第一章:「ダミア」
「――――我、汝を救済せん。汝真に正しき者なるが故に。
我、汝を寵愛せん。汝真に美しき者なるが故に。
我、汝を祝福せん。汝真に賢き者なるが故に。
汝ダミア、汝は姦婦に非ず。汝は聖女なり。汝は我が名代なり。
汝が言葉は我が言葉なり。汝が施しは我が施しなり。
今より汝は地上における我が執行者なるべし。地上に善を広め、邪を滅すべし―――――」
――――「聖典」第一二章 ダミア伝第七節より抜粋――――
烈日―――――――
生暖かくなった田んぼの水は、却って気色が悪く、降り注ぐ烈しい陽光も重なり、農作業への意欲を落とすのだった。村の人々は早々と農作業を切り上げ、暑さを凌ぐべく各々の家へと足を向け始め、その帰結として田んぼからは人影が消えていく。そして村人たちが早々と農作業を切り上げたのは、何も彼らの日々の生業に、心から倦んだからではなかった。
田んぼの只中に、ポツンと佇む細い人影がひとつ―――――
――――だが烈日の下、目を凝らしよく見れば、それが首から遠方の大木に一本の綱で繋がれていることが判るだろう。
何処ともなく聞こえるヒグラシの鳴き声―――――
それに混じって聞こえる、男の濁声―――――
「人豚、お前は残れ。全部終わるまで帰って来るな」
「…………」
意図的に無視を決め込んだわけではなかったが、返事がないこと――――あるいは無反応であること―――――が、男の癇に障った。男は水面を揺らしつつ細い影に歩み寄るや、男は棒きれを振り上げ、か熱病に浮かされたかのように細い影を打つのだった。何度も……何度も……あたかも、自らが加虐し続ける対象の存在自体、その男には許せないかのようであった。
痛みと衝撃に耐えかねた細い人影が足から崩れ、そして完全に田の泥水に浸かってもなお、男は人影を打つのを止めなかった。
「ふざけた真似しやがって!……今度やったら殺すからな!」
去り間際に唾を吐きかけ、男はズカズカと田に蹲る細い影から離れていった。笑いながら立ち去っていく若い男女……そしてその後には、怯えたように蹲ったまま動かない少女の身体が残された―――――そう、細い影は、少女の身体をしていた。
「…………」
完全に人の気配が消えたのを見計らい、少女は立ち上がった。そして袋から散らばった苗を拾い、黙々と田植えに取り掛かる……ただ立ち上がる際、少女は自らの頭を覆う檻のような鉄仮面を執拗なまでに庇い、それに付いた汚れを忙しげな手付きで拭うのだった。泥に汚れた衣類、そして身体など、その仮面に比べれば、今の少女にとってはどうでもよい物なのかもしれなかった。
檻にも似た鉄仮面の側面から微かに覗く、尖った長い耳―――――
目の部分から覗く大きな、血走った眼―――――
少女は孤独だった。まず、この世に生を享けるのと同時に、少女は母を失った。
父が誰かなど、当の母自身が知らなかった。何故なら少女の母親は、14になるかならぬかの内に実の両親にその身を売られ、再びこの村に戻って来るまで、陰鬱な売春窟で、文字通りに見も知らぬ男どもに、肉体を売る生業に身を置いていたからだ。そして少女の母は、誰とも知れぬ男の種をその胎内に宿したのと期を同じくして生業の場を追われ、そして少女を産んだ。
―――――従って少女もまた父の顔を知らなかったし、知ろうとも思わなかった。
経緯が経緯であったから、村人たちの母に対する感情は、決して好意的なものではなかった。むしろ一時の金銭的余裕に目が眩み、結束して母を奴隷商人に売り渡したことへの負い目から、村人たちは一人残された赤ん坊を、文字通り「忌み子」として遇したのである……そして何よりも―――――
――――生来より備えた異形の白い肌の色。
――――同じく生来より備えた異形の耳と眼差し。
――――この世に生まれ出でた赤ん坊の容姿が、肌の色の濃い村人たちに、「人ならざるもの」への畏怖を喚起させたことは、疑うべくもなかった。
――――それは、村の祭祀を司る神職と長老たちとの間で決められた。
少女と呼ばれる年頃に達するのと同時に、少女はその頭に鉄仮面を被せられ、そしてそれを自身の生の終わりまで被り続けることが村における少女の運命となった。同時に少女は日の出から日没まで奴隷同然に働かされ、ときには辱められ、侮蔑された。少女の生まれた国に於いて、鉄仮面とは共同体の平和を乱す者に対する刑罰の一種であり、そうしようと意図する者に対する見せしめ的な意味をも持っていた。その生の続く限り罪人の頭を拘束し続けるそれは、絶え間なく続く閉塞感と灼熱感の、最大の苦痛をもたらす拷問の器であった。そして少女はそれを被ったその日から、村人の罪と穢れを一心に背負わされる存在となったのである。少女の意思とはまるで関係がなく―――――
そして少女は、運命を受け容れ続けた――――――そのやけに暑く、じめじめした日まで。
「…………」
田から離れた、もう一本の大木の麓―――――
不意に、冷たい風を感じた。
背を擡げた少女の目は、そこに佇み此方を窺う一本の人影を見出す―――――
「…………?」
