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第八章:「被弾」

クルジシタン基準表示時刻02月09日 午後7時57分 クルジシタン北西部 日本 陸上自衛隊PKF(平和維持軍)サンドワール基地


 液晶端末―――――

 空電音と雑電波の走る画面は、決して鮮明ではなかったが、それを見る者が眼前の状況を把握できないほど雑ではなかった。旧都上空を飛行するUH-60JA汎用ヘリコプターの搭載カメラは、敵の伏撃に晒されてもなお、応戦しつつ整然と走行を続ける車両部隊の姿を映し出していた。


 それでも―――――

 統合作戦指揮所(JOC)に詰める誰もが、すでに作戦開始当初の余裕を失っている。死傷者が出る可能性は確かに事前に指摘されてはいたが、いざその事態を前にすると、その場の誰もがこれ以上に思考を巡らせる余裕を失ってしまったかのようであった。

 「…………」

 JOCの主たる筧 正毅陸将補は、人差し指の第二関節を噛みながら、ただ一心の画面を注視している。その場の誰もが知らなかったが、彼が沈思に入ったときの仕草がそれであった。そして沈思を止め、筧陸将補は(おもむろ)に車両部隊「スザク」へ通じる回線を開いた。

 『――――こちら橘――――どうぞ?』

 「筧だ。状況を報せ。送れ」

 『――――宮崎二曹が死亡。ほか負傷者多数。あと襲撃の巻き添えを受け捕虜にも死傷者が出ています』

 「……わかった」

 『――――スザク、危険域より脱しました!』

 無線機を置いての嘆息―――――筧は顔を上げ、幕僚に告げた。

 「ヘリを市中央へ向かわせろ。戦況に関係なく強襲部隊を収容する」

 「作戦を中止するのでありますか? 司令?」

 「最重要目標を真っ先に確保できなかった時点で作戦は失敗だ……旧都に展開している部隊に撤退準備を急がせろ」

 「……ハッ!」

 「スザク、旧都西門を通過!」

 オペレーターの報告に、筧陸将補は再び情報表示端末を(かえりみ)た。一斉に旧都中枢に突入し、民兵指導部の急襲を企図した地上部隊。「スザク」はもとより、それ以外の車両部隊にもやはり人的損害は出ていた。死者はいずれも大型トラックの荷台に揺られていたところを味方の伏撃に巻き込まれた現地武装勢力の虜囚だったが、隊員からもやはり、少なからぬ数の負傷者が出始めている。顔を曇らせた筧が幕僚を通じ医療班に即時待機を命じたとき、情報表示端末は、高空に展開する無人偵察機(UAV)からもたらされた新たな情報を表示していた。

 『脅威多数を確認。旧都外縁部より市中央へ向け移動中の模様』

 「…………?」

 下方監視赤外線(DLIR)画像と対地画像レーダー―――――それらの偵察機の搭載センサーによって端末に表示されたのは、旧都アーミッドにおける彼我の勢力配置だった。下方監視赤外線(DLIR)は市内に展開するPKF隊員の装着するストロボ発信機を感知し、画像レーダーはコンピューター処理により移動中の物体を優先的に捕捉する。司令部ではセントラル‐コンピューターがそれらの画像よりもたらされる情報を処理し、高度な戦況把握を可能にしていた。

 緑と赤―――――市中央に展開するPKFと旧都各所よりそれに迫る脅威を表示したそれら。脅威の赤は積極的なまでの勢いを持ち、依然緑の在る市中央へ移動を続けていた。幕僚が声を震わせ言った。

