食うに食えない非常食 3
時間を掛けて味わって、漸く皿の上の宝石を食べ終えました。
宝石には多彩な味があります。色によって違うのですが、同じ宝石でも違う味であったりするので奥が深いのです。
「美味いか」
はい、とても美味しかったです!
「どんな味だ?」
いろいろです! 例えばこれですが……ダイヤモンドですね。なんとなく爽やかでサイダーのような。まあ大抵は甘いですかね。
あ、食べてみますか?
「……ああ」
では、このとっておきを!
わたしは大粒のダイヤを頑張って咥えて、宝の山から飛び降りて寝そべったドラゴン様の口元に近づきました。改めて見ると、でかっ! こわっ!
ドラゴン様はぱくりと巨大なお口を開けられましたので、とりあえず失礼しまーすと飛び上がって口の中に着地しました。
と、閉じないでくださいね!
そう言いつつ、口の中に溶かしたダイヤを溜めて、舌先に乗せて、ドラゴン様の巨大な舌に付けてとろとろ流します。普通に垂らしたらわたしの顎を伝って関係ない場所に落ちてしまいますし――に、にゃうああああああ!!
「……甘い」
と、閉じないでくださいいいいいいい!
真っ暗なお口の中はじっとりと湿気があって生温かく、長くて大きな舌に思わずしがみつく。こ、ここなら多分牙とかでぐさっといきませんよね。
……あ。
今、もしかして食べたいんですか?
「今は、……いい。それとも、喰われたいか」
ドラゴン様が食べたいのでしたら、食べても構いませんよ。
そう言うと、ぱくりと口が開いて光が差した。これ幸いと転げ出ると、じっと見られる。
「……何故、命を易々と捨てられる?」
易々と、でもないですよ。死にたくはないです。まあそれが本能ですし。
ですがオオカミから助けていただいた訳で……ええ、どうせ拾われた命ですので!
殺すも生かすもドラゴン様次第と言う訳でございますし。
わたし、みっともなく命乞いをする気もないですしねえ。ぶっちゃけ絶望的ですし、それになんだか食べられてもいいような気がしてきまして――
…………にゃうあぁあ!
「……逃げるな」
何で舐めるんですか!? 何で舐めるんですか!
びっくりするじゃないですか! 食べたいなら食べたいと先に!
「だから、今はいい」
そう、ですか。ありがとうござい……にゃああ!
だ、だからなんで舐めるんですか!
逃げようとしても逃げられないまま、べろんべろんと全身嘗め回され、わたしは涙目で子猫のようにふにゃふにゃと鳴くのでございました。
ああ、子猫だった時代がわたしにもありました。それはもう玉のようなキティで(略)――とそんな現実逃避をしつつ。……いえ、無いんですけどね? 生まれた時はもう少し小さかったとはいえ、最初から成猫でしたけどね!
魔生物(ませいぶつ/Magreature)
2222年事件以降に発見された特殊生物のこと。全世界で確認された個体数は数万に及ぶと言われ、現在も増加傾向にある。
その多くが神話・伝説・御伽噺などで知られたモンスターの姿をしており、それらと同様の能力を持っていると言われる。
(不可思議な)生物を表すcreatureと魔法を表すmagicを合成した単語“magreature”はインターネット上で発祥した単語だが、現在は正式名称として使用されるまでになった。
人型魔生物(Magnese)、動物型魔生物(Monster)に分かれる。
いかなる魔生物も人語を理解する事が出来、極めて高度な知性を持つと考えられる。
一部の例外を除いて危険生物である。魔生物対応組織は世界各地に存在し、いずれも訓練を受けた構成員であり、市街地は守られている。
しかし組織や軍ですら手に負えないのが現状である。