地上から蒸し上げるかのような暑さなど、意に介さないかのような長く分厚い、黒い外套……それが、少女には奇異なものに見えた。そして黒い外套の持ち主が、すでに一週間、そこにいて遠巻きに村の様子を窺っていることを少女は知っていた。奇異ではあっても、排斥されているが故に周囲の全てに無反応になっていた少女にとって、それは別段気に留める程のものではなくなっていたのだった。
少女は農作業に専念する―――――
少女の意識から、外套が徐々に消えていく―――――
外套の主が、少女へ向かい歩き出していたのに、少女は気付かなかった。
「――――――――!」
鉄仮面の眼窩の奥底で、大きく見開かれた眼―――――
次の瞬間には、外套の主は田んぼの縁に立ち、少女を見下ろしていた。
息を呑む――――――外界の全てに対し鈍感たらざるを得ない少女でも、眼前の人影に対しては、敏感たらざるを得なかった。
知らず後ろへ踏み込む足――――――
鉄仮面の奥で、怯む少女の眼差し―――――――
外套の襟にその下半分が隠れていたが、少女は人影のあることに気付き、それが後退りする足を止めた
仮面――――――丈の高い襟に囲まれていたが、外套の人影は、その顔を仮面に覆っていた。
「…………」
見下ろし、見上げることで生まれる沈黙―――――それを破ったのは、やはり外套の人物だった。
「君は……咎人か?」
「…………」
仮面越しの、囁きにも似た小さな声……だがそれはこれまでの過酷な日々に委縮し切った仮面の少女の心を、その奥から震わせた。それに続く沈黙の間、仮面の男はさながら、対象をその凝視のみで品定めし、彼なりに理解しようとしているかのようであった。
「今日は、皆浮かれているようだな。何時もは長閑なのに……」
「祭があるの……豊穣神の祭り」
「豊穣神……とな?」
「神殿で踊って……お囃子をして、豊作を祈るの。ただそれだけ……」
少女の言葉尻が濁るのを、仮面の男は鼻で哂った。少なくとも少女にはそう思われた。
「豊作を祈った後、どうするのかな?」
「…………!」
愕然とし、仰け反る少女が仮面の男には手に取る様に判っていたかのようであった。
「村人……それもここの若者たちの意図はもはや祭祀にはないのだろう?」
「…………」
仮面越しながら、少女から完全に表情が消えたのを見て取っても、それでも仮面の男の言葉は続いた。
「君は行かないのか?」
「行けるわけ……ないよ」
少女は力なく言った。女として、人間としても扱われていない今、少女は村中で完全に孤立し、排斥され続けて今日まで来た。老いも若きも彼女をもはや人間として見てはいない。従って少女にとって、苦役を終わらせる方法は、近い将来にその生を終えることでしかない。現に最近、日々の食を減らされ、その反面労働に拘束される時間が増えているように少女には思える。
仮面の男は、言った。
「村の老人たちは、お前を生贄にすると言っている」
「そう……」
「何とも思わないのか?」
「それが神様のご意思ならば、仕方がないもの……」
「喩えそれが、偽りの神の意志でもか?」
「村には村の神様がいる。あたしにとっての神様と、あなたの村の神様とは違う」
「…………」
仮面から漏れる感嘆の吐息を、少女は男から聞いたように思った。
「君は……賢いのだな」
「…………」
「名前は……?」
「人豚……村の皆には、そう呼ばれてる」
そこまで言って、少女は唇を噛み締めた。本当ならば、別の名前があったはずだが、鉄仮面に顔を封じられて以来、少女はそれを思い出せずにいたのだった。
「人豚か……酷い名だ」
「……」
「本当の名ではないな……」
「……名前の話は、止めて」
「ここから出ようと思ったことはないのか?」
「……どうせ死ぬんだよ。あたしは……どうしたって、駄目な時は駄目」
実際、逃げようと試みた事がある。試みの度にそれは失敗し、その度に少女は痛めつけられ、そして辱められた。その内抵抗の意思に諦観が取って代り、そして少女は死を意識するに至った。
「フフフフ……」
「…………?」
仮面の男は笑った。それが少女には意外だった。その禍々しく、忌まわしい紋様に飾られた仮面を近付け、そして仮面の男は言った。
「果たしてそうかな……」
「え……?」
さらに近付く仮面――――そして延びた手は少女の仮面を捉え、掌は仮面を包み込むようにした。
鉄仮面の奥を覗く、もう一方の仮面の眼―――――仮面の奥で、少女は身じろいだ。だが、狭い仮面の中では逃れることもままならなかった。
「お前は現実から逃げている。逃げるのは、お前が臆病者だからだ」
「え……?」
「生きたくば、戦え」
「…………」
「生き残る者は、戦った者だけだ。戦わねば生き残って明日を迎えることは出来ぬ」
「…………!」
少女は、見た。
禍々しい仮面の眼の奥底―――――
そこで煌めく、強烈なまでの眼光―――――
ともすればそこに吸い込まれそうになる自分自身を、精一杯に圧し止める。
自我すら維持できぬ空気を少女に嗅がせつつ、仮面の男は言った。
「―――――彼らは知らないのだ。いかに自分たちが神の意思に背く行いを為し、神の道より外れた行いに手を染めているのかを……」
「…………?」
「救済せよ……それが君にできる。唯一の奉仕なのだから。神もそれを望んでおられる」
「救済……?」
「そう……天国へと導くのだ」
天国―――――――?
