家出日和の空飛ぶ子猫
殻をばりばりと貪って一息ついて、ぼくは背中に力を込めた。
穏やかに眠っているぼくの父さんを真似て、大きく、大きく――空を舞う翼を、ぼくに。
すると、黒くつややかな毛並みの中から、ごりゅ、と奇妙な音がして漆黒の翼が飛び出した。
なんでだろう――ぼくは今すぐに飛び立って、どこか遠い場所で、なにかしなければいけないような、そんな感じがするから。
だから、父さん、母さん、また今度!
猫の体だから、飛ぶことは少し苦労した。
体が毛ではなく鱗や羽毛だと、やっぱり空気の抵抗が少ないのかな。
でも両手両足を畳んで、尻尾で舵を取るようにしてみると上手くいく。
それにしても、空を飛ぶのは気持ちいい。
眼下の景色は少しずつ変わって、高い平らな山だらけの場所ではなくなっていく。
やがて海に差し掛かり、ぼくはふと――海の先にあった島に下りてみようと思った。
「――ねえ、猫が飛んでる」
「そんな訳がない」
「固定観念なんて馬鹿らしいものは捨てようよ」
「お前は捨てた常識を拾ってこい」
「5歳児に常識求めないでよねっ」
「うるさい」
降り立った場所に、2人の子供が居た。
懐かしいような、不思議な香りがする。少し近づくと、それがぼくの親の香りだと分かった。
「ねえ、近づいてくるけど」
「……は? ……おいっ!! 何が猫だっ、猫なんて大きさじゃないだろうがっ」
「ねこだよ!」
「お、喋る猫」
「喋ったっ!?」
見た目も中身も正反対だなあと思いながらのっそりと歩み寄る。
確かにぼくは母さんより大柄だと思う。虎よりは小さいと思うけど、たぶん、父さんがやたらでっかいからだろうなあ。
そうして、ぼくと二人は出会ったのだ。
シエルと、カルム。
――いずれ勇者か魔王となる、ぼくのにいさんがたに。
魔王と勇者
絶対なる悪と善の象徴。