25 当
二話目。
多くなったのでもう一つあります。
武藤視点
救護テントにつくと、『出張中』の看板が掛けられていた。
うーん、どうしよう。お腹もすいたし、勝手に手当させてもらおう。
布を押し分けて入ると、中は涼しかった。日陰だし、風も入る。扇風機の前に置かれたドライアイスの山から来る冷気で、今まで太陽にあたっていた熱い身体が冷めていく。
「えっと、湿布、湿布は、と……」
机の上に置かれた救急箱の中を漁るも、なかなか見つからない。そこに、バサッと入り口の布がめくれる音が聞こえた。
「先生、湿布欲しいんですけどどこ……に…………」
振り返ったら眼鏡で小柄の先生――――ではなく。
「ほ、ほほほほほほほっ」
「?」
「本田さん!?」
髪をポニーテールにした彼女だった。
ど、どうしてこんなところに!……ハッ、ここに来る目的は一つじゃないか。
「もしかして、本田さん。どこか怪我を!?」
そんな様子は感じられなかったのに!
「走っているときにひねったとか!?囲まれてるときに引っかかれたとか!?」
慌てて全身をくまなく見るも、それらしい怪我は見受けられない。なら、
「あ、もしかして熱中症!?気分悪くなったとか!?」
ほぼ同じ身長の彼女の顔を覗き込むと、若干驚いたようにきょとんとし、首をふるふると横に振った。
「そ、そっか。怪我とか気分が悪いとかじゃないんだね?」
(コクン)
「よかった……」
はぁ~っ、と安心して息をはくと、急に足の痛みを思い出した。だが、目の前には好きな女の子。彼女の前では情けない姿を見せてはいられない。
「あ~、気分とか悪くないんなら、どうしてここへ?」
痛みを誤魔化すために質問すると、彼女は一歩、オレに近づいてきた。
「え?」
また一歩、オレに近づいた。
「ほ、本田、さん?」
彼女がオレのすぐそばに立った。画面いっぱいに彼女の顔がある状態。普通なら距離をとるのだが、オレは固まって動けない。というか動きたくない。
あ、いい匂い……。
ふわりと風に運ばれてきた彼女の香りが鼻をかすめる。その匂いに、オレの理性がぐらぐらと揺れている。
心臓が痛いほど打ち付け、音が聞こえてしまうんじゃないかと感じた。
耐えろ!耐えろオレ!絶えろ本能!
必死に本能を押さえつけるが……。
「な、えっ!」
彼女の顔がさらに近づいてきた!
こ、こんなときの作法としては、目をつぶるのが正しいのだろうが、オレは彼女から目を離せない。
彼女の瞳にオレの情けない顔を確認した瞬間――。
とんっ
「え?あいたっ!」
オレは生じた痛みに思わず声を上げてしまった。
彼女が近づいてきたと思うと、肩を押され、後ろのパイプ椅子に座らされた。その時の衝撃が意外と足にきて、現在悶絶中。
「な、何を……」
「怪我してる」
彼女の視線を追うと、転んだ拍子に擦れて血のにじむ膝があった。
「こ、こんなの掠り傷だよ。洗って消毒すればすぐに……」
しかし彼女はオレの足元に屈むと、むんずっ、と右足首を掴んだ。
「っ!!……っ……!」
あまりの痛さに声を出す暇もなく、オレは転げまわりたいのを抑えて悶絶した。
「右足、くじいてる」
そう言った彼女はオレを見上げてきて……。
「うっ……く……!」
オレは別の意味で悶絶してしまった。
そんなオレに何も言わず、彼女は立ち上がって机に向かった。
オレはほっと息をついて落ちつこうと深呼吸を繰り返した。なんか前にもこんなことあったような気がする……。
それにしても、今のは卑怯だ!あの位置からの目線は必然的に上目使いに――――。
あああぁぁああぁっ!駄目だ!思い出すな!少なくとも今は!まだ彼女がそばにいるんだぞ!情けない姿を見せるな!
すでに情けない姿はみせてしまったけど、この瞬間、この二人きりの空間だけは……
…………
……そうだ。オレ、今彼女と二人きりだ……。
もう一話続きます。