一層に狭まる、仮面と仮面の距離―――――
その時、少女が初めて憶えた感触―――――
恍惚――――――
そこに注がれる、仮面の男の囁き―――――
「―――――神殿へ続く山道を知っているか?」
「…………」
「―――――その途上に、小さな祠があるだろう」
「―――――より善き生を望むならば、此処を脱しそこへ向かえ。さらば道は開かれん」
「――――――――!」
我に返ったそのとき――――――
立ち尽くし、空を仰いだままの姿から、少女は慌てて周囲を顧みた。先刻の仮面の男は、とうに少女の周囲から姿を消していた。掻き消えてしまったかのような去り方のように思われた。
鼓動―――――唐突に胸を苛むそれに、手を抑えて耐える。
「おい人豚!!」
「―――――――!?」
少女を鼓動から解放したのは、罵声にも似た呼掛けであった。弾かれるようにして振り返った先、巨大な蛮刀を背に提げた肥満した男と、相棒の痩せた男が、険しい眼差しもそのままに少女の鉄仮面を睨み付けていた。村の豪農一族の子たるツァイ兄弟、武芸に秀でているとは聞こえがいいが、一部の長老からすれば、家業をそっちのけで武人の真似事に現を抜かす道楽者にしか見えない連中だった。
その兄―――――肥満した蛮刀使いが言った。
「最近、怪しい奴がこの辺をうろついている。村に災いを為す悪魔の使いだ。巫女様もそう言っておられる。」
次に弟―――――痩せた、腰に拳銃を提げた男が言った。
「お前、怪しい奴を見なかったか?」
首を横に振り、少女は答えを示した。こいつらの前で迂闊に口は開けない―――――過去の経験から、少女はそれを痛いほど学んでいた。迂闊に口を交わせば、「豚の分際で人の言葉を喋るとは生意気だ」などと因縁を付けられ、嬲られる……!
少女の鉄仮面に、怯えと従順の色を見、蛮刀使いの兄が剃刀のような笑みを浮かべた。少女に対する侮蔑と優越感は、隠しようがなかった。
「怪しい奴を見かけたら、必ず知らせろよ。おれがそいつを―――――」
「――――――!!?」
後ろ手に抜かれ、その刃身に烈光を吸い込む蛮刀―――――
「こうしてやる……!」
蛮刀は、少女の首を繋ぐ綱を、一閃で断切った―――――
「…………」
怯え、立ち尽くした少女を前に、蛮刀使いの兄は音程の外れた大声で笑い、弟もまたそれに追従して笑った。二人が去り、少女が我を取り戻しかけたそのとき―――――
「こら人豚! お前綱を切ったのか!?」
「…………!」
趣の異なる怒声に弾かれたかのように、少女は異なる方向を振り返った――――――肩を怒らせた中年の男……村にとって自分が共通の「敵」であり、そして村の悪意を一身に受ける立場であることを少女はまた痛感する。
充血した三白眼を見開き、男は棒きれを振り上げ怒鳴った。
「また逃げようとしたんだなこの間抜けがっ!!」
「――――――!!!」
怒りと共に振り上げられた木の棒―――――
仮面の奥で見開かれた少女の眼―――――
漂白――――――烈しい衝撃と共にそれは、少女から全ての意識を奪う。
棒で打たれた後、連れ戻された先で吊るされ、さらに棒で打たれた後、少女は襤褸切れのように納屋に放り込まれた。
「…………」
意識を取り戻すのと同時に、身体中に漣のように押し寄せて来る痛みに、目を瞑って耐える。身体は動かさず、そのままじっとしていれば、いずれ動ける様になることを少女は知っていた。勿論、過去の経験から―――――
瞑った眼から零れる、大粒の涙……涙……涙。
今までに何度、自分はこうして泣いたことだろう。
昔は外聞もなく、人前で泣いたものだ。喚いたものだ。だがその度に暴力の応酬は酷く、少女は徹底的に打ちのめされてきた……そして少女は、人前で感情を殺すことを強いられ、それを覚えたのだった。人間らしい意思の表示などもはや問題がいだった。
涙……その上に自分には、その涙を拭いてくれる誰かもいない。
そのとき――――――
―――――生き残る者は、戦った者だけだ。戦わねば生き残って明日を迎えることは出来ぬ。
「――――――!?」
反芻した誰かの言葉が、少女の脳裏には新鮮に、かつ衝撃を以て拡がる―――――それ反芻する度、これまでの一生で感じたことの無い、胸を高揚させる何かを少女は痛めつけられたその身で覚えるのだった。
すでに乾き始めた涙目で、納屋の床一面に敷き詰められた枯藁の只中でじっと身を横たえる少女の耳に、遠く離れた何処かから、誰かの話を聞いたのはそのときだった。少女は、耳と目は常人に比して異様なまでに良かった。
『―――――今年の生贄はどうだんべやぁ』
『―――――そのために今日まで生かしてきたんじゃ。そうでなくては……』
『……とんだ無駄飯喰らいというものじゃて』
『そうじゃそうじゃ。大事な生贄じゃ、あまり傷ものにしてはいかんて……今日の夜まではな』
「…………」
――――少女は、確信した。
――――あの仮面の男が言ったことは、本当だった……!
