食うに食えない非常食 8
ほんの少し引いた痛みのついでのように、視界も少し蘇る。……顔面に思い切り汗……? らしき液体を浴びたからでしょうか。
そういえば、良く聞きますよね。ドラゴンの血で不死身になるとか。汗でも効果あるらしいですよ、ドラ●もんでやってました。あれほんとですか?
「ドラ……? 何だそれは。しかし……なるほど、その手がっ! ふはは、はははは!」
悪役笑いはやめた方が良いですよー、怖がられますよ。
「お前は怖いか?」
いえ、別に……顔の方が怖っ、だから爪を向けないでくださっ、にぎゃっ!?
「なら良いだろう。飲め」
に゛ゃうっ、んぐぅっ!
平衡感覚もすっとんでいるらしくよく分かりませんでしたが、どうやら仰向けだったらしいわたしの口の中に、ぼたりとよく分からない味の……いえ、この味、なんだか。
生物であればまぁ大抵、味は変わらないはず。鉄くさいのは当たり前、血液には鉄分も、
え、血?
ごくごくと飲み干すと共に傷がしゅーしゅーと修復され、わたしはクリアになった視界に驚きつつもあっさりと体を起こす事が出来ました。
……口の下が濡れているので拭ってみると、赤いものが付いています。いえよく見たら全身血塗れでしたので、わたしの血かも、しれませんが。竜の血?
「……は、はは。良かった……」
頭上にある、大きな顔から溜息のようなものが漏れて、また怒らせてしまったかと……。
しかしそうでもないらしく、落ち着いておられるご様子。
「よくよく考えてみれば……とんでもない事をした」
はあ。いえ、助けて頂いてありがとうございます。痛みも全部取れました。
「…………それは良かったのだが。……竜が血を与える意味を知っているか」
にゃ? いえ、知りません。
無知でお恥ずかしいのですが、あまり学が無いものでして。
「……つがい、だ。生涯に1度、つがいに与える」
つがい、ですか。わたしには縁の無いことでございますが。
「つがいが同じ時を生きられるようにする、という意図がある」
少し恥ずかしそうに、ふい、と顔を逸らされてもごもごと何か呟いてらっしゃいます。
竜語ですね。えー、「くそ、恥ずかしい、何故俺がこんな」……ですか。あれ?
……んん? 何で分かるのやら。
「つまり、だ、その、だな。……か、確認すらしていないというのに」
どういうことでしょう?
というか、どうかなさいましたか? なんだか舌が縺れてますね、とても。病気ですか?
「違う! ……っそ、その、だ」
……にゃう?
「お前が――俺の、つがいだと感じる。……その……つがいだと、認めてくれ。でないと、死ぬかもしれない」
へ、
……えええええ!?
わたしはぽかんと口を開けて間抜け面を晒し、
それプロポーズなのか脅しなのか分かりません――と、呆然とするのでありました。
魔生物の危険度についての目安
危険度1
比較的殺傷能力が低い。個人で対応可能。
動物とあまり変わらないため、数が多くなければ避難は必要ないが、接近は憚られる。
危険度2
武装した個人と渡り合える。猛獣程度。
遭遇した場合、民間人は落ち着いて避難すべき。
危険度3
武装した部隊と対等。遭遇する前に避難できるよう、連絡手段を万全にしておくこと。
もし遭遇した場合は交戦せず正しく対処するよう心がける。
危険度4
複数いれば国が滅ぶ。
遭遇したら念のため死を覚悟すべきだが、接近前に警報が出ると思われるので迅速に避難すべき。家財道具は見捨てる事を推奨。
危険度5
人知を超える。
遭遇したら死ぬ。