 「画像を拡大しろ」

 「画像、拡大表示します」

 都市部を鳥瞰した画像の一角がズームし、赤の蠢く一点へと集中する。そしてズームを止めた液晶画面は、銃を持ち街路を疾走する民兵たちの姿を映し出していた。

 「オペレーター、数を把握できるか?」

 「民兵の数……およそ2000!……2000名。数依然増大中!」

 「なんということだ……!」

 「このままでは包囲されるぞ」

 幕僚たちの動揺……それらから超然としつつも、筧も口に出さずにはいられない。

 「我々は、蜂の巣を(つつ)いたということか……」




クルジシタン基準表示時刻02月09日 午前8時14分 旧王都アーミッド西区域 「西市」


 人影は一群の津波と化して、路地の各所を駆け巡っていた。

 その服装は様々だったが、漆黒に日焼けした人影の殆どが銃を所持している。武装していない者は市の各区画に分散し設けられた「武器庫」より、手ずからに銃を渡され、そして再び襲撃者の群に加わるのだった。廃屋、古井戸、家畜小屋……それらを利用し、およそ100以上の旧都各所に存在する「武器庫」は、「神の子ら」の一員として旧都を守る守備兵たちにとって重要な補給の拠点であり、また兵力集中のための要衝でもあった。


 アル‐ティラもまたその「武器庫」のひとつに居た。敵の急襲を聞き付け続々とやってくる仲間たちに武器を手渡し、そして肩を叩いて戦場へと送り出す。作戦の内容はこうだ。ダキらを始めとする主力は慈悲寺(サレ‐デリバレス)から一旦退く。その後で彼とその同志によって武器を手に再び送り出された民兵は、かねてからの指示通り多方向より一路慈悲寺に取って返し、聖都蹂躙を企図して侵攻してきた「異邦人ども」を包囲し、そして殲滅することになる――――――「異邦人」襲来の報に接し、この美少年と彼の最愛の男が編み出した対抗策は、まさにそれであった。侵略者を複雑に入り組んだ旧都の懐奥深くまで引き込み、退路を断ち、各個に分断し、そして撹乱し、叩く……!

 銃声――――――これまで聞いたことのない連続した、絹を裂くようなその響きがアル‐ティラの気を曳くのに一瞬しか要しなかった。そしてその銃声は、自分たちの持っている小銃や機関銃のそれとは、明らかに質が違っていた。敵の持っている銃は、こちらより明らかにもの(・・)がいい。

 ―――――それでも、何故か負ける気がしない。

銃を配る作業を他の同志に任せ、少年は根拠たる廃屋から路地に出る。果たして異邦人の銃声は益々大きくなり、かつその頻度を増していった。武装した車の荷台に仁王立ちし、血気にはやる部下を引き連れて前線へ向かうダキの姿を認めたのはそのときだった。武装した若者たちをその錆付いた荷台に満載したピックアップトラックの車列が、アル‐ティラの眼前に飛び込んできたのだ。

 「ダキ!!」

 アル‐ティラは叫んだ。ダキは荷台より彼の優秀な参謀を睨み返すようにした。

 「戦況は!? 戦況はいまどうなっている?」

 「ここで語るまでもない。戦況は俺たちに有利だ!」

 「ニホン人! ニホン人は何人いるんだ!?」

 「慈悲寺(サレ‐デリバレス)にいる奴らだけで、ざっと100人ってところだ!」

 「100人なら、大したことないな! ダキなら独りでみんな殺せる!」

 「フン……!」

 ダキは不敵に微笑んだ。釣られるようにアル‐ティラも笑い、ダキにそこで待つように言うや廃屋の奥へと引っ込み、そしてすぐに戻ってきたとき、円筒形の長大な物体を抱えていた。

 「ダキ、持って行け!」

 そして乱暴に物体を荷台へと放る。一発で車を跡形も無く吹き飛ばすほどの威力を持つ、「西から来た人々」より買い入れた携帯ロケット弾―――――投げ渡されたものの、高さの足りなかったそれを危なっかしい手付きで受け取るや、ダキは叱るような眼をして眼下の少年を見下ろすのだった。

 「ダキ……」

 「この戦いが終わったら……お前を抱く。待っているがいい」

 不敵な微笑―――――それに白い歯を見せ、アル-ティラは笑った。眼前の男が戦に勝ち、生きて自分の許へと戻ること――――――それこそが、少年がこの不条理に満ちた戦場を生き抜く上で最善の、そして唯一の希望となっていた。

