34 服
怪我人を待たせてはいけないのでシャワーだけですまし、急いで着替えた。
客間に行くと、母様と彼の楽しそうに話す声が聞こえてきた。
母様はいつも笑顔で人と接するから、みんな母様を好きになる。彼も、親しみをもってくれたようで、ほっとした。
障子の前に座り、「失礼します」と声をかける。すると、「入れ」という父様の声が聞こえた。どうやら、父様も来ているらしい。
障子を開けて中に入ると、胡坐をかいて座る父様と、隣に座る母様。そして、足を水の入った袋(氷じゃないのか?)で足を冷やしている彼と順に視線を巡らせる。
彼は私と目が合うと、大きく目を見開き、次いで顔が赤くなった。熱がでたのだろうか。
「えっ、ほ、ほほ、本田さん!?」
「?」
「えっと、そ、その、あ……に、似合ってるよ!」
いったい何のことだろう。分からなくて首を傾げると、母様が「うふふふ」と笑った。
「うふふ。旭君はね、翼ちゃんの着物姿が似合うよ、と言ってるのよ」
「め、めぐみさん!?」
着物?着物はいつも着ているのだが……。
「学校では制服姿かジャージでしょ?」
なるほど。私服が珍しいということか。
そもそもこの家にいるときは洋服は着ない。出かける時以外は和服が基本だ。というか、小学校以来、洋服を着た事ないな……。
「あ、あの、何で着物……」
「この家ではね、基本着物なのよ」
「そうなんですか……」
彼はひどく関心したようだった。そんなに着物が珍しいのだろうか。
「あ、そうだ旭君。今日泊まっていかない?」
「「え?」」
私と彼の声が重なった。いきなり何を言いだすのか。
「めぐみ……」
「だって、捻挫で歩けないでしょ?もう遅いし、病院もやってないし、明日から学校も休みだし、泊まっていけばいいじゃない」
「え、でも……」
「親御さんにも説明しておくから。電話番号教えて?」
「あ、それは大丈夫です」
「ん?」
「オ……ボ、ボクの両親、今ボランティアで海外なので……」
「あら、素敵!どんなボランティアを?」
「カンボジアで学校に行けない子ども達に勉強を教えているんです」
「まぁ!素敵なご両親なのね!」
「い、いえ。あ、ありがとうございます」
彼は照れて頭を掻いていたが、内心両親を褒められて嬉しそうだ。両親を尊敬し、誇りに思っているのだろう。
私と同じだ。
「あら?じゃぁ、家に帰っても一人なのね?」
「(しまった!)あ、は、はい……」
「じゃ、お泊り決定ね!」
半ば強引のような気がしたが、母様の決定には逆らえない。父様も何も言わないので納得しているのだろう。
それなら、私が反対する要素は何もない。
「部屋はこのままこの客間を使ってね。待ってて。今お夕食の支度をしてくるから」
母さんは鼻歌を歌いながら部屋から出て行った。父さんも母さんに続き、何も言わず出て行った。
残されたのは、私と彼。
「……」
「……」
「あ、あの、本当にいいのかな」
「問題ない」
「そ、そう?」
彼はどこか居心地が悪そうだった。
あぁ、そういえば……。
「忘れていた……」
「えっ!?」
彼は調子はずれの声を上げた。急に声をかけて驚かせたか?そんな急でもなかった気がするのだが……。
彼は真剣な表情で私を見ている。まるで、一言一句聞き漏らすまいとしているようだった。
そんな彼に、私ははっきりと言葉を口にした。
「風呂に入るといい《・・・・・・・・》」
なぜか彼はパタリと畳に突っ伏した。
お風呂でバッタリを期待した方。残念。不幸男にはそんな幸運はめぐってきません。
当分……ね?
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