食うに食えない非常食 ９
つがい。つがい……伴侶。えーと、合ってますよね認識は。
えーと、ぷろぽーずされました？ 今。エンゲージリングはどうしましょうね。真珠ですか？ あ、真珠は厳密には鉱物でもないような……美味しいですけど。クレオパトラ氏も愛飲！ とかあれ本気ですかね。……それともあれですか、給料３ヵ月分いっちゃいます？ ティファニーとか？ え、俺の給料じゃ足りない？ なんですと、すぐさま昇進してらっしゃ、ええい違う！
……いえあのえっとあの！ 死ぬ！？
「……お前が嫌なら無理強いする気は無い。もういっそ舌を噛み切る」
いや舌くらいじゃ死ねませんよね？ ね！？
……じゃなくて死なないでくださいよ！ 困ります！ ……あれ？
「何故俺が死ぬと困る？」
なんか面白がってません！？
えと、その、なんか、やだからです！
「お前にとっての脅威が消えるのにか？ 得だろう。全て喰えば、最強になれるぞ」
最強なんかいりませんっ、いりませんから、あの！
し、しなないで、死なないでください……おねがいします、あの、あの、
「……泣くな。何故泣く」
す、すごい、かなしくて、なんか、しぬとか、言わないで、ください。
し、しぬなら、さきに、いっそ、たべてください！
そうです！ 一思いにイートミー！
「訳の分からんことを……しかしお前、聞いた事はないのか」
何をですか？
「つがいを得た同胞の感想だ。……有名どころで言えば、かの淫魔の話だな」
あ、それなら知ってます。たしか、えーと、
『わらわは数多くの恋をしたと思っていた。しかしそれは偽りでしかなかったと、今であれば分かる。今まで抱かれてきた数千の男どもなど野菜に見えるわ。そう、奴らは胡瓜に過ぎん。彼に出会った時、はっきりと思うた。胡瓜には愛欲じゃのうて食欲じゃ』
男をキュウリ扱いですよ。さすがですね！
「その先だ」
……その先ですか。流石にうろ覚えですけれど。
『つがいが死ぬのならば、わらわもこの心臓を抉り取ろう。いや、違う。いっそわらわはつがいに喰われて先に逝く。つがいもきっと、今際の際にはわらわを食い殺したいと思うじゃろう』
あの方、本当にそうなったんですよねー。確かつがいは、えーと、グローツラングさんですよね。ダイヤモンド溜め込んでたらしいですし、狙ってるんですが。南アフリカ共和国でしたっけ？ 想像するだけでにやにやしますね。
「そのうち連れていってやる。……それで、お前はさっきどう思った？ 俺が死ぬと聞いて」
ありがとうございま……あ、ええと。
あ、れ？
……あれれのれ。
稀少度の目安
1 確認個体数500～
数えられない。
2 確認個体数～500
確認次第、識別番号が振られる。ただし見分けが付かないことも多い。
3 確認個体数～100
これ以上は識別名が与えられる。
4 確認個体数～50
一生見ない可能性も高い。
5 確認個体数～20
各個体に研究チームが作られる。
