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16 道





 家へ帰ると、急いで着替えて道場へ向かった。

 道場にはもう生徒たちが来て、稽古を始めていた。



 「父様、ただいま戻りました。遅れて申し訳ありません」


 「かまわない」


 短く言う父様に頭をさげ、私はペアで稽古している人たちを見に行った。



 最近では生徒たちが増た。そのほとんどが女性で、いわゆる歴女という人たちらしい。そのせいで、父様だけでは手が足りず、私が稽古を手伝っているのだ。




 約一時間ほど稽古し、その日の練習は終わった。女性たちのほとんどは主婦で、これから夕飯の支度をしなければならないらしい。


 稽古したあとに大変だと思うのだが、以前聞いた話では、稽古した後にスーパーへ行くとタイムセールに勝てる、らしい。



 よくは分からないが、父様の教えが役に立っているようで嬉しい。



 「翼」


 誰もいなくなった道場で、父様に呼ばれた。

 正座で待っている父様の前に座り、言葉を待つ。


 「……学校はどうだった」


 「!……あ、その……」


 はっきりとしない答えに苛立ったのか、父様の片眉が上がる。


 「と、友達が、できました……」


 その時の嬉しさが再び込み上げてきて、思わず頬が緩む。




 私は嬉しさに気を取られていたので、私を見た父様が驚いた後、とても優しい表情をしていたことに気付かなかった。



 「……ふむ。部活動は何か考えているのか」


 「いえ。道場の稽古を手伝いたいですし、部活動はやらないつもりです」



 その答えを聞いた父様は何か考えている様子だった。



 目をつむって考える父様……相変わらずかっこいい。まさに侍という感じだ。



 道場に稽古をしにくる生徒たちの中には父様目当ての人が少なからずいる。まさに侍といった雰囲気がいいのだろう。私もその気持ちはよくわかる。


 母様にその話をすると、次の稽古で差し入れたりするので、母様もその人たちに共感する思いなのだろう。

 母様の料理は美味しいので、私も差し入れが欲しかったが、母様に断られてしまった。これは生徒たちのために作ったもので、私は決して食べてはいけないと。

 ちょっと悲しかったが、そんな気持ちを分かってくれたのだろう。その日の夕食はとても豪華でさらに美味しかった。



 「翼」


 「はい」


 考えから戻った父様の声に、背筋が伸びる。


 「明日は稽古を休みなさい」



 なぜだろう。今まで一日も稽古を休んだことはないのに、いきなりそんなことを言うとは……。



 私の疑問に気付いたのだろう。父様が続けた。


 「様々なものを見てくるといい」


 「はい」


 「よい経験になる」


 そういうと父様は立ちあがり、道場を後にした。



 私は武道が好きだ。前世から好きだ。

 以前は見るだけだったものが、今は自分でやることができる。




 剣以外のもの……。父様がよい経験になるといっているのだ。そこに何かあるのだろう。




 明日の放課後、見に行ってみよう。










翼はファザコンです。絶対。



※五時の鬼女たち


 毎日五時のタイムセールになると現れる恐ろしい主婦のこと。彼女たちの発する気合いの声に怯まない人はおらず、怯んだ隙に他の主婦たちの壁をまるで草でもかき分けるように進み、獲物|(商品)を手に入れる。彼女たちの信条は「最後の一個は逃さない」だそうだ。噂では何か武道を習っているとのこと。




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