32 最
最近武藤視点多い気がしますが、今回は翼視点。
翼からみた、武藤旭という男の話。
あとがきもよかったら見てください。
チェリー……武藤旭を今、客間に待たせている。
彼はとても不思議な人だ。
廊下に雑巾があったら必ず転ぶ。遠目からだが、何回かその現場を目撃した。(たまにバナナでも滑っていたな。注意力散漫な人なのか?)
彼は入学して間もないクラスのみんなに慕われている。クラス長も務めていて、私は副長として一緒にいることが多いのだが、仕事していると必ずクラスの誰かだ彼に話しかけ、首に手を回したり、乗っかったりとじゃれているのをよく見る。
不思議と言えば、授業中ちらちらこちらを伺っているのが謎だ。
今までも私を狙う視線を感じることがあるのだが、ここまで露骨で隙の多い視線をもらったのは初めてだ。隠そうともせず見てくるので逆にどうしようと戸惑ったこともある。
体力測定の時もじっとこちらを見ていたが、何も言ってこないので何か言うまで放置することにした。
近くにいると何も話さないし謎だが、遠目から見る分には可笑しいと思う人だった。
その認識が変わったのは、体育祭のリレー種目の時。
彼は、ぶつかられても怪我しても、周りから非難されても真っ直ぐ前に走り続けた。
その姿に、前世の最後を思い出した。
前世の私は何もできない体だった。何もできず、ただ、人形のように……いや、人形だった。最期に私はあいつらに一矢報いたと思っている。同時に、やりたかったことを実現できた最初で最後の瞬間だったのだ。
別に、前世の私と彼が似ているというわけじゃない。
彼は不幸に不幸な自分に対し、抵抗するのではなく、受け入れ、全力で頑張っていることで、不幸に一矢報いているような気がするのだ。
だからリレーの時も、必死に戦う様子に思い出したのだ。
最初で最後の最高の瞬間を――――。
※※※※※※※※※※
「翼ちゃん?」
「!母様。まだ寝てないと……」
救急箱を取りに道場へ来ると、今朝体調を崩して寝込んだ母様がやってきた。
「一日勝正さんと一緒にいたからもう大丈夫よ。うふふっ」
母様は何故か頬をピンク色に染めて「うふふ、うふふ」と笑っていたが、体調がよくなったのは本当なのだろう。ほっとして息をついた。そういえば……
「母様。何故道場に?」
くねくねと体をくねらせていた母様に、少し大きめに声をかけると、母様は嬉々とした様子で顔を寄せてきた。
「ね、怪我したっていう男の子、どうして連れてきたの?」
「怪我していたから」
「そうじゃなくって、どういう関係?」
「クラスメイト」
母様は何故か「ダメだこりゃ」と言って呆れた顔をしたが、私には何が何だかわからなかった。
そういえば以前にもこんな質問をされたきがする。
中学校の時だったか。偶然帰りにクラスの男子と一緒になり言葉を交わしたら、それを買い物途中の母様が見ていたらしく、家についたら先と同じような質問をされた。
「そうだ翼ちゃん、お風呂に入って着替えてきなさいよ」
「でも……」
「怪我の治療は私がしておくから」
「お客がきているのにお風呂は……」
「いいから、いいから!体育祭で汚れているでしょ。そんな体で怪我人に触るものじゃないわ」
確かに、母様の言う通りだ。母様は、兄様ほどではないが道場の怪我人の治療で慣れているし、私がやるより上手だろう。
そう思って頷くと、母様はまた「うふふふふ」と笑い、道場に置いてある救急箱を持って去って行った。
時々母様の考えていることが、分からないことがあるが、兄様は「気にするな。職業病だ」と言っていたので、気にしないことにしている。
母様に任せたが、あまり彼を一人ぼっちにしておくわけにはいかない。
少し早足だが、いつものように、あまり音を立てないようにしながら廊下を進んだ。
~お母様は見た!娘中学生編~
「さ、今日の晩御飯は何にしようかしら。……ん?あそこにいる可愛い、勝正さんにの子は……」
娘の翼だ!娘は男の子と話をしている。
「こ、これってもしかして……恋の予感!?」
慌てて近くの電柱に隠れるも、何を話しているか聞こえない。
そのうち、男の子が呆然とした顔でふらふらと去って行った。
なんだろう、呆然とした顔だけじゃOKなのかNOなのかわからない!
「いったい何を話したのよ~っ!!」
~その時の会話~
「あ、あの」
「?」
「す、好きな人いるか?」
(コクン)
「!?だ、誰だ?(ドキドキ)」
「父様(あと母様と兄様と大地)」
「……」
まだまだ翼に恋はやってこない……のか?
今回、翼が武藤の告白に触れていません。なぜでしょうねぇ。




