24 手
リレーの武藤視点。
やっぱり憐れ。
長くなってしまったので、二つに分けました。
武藤視点
右足を踏み出すごとに鋭い痛み。どうやら、転んだ拍子に足をひねったらしい。
しかし走るのをやめるわけにはいかない。これはリレーなのだ。しかも、次の走者は本田さんなのだ!
絶対に渡してみせる!!
あと少し。
本田さんが横に結んでいた髪を解き、後ろの高い位置で結びなおした。いわゆるポニーテール。
ポニーテールも凛々しくていいなぁ。普段から侍然としているのがさらに増した。
なんて思っていると、その侍っ娘がオレに向かって手を伸ばした。
「来い!」
来い
おいで
私の胸の中へ――――!?
「……うおおおおおおおおおっ!!」
一瞬足の痛みを忘れ、彼女に抱きつこうと両手を伸ばし――――。
彼女はバトンを取った。
……ですよねぇー。
足の痛みが戻ってきて体勢を崩す。
あぁ、オレはバカだなぁ。ほんと、むくわれない――
「よくやった」
彼女が走り去る瞬間、そういったのが聞こえた。
オレは自分の耳が信じられなくて彼女を見たが、、長い黒髪の先が見えただけだった。
地面に倒れたが、すぐに顔を上げて彼女の走りを見た。
今……今、彼女の口から「よくやった」と……。「よくやった」と褒める言葉が……。
彼女は驚異的な速さで前の人に追いついていた。体力測定の時も速いと思ったし、だからこそ女子の最終ランナーなのだが……それにしても速い! ポニーテールに結んだ髪が地面と水平になるくらい速い。
そして、あっという間に三人抜き、二位になってアンカーの亮介にバトンを渡した。
「ここ、邪魔だからどいて!」
係の人がいまだコース内で寝そべるオレに言った。
「すみません。すぐどきます」
右足をついた瞬間鋭い痛みが走ったが、我慢できないほどじゃない。足を引きずらないようにコースの外に出て親友の走りを見守った。
亮介は普段バイトで鍛えているので、スピードも体力も十分。かなり放されていた一位の三組のアンカーをじわじわと追いついてきていた。
「いけーっ!亮介!!」
亮介がオレの近くを通る瞬間、叫んだ。オレの声はたぶん聞こえていただろう。亮介はオレの方を見て笑った気がした。
結局亮介は一位に追いついたが、結果は同着。オレのせいでなった最下位からの大進撃だ。
一躍ヒーローとなった亮介はクラスメイトに囲まれていた。
「翼!」
彼女も女子男子問わず囲まれて見えなくなってしまった。
よかった。これで彼女はクラスになじめるだろう。いつも無表情で目が鋭く、そして綺麗だから敬遠さえがちなのだが、遠慮ない立花さんたちのおかげで近づくきっかけが持てるだろう。
……なぁんて、かっこいいこと考えているが、正直羨ましい!!
へましてなければオレも行ったのに!
……まぁ、彼女の「よくやった」がもらえたから、今回はいいだろう。
とりあえず足の手当はしなければ。午後にも競技があるから、これ以上足を引っ張らないようにしないと……。
オレは囲まれる彼女を見ないように救護テントへと向かった。
今日中にもう一話投稿したいと思います。
ぶつかられて転ぶも誰も気づかれない男。それが不幸男。だが、今回は翼に「よくやった」と褒められたので喜ぶ不幸男。
ちっちゃな幸せでも、彼にとっては数少ない幸福なのです(涙)。




