30 愛
やっと書けた。難しかった……。
本日二話目です。
「ほほほほほほほ」
「?」
「本田さん!?」
体育祭が終わり、みんなは椅子を片づけていた。だから、彼女も椅子を片づけにきたのだろう。
そんなことは分かる。
しかし……
しかし、問題はそこじゃない。
いつから後ろにいたってことだ!
本田さんと一緒に来たと思われる立花さんや渡辺さんは含みのある笑みを浮かべているので、先ほどの発言を聞いていたことは確かだろう。
……そう。聞いていたのだ――――。
一気に顔の熱が集まった。
「あ、そ、そ、その、えっと、あの、あああの、えっと」
「チェリー」
「ひゃい!」
本田さんはじっとこちらを見つめてくる。オレは恥ずかしくて目を逸らしてしまいたかったが、鋭い瞳がそうさせなかった。
「怪我は」
彼女の視線が足に向き、怪我を心配してくれたことに気付いた。好きな子に心配される……。これほど嬉しいことはない!
「あ、だ、大丈夫。そんなにひどい怪我ではなかったし」
「そうか」
オレは見た。彼女の無表情がさっきよりも柔らかくなるのを。
顔に血が集まっているのを感じ、慌てて鼻を押さえた。
「?どうした」
「い、いへ。べふに、なんても」
「そうか」
そのよく見なければ分からないほどの柔らかい雰囲気に、テントでのことを思い出した。
『頑張るやつは、嫌いじゃない』
これが、例え人間としてだとしても、これほど嬉しいことはない。
自分自身、不幸体質だということは分かってる。しかしそこだけではなく、不幸なりにも頑張っている自分を見てくれる人がいた。それがものすごく嬉しい。(嬉しさのあまり気絶してしまったが)
初めて会ったとき、剣のように鋭く真っ直ぐな人だと思った。
同い年の女の子に失礼だけど、昔近所に住んでるおじさんに雰囲気が似ていた。その人は十年もの間戦場でカメラマンをしていて、色んなものを見て体験してきた人だ。
オレはその真っ直ぐで揺るぎない瞳を持つ人に憧れた。これが、“大人”なんだと思った。
その人と本田さんの目はよく似ている。きっと、彼女も色んな経験をしてきたのだろう。その経験があって、今の揺るぎない真っ直ぐな瞳を持つ彼女になったのだろう。
オレはそんな彼女の“強さ”に憧れた。そして、学校生活の中で一緒に過ごし、ますますその思いが強くなった。
そして、時々彼女の瞳に写る“戸惑い”の正体を知りたくなった――――。
「旭!」
「わっ!え?」
思考の渦から強制的に戻っされてくると、目の前にオレの頭を鷲掴みにした亮介が顔を覗き込んでいた。
「そろそろ帰るぞ」
「え?」
周りを見渡すと、教室内でオレは制服を着ていた。どうやら無意識に教室へ戻ってきて着替えたらしい(すごいなオレ)。
「あ、そうだ。本田さんは!?」
「あ?ついさっき帰ったばかりだぞ」
ついさっきなら、急げばまだ間に合うかもしれない。怪我の手当のお礼とか心配してくれたお礼とか言わなければ。
急いで帰る準備をしていると、亮介が前の机に腰を掛けた。
「……なぁ、旭」
「ん?」
「お前本当に彼女のこと好きなのか?」
「えっ!?」
瞬間、顔に血が集まり答えることができなかったが、その反応で分かったらしい。「ふ~ん」と言われた。
「な、なんだよ。駄目なのかよ」
「いや?……ただ、俺達とちょっと違うよな、彼女」
亮介の言っていることは分かる。彼女は“大人”なのだ。数か月前まで中学生で馬鹿していたオレ達とは違い、三年生……いや、もっと上の雰囲気があるのだ。だけど……。
「子どもだよ。オレ達と同じ」
そう。彼女は子どもだ。常識という面では。
様々な経験をしてきたことは確かなのだろう。ただ、どうもそれが偏っている気がする。侍然としているし、時代劇の世界からタイムスリップしてきたみたいに現代の常識に疎いのだ。
そのギャップが、ものすごく……。
「あー、はいはい。わかったから、変態面すんな。気持ち悪い」
「き、気持ち悪いは余計だろ!」
自分が緩みきった顔をしているのは分かるが、親友に対し気持ち悪いはないと思う!
「彼女を好きなのはいいが、お前今のところ『チェリー』だからな」
ハッ、そういえばまだ彼女に名乗っていない!
ここ数日名乗る機会はあったはずなのに!
「お前馬鹿だろ」
「うるさい!オレ先帰るから!バイト頑張れよ!」
駆け出しながら振り返ると、亮介が気だるげに手を振っていた。
急がなきゃ。彼女は電車通学ではないらしいから、校門から出たら見失ってしまう!
今日を逃すと次の日は振替休日で会うのは週末を挟んだ月曜日、三日後だ。
階段を駆け下り(危なかった!残り十段ほどで足が滑り、なんとか着地した)、廊下をかけ(誰だ、バナナの皮を廊下に捨てたやつ!)、靴箱まで行くと、彼女が校庭を歩いているところだった。
よかった、間に合った!
靴を履きかえて出ると、大声で彼女を呼んだ。
「本田さん!!」
あまりの声の大きさに彼女だけでなく、校庭にいたほとんどの人が振り返ったが、その時のオレは彼女しか見えていなかった。
彼女の髪はポニーテールをいつもの横に結びなおしていた。似合っていただけに、少し寂しい。
本田さんは声をかけた所で止まり、走ってくるオレを待っていてくれた。
「足」
「え?」
「走るな」
彼女は怒っているようだった。夢中で気が付かなかったが、足をくじいているんだった。自覚すると、痛みがぶり返してきた。
しかし!今はそれどころじゃない!!
「オレ、武藤旭!」
突然の名乗りに彼女は不思議そうに頭を傾げた。
あぁ、そのしぐさが可愛い!
だからだろう。口が滑ったのは――――。
「覚えておいてくれ。オレはあなたを愛し続ける男です」
初夏の風が、沈黙した校庭に吹いた。
もうすぐ、梅雨の時期になります。
ついに言っちゃいました!「好き」でもない、間違えようもない愛の告白!
そして最後の二行は完全なる現実逃避だったりします。
こんな重要場面で誤字脱字ありましたら、教えてください。恥ずかしいですから!