 「行くぞ! 生き飽きた者は俺に付いて来い! 今日の相手は殺すにも殺されるにも善き敵だ!」

 「オオ――――――――ッ!!!」

 檄に続き、ダキを載せた車が再び走り出す。車列と、それに続く血気に逸る若者たちの後姿を、それらが角の向こうに消えるまで見送ったところで、少年は再び廃屋の奥へと姿を消す。自分もまた武器を持ち、彼らの後に続くために―――――

 そして―――――

 ロケット弾を抱えて再び路地へと戻った彼が、何気なく乾風の中に硝煙の微かな臭いを感じつつ空を仰いだそのとき――――――


 「あ……」

 決して遠い距離ではないと、少年は思った。

 見上げた先―――――

 その街区の上―――――

 家屋擦れ擦れの上空に―――――

 ―――――爆音を立てつつ浮かぶ影がひとつ。




クルジシタン基準表示時刻02月09日 午前8時26分 旧王都アーミッド西区域上空 PKF陸上自衛隊ヘリコプターUH-60JA 「タクティカル61」


 「こちら『タクティカル61』、『ゲンブ』全車両の通過を確認、通常空域に戻る。送れ」

 『―――――こちらサクラ、別名あるまで引き続き当該空域の警戒を実施せよ』

 操縦席計器盤の多機能表示端末(MFD)は、西方へ遠ざかりゆく車列の画像を濃緑色のヴェールの懸かった向こう側に映し出していた。それはまた、UH-60JA「タクティカル61の機首が転ぜられた方向でもあった。


 そして、機を傾けると共に傾くMFD上の地平―――――UH-60JAの機首に搭載された前方監視赤外線(FLIR)センサーと画像レーダーは闇夜、悪天候などのあらゆる悪条件を克服し、UH-60JAの機首の向う前方及び下方の鮮明な情景を、鮮明な像を以て機体を操る操縦士の眼前に表示してくれる。それまで彼らが上空から見守ってきた車列は、すでに旧都中心を抜け彼らの肉眼の及ばない距離にまで達しようとしていたが、乗員たちは名残を惜しむかのように車列の挙動を見守っていたのだった。


 「『タクティカル61』、上昇する」

 「タクティカル61」機長、嘉津山 成二等陸尉が告げた。コレクティヴレバーのスロットルを開き、エンジンの出力を増すのと同時だった。機上整備員の須賀光一一等陸曹は、キャビン側面に取り付けた74式機銃を構え一心に下方へと目を凝らしている。いつ出てくるとも知れぬ敵に対する警戒というより、いまや戦場と化した市街の状況を、その持てる眼力と記憶力とを駆使し見届けたいという、どちらかと言えば好奇心が優先したが故の挙作だった。


 「タクティカル61」には作戦で輸送した兵員を除けば機長の嘉津山二尉、副操縦士の真田准陸尉、そして機上整備員兼銃手たる須賀一曹の計三名が乗り込んでいた。特にヘリコプターの場合、機上整備員の任務は煩雑で、そして多忙だった。搭載する索敵センサーの操作、全周囲への見張り、機銃手、さらには災害時の救助要員―――――およそ機上要員は、搭乗する機上、そして機外において考えられるあらゆる状況を想定し、それに対処する訓練を受けている。その点、航空自衛隊のパラメディックや海上自衛隊の機上作業員は有名な存在だった。厳格な選抜と高度な専門教育を受けた彼らは、ある意味操縦士以上に希少な存在とまですら見做されているのだ。

 「――――敵は空からの攻勢に対し、有効な対処方法を持っていない」

 出撃前の、ヘリコプター機上整備員を対象にしたブリーフィングで聞いた情報担当幕僚(G2)の発言―――――それがヘリの機上で重い機銃の銃身を眼下の町並みへと向け続ける青年に安心感を与えていた。

