おてごろ物件、ふたりの新居 14
「うあぁぁぁぁああああんっ!!」
響き渡る盛大な泣き声に、うー、と赤ちゃんが目を覚まします。
同時にわたしも目が覚めて、思わず尻尾がぴんと跳ね上がりました。
……なんですか? 何事ですか?
「までるのばかあああああああっ」
「えっ俺!? 俺なの!?」
うーん、と伸びをして、ちょっと毛づくろいをして。……なんか横で赤ちゃんが真似してます。
赤ちゃんってなんだか面白いですねえ。
「なんでもうちょっとはやくうぅぅうえええええんっ」
しかしものすごい泣き声ですね。
ソファの背凭れにひょいと乗ってみると、わんわん泣き叫びながらマデルさんの背中をげしげしと丈夫そうなブーツで蹴りつける女の子。この方が、マデルさんのつがいですかね?
服装はなんだか鉱夫のような……というか作業着っぽいツナギにヘルメットときたらもうどう見ても現場作業員か交通整理か何かです。長く伸びた灰色の髪をうなじで括って、マデルさんの半分ほどの背丈で、目も灰色。なんというか色味の薄い感じですね。
手には丈夫そうな軍手。片手には明らかに時代錯誤的な感じのする、ツルハシ。
えーと……?
「うおっ、起きた!」
「……うぇ?」
ぼろぼろと土に汚れた頬に涙を流した女の子が、こちらを見ます。
……見た目だけだと、どう見ても子供ですね。10歳くらいの。
「ねこっ、猫っ、猫だ! あああっ、やっぱりここにっ」
泣きながらガバッと突っ込んできたので、うっかり後ろに落ちました。ちょっ、危な!
「あぶー」
「はやくううううっ、上、上いっ――」
どおんっ、と大きな地響き。
ひぎゃあああっと女の子が悲鳴を上げ、わたしとをひっついた赤ちゃんごと引っ掴んで部屋の横にある階段に突っ込むように駆けて、だだだだだだと走って。
大丈夫ですかこの方。
うにょんと膜のようなもの――多分、上から穴を隠す魔法術のシールドか何か――を潜り抜けると、力尽きたようにべちんと倒れ。
「ティエラ」
正面から、聞き慣れた声が聞こえて、わたしは思わず我を忘れて駆け寄ろうと――
ふぎゃんっ!
「あーぅ」
尻尾を掴まれてべちんと顔面から地面に激突しました。いたああああっ!!
尻尾
便利だが、引っ張られるととても痛い。
個人差はあるが、かなりの力を出せる者も居る。
竜などにとってはメインの攻撃手段にもなる。
獣型、特に猫系統は細く長い尾を持つため、様々な用途に使える。
余談だが魔連では「今日から始める尻尾鍛錬法」という本がベストセラーになっている。