39 驚
悩んだ末、不幸男視点。
彼の視点で、弟くんの今を紹介。
武藤視点
布団を片づけ、大地くんが持ってきてくれた深緑色の着物に袖を通す。
お兄さんのものらしく、大地くんの着物は身長が低――――い、いえ。なんでもありません。
と、とりあえず大地くんのものは着られないので、お兄さんのものを貸してもらっている。
それにしても、着物なんて初めて着た。
小さいころにお祭りで浴衣を着たことはあったが、それとは違った感じで、なんだか新鮮だ。
建物の雰囲気もあって、江戸時代とか、その辺にタイムスリップした気分。
「何ニヤニヤしてんの?」
「あっ!?いや、別に!」
「ふーん」
質問したもののすぐに興味を失ったらしく、胡坐をかいた足に肘をつき顎を乗せた。
「そういえば、大地くんは着物じゃないの?」
この家では基本着物だと、昨日めぐみさんが言っていたような気がする。なのに、大地くんは今、学ランを着ている。
襟元についている校章は、このあたりでよく見かける気がする。
「あぁ、これから学校に行かなきゃならないからな」
「土曜日にも授業あるの?」
「サッカー部の大会」
「へー、大地くんサッカー部なんだ」
「いや、生徒会」
「ん?」
「助っ人だよ」
「……え……え?助っ人って……大地くんの中学は……その校章……」
「青ノ原第一中学」
「ええええぇっ!!!??」
あ、青ノ原第一中学と言ったら、名門高校進学率ナンバーワンで、部活動も運動部文化部問わず大会総なめの最強中学……しかもそのすべてを統べる生徒会メンバー……。
「ち、ちなみに……や、役職は……」
息をのんで待つオレを見た大地くんはニヤリと笑い、
「生徒会長」
や、やっぱりかーーーーーーーーっ!!!!
「す、すごいね大地くん!!」
心からの賛辞だったが、大地くんは言われ慣れてるのか、鼻で笑ってそっぽを向いてしまった。
「別に、すごくないよ。それが一番俺に合ってたからなったまでだし」
「助っ人は?生徒会長なのに」
「運動系だったらまんべんなく強いから。どこの部活入って恨まれてもしょうがないし。生徒会だったら、助っ人として全部に出れるだろ」
なるほどー。
……っていうか、文武最強中学の生徒会長で、しかもすべての部活へ助っ人に出れるって……。
「やっぱりすごいよ。それに優しいね、大地くんは」
そういうと、大地くんは信じられないものでも見るようにオレを見た。
何か変なことでも言っただろうか。
「はぁ?あんた何言ってんの?」
「だってそうだろ?一番条件のいい部活に入ればスターになれたかもしれないのに、自分の能力をみんなに分け隔てなく使うなんて、優しくないとできないし」
彼はなぜかじーっとオレを見つめていたが……な、なんだろう。その心の奥底まで見られているような感覚は。
こんなところは、姉弟なんだなって思うよ。
……いや、家族で似てるな。
「……あんた、真正の馬鹿だね」
「グッ……。そ、そんなことないんじゃないかなぁー……と願いたい」
「フンッ」
無駄な願いだ、とでもいうように鼻で笑われ、そっぽを向かれた。
わ、わかってるよ。昨日今日でどれだけ馬鹿したことか……。
あぁ!思い出してはダメだ!お風呂のことなんて覚えてないぞ!!
「……そういうあんたは、何か部活入ってんの?」
「オレ?オレは演劇部」
答えが意外だったのか、目を丸くしてこちらを見た。
「あー、みんなに意外な目で見られるんだよなー。……実は憧れてる俳優がいてね」
目を瞑ると、その人の姿がありありと思い浮かぶ。
「時代劇俳優で、若いのに伝説と呼ばれるほどの殺陣使いだったんだ」
「……ん?」
大地くんが何か考えるように首をひねったが、かまわず続ける。
「十六年前に顔に傷を負って引退しちゃったんだけど、彼の出演した作品は今でも時代劇の中ではトップクラスのものばかりなんだ!」
「……」
「あー、もう、本当、芸能界は惜しい人を失くしたよ!今どうしてるんだろうなぁ」
「……」
「きっとどこかで殺陣とか教えてるのかもしれないなぁ。あの技術はもはや芸術品みたいで、見るものを圧倒させるものがあるよ!」
「……」
「あぁーっ!一度でいいから会いたいなーっ!本多剋将!!」
「あぁ、それうちの父さん」
「……………………………………………………………………」
弟くんは名門中学の生徒会長です。王道ですね。腹黒生徒会長。
不幸男は演劇部でした。まぁ、先々で不幸なこと起こりそうですが。
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