少女は、全てを聞いた。自分は今日、殺される。自分の報われぬ一生は、今日で終わるのだ。
だが、不思議と怖いとは思わなかった。
だが……少女は訝る。
豊穣神は、生贄を嫌う筈ではないのか……?
『―――――しかしいいのかのう。豊穣神は生贄をお好みにならん筈じゃがのう』
『―――――いいんじゃ、仕来りは時を経るに併せて変わるもの。それもあの目障りで不吉な鉄面が消えてくれるのならば尚更じゃ』
『豊穣神だけではない。祀るわしらにとって、神様は道具のようなものじゃ……わしらの意思でどうとでも操れる』
「…………」
怒り――――――
仮面の奥に宿る、それまでとは違う光―――――
だが―――――
少女がそれを意識するまでには、未だ至ってはいなかった。
豊穣神の祭り―――――それは、この国の、大地と農耕の神である豊穣神に、今年の豊作を祈願する祭りであり、儀式であった。その夜、村人たちは山中の神殿に集って豊穣神に供物を捧げ、酒を飲み、馳走を食し、神職や巫女の奏でる囃子に合わせて踊り、楽しむのだ。
―――――そしてこの夜は、妙齢に達した村の男女にとって、特別な意味を持っていた。
夜―――――痛みを癒すべく動くのを止め、やがてはそのまま眠りに落ちていた少女は、納屋に入って来た男どもに囲まれ、そして杖で突かれて起こされた。
「…………」
普段少女を虐げ、蔑んできた村の男たちの中に、あのツァイ兄弟、そして儀式用の装束に身を包んだ神職の老人の姿を見出した時、少女は自分の運命を自覚する。その神職が男たちに目配せをした直後、少女は襟を掴まれて強引に立たされ、そして両手を縛られ曳き立てられた……まるで罪人のように。
……そう、少女はもはや罪人だった。村人の身代りとして、村中の人間の苦痛、嫉妬、憎悪、欲望を一身に引き受け、神の御許に返されゆく身――――彼女の息の根を止め、神の御許に返したそのとき、彼ら衆生の贖罪は成る、というわけであった。
少女は、曳き立てられた。
少女と男たちは、村々の明かりの連なりから離れ、山道に入った。曲がりくねり、木々の鬱蒼と茂った山道を登る。男たちはぞの何れもが無言で、それがこれから行われることになる「儀式」の異常さを、静寂と暗夜の内に、雄弁なまでに物語っていた。
開けた場所に差し掛かった時、不意に男たちの足が止まった。
「……ここでいいだろう」
「――――――――!?」
男たちが、少女を取り囲む。彼らの顔に宿る、それまでとは明らかに趣の異なる笑みを、少女は仮面の奥から見出す。ツァイ兄弟の、蛮刀使いの兄が言った。
「ヒヒヒヒ……死ぬ前にお前にも、女らしくいい思いをさせてやるぜ」
「――――――!」
少女は、その意味を即座に理解した。村の男たちは、その最後まで少女を人間扱いする積りなど無かったのである。それはつまり、少女を代わる代わる犯し、気紛れにも似た彼らの劣情まで生贄の少女に引き受けさせることを意味した。年老いた神職すら、口元をだらしなく歪ませ、明らかに自分の順番を意識していた。
「…………!」
身震い―――――迫って来た男から、後退りし逃れようとして少女は失敗した。背後から拳銃使いの弟に肩を抑えられ、動きを止められたのだ。
「ヒヒヒヒヒヒヒ……!」
「イヤ……」
少女の拒否に、迫る男の顔に宿る、明らかな怒り―――――
「半人の分際で生意気言うんじゃねえ!!」
棒が振り上げられ、少女の頭を仮面越しに強かに打った。砕けた木片が仮面に入って少女の頭を傷付け、流れ出す血の細流―――――
その温かさを頬に感じた瞬間―――――
「―――――神殿へ続く山道を知っているか?」
「…………」
「―――――その途上に、小さな祠があるだろう」
「―――――より善き生を望むならば、そこへ向かえ。さらば道は開かれん」
――――――――!
