健康第一、モンスタードック 10
長老さん――こと、グランデさん。やや灰色がかった、苔むしたような緑色の体のドラゴンさんです。もう六千歳近くで、大変お年を召された方だとか。
……そ、それは、いいんですけど。
「随分とちまっこいのう……見えん」
すいません豆粒サイズですいませんちょっ顔近づけないでくだっにゃあああああ!!
……ううう、でっかい。でっかいです……ラオムさんの3倍くらいですか? うひい、牙がとげとげしてますううう!! クジラサイズですよ、クジラ! シロナガスクジラです!
あれ絶対あれですよほら噛まれたらスリバチみたいにごりごりされますよ! ラオムさんの歯はあんなに凶悪じゃないです! メインウェポンじゃないですからね!!
「ニャーニャー言われてもまったく分からん。魔語でOK」
ひに゛ゃあぁぁあああああ!
……取り乱しまして。ひいい、申し訳御座いません!
ラオムさんの前足の内側に隠れてびくびくしつつ、頭上で交わされる会話をとりあえず聞いております。だって怖いんですよ……あと鼻息で飛びそうになるんです。
「珍しいことだの。体格差どうなってんだこりゃ」
……あと、なんと言いますか、えらく口調が軽いです。
長老さまだと仰るので、もっと仰々しい口調だと思ってました。
「知るか」
「おーいおいおい、もうちょい優しくしとくれんかの。おいちゃん寂しいぞー」
「煩い」
不機嫌なラオムさん。多分さっきわたしが吹き飛ばされそうになった所為です、すいません……折角面会に来たというのに会話が成立してません。
というか体格が3倍もある相手にすげなく接するラオムさんのある意味男らしい所に私は夢中です。釘付けです。にゃうん!
「えーのうえーのう、おいちゃんもマイハニーが懐かしい」
つがいがいらっしゃったんですか!
「おーおー、三千歳の頃にやっとのう。先に死なれたが」
それは……ご愁傷様ですねえ。
「悲しくて悲しくてのう……暴れたら山が火ィ噴いとったわ」
……噴火!?
「いやー、息子に必死でやめろ言われてやっと正気に返ったんだけどのう。はっはっは」
……ラオムさんもですが、軽々と凄い事しますね!
紀元前79年、イタリアのヴェスヴィオ山の大噴火。
その時付近でドラゴンが大暴れしていたのは魔生物だけが知っている。
ただし因果関係にあるかは不明。少なくとも火砕流を被ったドラゴンは無傷で大泣きしており、息子に慰められて正気に戻った。