 ―――――だが、それは言いかえれば、油断と言ってもよかったのかも知れなかった。

 『――――機上整備員、異状ないか?』

 「こちら須賀、下方異状なし!」

 機銃に取り付きながら、機がゆっくりと右に旋回するのを身体で感じる。上空を滞留する熱く臭い空っ風を頬と襟に感じながら、銃身を向けた後下方――――

 「…………?」

 廃屋と思しき半壊した建物の陰が、眼下で蠢く何かを把握するのを妨げるかたちとなっていた。だが移動を続けるヘリに合わせ視界が開けるのと同時に、疑念は驚愕へと席を譲る。

 民兵多数! しかもその先頭は!――――――直観すると同時に、須賀一曹は叫んでいた。

 「こちら須賀! 七時下方に携帯ロケット弾を確認! 旋回を中止し上昇してください!」

 『―――――何!?』

 報告の反復を促されるまでも無く、叫ばざるを得ない――――――機銃の射界の及ばないその地点に、一瞬赤い光と白煙が生じるのを須賀一曹は見た。そして直後に赤い炎は、白煙で無軌道な曲線を空中に曳きながらこちらへと伸び上がり、そして獲物を見出した蛇のように向かって来た。

 「七時下方! RPG!」

 『回避するっ!』

 驚愕―――――

 恐怖―――――

 その背筋に冷たいものを走らせながら―――――

 ―――――フットバーを踏む。

 ―――――コレクティブを開く。

 急旋回―――――

 急激に傾く機内―――――

 走る緊張―――――

 そして―――――

 ―――――飛び上がった火矢は旋回を終えきっていない「タクティカル61」の尾部を掠め、そこの空中で破裂した。

 「――――――――!?」

 衝撃―――――!

 最初は何かが弾け、そして次には何かが軋み砕ける音を、嘉津山機長は聞いたように思った。

まるで、自分の身体の、重要な部分が抉られ失われたような、寒気すらもたらすかのような感覚―――――そして操縦不能という名の、およそパイロットにとって最悪の破滅は直後に襲ってきた。

 『テールローターを破壊された!?』

 メインローターとテールローターの、ヘリコプターが飛行体としての存在を成立させる、それらが織り成す繊細なまでの均衡が崩壊した瞬間、破滅は訪れた。テールローターを失ったことによりメインローターの回転が生み出す強烈なトルクを消化できず、急激に右方向へ自転を始めたUH-60JAの操縦席で、嘉津山機長は必死に操縦桿にしがみ付く。飛行不能を告げる警報が耳障りな響きを機内中に轟かせ、暴力的な自転が生み出す、平衡感覚を破壊する凄まじい加速が暴風のように機内を荒れ狂った。


 「―――――――!!?」

 その中で数値を刻む高度計を機長は見た。高度計の針が一巡する度に眼前に迫り来る街並みは複雑で、かつ悪魔の胃袋のように空からの侵入者を飲み込もうとしているかのようであった。

 「メーデー! メーデー! こちら『タクティカル61』、テールローターに被弾! 出力急速に低下中! 制御不能(アンコントロール)! 制御不能(アンコントロール)!!」

 基地に状況を告げるや、嘉津山機長は副操縦士の真田准陸尉を顧みた。余裕を失い、蒼白な顔で墜落に備える副操縦士に、嘉津山は声を上げた。

 「真田! エンジンカット! エンジンをカットしろ!」

 「……リョウカイ!!」

 腕力に任せコレクティヴレバーをへし折るかのような勢いで閉じ、エンジン緊急停止ボタンを押す。配線からの発火に備え、エンジン起動用モーターに電力を供給する電源システムを切るのも忘れなかった。エンジンが止まるや、暴走するトルクの源を断たれたが故に、それまで急速で強烈に過ぎた自転速度が和らぎ、警報もまた消えた。そして相変わらず続く目まぐるしい動の中にも不気味な静寂が機内に無言の侵入を果たしてきた――――それでも、「タクティカル61」を取り巻く危機は、立ち去ってくれる筈も無かった。