あの仮面の男の記憶――――――それが、少女に行動する理由を与える。
「まずはおれが先だ!」
先走る情欲に任せ、少女を押し倒そうとした兄の下腹部が、がら空きになっているのを、少女は見逃さなかった。
前へ蹴り出された脚――――――
それは寸分の狂いもなく、兄の股間部を捉えた――――――
「―――――――!!?」
股間を抑え、足からその場に崩れ落ちる蛮刀使い―――――
そこに少女が、拘束から逃れる好機が生まれる―――――
男どもの腕を振り払い、少女は駆け出した―――――
「逃げたぞ!! 追え!! 捕まえろ!!」
半狂乱になった神職の声を背に、少女は茂みに分け入り、そして山道を外れて駆ける―――――
肌を苛む枯れ枝や棘―――――
傷付き、血に滲む肌―――――
周囲から迫り来る闇、また闇―――――
だが少女の野性とでもいうべき勘は、今彼女が行くべき場所への路を正確に辿り始める―――――
もう少し―――――
まだまだ―――――
あと少し―――――
背丈ほどの高さのある叢に分け入り、そして足を速める―――――
奔る素足を、石ころや棘が切り裂き、そして苛む感触――――――
裸足に感じる、血の感触―――――
だが不思議と、傷みは感じなかった―――――
今ここで奔るのを止めれば、自分は獣としてその生を終わらされる―――――それが、少女には生贄として死ぬこと以上に恐ろしく、悲しいことのように思えた。
叢を抜けた先―――――
「―――――――!」
あった!……今や祀る者のない、崩れかけた祠―――――
それでもなお背後に感じる、叢を掻き分け少女を追う気配―――――
少女は、叢を抜けた―――――
「―――――――!?」
祠の、開けっ放しの扉―――――
飛び込むようにして、少女は入り込む――――
その奥―――――
見出した、立て掛けられたもの―――――
少女は、我が目を疑う――――――
鉈――――――?
どういうこと……?
荒い息もそのままに、少女は震える手でそれを手に取った―――――
驚愕ではない――――――
むしろ、困惑――――――
そのとき―――――
――――生きたくば、戦え。
喚起された言葉は、鉄仮面の眼窩の奥底で、異様なまでのぎらつきを湛えはじめる―――――
「―――――――!?」
同時に、背後に感じ取る気配―――――
「観念しろ! 人豚!!」
荒い息とともに吐き出された、癇に障る怒声―――――
鉈を片手に、少女は振り返った―――――
眼を怒らせた中年の村人―――――
「何だ? その刃物は?」
「…………」
「そうか……お前、人豚の分際で俺たちに刃向かおうってんだな?」
「…………」
「お前! 自分が何をしているのか判ってんのか!!?」
振り上げられた棒―――――
振り下ろされたそれは、強かに少女の肩を打つ―――――
「…………?」
足から崩れ落ち、身を庇う少女―――――それが、粗野な村の男たちが知る、人豚だった。
だが―――――
立ったまま、少女は男を見上げたまま―――――
そして―――――
「人豚……?」
「…………」
「おい……!?」
「…………」
「やめろ……!」
鉄仮面の奥で煌めく異様な眼光に、男が気付いた時には、もう遅かった。
叢を抜け、村の男たちは祠の前に達した。そして彼らの父の代に放棄され、これまで顧みもしなかった同祖神を祀るこの場所に漂う、異様な空気の存在に彼らが気付くのに、さほど時間を要しなかった。
男たちにとって、「人豚」とは「敵」であった。それも与し易く、抑圧し易い気軽な「敵」であった。外見からして人ではなく、共同体の一員として遇するにはあまりに奇異に過ぎた「人豚」。彼らの価値観では人間として扱えない、「それ」に対する怒りと優越感が、彼らには共通して存在した。だからこそ彼らは村内で結束し、彼らなりに秩序を守っていくことができたのだ。
――――そして今の行いもまた、共通の敵に対する彼らの結束を確認する、絶好の事件として終わる筈であった。
「どうした……?」
臭い――――それが、この神聖な場に相応しくない、穢れの臭いであることに最初に気付いたのは、一同で最も年長の神職であった。
血の匂い――――――
色を為し、神職は声を上げた。
「ロサク! あの馬鹿者が……勢い余って殺したんじゃなかろうか」
「手間が省けていいじゃねえか」
「馬鹿者! 神前で汚らわしい真似を……!」
一人の村人が進み出、声を上げた。
「おーい! ロサク、出て来い!」
そのまま祠の内へ続く階段を上り、壊れかけの扉を開け放った先―――――
「ヒ……!!?」
奇声を上げて男は腰から崩れ落ち、そしてそのまま階段を転げ落ちる。何事かと、男たちが階段を上った先―――――
「…………!!?」
身体中を切り刻まれ、喉を裂かれた男の死体には、見覚えがあった。
「ロサク……!!」
それまでの威勢から一転し、男たちの顔を現れる、明らかな怯みの色――――――だが意を決した一人が、祠を指差した。
「後だ! 人の気配がする!!」
ここぞとばかりに蛮刀を抜き、ツァイ兄弟の兄が進み出た。
「人豚! 出て来い! そこにいるのは分かってるぞ!」
