おてごろ物件、ふたりの新居 6
魔生物は人間に対して友好的でもありませんが、別段敵対もしていません。
ただ一部の魔生物が人肉を好んだり血を啜るのが趣味だったりするだけで。まあ、唯一魔生物に近い知性がありますし、その想像力は目を瞠る物がありますから、一番の観察対象ではあります。
実を言うと本部や支部にも、少数ですが人間が居たりします。
彼らは孤児で、大抵は赤子の頃に物好きな方に拾われて来ます。研究員、小間使い、あるいは研究対象として魔連に居る訳です。大人になってからだと怖がったり忌避感があったりで大変なので、拾っていいのは物心つかない子供だけ、という決まりになってますね。
ちなみに魔連の建物内は特定場所以外での戦闘・暴力行為は禁止なので、侵入者でもない限りいきなり食べられはしません。ちなみに現在まで侵入者数はゼロです。
なので、アンクさんの奇妙な発明品に引っ掛からなければ世界一安全な場所でしょう。あ、核も耐えられるつくりになってますからね!
それはともかく!
「あーぶぶぶぶぅぶっ」
人の背中に口をつけて息を吹くのはやめてください!
「ぅうぶぶぶぶっ」
ちょっ、わたしの毛並みが! よだれが!
「あーぶっぶぶーにゃあ」
い、いやあああああ!!
――よくこんな面倒な生物を拾えますよね!?
慈愛のカタマリじゃないですかっ、赤ちゃん拾ってくる方々!
あ、ちなみに育てるのは善意の魔生物ですが、居なかった場合本人が子育てする事になります!
「にゃぁーあ」
わたしの鳴き真似をしながら、尻尾をがっしり掴んでいる赤ちゃん。
振り向いて、攻撃しようかなとちらりと思いましたが。
……無理です。無理ですこんな……! い、いえ、なんといいますか、アリに噛み付かれて本気で起こるのも馬鹿らしいということで。
け、けして可愛いとか思ってませんからね!
……どうしましょう……本当に。
とりあえず尻尾は諦めて、赤ちゃんに向き直ります。
幼いながらなかなか整った顔立ちで、にこにこと笑うと目尻がくいっと上がり、えくぼが出て、……すいません、可愛いです……う、ううっ。
「にゃにゃ」
ママじゃないです。
……まあ、こんな場所に息子捨てていけるトンデモな方が母親では可哀想なので、ちょっとなら呼ばれてあげても、い、いいです。
でもラオムさんの前で呼んだら怒りますよ!
「あぅ?」
……言ってもわかりませんか。
まあ、いいです。いいですよもう……はい。
魔連孤児保護制度
時折拾われてくる人間の孤児のために作られた制度。
決まりや備考は以下。
・生後1年半以下と見られる子供に限る
・魔連の施設内から外出するには審査の上、1名以上の魔生物が同伴すること
・研究対象にする場合は十分な安全確認を行う
・年に一度以上の健康診断を行うこと
・原則として扱いは保護生物だが、戸籍は得られる。
・保護した者、または希望者が後見人となり、12歳まで育てる。
・自動翻訳、発信機、簡易魔法術登録・発動装置、身分証明などを兼ねたアクセサリーの着用が義務付けられる。外した場合は罰が下る。
現在保護されている人間は500人前後。
戦時中などは急増し、第二次世界大戦前後には一万人ほどにも膨れ上がった。