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3 歩





  意識がはっきりしたのは、突然だった。



 「?」



 瞬きをすると、目の前にふわっとした栗色の髪の美人が顔を覗き込んでいた。



 誰だろう。天使かな?



 さすがにあれから蘇生されたということはないだろう。自分の死期ぐらい分かる。

 

 ということはやはり、天国なのだろうか。視界が回復してるし……。



 「あら、起こしちゃったわね。ごめんね」



 美人さんはそう言って惚れ惚れする笑みを浮かべると私を抱き上げた。





 …………





 抱き上げた?





 やがておしりに硬い感触があり、地面に下ろされたのが分かった。


 美人さんは私から少し離れると、手を叩きながら「おいでおいで!」と言い出した。



 いや、犬じゃないんですけど。それともあれは天国へ呼ぶ儀式なのか?

 天使は死んだものを犬扱いか?



 若干ムッとしたのでプイッとそっぽを向いてやった。


 そこで目に入ってのは樹の柱。それに古そうな掛け軸に大きな壺。

 まるで時代劇の中で見た日本の家みたいだ。


 下を見てみると……。




 ――――――ん?




 なぜかぽっちゃりしたお腹が見える。


 無意識にお腹を触ろうと手を動かすと、視界に小さくてプクプクとした手がはいってきた。




 この手は……私の?





 手を目の前に持ってくると、握ったり開いたり。


 もう片方の手も握ったり開いたり。




 ちゃんと動く……。




 手を顔に持ってくると、ペタペタと触った。

 なんかもちもちした感触……。




 私の身体じゃない?




 私の身体は、ずいぶん前から固形物を拒み、点滴の栄養のみでやせ細っていた。




 きょろきょろとあたりを見回すと、いまだに「おいでおいで」をやっている美人さんを無視し、あるものを探す。



 探し物はすぐ横にあった。





 大きな鏡に映るのは一人の赤ちゃん。



 私はフラフラと鏡に近づく。



 ぶっちゃけかわいい。


 黒髪黒目で色白。プクプクとした頬がピンク色に染まっていて突っつきたい―――――ではなく!




 これは私?



 片手を鏡にぺたっとつけるとひんやりとした感覚が手のひらに伝わった。




 感覚もある。


 目も見える。


 手が動く。




 なら……。





 両手を鏡につけ、足の裏を畳につける。



 今まで足に力を入れたことはなかった。力は入っても、しっかりと立つことができなかった。

 だから本当に生まれて初めてのことを、私はしようとしている。



 でもなぜか不安はなかった。




 できる――――――。




 そう思い、両足に力を込める。



 「あ、やった!立った!」



 美人さんが喜んでいる声が聞こえる。

 鏡を見ると、しっかりと両足で立つ赤ちゃんが見えた。




 私は立っている…………。





 「おいで!おいで!」



 振り向くと、美人さんがまた手を叩いて呼んでいた。



 ゆっくりと片手を放し、身体ごと美人さんの方を向く。そして、慎重にもう片方の手を鏡から放した。


 足がぐらぐらと不安定に揺れる。しかし、倒れはしなかった。




 一歩、また一歩、美人さんへ近づく。


 美人さんは固唾をのんで私を見つめていた。




 足の裏から畳の感触がする。


 プクプクの手を伸ばすと、よちよちと歩く私に美人さんは大きく手を広げた。


 次の瞬間、私は柔らかく暖かいものに包まれていた。



 「すごい!すごい!立ったよ!歩いたよ!」




 立った?



 私が?



 歩いた?



 私が?




 …………





 「びええぇぇえええええぇえぇぇえぇえええ――――――っ!!!」



 もう失ったと思っていた声が響く。



 あぁ、私は声も出すことができる。



 「えええぇ!?ど、どうして泣くの?翼ちゃん!」



 美人さんが慌てたように私を抱き上げ、慰めようとするのに申し訳なく思いながらも、今は泣かせてほしい。





 だって、やっと手に入れたんだ。





 自由に羽ばたくための






 翼を――――――――――。











ヒロインの名前はつばさちゃんです。


翼「次も読むがいい」

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