の私に良く似ているのである。昔から根を詰めすぎる私に息抜きと称した悪戯を仕掛けてくる。大抵は笑って許していたが、今回はちょっと悪質である。いやまさか。女子の制服を用意してないなどとホザかないだろう。


「こら、フザけてないでちゃんと謝りなさい」


 出勤間際だった父が母を窘める。すると、急に母がしゅんとうなだれた。


「透ちゃん、本当にミスなのよ。なんでも先方が透という名前で男だと思ったみたいで男子制服作っちゃったみたいなの。私も確認すれば良かったんだけど……」

「ああ、そういうことね」


 相手側の勘違いか、ならいいか。


「勿論無料で作り直して貰えるんだよね?」

「勿論よ~でもなんだかちょっと向こうも忙しいみたいでしばらくはその制服で我慢してくれないかしら」


 私はホッと息をつく。この制服高いから、作り直して貰えるならいいや。


「丁度髪も切って男っぽいから、ちょっと徹底的に男で乗り込もうかな」

「やだ、透ちゃんったらカッコいい」

「おおっお父さんも応援するぞ!」


 どうせ男子制服を身にまとうならば徹底的にやらねば気持ちが悪い。15年間徹底的に強制した性格はちょっと問題ありだ。まぁ、事情は学校側も知っているだろうから大した問題にもならないだろう。


「母さん、もうちょっと髪短くして」

「ラジャーよ!ワクワクするわね!」

「くっ……!出勤するお父さんを許しておくれ!いかねばならん……!」

「あら、安心して。ちゃんと写真と動画を収めるから!」

「……任せた!」


 なんともノリがいい夫婦だ。私も大概なんだけどね。なってしまったものは後悔しても仕方ないし、前向きに楽しんだ者勝ちだと思う。私は完璧な男装を母とはしゃぎながら行った。




「きゃっあの人凄くイケメンよ」

「新入生にあんなイケメンがいるなんてラッキーね」


 やれやれ、と私は息をついた。思いの他出来が良くなったからだ。やだ、私ったら……男に生まれた方が良かったのかしら。……しかし、可愛い子に頬を染められるのって気持ちいいな。

 イケメンの気持ちってこんなんかな?


「と、透っ!?」


 赤髪の幼馴染が目を見開いてこちらに叫んでいた。


「やぁ、卒業以来だな、晴翔」

「おま、お、お前、お、おと、おお男」

「いやだな、晴翔。それは幼馴染のお前が良く知っているだろう?」


 少し男らしさをイメージした喋りと仕草をする。やるなら徹底的に、だ。しかし、同じプールで泳いだこともあるのに何故男だと思うのだろう。そんなに男っぽかっただろうか?だとしたらショックだ。

 何故こんな気持ちにならねばならない。


「は?ななななに言って……」

「落ち着けよ。制服間違えて作ったんだよ。母が良くドジするの知ってるだろう?作り直して貰っている間は、これで我慢してるんだ」


「……そういえばお前の母さんはそういう人だった」


 急に落ち着きを取り戻して納得する晴翔。お前の私の母への認識はどうなっているんだ。まぁ、あながち間違っていないから良いんだが。



 結局私は晴翔と同じクラスになってしまった。まぁ、この制服のおかげでなんだか気まずさが晴れたと思う。逆に感謝するべきなのだろうか?いや、しないけどさ。私のクラスの女子は色めき立っている。イケメンが3人もいるからだ。私と、晴翔と、もう一人……他校の生徒とバンドを組んでいる金城かねしろという男だ。金髪でミュージシャンだなんてチャラい。チャラ過ぎる。私もびっくりのチャラさだ。

 しかし、なんだか知らないが私たちは何となく仲良くなった。イケメンが3人集まれば怖くない……。いや、私はどう考えても可笑しいだろ。制服出来たらスカートはくのですけど……。ここは言っておいた方がいいのだろうか。


 ……しかし、このイケメンなんっか……見た事ある気がする。


「えっ何々透?なんか付いてる?」


 じっとりと顔を凝視していたら気になったようだ。そりゃそうだ。私でも気になる。


「や……どっかで会ったかなぁと思って」

「え、ナンパ?」


 あはは、と爽やかに笑う金城。イケメンが笑うと周りの女の子が頬を染める。イケメン効果半端ない。それはないな……チャラいのは好きじゃない。


「は?と、透突然何言って……」


 何故か晴翔が狼狽している。女の子がナンパしちゃいけないというルールはないはずですが。金城くらいになると道を歩くだけで蟻のように集られるに違いない。ファンもいるだろうし……あ、そか。バンドしてるんだっけ?


「バンドしてる所でも見た事あるのかなぁ……」

「その可能性あるかも。路上ライブもする事あるし」

「へぇ」


 なるほど、確かにその可能性はあるな。目の端に映っただけだとしてもこれだけイケメンなら多少記憶にも残っているだろう。しかし、この人懐っこそうな笑顔……金色……。

 ゴールデンレトリバーを連想するのは何故だろう。可笑しいな、しっぽが見えるよ。


「ちゃんと許可してやってるんだ。良かったら今度聞きに来てよ」

「ああ、いいね」


 許可とかあるのか。意外と真面目に取り組んでいるみたいだ。せっかく仲良くなったのだ。聞いてみたい気持ちはある。私はすぐに頷く。


「お、俺も……」

「勿論!うわ、なんか緊張するなぁ」


 晴翔の言葉に嬉しそうに頷く金城。緊張すると言っている割には楽しそうだ。きっと自信があるのだろう。ふふふ、私は前世で大量のアニソンを聞いてきたのだ。そんじょそこらの歌じゃ褒めないぜ?

 ふっと何かが心で引っかかった。ん?と思って首を傾げる。


「どうした?」


 不安げな晴翔が訪ねてくる。


「いや……なんかこう……やっぱなんでもない」


 もやもやっとした気持ちになった。なんだろう、疲れているのだろうか?確かにいつもと違う動きで結構気疲れしちゃったかもしれない。午後に弓道部に入部申請出してすぐに帰ろうかな。

主人公はまだ乙女ゲームの世界だと気付いていません。

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