静寂―――――それでも人の気配は、小さな祠の後ろに感じられた。そして、星明かりすら届かないような夜の森の中、殺人を犯したとはいえ、追う相手が年端の行かない、一人の少女であるという安心感が、群を成す男たちに安心感を与えていた。
兄が、さらに前に進み出た。
「お前らは来るな。人豚は俺が殺す」
一歩を踏み出すにつれ、刀を手にした彼から、未だ見ぬ相手に対する恐れが消え、そして兄の姿は完全に祠の向こうに消える―――――
そして――――――
「ギャアアアアアアアアアアッ!!!」
音程の外れた、性別不明の悲鳴―――――
「案外呆気無いな」
「それにしても……品の無い叫び声じゃのう」
誰もが、兄が「人豚」を殺したと思った。
それを確認するべく祠の後ろへ回り込もうと、村の男たちは歩き出した。
そのとき――――――
「―――――――!?」
星明りの下―――――
淡々とした足取りで祠の陰から進み出た人影―――――
だらしなく手に提げた刃の尖端から滴る鮮血―――――
そして―――――
どす黒い返り血を浴び、朱に染まった鉄仮面―――――
その眼窩の奥から、男たちを睨む獣の眼―――――
眼を疑い、そして畏怖する大人たち―――――
「ウワアァァァァァァァァ!!!」
怒りと恐慌とに煽られ、兄を殺された弟が拳銃を引き抜いた―――――
「―――――――!?」
躍り掛かる鉄仮面―――――
翻る鉈―――――
それは一瞬―――――――
忌むべき鉄仮面に向けられるべき拳銃を握る手は、すでに弟の眼先には無かった。
「ヒ……!?」
手首から切り離された、拳銃を握る手―――――
切られた敵部から、噴水の様に噴き出す鮮血―――――
衝撃と恐怖に耐えかね膝から崩れ落ちた弟の頭上に、振り下ろされる鉈―――――
「…………!!!」
割られた頭から、さらに勢いよく噴き出す血―――――
二人目の命が、凄惨に奪われるのと同時に、闘志は男たちから完全に失われた―――――
そして―――――
――――――森は、少女の味方だった。
――――――度重なる男たちの絶叫は、夜の支配者たる森に吸い込まれ、もう誰にも届かなかった。
―――――ふと、何処かからから賑やかな囃子の音がした。
夜半――――――
豊穣神の祭りは、すでにその絶頂を超えた。
酒に酔い、踊り疲れた老いた者、子供たちにとって、祭りはなおも続く喧騒の内に終わりを迎えつつあったが、血気に逸る、色気づいた若い男女にとって、豊穣神の祭りの意義は、夜も更けたまさにその刻にあったのかもしれない。
祭りの喧騒の中、村人の環からこっそりと抜け出す男女の数は少しずつ、だが徐々に増え、そして祭りの一座から若者の影は完全に消えた―――――
――――それから、さらに刻は過ぎた。
神殿から離れた、鬱蒼とした森の一角――――
「…………」
敷物代りに敷いた、晴れ着の上で、少女はまどろみから醒めた。一糸纏わぬ裸体であることに対する恥じらいは、当の先刻に彼女の処女と同時に棄てていた。
「…………」
慎重に、少女はその瑞々しい裸体ごとその眼差しを傍らへと向けた。濃い睫毛に覆われた少女の大きな瞳の先で、彼女の処女を奪った青年は、少女と同じ裸体のまま眠りを貪っていた。
青年を抱くようにして、少女は青年の胸板に寄り添う―――――前から約束した逢瀬、意中の人に捧げた貞操……今の少女にとって、この夜を言い表すにそれだけで十分だった。目を瞑りながらに青年の回した腕が、さりげなく少女の小さな肩を抱く……それだけで、初めての情交の余韻が消えて間もない少女の頬に、紅く熱いものが宿るのだった。そしておそらくは、この森の一帯に散った若い男女の誰もが、今をこのようにして過ごしている筈だった。
――――不意に、二人を取り巻く低木の茂みが騒がしさを増した。
「…………?」
直後、茂みを破り二人の前に飛び出してきた人影―――――
「…………!?」
血塗れの、こと切れた男の死体―――――反射的に前を隠して半身を起こした少女の瞳が、それを察し恐怖に歪んだ。
「…………!!!」
絶叫―――――それが終わる間もなく、死体となった男を追って飛び出してきた細い影。それに、少女と青年は見覚えがあった。
「お前は……!」
驚愕に端正な顔を歪ませた青年が名を呼ぶまでもなく、一閃した鉈は少女の首筋を切り裂いた。さらに返す一閃が青年の頭を割り、ほぼ同時に二人を絶命させる。それにもはや何の感情も抱くまでもなく、柄まで血に染まった鉈を握りしめ、鉄仮面の少女は森のさらに奥深くへと歩を進める。
その先には、少女の過ごした苦界を余所に、神に許された淫楽に耽る若い男女の群――――――
―――――理不尽な村の共同体から彼女を解き放った鉈は、その代償になおも血を欲していた。
―――――日が昇るには、まだ時間があった。
すでに後にした森の各所では、彼らの素朴な性愛を謳歌し、直後に鉈の一閃で生を奪われた男女が、その何れも一糸も纏わぬ躯を森の各所に横たえている筈だった。それが、彼らから疎外され続けた鉄仮面の少女の、豊穣神に捧げた最初で最後の生贄だった。そして少女にとっての神は、少女になおも生贄を求めていた。少なくとも爛々を輝く目をそのままに、本来ならば二度と戻って来られる筈の無かった山道を駆け降りた少女に、少女の信じる神はそう囁いたのだ。それも、星々が天球を支配している内に……!
