食うに食えない非常食 7
ドラゴン、竜、Dragon。
強さと憤怒の象徴たる、最強の魔物。
圧倒的な暴力の権化。
それが、どうしてそんなに泣きそうなお声で?
……あ、お腹空きました?
「減っておらん! ……くそ、どうすれば……っ」
わ、たし、どういう状態ですか……?
「…………出血が酷い。骨も内蔵も、……」
え、ええ、えっと……あ、な、なんだか。
「…………く……ッ」
なん、か。目の前の、色が。
薄いんです、が。
し、しかも舌、もつれて。うまく、喋れないです。
猫語、まで、覚束ないっ、て、ほんと……に、情けないですね、え。
「喋るなっ! ……馬鹿! ……ッ情けないのはこっちだ!」
ど、らごん様でも、情けないこと、あるんですね。
わたしは、しょっちゅう、ですけど。
ふつーの、狼にも、負けそうでしたし。
……えーと、なに、が、情けない、ですか?
「お前のような小娘に振り回され! しかも名前すら知らん、お前なんぞのために……泣きそうで、助ける方法も、とんと検討がつかんときた! 情けないっ、くそっ、――」
あ、え、よくわからない、ですが、すいません。
というかやっぱり泣きそうなんですね、ええと
そしてもう1度、さっきも聞いたような気のする咆哮が、聞こえた。
悲しげで、悲しげで、とても胸にくる、悲壮な咆哮。
……ひじょーしょく、のために、えらく、優しいドラゴン様です、ねえ。
「非常、食。……自分でそう言ったんだったな。……馬鹿馬鹿しい!」
びちゃ、となにか、温かな水分が。
一粒だけでも、量は多くて。
すこし、塩辛い。これは、
あ、泣いてますか?
「何でいきなりはっきりと言うんだ! これは汗だっ! 汗!!」
あ、すいません。
……と、言うか、あの。
なんか、痛み、が。ちょっぴり……薄れたような、気が。
魔力
魔生物が持つエネルギー。魔生物は食した物を全て魔力に換えている。消耗すると疲労感がある。
体内に多いが、体表から数m範囲に魔力を広げる事が可能。広範囲に広げる場合密度が落ちる。
魔力で物質を造る(魔力物質化)、物質を魔力化する(魔力還元)、魔法を構成する(魔法術)等が可能とされる。
ただし以上についてはドラゴンの個体ベル・カントにより、人間が知ってもいい範囲、として説明されたものである。
科学的に魔力を観測する事は今だ不可能である。