 「捕まれぇーっ!!」

 眼前に迫ってくる眼下の街並みが廃墟だと思った瞬間、破滅は完成した。

 下から突き上げて来るかのような烈しい衝撃――――――

 眼前で二転三転する視界――――――

 それが、自分たちがそれまで睥睨し、唐突に引き摺り下ろされた地上の光景であると直感したそのとき――――――

 『―――――――!!?』

 胸部と後頭部を思いっきり殴られたかのような衝撃に対しそれを維持していられる程、嘉津山機長の精神は強靭ではなかった。不時着を終えたと思った瞬間に彼の意識は身体の芯から走る激痛とともに高鳴り、そして消えた。

 疾走――――――

 眼前に飛び出し、そして背後へ向かい流れゆく風景―――――

 少年たちの一団は荒れ果てた路地を駆け抜け、そして頭上に彼らにとっての獲物を見出した。

 「…………!」

 爆音を奏で、巨大な刀のような翼を振り回す巨体の影―――――彼らにとって頭上の空に浮かぶそれは、明らかに彼らの短い人生の間に培ってきた常識を超えた存在であった。頭上遥か高くに、爆音を立て浮かび続ける鋼鉄の猛禽、今にも少年たちのいるこの場所へ舞い降り、その重量を持って少年たちを押し潰してしまいそうな鋼鉄の翼竜―――――それに対する好意的な感情を、この場の少年たちに持てるはずがなかった。


 だが―――――

 ――――彼らは決してそれを恐れてはいなかった。この場所に至るまで彼らが持ち込んできた「対抗手段」こそが、彼らの自信に根拠を与えていた。

 それでも――――――

 いざ間近で爆音と衝撃を撒き散らしながら空に浮かぶそれを目にしたとき、少年たちの誰もがその圧倒的な量感と威圧感に圧倒されたものだ。そのとき、群の先頭を行く美少年が上空に在るヘリの影を指差し、叫んだのだった。

 「目標はあの乗り物だ! 狙え!」

 一人の大柄な少年が筒状の物体を肩に抱え前へ出た。「西から来た人々」から、十人の奴隷と引き換えに得た肩撃ち式の火砲―――――それは少年たちの知っている限りでは、田舎の粗末な造りの平屋ならば一発で粉砕できるほどの威力を持っていた。

 ―――――それを、ニホン人の駆る禍々しい鉄の翼竜を殺すために使う……!

 「――――――!」

 翼竜の威容を前にして、思わず固唾を飲む少年兵たちの眼前で、急旋回に入る竜の機影―――――

 照準器を睨む射手の動きが、止まった。

それが、彼らの持つ最強の火器を空に解き放つ合図だった。

 「撃て!」

 少年たちを率いるアル‐ティラの、絶叫にも似た命令―――――直後に炎が生まれ、そして鋼鉄の火矢は炸薬により筒先から空に飛び出し、そこで推進薬に点火し加速した。白煙を引いた矢は、あらぬ曲がり方をして空を昇り、それでも上空を行くヘリの機影と交差するのを皆が見る。


 交差―――――何かが割れるような音が空に響いた直後、ヘリの尾部から黒い破片が散り、そして白煙が生じるのを少年たちは見た。

「やった……!」

 悲鳴にも似た異音を発し、平衡を失った独楽のように自転しながら降下していく機影―――――それが遠方の町並みのそのまた向こうの陰へと消え、直後に何かが潰れるような大きな音を少年たちは聞くのだった。それが少年たちに、新たな行動を起こす衝動を与えた。

 「向こうに墜ちた! 行くぞ!」

 算を乱しつつも少年たちは駈け出した。

 はるか向こうの街区に墜ちた鉄の巨竜―――――

 そいつに止めを刺すために。そして―――――

 そいつを操っている異邦人にも、止めを刺すために―――――


 急転した戦場の街を巡る、無線がひとつ――――――

 『――――――「サクラ」よりJOC、ブラックホーク墜落(ダウン)!! ブラックホーク墜落(ダウン)した模様! 送れ!!』


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