平和なるが故に、戸締りすら為されずに眠りに付いていた家々―――――それは弑虐の快楽に目覚め、血を求める少女にとって格好の対象となった。
静寂の内に屋内で次々と奪われ、消えゆく命―――――
それが女であろうと、老人であろうと、子供であろうと、少女にはもはや関係は無い。
夢の内に切り付けられ、腹を裂かれ、喉を裂かれ奪われる命―――――
灯の消えた家、また家から、消えゆく生命の気配―――――
そして――――――
異変に気付いた最後の村人が、家から起き出して来たときには、村から完全に生者の気配は消えていた。少なくとも彼ら以外は―――――
「何だ……何があった」
今までに感じたことの無い、重苦しい空気だった。生暖かい夜風が一陣、頬を掠めるのと同時に、彼から身を呈してこれ以上を探る意思は萎え、怯えた男は家に戻り戸締まりをしようと門を振り向いた―――――
「ギャアアアアアアア!!」
家人の悲鳴―――――芯を震わすそれは、男から完全に立つ気力を奪い、男は腰からへたり込んだ。
玄関の奥に向けられたまま、恐怖に見開かれた男の眼――――――
同時に―――――
暗闇に満ちた屋内から、腰を抜かした男の足元に放られる何か―――――
雲海を貫いた星明りの下で、男がそれが何かを察した瞬間―――――
「…………!?」
それが断末魔の苦痛に歪んだ、血塗れの妻の頭部であることに気付くのと、生暖かい液体が彼の下腹部から漏れ出すのと同時―――――
そして男の妻の頭部を切り落とし、投げ付けた人影は玄関を出て、星明りに照らされ冷厳なまでの眼差しで男を見下ろしていた。
「おまえは……!」
眼が合った瞬間、男は我が目を疑った。愚か故に、従順なるが故に、こんな恐ろしい行いに、手を染めよう筈のない人ならざる者―――――それが先日までの彼の、「人豚」に対する評価であったのだから。
だが……その評価が間違いであったと気付いたときには、もう遅かった。
「――――――!?」
有無も言わせずに振り下ろされ、血の花を咲かせる鉈―――――人の血を吸い続け、骨を砕き続けたが故に刃の鈍ったそれは、何度も振り下ろされる内に、むしろ苦痛の内に男を死へと導き、そして時間を掛けて最後の村人の命を奪う。
そして―――――
――――かつては村と呼ばれたこの地に、生きている人間はすべて消えた。
「…………」
全てを終えたと思った瞬間、疲労はどっと襲ってきた。その夜、ただ只管に少女は殺し続けたことになる。全てが終わった時にはじめて、肩で息をしていたのにも、今更ながら気付いたほどだった。そして、それまで門の傍らに寄り掛かり殺戮の一部始終を窺っていた、背後に感じた気配の主に対する殺意を、彼が「余所者」なるが故に、少女は最初から持ってはいなかった。
気の緩み―――――同時に手の力が緩み、血糊で滑り落ちた鉈の先端が、そのまま地に刺さる。
気配の主が、言った。
「自由を手に入れた感想を、聞こうか」
「わからない……」
「わからない……とは?」
「何が変わるのか……あたしにはわからない」
「わかったこともあるだろう?」
「わかった……こと?」
「君は生きるために為すべきことをした。だから君は今生きていられる。わかるかね?」
「わかるわ……勿論」
少女は振り返った。予感したとおり、昼間に出会った、長い外套を纏った仮面の男がそこにはいた。恐らくは、彼女がこの村に戻ってからずっと、彼は少女の殺戮を見届けていたのかもしれなかった。
「……ならばいい」
仮面の男が、拳銃を引き抜き、そのまま少女に向けた―――――
黒光りする銃口に、無反応で応じる少女―――――
引鉄が、引かれた。
衝撃――――――鉄仮面越しに伝わるそれは一瞬。
飛び出した銃弾は鉄仮面の継目を穿ち、そして衝撃で仮面を割った。
「―――――――!」
不意に、顔に感じる風の量が増した――――――
毀れ落ちる長い髪―――――
今までに感じたことの無い開放感――――――
それは―――――
それまで自分から取り上げられ、封じられていた何かを、少女が取り戻した瞬間――――
「…………」
気が付けば、仮面を割った男は、銃口を向けた姿もそのままに、星明りの下で佇む少女をまじまじと見つめている。少女の尖り気味の顎は、卵型の形の良い顔立ちを絶妙なまでに演出し、蒼黒く長い髪に、切れ長の氷蒼色の瞳、尖った長い耳が、人ならざる妖しさ以上にむしろ神秘的な雰囲気を、その容姿から醸し出していた――――それに仮面の男ですら、一瞬気を惹かれるのを禁じ得ない。
そう―――――少女は、美しかった。
そして顔を取り戻した瞬間――――――少女はそれまで自分が為してきたことを、今更ながらに恐れる
「…………!」
膝から崩れる様にして、少女は座り込んだ。そして次に気付いた時には、仮面の男は少女のすぐ前にいた。
仮面を見上げる少女の、大きな瞳――――――
それを見下ろす、禍々しい仮面―――――
少女の瞳から溢れ出す。大粒の涙―――――
そして少女は、言葉を紡ぎ出す―――――
「神様……あたしは罪を犯しました」
「おまえは罪など犯してはいない。罪を犯したのは、つい先刻におまえが救済した者たちだ。神はおまえを祝福しておられる」
