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おてごろ物件、ふたりの新居 1

大変おまたせいたしました。

第三章開始となります。






 

 自然の滝では世界最大、979メートルの落差を誇るエンジェルフォール――またはサルト・アンヘルの脇をすり抜けて、わたしを乗せたラオムさんは緩やかに高度を上げていきます。

 巨人のテーブルにするにも大きすぎるような、広大なテーブルトップマウンテンの数々を、ラオムさんの頭から恐る恐る覗き込みます。

 こういった景色を高みから見下ろすというのも、以前には考えられなかった楽しみですね!


 かつては雨季と乾季がはっきりと別れていたこの地方ですが、現在は気象のコントロールが人類の間でも当然のものになっていますので、年中適度に雨が降るようになっています。

 魔生物が現れてから人々はこういった地域から足を遠ざけましたが、気象のコントロールは空の上の上に浮かぶ人工衛星を介し、この地域に設置された機械で行われているので、なんだかんだで私達もその恩恵を受けられるわけです。


 ……しかし、すごい滝ですねー!

 途中で水が吹き飛んでいるので、下まで水が届かないんだそうですよ!


「そうだな。下も見るか?」


 下はシャワー状態らしいですし……その、冷たい水はあまり浴びたくないので、ラオムさんが行きたいのでなければ。

 温泉は好きなんですけどね!


「そうか。なら良い」


 良いんですか? えっと、見たいなら上で待ってますけど……ああでもやっぱり離れたく……いえ、ここは妻として夫の帰りを待つべきでしょうか! 


「俺は興味が無い」


 そうですか、ならよかったです!



 ――そんな訳で、本日来ているのは南アメリカはギアナ高地! エンジェルの滝が流れる、アウヤンテプイの付近になります。

 ちなみにアウヤンテプイとは、現地語で“悪霊の台地”という意味でして。“悪魔の山”と紹介される事もあるそうですね。……された、でしょうか? 今となっては観光で自然の多い場所に足を踏み入れるのは自殺みたいなものですし。

 悪魔の山に天使の滝とはなんとも面白おかしいですが、エンジェルフォールのエンジェルは残念ながら人名だそうですねえ。


 ちなみにこの地に暮らしていた先住民は、大変申し訳ないことにとっくの昔に魔生物の所為で絶えています。魔生物は市街地にも平然と現れはしますが、基本的に住むのは自然の多い場所ですし、このギアナ高地も危険に晒された訳ですね。強い魔生物は都市部に集中したそうですから、このあたりには比較的弱い魔生物が来たのでしょうけど。

 かなり開発も進んでいたところ申し訳ないのですが、早々に避難した方々以外はもう生き残ってはいらっしゃらないでしょう。


 本日ここに来たのは――そうです、住処探しの一環としてです!


 ここにくる前にも色々行ってみたんですが――住むなら有名どころがいいと思って、世界一やら世界遺産やらナントカ百景などと名の付く場所に。

 ですが、色々問題がありまして。


 中国あたりの、なんだか物凄いキレーな所……ええと、桂林、でしたっけ。

 いいなあと思ったのですが、先客といいますか、先住民といいますか。

 わーいいですね、なんて言った時に背後から――アジア系ドラゴン、つまり龍さんがにょろっと通りがかってうっかり川に落ちそうになりました。ビビリですいません。

 というように、既に住民がいて気が休まらないとか。


 エベレストやらなにやらと山的な場所にも沢山行きましたが。

 ……ええ、予想通り寒かったです。

 流石にコロッと吹雪に変わる場所は嫌ですし、もう少し温暖な場所がいいなあと。

 そんな感じに、気候的問題があるとか。でも観光ならまた行きたいです。


 で、ここに辿り付いた訳ですが――

 心境的には、もうここに永住したい勢いです。いえ、そうなるでしょうね。

 わたしにとって、大変すばらしい土地なのです。


 ……食糧的な意味でっ!









魔連情報部門、広報課発行

「これからつがいと暮らすあなたへ ~新居のススメ」より


まえがき


まず最初に、もともとの住民が居ないか確認しましょう。

もし居たなら、彼らとの折り合いが付くかが問題です。

あるいは、相手があなたより弱いかどうか。


居なかったなら、もしくは折り合いが付くか追い出せたなら、新居作りを始めましょう。

魔連土建部門に頼む、あるいは自分で作る。もし人間に溶け込んで暮らすつもりなら人間に頼んでもいいですが、手続きなどをしっかりしないと後々響きます。


新居が出来たなら、幸せなつがい生活を送りましょう。

自分より強い相手が新居の付近に目をつけないことを祈りながら。


本書の内容は、以上のことを更に細かく書いたものです。

以上で理解できるのならばこの本を読む必要はありません。

ただ、手続きに疎い方などは是非ともお読みになるといいでしょう。




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