「神……?」
「そう……キズラサの神のみが、おまえをお認めになっているのだ。」
「…………」
涙は止まらなかった。少女の濡れた眼から視線を逸らさぬままにそっと延びた男の親指が、少女の涙を拭う。
「ああ……我が娘よ」
「娘……?」
「そう、お前は今日から私の娘だ」
そこまで言って、仮面の男は一瞬黙り、そして続けた。
「そうだ……お前に名前をあげよう」
「名前……?」
「……ダミア、そうだ……ダミアがいい。今日からお前は、ダミアと名乗るがいい」
「ダミア……!」
見開かれる少女の瞳―――――
仮面の男の口調が変わった。より真摯な、硬い口調になった。それは娘を慈しむ父親の口調だった。
「ダミア、おまえには使命がある」
「はい……お父様」
「おまえの手で、多くの人々を救済するのだ。それでこそ、おまえは立派なキズラサ者なのだよ」
涙が枯れた―――――
氷蒼色の瞳に籠り始める、硬質の光―――――
そして口は、誓いを紡ぎ出す。
「偉大なるキズラサの神よ……わたしは貴方の僕。地上における最良の僕……わたしはあなたに全てを捧げます。異教徒の命、まつろわぬ者どもの命、貴方に逆らう者の命……それら全てを貴方の御許に―――――」
星の綺麗な夜――――
誓い――――――
それは最も美しく―――――
そして最も狂った刺客の―――――
―――――運命の誓い。
日本基準表示時刻某月某日 午前2時15分 某巨大インターネット掲示板
314 名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 02:15:14 ID:6Ag9B521O
セイマン島の貧乏旅行から帰って来た兄から聞いた話
北部のある地方に、住民全員が皆殺しにされた村があるんだって。村人全員が一晩の内に殺されていたらしい。しかも犯人は、何とたった一人の少女だったらしい。
315名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 02:17:24 ID:QLg5h5VCO
>>314
その話くわしく!
317 名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 02:20:10 ID: 6Ag9B521O
その村には、一人の身寄りのない少女がいた。村人は「悪魔の子」と呼んでよってたかって女の子を苛め、ついには仮面で女の子の顔を塞いでしまったらしい。そしてある晩、女の子はとうとう気が狂って斧を持ち出して村人を殺して回ったって話。それ以来少女の姿を見た者は誰もいないとか。
320 名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 02:28:05 ID:E3szo6sTW
それ聞いたことある。
でも話は少し違うな。仮面の理由は、赤ん坊の時に揺り籠から落ちて、グシャグシャになった顔を隠すためって俺は聞いたけど……
321 名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 02:30:41 ID:AZSzo21St
おれは継母に顔を薬で焼かれたって聞いたよ。
323 名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 02:35:18 ID:Jhya9v240
>>317
その村、何処にあるの?
325 名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 02:39:19 ID: 6Ag9B521O
>>323
もう何処にあるのかわからないよ。好き者の旅行者が未だ探しているらしいけど……
330 名前: 商社員名無し◆WE45tyr/10 投稿日: 20××/0×/×× 02:47:02 ID:eeX521Rt0
現地在住ですが、セイマン島北部は今反政府勢力の勢力圏です。よほどの馬鹿でもない限りあすこには踏み入りません。
331 名前: Mr名無し@極貧バックパッカー1号 投稿日: 20××/0×/×× 02:51:11 ID:tt45VcRr0
>>330
え!? 内戦地帯なのあすこ? おれが行った時はすげぇ長閑ないい場所だったんだけど……
335 名前: 商社員名無し◆WE45tyr/10 投稿日: 20××/0×/×× 02:58:05 ID: eeX521Rt0
クルジシタンの時みたいに、「転移」後大量に新型の銃器が出回り始めたみたいですね。それで反政府勢力が勢い付き始めたとか……
338 名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 03:07:14 ID:tvR53+jj0
じゃあ、住民丸ごとその存在を消された村なんて、あの辺にはいっぱいあるだろうなぁ……
339 名前: Mr名無し 投稿日: 20××/0×/×× 03:09:23 ID:Nko17cft8
……異世界の都市伝説だな。
――――「ダミア」終――――




